トップへ       目次へ       戻る         次へ

   19,救助


 「おーい、タケシーーーーー!」
朝日を浴びて、強い潮流を乗り越えながら、数隻の漁船が近づいてくる。
「おやじーーーー!」
タケシが手を振り、応えた。
校長と子どもたち、そしてアンダースン兄弟の7人は、鬼城島の“鬼の蓋石(おにのふたいし)”と呼ばれる大きな一枚岩の前にいた。
その頭上には、石で出来た大きな鳥居が立っている。
 「孝太郎ちゃーん!」
「ひなー、あんた、ナニ心配させてくれてんのや!」
「フトシ、腹へってないかー!」
タケシの父親の漁船とそれに続く船には、子どもたちの両親、そして町の消防団員や駐在さんなどが乗っていた。
そして親たちは、接岸するのももどかしく岩場に飛び降ると、子どもたちへ駆け寄り抱きしめた。
 「ごめんなさい、お母さん、お父さん…」
「おかあちゃん、おとうちゃん…」
「腹へったバイ〜…」
子どもたちも、涙を流して両親にしがみついた。
「タケシ〜、無事で良かった、良かった〜…」
タケシの母親もまた、タケシを抱きしめ泣いていた。
「このやろう、心配かけやがって!」
父親もまた、少し涙ぐみながら、タケシの頭をぐしゃぐしゃになで回した。
「へっへー、ごめんよ、オヤジ、オフクロ〜。でも、オレたちがここにいるって、よく分かったな〜?」
タケシも嬉し泣き笑いの顔で、父親に聞いた。
「おう! ゆうべデコ君のお母さんから、息子の携帯が変な切れ方をして通じなくなったけど、デコ君がうちに来てますかと、電話があってな。
でもうちには、お前もいないし、ウッチーちゃんやフトシくんちに電話したら、お前たちみんな行方不明ってことになって、大騒ぎになったんだ」
「そうよ、それで駐在さんや消防団に連絡して、町じゅう探し回ってもらったのよ〜、うう〜…」
母親も涙声で説明した。
「それでな、デコ君の携帯が切れる直前に、鬼城神社がどうのと言ったと聞いたんでな、オレたち子どもの親は、鬼城神社へと登ったってわけだ。
 途中校長先生の家へ寄ったが、留守。そのまま神社へ登り、境内でデコ君の壊れた携帯を発見した時には、もう全員うろたえたぜ。
そして、夜通し神社の回りや森の中を探していたら、明け方近くになって鬼城島から“びかーっ”て広がる、沢山の光が見えてな…」
(あ、それって多分、イソギンチャクがウデを伸ばして、天井や壁に突き刺した時だ…)
タケシは心の中でつぶやいた。

 両親の話では、子どもたちの親や捜索する町の人たちは、その不思議な光を見て“もしや”と思い、夜が明けてから鬼城島へと船を出してみたという事だった。

 「九九校長先生、ケガをされてるようですが、大丈夫ですか。一体全体、何があったんですか? それに…後ろにいるのは、たしか1週間ほど前から、町をうろついてた外人さんたち…???」
駐在さんが、あたりを見回しながら校長に近づき、不思議そうに聞いた。
「ふぉっふぉっふぉ。いやいや、ご心配かけてすみませんな、駐在さん。実はですな、どうやらワシら全員、キツネならぬ“鬼”に化かされたようですのじゃ。」
「鬼に…、化かされたですとお??」
 校長の説明はこうだった。
この旅行者の外人さん二人は、たまたまこの町にやってきて、鬼伝説に興味を持った。そして鬼城神社を見てみようと岬への道を登っていった。それを、一緒に勉強しようと集まっていた子どもたちが偶然発見し、校長へと連絡したのだ。
それを聞いた校長は、急いで神社へ向かい、子どもたちもまた好奇心から神社へ登った。
 「そして…、ワシは社殿のカギがこじ開けてあるのを発見し、中へ入ってみたら案の定あの二人がおりましたのじゃ。さらにそこへ、子どもたちが入って来ましての。その時ですじゃ、突然あたりに霧が立ちこめましての……。ふ〜…」
 校長は、意味ありげなため息をついた。
『た、たちこめて?』
校長の回りを取り囲んでいる大人たちが、ごくりとつばを飲み込んだ。
「いや、ワシらみんな、そこまでしか覚えておらんのですじゃ。そういえば、その時携帯が鳴ったような…。
とにかくワシら、気がついたらすでに夜明け前で、全員この場所に立っていたと言うわけですじゃ」
「そ、それは、捜索していた我々が、この島に不思議な光を見た、丁度その時刻…」
「かもしれませんな」
校長はそう言うと、子どもたちにニコッとほほえみかけた。そして後ろを振り向き、アンダースン兄弟にウインクした。
 「鬼に…化かされたねえ…」
駐在さんは、信じられないという顔で、校長の顔をのぞき込んだ。
しかし、町の大人たちの反応は違った。
 「なるほど、鬼に化かされたのか〜」
「この鬼城島には、昔っから不思議な言い伝えが、あるからなあ…」
「まったく、まったく」
「鬼に化かされたのなら、しかたない。それよりみんな無事で、良かった良かったあ」
と、顔を見合わせ、さもありなんという表情で“鬼の蓋石(ふたいし)”を見上げた。

 こうして子どもたちと校長、そして外人兄弟の行方不明事件は、「鬼のしわざ」ということになり、新しい鬼伝説を生み出したと同時に、なんとなく一件落着したのだった。


トップへ       目次へ       戻る         次へ