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  6,変身、ほんまに校長先生は…


 鬼城神社の床に、砕け散った携帯電話がぽつんと落ちていた。
そう、ゴザールはデコの携帯を銃で床にたたき落とすと、そのまま靴のカカトで踏みつぶしたのだ。
 しかし今、人間の姿はここには無い。そしてあの、校長が奥に動かしたご神体の岩も、今は元の位置に戻っていた。
 ではその後、校長と子どもたち、そして二人組はどこへいったのか?
実は彼らは、ご神体の下に開いた穴へと入っていったのだ。そして不思議なことに、彼らが入ってしばらくたつと、ご神体はゆっくりと元の位置へと戻ったのだった。

 「それにしても、きみたちは、いったい上で何をしていたのかね? しかも、そんな格好で」
「そ、それは…その…」
校長の問いかけに、タケシたちは言葉をつまらせた。
そう、まさか校長が鬼かどうかを確かめに来ていたなんて、校長本人に向かって言えるわけがなかったのだ。
 なぜなら4人は見てしまった。
あの大岩を動かす姿…“校長は鬼だ!”という動かぬ証拠を!!
 もしここで、自分たちが校長の正体を知ったことがバレたら、どうなるだろう?
校長は鬼に変身し、自分たちを殺すかもしれない!?
それでなくても、4人の後ろにはピストルを持った二人組がいる。子どもたちは、これ以上身の危険を増やしたくないのだった。
 「オイ、イツマデ続クンダ、コノ階段ハ?」
一行の一番後ろから、銃をかまえたザックが、先頭を下る校長に聞いた。
「階段はもうすぐ終わるがの。海の下まで行くのじゃから、その先もまだまだじゃよ」
校長は、ニワトリの入った箱をかかえたまま答えた。
そしてつぶやいた。
(行けるものなら、の…)
 硬い岩をくり抜かれた階段は、ゆっくりと右側へ螺旋を描きながら、下へ下へと続いている。
「海の下までってことは、やっぱりこれが、鬼が作ったと言われる道なんバイ」
フトシが小声で言った。
「でもヘンですね、これが鬼の階段なら、もっと大きな段差があってもいいのでは?」
「たしかに…、人間サイズだよな、なあウッチー」
「ねえ、後ろの2人組の、さっきの言葉聞いた? 財宝やて。やっぱりこの先には、鬼の宝物があるんやわ」
やっぱり、一人ずれているウッチーだった。
 しかし、タケシたちの疑問はもっともだった。
校長の後ろにタケシとウッチーの二人が並び、その後ろにフトシとデコ、そして銃とライトをかまえたチビデブのゴザール、最後尾に同じく銃とライトをかまえた長身のザックと続いているのだが、大人はともかく子ども二人が並んで通れる階段は、学校の階段とあまり変わらない<人間サイズ>の段差で作られていた。
 ただし、硬い岩をくり抜いて作られた石段といい、なめらかな壁、それに続くきれいなアーチを描く天井といい、大昔の人間が掘って作れるようなシロモノでないことも、また確かだった。

 どれくらい下りたのだろうか、らせん階段は終わり、突如7人の目の前に真っ暗な空間が広がった。
 そして生臭い空気が、その闇に漂っている。
ザックとゴザール兄弟のライトが、そしてタケシも強力ライトのスイッチを入れ、その空間を照らし出した。
「わあ、キレイや…♪」
怖さも忘れ、思わずウッチーがつぶやいた。
 そこには、これまで続いた黒い岩の階段トンネルと違い、何本もの柱、天井から垂れ下がったり下から伸びた“つらら”のようなものが、無数に白く輝いていた。
「こ、これは…、鍾乳洞ですね!」
「おー、すげえ〜…。岬の下に、こんなところがあるなんて」
「ここに鬼の宝があったりして、バイ」
「た、宝!? 鬼の宝? せや、どっかその辺に落ちてるんやないの、鬼の宝〜」
子どもたちは、銃を突きつけられてるのも忘れ一斉に走り出した。

 「コ、コラ、勝手ニ動クナ、動キ回ルンジャナイ、オ前タチ!」
「ダ、ダメデゴザル、コイツラ全然言ウコトヲ聞カナイデゴザルヨ、兄上!」
子どもたちは兄弟二人の制止も聞かず、広い鍾乳洞をあちこち見て回り始めた。
「あ、何か落ちてるバイ!」
フトシが、下から伸びるつらら“石筍”(せきじゅん)の陰に何かを見つけ拾い上げた。
「宝や〜♪」
他の3人が素早く集まる。
 が、
『!!』
4人の表情が一気に固まった。フトシが拾い上げたもの、それは…
「ニワトリの、羽根バイ…」
『ぎゃーーーーーー!』
4人は悲鳴を上げた。忘れていた恐怖がよみがえったのだ。
「何ヲ騒イデイルンダ、アイツラハ?」
「サア、何デゴザロウカ…??」
まだ階段を下りたところに立つ兄弟二人は、空洞の奥で騒いでいる子どもたちの様子に、あっけにとられていた。
 この時、
「ΟμΦρυζ…」
その二人の前で、背を向けたままの校長の口から、また例の謎の呪文が流れ出した。
「ナ、ナンダコイツ、何ヲ言ッテイル!?」
「オイ、ヤメルデゴザル! ソノ変ナ言葉ヲ今スグヤメルデゴザルヨ!!」
兄弟は校長の前に回り、その胸と頭にピストルを突きつけた。
 が、
「…ΡΥθρτηαΨ…」
校長はやめない。それどころか、その口元はかすかに笑っている。
 コケーーーーーーー! コケコケ、クエーーーー! バサバサバサ!
段ボール箱の中のニワトリたちが、また一斉に騒ぎ出した。
「ナ、ナンダ、ナンナンダ、イッタイ!?」
「ア、ア、ア、兄上…ヒ、ヒイイ〜〜〜!?」

 子どもたちは、ニワトリの鳴き声と兄弟の悲鳴で、我に返った。
「なんだ、何が起こってるんだ?」
石筍が邪魔で見えないが、兄弟の持つ二つのライトの光跡が激しく、無軌道に洞窟の中を走り回っている。
 そして、
 コケーーーーーー! バサバサーーー!
ニワトリたちが、下から吹き出すようにして空洞に舞い上がった。
 その直後、
 パンパンパパンパーーン!
何発もの銃声が鳴り響いた!
「きゃー!」「銃声だ、伏せろーー!」
耳をふさぎ、その場にしゃがみ込む子どもたち。
 コケー、コケーー! バサバサ、バサ…
目を開けると、ライトが消え、ニワトリたちが暗闇をやみくもに飛び回ってい音が聞こえた。
「ペラペラペラペラ〜〜〜…!」
「ペラペラ〜…!!」
そして、兄弟たちの慌てたような声が響く!
その声は、急激に遠ざかり、
 ドボーーン…
遠くで、何かが水に落ちたような音が聞こえた。
 その水音を最後に、あたりは、また暗闇と静寂につつまれた。

 「な、なんやろ…、何がおこったんやろ?」
「校長先生が、鬼に変身してたりして、ばい」
「ままま、まさかですよ。ほんとに…」
「み、見てみようぜ」
4人は石筍の陰から顔だけ出すと、タケシが強力サーチライトを階段の方に向けた。
 そこには…
『………!!』
人は本当にこわいものを見た時、悲鳴を上げないと言う。
なぜなら、あまりの恐怖に一瞬息を止めてしまうからなのだ。そして、4人は今まさにそれだった。
 サーチライトの光に浮かび上がったもの、それは…
『出た〜〜〜〜〜〜、鬼〜〜〜〜〜〜!』

 まさしく伝説の鬼だった!
天井につかえようかという身の丈、3メートル近い。素っ裸の体は、全身これ筋肉の固まり。肌は血のように赤い。真っ白いもじゃもじゃの髪に、突き出た一本の角。
真っ黒い目は、瞳だけが真っ赤に燃えている!
 その、シャベルのようなぶっとい爪が伸びる両手は、数羽のニワトリをわしづかみにしていた。
その、耳まで裂けた口に並ぶ、出刃包丁のような鋭い牙は、ニワトリを突き刺し血をしたたらせていた!!
 バキバキバキ…
ニワトリを骨ごとかみ砕く音が、空洞にひびく。
 そして、
「グオ〜〜〜〜〜〜〜〜!」
鍾乳洞を揺るがすような、咆吼!(ほうこう)
そいつはサーチライトがまぶしいのか、光りをさえぎるようにニワトリを持った手を、顔の前で激しく動かした。
「グオ〜〜〜〜〜〜〜〜!」
すさまじい声量?は、鍾乳洞の壁を、4人の体を激しく振動させた!

 「ほんまに、校長先生、鬼に変身した…ほんまに、校長先生、鬼やったんや…」
「なにボーッとしてんだよ、逃げろウッチー!」
バットを両手で持ち、ぼうぜんとしているウッチーにタケシが言った。
そう、鬼は子どもたちに向かって、ドスンドスンと地響きをたてて近づいてきたのだ。
「ぎゃーー、食われるばいー」
「お母さん助けてですー」
フトシとデコは、一目散に逃げた。タケシも逃げ出したが、
「ウッチー!」
動かないウッチーを見て引き返した。
 そこへ鬼が、5メートル、3メートル、2メートルと近づく。
「九九校長先生、あたしです、4年生の内田ひなのです。分かりますか!」
ウッチーは必死に呼びかけた。
 が、
「グオ〜〜〜〜〜〜〜〜!」
鬼は、手のニワトリを放り出すと、両手を頭の上に振り上げた。
「あぶないウッチー!」
 パスパスパスパスパス!
タケシがウッチーの前に立ち、エアガンの引き金を引いた!
 パパパパパパパ
鬼の顔に弾が当たる!

 「グオ?」
しかしエアガンの玉ごときが、この鬼に通用するはずがない。多分、蚊の衝突ほどにも感じていないに違いない。
「グオ〜〜〜〜〜〜〜〜!」
鬼はかまわず、二人目がけて両手を振り下ろした!
「うわーーーー!」
思わず目をつぶるタケシ。
 が、逆にウッチーは目を見開き、涙をあふれさせた。
「校長先生のばかーーー!」
 ブワッキーーーーン!
ウッチーの叫びと共に、にぶい金属音がひびいた。
そう、ウッチーは、その手にした金属バットを振り上げて、思いっきり鬼の顔に“面”をくらわしたのだ!
 一瞬止まる鬼の動き。
「なんやねん、なんやねん、それでも校長なんかあ? うち、校長先生の事、大好きやったのにーー!」
 なんとウッチーは、バットを鬼の顔につきだし、説教を始めた。
結局、ウッチーのバットが一番の武器だった。そして、ウッチーが一番度胸があったのだ。
 しかし、
 バチーーーーーン!
鬼はそのバットを払いのけた。
 そして、
「グオ〜〜〜〜〜〜〜〜!」
またその手を振り上げた。

 「逃げるぞウッチー!」
タケシはウッチーの手を取り、空洞の奥の方へ走り出した。
「こっちです、こっちこっち!」
「こっちバイ〜!」
先の方で、デコとフトシが手招きしている。
「こっちって、どっちだよ〜!?」
「その先は行き止まりやないの〜!」
タケシとウッチーが二人の所へたどりつくと、その先はもう険しい登りとなっていて、そのまま天井へと続いていた。
 ようするに、行き止まりなのだ!
 ドスドスドス!
オロオロする4人に鬼の足音が近づく。
 と、この時!
「あそこだ!」
タケシのサーチライトが、鍾乳石の柱の先に通れるすき間を見つけた。
4人は急いでそこへ走ると、引き返すかたちで柱の向こうの鬼とすれ違った。


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