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3, 消えたニワトリ
「校長先生、遊ぼー」
「あそぼー」
「おー、よしよし、なにして遊ぶかね君たち? ふおっふおっふお♪」
「なわとびー」
「なわとびー」
次の日の鬼城島小学校の昼休み、九九 八十一(くく やそいち)校長先生は、校庭で低学年の子どもたち5・6人に取り囲まれていた。
昼休みになると、校庭に出て児童たちと遊ぶのが、校長の日課なのだ。
「おっとお、なわとびかね。先生大きいから、うまくできるかのう…おっとと!」
「あはは、校長先生の頭に、ひもが引っかかったー」
「あははは、せんせい、もっと大きく手をふらないと、だめだよー」
「いやあ、子供用のなわとびじゃから、手を伸ばしてもうまく飛びこせんよ。ふぉっふぉっふぉ」
体に縄を巻き付けつつも、子どもたちと楽しそうに遊ぶ校長だった。
そしてその姿を、古い木造校舎の影から見つめる、3人の目があった。
「タケシ、あんたまだフトシの言うこと、信じてるんか? バカバカしい〜」
「うるせえよウッチー。お前は昨日、俺たちと一緒に来なかったから、分からねえんだよ。坂の上で見た校長のあの姿は、間違いなく鬼だったんだぜ!」
「月明かりで、やろう? そんなん、薄暗くて分かるわけないやないの。だいいち、あんたら、大あわてで逃げたんやろ? 泣き叫びながら〜」
「ば、ばかやろう! 泣いてなんかいねえぞ。泣いてなんかあ! …ま、逃げたのは事実だけど…」
ウッチーの冷ややかなつっこみに、タケシはしどろもどろになった。
「で、でもバイ、逃げる後ろから、鬼の吼える恐ろしい声が聞こえたとバイ!」
「ど〜だか! 犬でも吼えてたんじゃないの? だいたいさー、見てよ、校長先生のあの姿。あんな優しい目をして、子どもと楽しそうに遊ぶ鬼がいると思う?」
ウッチーは、まるでかわいい子犬でも見るような目で、大男の校長を眺めた。
その時、
「オーイみんなー、確かめてきましたよー」
手に大きな双眼鏡を抱えたデコが、校舎裏の林から裏庭に姿を現した。タケシとフトシは、急いでデコに走り寄った。
「どうだった、デコ、いたのか?」
「いたのか、バイ?」
「いいえ…、やはりどこにも、いませんでしたよ」
デコは、少しおびえたような目で、首を横に振った。
「なんやの? なんのことや?」
あとからウッチーも3人に近づいた。
「何って、昨日校長が持ち帰った、あのニワトリのことだよ」
「ああ、あれ…」
ウッチーは、昨日校長が手に持っていた段ボール箱を思い出すように上を見ると、そのまま視線をデコの方に向けた。
「はい、ボクは昼休みを利用して、林の奥にある校長先生のお屋敷に行って来たんです。
そして家の中や物置とかを、そ〜っとのぞいたんですが、昨日のニワトリは、どこにもいませんでした。ただ…」
『ただ?』
3人は、ごくりとつばを飲んだ。
「ただ、昨日持って帰ったと思われるあの段ボールが、キレイにたたまれてゴミ出し用に玄関先に置かれてただけです」
「そんだけ?」
「はい。台所も外からのぞいてみましたが、ニワトリを料理した様子もなければ、羽根一本すらも見あたりませんでした。
「じ、じ、じ、じゃあ、やで、庭に放し飼いされてるとか、林の中で飼ってはるとか…」
「ウッチー、何のためにボクが見に行ったと思ってるんですか」
デコはそう言うと、首から提げた双眼鏡と携帯電話を、ウッチーの前に差し出した。
「この、お父さんに買ってもらった超高性能双眼鏡でボクは、家や庭、林の中までず〜っと観察したんですよ。そして、およそニワトリがいたらしき証拠は、どこにもなかったんです。…そして、これがその証拠写真です」
デコはそういうと、携帯で撮ってきた証拠写真を次々と表示して見せた。
画面のその中には、デコの言うとおり、ニワトリの姿はどこにもなかった。
「や、やっぱり校長先生は鬼バイ。ニワトリを丸ごと食ってしまったとバイ〜!」
フトシはそう言うと、震えながら頭をかかえ、その場にしゃがみ込んだ。
「ちょ、ちょっと待ちいやフトシ。あんた昨日は、『校長先生はニワトリの血をすすってるんだ』って言ってたやないの!」
「すすったあと、食べちゃったんバイ〜!」
「こ、この〜…」
ウッチーは、ニガ笑いしつつも言葉につまった。
この時、
「おい、あの二人は…」
校庭に面した校門横の木陰から、自分たちと同じように校長を見つめる人影に、タケシが気づいた。
「あ、あれは、昨日のお客さんやんか!?」
「ほんとバイ、“よその国じん”さんバイ」
「イギリス人ですよ!」
そう言って、デコは双眼鏡をのぞいた。
「あの二人…なんか怪しい雰囲気ですねえ。物かげから、こそこそと」
「それは、オレたちもいっしょだけどな…。ん? なんか、紙みたいなのを手に持ってるぞ、あの大っきいほう」
二人組は、児童と仲良く遊ぶ校長からは見えないよう、イチョウの木の下の植え込みに身を潜めていた。そして、手にした紙切れと校長を交互に見ては、ニヤニヤと何やらヒソヒソ話しをしていた。
「ああ、あれは…、なんだろう、ボロボロの黄ばんだ紙……。ははあ〜…どうやら、なんかの地図みたいですけど…。あ、あの二人、こっちに気づいた」
デコの言うとおり、二人組が、自分たちを見ているタケシたちに気づいた。
大きい方が、あわててその紙切れを折りたたむと、胸ポケットにねじ込んだ。そして二人して、足早に校門の外へと立ち去った。
「なんだありゃ…」
子どもたち四人は、いぶかしげに顔を見合わせた。
しかし、二人組の不審な行動はこの時だけだった。
次の日からは、海に浮かぶ鬼城島をただ写真に撮りまくるだけの二人に、子どもたちの関心もだんだんと薄れていった。
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