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15,鬼への生け贄(いいけにえ)
4人は、こうして火の化け物を退けると、またその先へと走りだした。
しかし今度の道は、これまでとはまた少し違っていた。
「はあはあ、おい、気づいているか? このトンネル、少しずつ上へ上へと登ってるぜ!」
「うん、分かってるで。もしかして…、ううんきっと、もう鬼城島が近いんやで。ついに鬼の財宝に近づいたんや〜♪」
別の意味で希望をもつウッチーだった。
「あ、足が重いバイ〜。はあはあ」
「体がだろ?」
もう体がボロボロなのだが、子どもたちに明るさが戻ってきた。
しかし、
「はあはあ、でも、どういうコトなんでしょう? はあはあ」
一人デコだけは、むつかしい顔をしていた。
「なんやデコ、どないしたん?」
ウッチーが聞いた。
「さっきの火の化け物のところで、ボクたちを助けた記号ですよ。はあはあ」
「それがどうしたバイ? はあはあ」
「チョット待て」
タケシは立ち止まると後ろを振り返った。
鬼が追っている気配はない。─本当はまだちょっと離れているだけなのだが─。
「はあはあ、今んとこだいじょうぶなようだな…。よし、ここから先は歩こうぜ。はあはあ…」
坂道はだんだん急になり、走って登るのはもう限界だった。
4人は、鉛のように重い足を引きずるようにして、坂道を上った。ヒザに手をあて、壁に手をあて、よろめきながら、一歩ずつ。
「で、さっきの、マル・矢印・バツのあの記号がどうしたって、デコ?」
坂道を登りながら、タケシがデコにあらためて聞いた。
「ああ、はい。これまでボクたちは、あの二人組の残した血のあとを発見してここまで来れたわけですが、さっきのあの記号だけは、明らかにボクたちへのメッセージでした」
「た、たしかに」
「そう言えばそうやな。あれは明らかに、ウチらに助かる方法を教えてたんやもんな」
「なるほどバイ、そうなるとこれまでの血のあとも、やっぱりあの二人組がワザと残してくれてたとバイ。そんな悪い人たちじゃ無かったとバイ」
「フムム、はたしてそうでしょうか?」
デコはよろめき歩きながらも、腕組みをして右手をあごに当てる推理のポーズをとった。
「よく考えてください。もともとあの2人組は、ボクたちを家に帰して通報されたら困るから、校長先生と一緒に鬼城神社の下へ連れてきたんですよ。そしてそのままバレないように、ボクたちを地下へ閉じこめるか殺そうかと考えてた…と思うんです」
「うーん、そういえばそうだな…」
タケシがうなずいた。
「でしょう? だったらそんな二人組が、なんでボクたちを助けるような、血のあとやメッセージを、残す必要があるのでしょう?」
「気が変わったんやないの?」
「そうバイ、ボクたちを死なせるのが、やっぱ怖くなったとバイ」
ウッチーとフトシが反論した。
「フムフム…。だとしても、おかしいんです。あの砂に描かれたマル・矢印・バツのメッセージ。マルでその砂そのものを表し、矢印でそれをどうすると導くのはいいとしても、バツをエックスではなく“かける”と日本語で読ませるなんてことが、あのイギリス人2人組が思いつくでしょうか? あのたどたどしい日本語しか話せない二人に?」
『!!』
そういえばそうだ。3人はデコのこの推理に顔を見合わせた。
「そうだ!」
何かがひらめいたタケシが、ぽんと手をたたいた。
『何?』
「オレたちってやっぱ、少年探偵団?」
『☆※★〜〜!」
3人の体からいっきに踏ん張りが消えた。
しかし、たしかにデコの疑問はその通りだった。この謎は、一体どういうことなのだろうか…
4人が登る坂道はだんだんときつくなり、ついにはまた階段が始まる空間へとつながっていた。
トンネルを抜けたその場所は、人工的に削り出したような岩の柱が中央に立ち、カサを広げたような形で空間を支えていた。
そしてその先に、上へ登る階段の入口が開いていたのだった。
「やったー、階段や! 出口は近いでー!」
そこを見つけたウッチーが、喜びいさんで走り出した。
その時、
パーーーーーーーン!
直径7〜8メートルほどの空間に、突如銃声がひびきわたった!
パチパチ、パチ・チュイーン!
弾は岩にはじかれ、何度も跳ね返った!
「きゃーー!」
ウッチーは頭をかかえ、思わずその場にうずくまった。
「な、なんだあー!?」
後ろでおどろくタケシたち。
その目の前に、
「フッフッフ、ヨクココマデ、タドリ着ケタデゴザルナ、コワッパドモ」
柱の陰から、ピストルを手にしたあの二人組の小さい方、ゴザールがゆっくりと姿を現した!
「お前は…!」
「フリーズ! 動クナ!」
ゴザールは、右手のピストルを子どもたちに向けたまま、ゆっくりと近づいてきた。そしてその左手には、丸く束ねたロープをぶら下げている。
その時、
ウワーーー、ワーーーーワーーー!
階段の上からわめくような声がひびいた。反響して何を言ってるのか分からないが、もう一人が上にいるのはたしかだった。
「フン!」
ゴザールはその声の方を横目でチラリと見たが、すぐに子どもたちの方に目をやった。
そしてウッチーの手を取り立たせると、そのまま子どもたちを中央の柱へ動くようにピストルの先で指示した。
そして柱を背にして並ばせると、ロープでその立ったままの体を、柱へグルグル巻きにし始めた。
「オ前タチガ、拙者タチノアトヲズット着イテキテイタノハ、音ヤ声デ知ッテイタデゴザルヨ。ソノウチドコカノモンスタータチニ、ヤラレルト思ッテイタデゴザルガ、ツイニココマデヤッテ来ルトハ、感心シタデゴザルヨ」
ゴザールはそう言いながら、縛ったロープがほどけないかゆすってみた。
「な、なんだよ。オレたちを、どうする気なんだよ!?」
パシーン!
質問したタケシのほおに、ゴザールの平手が飛んだ。
そしてニヤリと笑い、言った。
「クックック…オ前タチハ、生ケ贄(イケニエ)デゴザルヨ。コノ場所デオ前タチニ、“アトランティスモンスター”…オ前タチノ言ウ“鬼”ノ生ケ贄ニナッテモラッテ、コレカラ先ニ鬼ガ行クノヲ、遅ラセテモラウデゴザル。ハッハッハッハ!」
ゴザールはそういうと階段へ歩き、そのまま上へと登っていった。
「なんだ、なんて言ったんだ?」
「なんか、生け贄にするとか言ってたバイ」
「それとなんか言ってたで、あとらなんたら…モンスターとか」
「彼はたしか、“アトランティスモンスター”と言ったんだと思います。鬼のことを」
『アトランティス…モンスター?』
3人は一斉に声をあげ、顔を見合わせた。
「アトランティスって、漫画で読んだことあるぜ。たしか…大昔に海の底に沈んだとかいう、伝説の、あのアトランティス大陸のことかあ?」
「うん、ウチも知ってるで。そのアトランティスが、なんで鬼と関係あるんや?」
「鬼は鬼ばい! 校長先生が化けたとバイ! ワケが分からんバイ!」
「えーい、今はそんなこと、どうでもいいや。とにかく、このままじゃあの鬼がやって来て、オレたち食われちまうってのだけは、間違いないぜ。みんな体を動かせ、なんとか逃げるんだ!」
4人は必死に体を動かし、力いっぱいその身をよじり始めた。
「だ、だめばい、どう動いても、このロープゆるまないバイ」
「なんか、特殊な結び方をしてあるみたいです」
そう、4人がどんなにあがいても、縛り付けられたロープから逃れることは出来なかった。
そしてついに…
グオオオオオーーーーーーーー!
4人の目の前に、ついに鬼があらわれた!
トンネルを抜け空間へ姿をあらわすとすぐに、鬼は中央の柱に縛り付けられた子どもたちを発見した。
グオ? グフ、グフグフグフグフ…
最初は小首をかしげ、しかしそのあとは小刻みに肩を揺らした。うれしそうに笑っているのが、子どもたちにも分かる。
『う、わ、ああああ、あ、あ……』
今度こそ絶対逃げられない。
目の前に近づく鬼の姿に、子どもたちは涙を流し絶句した。
ゴフー、ゴフー…
鬼の生臭い息が、4人の体をつつむ。
天井につかえそうなその頭の白い毛は逆立ち、赤い目は不気味に光っている。
鬼は子どもたちの目の前に立つと、
グガーーーーーーーーーー!
鼓膜をゆるがす咆吼(ほうこう)をあげ、右手を振り上げた!
そして、そのまま、
グオバッ!
空気を切り裂いて振り下ろした。
『ぎゃーーーーーー』
次の瞬間!
ぶちぶちぶちーん!
4人の体にピーンと巻き付けられたロープが、まるでラーメンでも切るように、鬼の鋭い爪で断ち切られた。
「え…??」
そのままへたり込む子どもたち。
鬼はそれを尻目に、そのまま反対側の階段へと走り出した。
そしてそドスドスと、音を立てて登っていった。
「………」
4人はだまって、お互いの顔を見合わせた。
そして遠ざかる鬼の足音に、ぼうぜんと階段の方を見上げた。
「…んや…、どうなったんや…、なんなんや、今のは〜?」
「なんですか、今のは! 鬼が、ボクたちを助けてくれましたよー!」
「うっわー、校長先生、鬼になっても人間の心が残ってたとバイ♪」
「オレたち、助かったぜーーー!」
4人は抱き合って大歓声を上げた。涙を流し、踊るようにピョンピョン飛び跳ねた。
その時、
パンパーーン!
またしても上から銃声がひびいた。
グギャーーーーーー!
そして鬼の、悲鳴のような咆吼!
「校長先生ーーーーー!」
鬼が、校長先生が撃たれたに違いない。4人はそう思って階段をかけ登った!
何10段か駆け登った真っ暗な階段の先に、小さな明かりが見えた。
「出口だ!」
4人の頭上で、どんどんその明かりが大きくなる。
そしてその明かりの中に、こんもりとした固まりがあった。近づくとそれは、出口の所に座り込む鬼の後ろ姿だった。
鬼は片ヒザを立てた姿で座り込み、左肩を右手で押さえ小刻みにふるえていた。
「肩から血を流している、撃たれたんだ!」
「校長先生…」
子どもたちは、鬼の後ろにそっと近づいた。
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