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   16,キャプテン・クック


 4人は、鬼の後ろに隠れるようにして顔だけ出して、その背中越しに先を見た。
すると階段を登りきった先には、大きな空間が広がっていた。鬼と子どもたちがいる場所は、大きな断崖(だんがい)にぽっかりと口を開けた、小さな穴の出口になっていた。
その下には海面が広がり、その海面下には、大きな木造船が沈んでいるのが見える。
 が、よく見るとそこはまだ外ではなかった。
上を見ると、空があるはずのそこには岩があり、それがずっと先まで進み、また海面へと下りていた。そこは岩山の内側をくり抜いたような、大きなドーム空間となっていたのだ。そしてなぜかその内側の岩は、全体的にうっすらと光り、全体を月明かりのように照らしていた。
 「先生、だいじょうぶですか?」
4人の子どもたちは、心配そうに鬼の体をさすった。
 グルルルル〜…
鬼は座ったまま、穴のすぐ下をにらんでいた。
 4人は注意しながらそっと、穴の下をのぞいてみた。するとそこには、2メートルほど下の海面にゴムボートを浮かばせ、その上にあの二人組がいた。
 そして!
「おお、君たち、無事じゃったかー。よかったー! さっき銃声がした時、思わず叫んでしまったのじゃが、どこもケガしとらんかねー!」
その二人組にピストルを突きつけられ、ボートに座る校長の姿が!
 『こ…、校長先生ーーーーーーー??』

 そう、そこにいたのは、まぎれもなく自分たちの校長先生!
4人は、脳みそが爆発するくらいに驚いた!!
 それは当然のことだろう。校長は、自分たちの横にいる鬼に変身したはずなのに、その校長が目の前にいるのだから!
 「じゃ、じゃあ…、ウチらの横にいる…、これは、誰?」
4人は、体に手をかけたままの状態で“それ”を見た。
 グルル?
“それ”も小首をかしげる。
『本物の、鬼〜〜〜〜〜〜〜!』
子どもたちは、バッ!と身を引いた。
「君たち、だいじょうぶじゃ。そいつは君たちに危害は加えんよ。神社から下りた最初の場所で、君たちを守るように言っておいたのじゃ」
「言っておいたって…」
「ΦΨυδωπρ…」
タケシの言葉に、校長はまたあの不思議な言葉を言い始めた。
 「黙レ! マタソノ、アトランティスノ言葉デ、アノ、モンスターニ何カ命令スル気ダナ!」
背の高いほう、ザックが校長の頭にピストルを押し当てた。
「あ…、あれって、鬼に変身する呪文や無かったんや!」
「たしかあいつ今、アトランティスの言葉とか言いましたよ」
「アトランティスのモンスターに、アトランティスの言葉…バイ??」
「う〜、さっぱり分からねえ。こいつって、鬼城島の鬼じゃねえのかよ?」
4人は、目の前にいる鬼をもう一度見た。
 その顔は、どうみても伝説の鬼としか言いようがなかった。

 「ガッデム! ソウ言ウコトダッタデゴザルカ。ヤケ二来ルノガ早イト思ッタラ、アノモンスターメ、コワッパドモヲ殺スドコロカ、助ケテ来タデゴザルカ!」
「フン、マアイイサ、オレノ撃ッタ弾ガ命中シタヨウダシ、コウシテ、コノ“マスター・クック”ヲ人質ニシテイレバ、コレ以上襲ッテハ、来ラレイダロウカラナ」
 そしてザックは、子どもたちに言った。
「オイ、オ前タチ、セッカクココマデ、タドリ着イタンダ、一緒ニ宝物ノ所マデ、連レテ行ッテヤル。コノボートニ乗レ!」
「宝物? 宝物って、鬼の宝物?」
思わずウッチーが穴から身を乗り出した。
「ハッハッハ、ソウダ。ダガ本当ハ、鬼ノ宝物ナンカジャナイ。本当ハ、“キャプテン・クック”ガ隠シタ、“アトランティス”ノ宝物ダヨ!」
「きゃ、キャプテン・クックぅ? アトランティスの宝物〜?!」
ウッチーは振り返り、デコの顔を見た。タケシとフトシも、デコの顔を見ている。
「キャプテンクックって、そう言えば前にテレビで、特集を見たことがあります。
たしか…、18世紀のイギリス海軍の船長で、3度に渡って世界中の海を大航海したとか、言われています」
 子どもたち4人は、ガケにある岩の出っ張り伝いに下へ下り、ゴムゴートへと乗り移った。

 「イイノデゴザルカ、兄上、コノコワッパドモヲ、一緒ニ連レテ行ッテ」
「イインダヨ。モウココマデ来タ以上ハナ。コウナッタラ、アノ、モンスターガ襲ッテコナイヨウニ、人質ハ多イ方ガイイ」
「サスガ兄上!」
4人はボートに乗ると、校長の横にウッチー、その前にフトシ・デコ・タケシと並んで座らされた。そしてその前後、ゴムボート先端と後尾のヘリに、ピストルをかまえた兄弟が向き合って座った。
 「校長先生ケガしてるやん! 手から血が…」
赤い衣装で分からなかったが、校長は右腕を怪我し、血をしたたらせていた。
「ああ、これは、きみたちとまだ鍾乳洞にいた時に、突然あらわれた鬼におどろいたこの兄弟に、撃たれたものじゃよ。じゃが、だいじょうぶじゃよ、内田くん。腕を縛って止血しておるからの。途中、何度かゆるめたりはしたがの」
そう言って、校長はウインクしてみせた。
「あ…じゃあ、あの血の目じるしは、校長先生が…!」
 子どもたちは気づいた。
自分たちを何度も助けてくれた、あの血のあとや模様は、校長が自分の傷口を開いて血を流しては、つけていたのだということを。
 そう、校長先生は、いつも子どもたちに優しい、あの校長先生に間違いなかった。

 「サア、漕(こ)グンダ、オ前タチ!」
 タケシとフトシがオールを手渡され、二人はボートを漕ぎ始めた。そして、ボートはゆっくりと動きだした。
 見上げると、
 グルルルル〜…
ザックの言うとおり、鬼は校長や子どもたちを人質に取られて動けず、穴の出口で座ったままの姿でうなっていた。
「ここって、岩でふさがってるのに、その岩がボンヤリと光ってるバイ」
フトシが頭上を見回す。
「さっき下りる時に見たんですが、どうやら光り苔みたいなのが、岩の表面をおおっているんですよ…」
デコが推測した。
 その、ボンヤリと明るい光りの中、ボートはドーム中央をゆっくりと対岸へと進む。
その下には、大きな大きな帆船が沈んでいた。そのマストは折れ、船体には大きな穴が開き、朽ち果てるように海底に横たわっていた。
「コレガ、キャプテンクックガ乗ッテキタ船カ…」
ザックがつぶやいた。
 「校長先生、キャプテン・クックって、どういうことなんですか? あの鬼がアトランティスのモンスターって、どういうことなんですか?」
校長の後ろで、デコが聞いた。
「実はの…ワシのご先祖様は、イギリス海軍のクック船長だったのじゃ。知っておるかね井手くん、キャプテンクックを?」
「はい。世界の海を3度冒険したけど、最後にはハワイで現地人とトラブって、殺されてしまったっていうのを、前にテレビで見ました」
「うむ。キャプテンクック、正式には、彼の名はジェームズ・クックと言い、18世紀中頃に生きたイギリス海軍の士官じゃ。
 彼は3度目の冒険航海の途中、ハワイ諸島に立ち寄ったのじゃが、その時ハワイは、神様が海からやってくるという新年の祝いの最中だったのじゃ。
そこへ偶然大きな船が現れたもんじゃから、現地人は、クック船長を神じゃと信じ大いにもてなした。そして船は出航したのじゃが、嵐にあい、大きな被害を受けて、島へとまた引き返してきたのじゃ。
 ところがのボロボロに変わり果てた船を見た現地人は、クックは神でもなんでもないと思い、今度はクックに金品を要求し、しまいには船に備えてあった小舟を奪ってしまったのじゃ」
「それで戦いとなり、クックは殺されてしまったんですよね」
「そうじゃ…。……フーーッ」
 校長は、大きくため息をついた。
「って、まてまて、その話のどこにもアトランティスとか宝とか、この鬼城島のこととか出てこねえじゃん、校長先生」
「せや。ウチらが聞きたいんは、鬼城島の鬼伝説と鬼の宝が、どうしてキャプテン・クックやアトランティスの怪物とか宝物とかと、結びつくかってことやで!」
 タケシとウッチーがつっこんだ。

 「ツマリ、キャプテンクックノ伝説ハ、ウソナノデゴザル!」
一番後ろに座ったゴザールが、それに答えた。
「ウソですって?」
デコが校長を振り返った。
「うむ。その男の言うとおり、キャプテンクックがハワイで死んだというのは、ウソじゃ!」
「ど、どういうことですか???」
「実はの、キャプテンクックは3度目の航海の時、大西洋のとある沈み行く小さな島に立ち寄ったのじゃが、そこで一人の老人に出会い、“不思議なもの”を預かったんじゃよ」
「不思議なもの…ですか?」
「うむ。その島というのはな、実は、大昔に沈んだアトランティス大陸の一部での、そこにはアトランティスの“宝”が眠っていたのじゃ」
「アトランティスの宝ぁ!」
ウッチーの目が輝く。
彼女にとって、鬼の宝もアトランティスの宝も、同じ宝物に変わりはないのだ。
 「トンネルで君たちが会ったモンスターどもは、その宝を守る生き物じゃ。そしてあの鬼は、そのモンスターたちの世話係のモンスターなのじゃ」
「宝に、それを守るモンスターに、世話係のモンスター…じゃ、じゃあ何か? アトランティスには、あんなおかしな生き物たちがいたってことかよ! 植物、岩、水、火…それにあの鬼!?」
オールを漕ぎながら、タケシが言った。
「いや海野くん、彼らは居たというより“造られた”といったほうが、正解じゃ」
「造られたあ?」
「うむ。島にいた老人は、数千年のあいだモンスターと宝を守り続けてきたアトランティス人の、最後の一人だったのじゃ。クック船長が彼に聞いた話では、その昔のアトランティス人は、生命科学に優れていて、生活の役に立ついろんな生物を、人工的に作り出していたのだそうじゃ」
「人工的にですか! ふむふむ…、それはすごい! 我々より進んでいたんですね、アトランティス人の科学は。ふむ〜…」
「しょ〜もな。科学が進んでたって言っても、しょせん大陸ごと沈んでしまったんやろ? たいしたことないやん」
感心するデコに、ツッコミを入れるウッチー。
 「…その科学のために、沈んでしまったんじゃがの…」
校長が、口の中でぼそっとつぶやいた。
「とにかく、それらは大変な発見でもあったが、と同時に当時の世界においては─おそらく現代でも─、それらは理解しがたく、また扱うこともままならないものばかりだったのじゃ。キミたち見ての通りの、の」
「た、たしかに、あんな化け物たち、アブナイだけでどうしようもないよな」
「そうバイ、あんなんいても、世界中が混乱するだけバイ。どっかの変な国や人間に渡って悪用でもされたら、大変なことになるバイ〜!」
タケシとフトシが大きくうなずいた。
 「そう、キミたちの言うとおり、キャプテンクックもまたそう思ったのじゃ。一つ間違えば人類を滅ぼしかねないような、危険な力を持った生き物を本国へ連れ帰ったら、大変なことになる。
この生き物たちは、今の人類の発展にとってマイナスな存在なのだ、彼はそう考えたのじゃ。
 …そこでじゃ、キャプテンクックはハワイ島の戦いを利用して、そこで自分が死んだことにしたのじゃ。そしてモンスターと宝を別の船、つまり今このボートの下に沈んでいる船で、当時外国との関係を絶っていた国、つまり鎖国を続けていた日本へと、向かったのじゃ。」
「そしてキャプテンクックはここへとたどり着いて、この鬼城島にそれらを隠した…ってことですか?」
「そうじゃよ、井手くん。その通り。そして彼はアトランティス最後の老人のあとをついで、宝と化け物たちを永遠に封印し守り続けるために、…いや逆じゃ、彼らからこの世界を守るために、この地に住み着いた…というワケじゃ。
 モンスターに村でちょいと騒動を起こさせ、それを鎮める行者という、ひと芝居をうって、の」

 「ダガ、ソノ計画ハ、失敗シタノデ〜ス!」
兄のザックが、突然口を挟んだ。
そして胸の内ポケットから、例の地図を取り出しててヒラヒラさせた。
「そうじゃの…」
校長は小さくうなずいた。
「キャプテンクックは、一人でここまで来たのではない。信頼する数名の部下とともに、“荷物を”運んできたのじゃ。そしてここへ降ろしたあと、部下たちには固く口止めをして本国へと送り返したのじゃ。大金とともに…。
 じゃが、信頼していた部下のだれかが、地図を残したのじゃ。 
やがて地図は何枚も書き写され、“キャプテンクックの財宝”伝説として、後世に広まっていったのじゃ」
そういうと、校長はザックをにらんだ。
 ザックはその目をにらみ返すと、ニヤリと笑った。
「なるほど、フムフム。そういうことですか…。それで、トンネルの途中でミイラになっていた人たちの、時代や服装そして人種が、バラバラだったのですね」
デコがうなずいた。
「そうじゃ。地図を手にしたある者は途中で嵐に沈み、またある者は幸運にも、なんとかたどり着いたのじゃろう。
そしてクックやその子孫の目を盗み地下道へ入ってみたものの、ことごとくモンスターたちにやられてしまったのじゃ」
 「ソノ通リデゴザル! ダガ、我ガアンダースン家ニハ、地図ト共ニ、一つの言イ伝エガ残ッテイタデゴザルヨ。
曰ク『−宝ニタドリ着ク方法ハ、キャプテンクックトソノ子孫ダケガ知ッテイル−』ト! ナゼカト言エバ、我ガアンダースン家ノ先祖コソ、クックトノ約束ヲ破リ地図ヲ残シタ、張本人デゴザルカラナ。ドウダ、スゴイデゴザロウ! ハッハッハ〜!!」
「なにが、スゴイデゴザロウだよ。要するに、裏切り者ってことじゃねーかよ!」
「ナニカ言ッタデゴザルカ?」
「い、いえ別に〜…」
 ゴザールに銃を突きつけられ、タケシは口をつぐんだ。


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