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4, 完全武装
そして、その後は何事もなく過ぎた、一週間後。
「はい、これが今日の代金です」
「たしかに。ではレシートを…、毎度ありがとうございまーす」
校長の週に一度の買い物が、今夜も始まった。
だが、このあとの展開がいつもと違った。
−そう、いよいよここからが、タケシたち4人組の、超・超超超〜〜恐怖・不思議体験の始まりだったのだ。
校長は、一週間前と同じように代金を支払いレシートをもらうと、フトシの父親から一抱えもある大きな段ボール箱を受け取った。
そしてそれを両手で抱えたまま、メインストリートを岬の方に向かって歩き出した。
その箱の中からは、
コケ、ケコ、クックック…
と、かすかな鳴き声が聞こえる。
「みんなちゃんと、打ち合わせ通りに言ってきたか? 今夜は、オレんちで勉強するから、遅くなるって。」
「はい。ボクは3日前から『金曜は、タケシ君に勉強教えてと頼まれたので、夜遅くなります』って、お母さんに言ってきました。お母さんも信用してくれて、友達のためならと、かてきょさんを明日に振り替えてくれました」
「ボクは、デコちゃんちで勉強教えてもらうって、言ってきたバイ」
「ウチもデコの家や。タケシんちで勉強するって言い訳は…、かなり無理があるで。じっさい〜」
タケシの問いかけに、デコ、フトシ、ウッチーの3人が答えた。
「うるせえよ! オレはデコんちで勉強…、じゃなくて遊んでることになってるけどな。へへ」
『やっぱりい! あははは』
タケシの言葉に3人が笑った。
今夜、子どもたち4人は月明かりのもと、先週校長が鬼に見えた坂道の横に広がる、草むらの中に集合していた。
そして今夜の4人は、一週間前の4人とはちょっと…、いや、かなり違う格好(かっこう)をしていた。
「ようし、準備はいいな!…と言いたいところだけど、デコ、フトシ、なんだよ二人とも、その背中の大きなリュックは? それじゃまるで、遠足だぜ?」
「なに言ってるんですか、タケシくん。これはただのリュックじゃ、ないんですよ。この中には、ボクの“スーパーハイテク”が、詰まっているんですからね!」
デコはリュックをおろすと、ファスナーを開けて、得意げに中身を見せた。
「通信カード内蔵でワンセグ対応のノートパソコン、トランシーバー4台、ハンディアマチュア無線機1台、緊急用マルチバンドラジオ、赤外線対応ハイビジョンカメラ、デジカメ、交換用電池…」
「電気屋か、お前は!」
そしてもちろん胸には、双眼鏡と携帯電話をぶらさげている。
「ボクは、いざと言う時の食料バイ」
フトシのリュックの中身は、おにぎり、くだもの、お菓子が満載だ。水筒も肩から斜めにかけていた。
「遠足か、お前は!」
「おやつは800円までバイ♪」
「やかましわ!」
「でも、ほら見てバイ。災害の時役に立つライトも、入れてるとバイ」
フトシはリュックの底から、回転ハンドルを回すと発電と充電が出来る、防災用のLEDライトを取り出した。
「前言訂正〜。遠足と言うより、避難訓練(ひなんくんれん)だなそりゃ〜…。だけどよ、そんなボンヤリした光のライトじゃ、役にたたねえよ。こういう時はやっぱ、コレだぜ! この、超強力サーチライト!」
タケシは、肩からぶら下げているライトをにぎった。
それは、ハロゲン球という強力な光を出す豆電球がついた、単1電池が何本も必要な細長〜いやつだ。
「こいつのスイッチを入れたら、何百メートル先までも、光が届くんだぜ。それに…」
そしてもう一つ、肩にかけていた“モノ”を手にしてかまえた。
「男はこれだぜ!」
それは、タケシんちの近所に住む、オモチャ好きのおじさんから<だまって>借りてきた、小型マシンガンタイプのエアガンだった。
タケシは右脇にそれをかまえると、そばに落ちている空き缶目がけて引き金を引いた!
パスパスパスパス!…
連続で弾が発射され、
カンカンカンカン! カラカラカラ…
踊るように空き缶が転がった!
「どうだい! 説明書に『人に向かって撃ってはいけません』て書いてあるからな。当たると、けっこう痛いんだぜ、コレ!」
タケシは得意げに、銃口を上に向けてポーズをつけた。
「でも、しょせんオモチャやんか。でもでも、タケシの言うとおりや。男は武器やで!」
頭に野球ヘルメットをかぶり、手には金属バットを持ったウッチーが、その金属バットをブンブンと振り回した。
「あ、あぶねえ、ここで振り回すな、そんなもん〜。だいいちそれ、武器じゃなくて野球用具だろうが!」
「そうですよ。それに何が『男は武器やで!』ですか。ウッチーは、れっきとした女じゃないですか。いつから男になったんですか!」
「あ、そうやった」
ウッチーはバットを振り回すのをやめて、ペロッと舌を出した。
実は彼女は、上級生で作る野球チームに入っていて、4番サードの実力なのだ。
「男より男みたいバイ」
フトシが、ニガ笑いした。
「ようしみんな、円陣を組め。いいか、いよいよオレたち今夜は、あの消えたニワトリの謎を解き、校長の正体を明かしてやるぜ!」
『おう!』
タケシの言葉に、肩を組んだ3人が体を揺すって応えた。
「ようし、たった今ここにオレたち、“鬼城島少年探偵団”(おにきじましょうねんたんていだん)の結成だぜ!」
『☆……』
返事はなかった。
「な、なんだよお前ら、返事しろよ」
「だ、だって…」
「バイ…」
「ダッサ〜、やで〜…」
3人は、恥ずかしいものを聞いちゃったという表情で、顔を見合わせた。
「なにがダサ…、おっと、来たぞ!」
タケシが身をかがめた。残りの3人も急いで草むらに身をひそめた。
4人の視線の先に、草むらに見え隠れしつつ坂を登ってくる校長の姿があった。
1週間たち満月になった月明かりが、大きな箱を抱えたスーツ姿の校長を、青白く照らし出している。
「今夜は、まだ鬼に変身してないバイ」
「そやからあ、こわくてそう見えただけやないの? 今さっきはノリで“おう”って返事したったけど、ウチはあんたらの話し、信じちゃいないんやで。ウチの“おう”は、校長先生の無実を晴らすための“おう”や」
「だったら、その手に握りしめてるバットは、なんですか?」
「こ、これはその、ウチは、れ、レディやから、まんいちの時にそなえて…」
「ぷ〜っ。なんバイそれ? さっきは、『男は武器やで』とか、いってたバイ。ぷぷぷ〜」
「え〜い、静かにしろってば!」
タケシが小さく低い、しかし強い口調で言った。
その目の前を、何も知らないままの校長が通り過ぎていく。
そして20メートルほど過ぎた時、4人は草むらかゆっくりと出ると、校長のあとをそっとつけだした。
「まさか、後ろから誰かつけてるなんて、校長思ってもいないだろうな…」
4人は、右手にある学校の校門を過ぎ、なおも上へ登っていく校長のあとを、静かにつけていった。
が、実はこの4人も知らなかった。
4人のさらにそのあとを、ヒタヒタとつけている2人組のことを…
道はだんだん細くなり、学校裏から始まる森の中を、大きく左へカーブして続いていた。
校長はそこを通ると、ちょうど学校と岬のてっぺんの中ほどにある、自分の家へと向かって行った。
湾と町に向かって、前にはガケが切り立ち、後ろには森が上へと広がるその場所に、校長の自宅はあった。
町史(町の歴史)によれば築100年以上と言われる、古い洋館風の大きな屋敷に明かりが灯る。
九九校長は、一人この家に住んでいるのだった。
「この前、オヤジに聞いた話なんだけどよ…、学校から上の土地は、ぜ〜んぶ校長の持ち物らしいぜ。それにあの鬼城島も、校長のものなんだと」
「本当ですか?」
「へー、そうなんや。だからここに家があるんやな」
「う〜ん…、でも、よく考えると、なんかヘンバイ。校長先生の親も、そのまた親もじいちゃんも、昔からずーっと鬼城神社(おにきじんじゃ)の神主(かんぬし)さんばい。それがなんで、こんな外国の家みたいな家に、住んでるんバイ?」
「そこまで知るか。これを建てた校長の親とかじいさんとかの、趣味なんじゃねえの…。とにかく前の神主さん、つまり校長のオヤジが亡くなった時に、よその町で先生をしていた校長が帰ってきたんだ。そして、そのまま鬼城島小学校に勤めて、神主の跡も継いだって話しだからな」
屋敷の前には、せまい庭があり、その先のガケとを分けるようにして、いくつもの天然の岩が庭石のように立っていた。
4人はその一つに登ると、明かりのついた大広間をのぞきこんだ。目の前の大きな出窓にはカーテンもなく、中が丸見えだった。
「例のニワトリの入った箱が、広間のテーブルの上に置いてありますね」
「せやな…。でも校長先生は、どこ行かはったんやろ。姿が見えへんやん」
「鬼に変身する準備でも、してるんじゃねえの」
「ひいいっ、タケシくん、こわいこと言わないでバイ!…あ、奥のドアが開いた…う、うわ〜出た〜〜! 鬼〜〜〜〜!!」
大声を上げ、逃げようとするフトシ。3人はあわててフトシの口と体を押さえた。
「ば、ばか、シ〜〜〜ッ!静かにしろ。よく見ろ、あれは鬼なんかじゃねえ。あれは鬼城神社の神主さんの格好をした、校長先生だよ」
タケシは、ふるえるフトシの頭を両手でつかむと、ぐぐぐっ!と後ろにある屋敷へと向けた。
「…ほ、ほんとうバイ」
そう、ドアの向こうから広間に姿を現したのは、一般の神主と違う上下真っ赤な装束(しょうぞく)に着替えた校長の姿だった。
そして頭には、これまた赤い、まるで鬼のツノのような、とがった形の烏帽子(えぼし)をかぶっていた。
「フムフム、あれを着たってことは、今から岬のてっぺんにある鬼城神社(おにきじんじゃ)に行くってことでしょうか? フム…」
デコがいつものポーズで腕組みし、左手をあごにあてた。
「ちょっと、待ちいや。だったら、あのニワトリはどないするんや?…って、あ、その箱を抱えて…玄関から出てきた」
4人は岩陰に身を隠した。
校長は、ニワトリの入った段ボール箱を、家に帰ってきた時と同じように両手でかかえ、そのまま屋敷の横、そして裏へと歩いた。
屋敷の裏に回るとそこには、これまでにも増してうっそうとした森が、岬の上へと広がっている。そしてその一角には、密集した古木の根っこがからみ合い、天然の階段となっている細い坂道があった。
校長はそこへ歩み寄ると、そのままゆっくりと登り始めた。
「ようこんな真っ暗な中を、明かりもつけんと登っていけるもんやな〜…」
「登りなれてるんだろうぜ、きっと」
月が出ているとはいえ、森の下にその光は届かない。
4人の子どもたちは暗闇の世界を、はいつくばるようにして、両手で木の根を確かめながら登った。
その背後から、例の2人組がつけている事をまだ知らずに…
「これもオヤジに聞いた話なんだけどさ、実は、この先にある鬼城神社と鬼城島とは、地下トンネルでつながってるらしいぜ」
『ええーっ?』
先頭を進むタケシの言葉に、おどろく3人。後ろには、デコ、フトシ、ウッチーの順で続いていた。
「そして鬼城島には、鬼だけじゃなくて、“鬼の宝”も眠ってるって話しだぜ」
「ほ、ホンマか?」
真っ暗な中で、最後尾のウッチーの目が輝いた。
「ああ、ほんとさ。オヤジの話ではな…」
まるで地獄の闇のような森の階段を登りながら、タケシは、父親から聞いた鬼城島伝説を語り始めた。
それによると…
むか〜し昔のその昔、とある嵐の夜、港の先に浮かぶ小島に、金銀財宝をわんさか積んだ鬼どもの乗った船が流れ着いた。
その船は嵐でひどくこわれていたので、鬼どもはもうどこへも行くことができなくなっていた。そこで仕方なく鬼どもは岩をくり抜き、島の中を自分たちの城に作りかえ住み着いてしまった。
おどろいたのは対岸の村に住む漁民たちだ。
しかし幸いなことに、島の回りは潮流がすごく、鬼といえども海を泳いでこっちに渡ることは出来ない。そこで漁師たちは島を鬼の棲む城の島“鬼城島”と呼び、近づかないようにしていた。
だが、島には食料がなかった。
そこで鬼どもは、さらに島をくりぬき海底をくりぬき、ついには岬へ通じる穴を掘ったのだ。そして夜な夜なその穴から出てきては、村の大事な食べ物を奪うようになった。
村は大騒動になり、漁民たちは毎晩のようにやってくる鬼どもに、困り果ててしまった。
と、その時、不思議な呪文を唱える一人の行者が、どこからともなく現れた。
行者はその神通力で、あっという間に島の中へ鬼を封じ込めた。そして島の入口に大きな蓋石(ふたいし)をして封印(ふういん)した。
さらに、島へと通じる岬の穴の上に社(やしろ)を建て、鬼を鎮(しず)めたのだった。
村人は感謝し、行者に島と岬の上半分を分け与えるから、村に住み着いて鬼を封じ込め続けて欲しいと願った。
行者はその願いを快く引き受け、その子孫も代々神社の守り主となった…
「…ってことらしいぜ」
「フムフム、つまりその行者が、九九校長のご先祖様ってわけですね。でもヘンですね、その話しを信じるとしたら、『校長先生が鬼だ』なんて思うこと自体、間違ってますよね、ボクたち。こうなると、やはりあのニワトリも、単なるお供え物かもしれませんね。フム〜…」
タケシの足もとで、デコが推理した。
「だったら、ホントの校長先生は鬼に食われて、鬼が校長のフリをしてるとバイ! そして、タケシくんがさっき言ったトンネルを通って、鬼城島に帰って、そこでニワトリを食ってるとバイ!」
さらにその後ろから、フトシが反論した。
「あ〜、ホンマくだらない。フトシ、あんたな、空想力ありすぎやで。だいたいやで、鬼なんて空想の生き物が、いるって思うこと自体、子どもなんよ。
それよりさあタケシ、鬼の宝物の話しって、ホンマやろか。今の話しだと、島の中には鬼の財宝も一緒に“封印”されてるってことやろ? 宝石とか、い〜〜っぱいあったりして〜♪ ウヘウヘ♪♪」
ニヤニヤするウッチーの白い歯が、最後尾の暗闇に浮かび上がった。
「ウッチー、ヘンですよそれ。鬼はウソだけど、鬼の宝をホントって思うことの方が、よっぽどヘンです。それこそ子どもですよ」
「う、うるさいで! 宝石の方が、夢があるやんか!」
ウッチーは子どもだが、……“女”だった。
「まーなんにしても、上につけばホントのことがわかるさ」
4人を包む真っ黒な森のカーテンの先に、やがて、小さく光る点々−<夜空の星々>−が見えてきた。
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