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10,フトシ危機一髪。鬼の口には合わない?…
「助かったあ〜…。と思ったら、なんだこりゃー?」
壁のくぼみをたどって、波うつ岩の化け物を逃れた4人のその先は、しかし、安全な場所ではなかった。
岩の化け物の後ろに落ちている人骨…の先にあるはずの地面が、無かったのだ!
そこは、大きな“たて穴”だった。
これまでのトンネルは、直径10メートルはあろうかという、大きなたて穴につながっていた。それは、たとえて言えば4人は、コップの横に小さな穴を開け、そこから中をのぞいているアリさんのようなものだった。
タケシは首を曲げて、口にくわえたライトで下を照らしてみた。
しかしその弱い光では、かなり下まで垂直な壁が続いていること以外、どこに底があるのかさえまったく分からなかった。
「深いって事だけは…、たしかだよな」
タケシは首を戻し、今度はぶら下がっているくぼみの先を光でたどった。
くぼみと足の下のでっぱりは、これまでと同じ高さと間隔で壁の内側をぐるりと回り、反対側へと続いていた。
そしてそこに、また次のトンネルが口を開けていたのだった。
「このまま行くしか、ないってことやな」
「そうですね、行きましょう、タケシくん!」
「は、早くするバイ。すぐそこに、鬼の声がするバイー!」
グオオオオオーーーーー!
鬼の咆吼(ほうこう)が間近にひびく。そう、鬼はもうすぐそこに迫っていた。
「フトシ、そのリュックを捨てろ!」
「イヤばい! この中には、食べ物がまだ入ってるとバイ〜!」
子どもたちは、大きな円筒の内側を必死に渡っていた。
ちょうどバンザイするような形で、50センチくらいの間隔であいているくぼみに手をかけ、足もとのでっぱりに足をかけ、一つ一つ移動しているのだ。
タケシたち3人は、すでに半分以上過ぎていた。が、一番後ろのフトシだけが、一人遅れていた。
「そんなこと言ってる場合ですか! ただでさえフトシくんは太ってるんですから、余計な荷物はジャマなだけですよ! ボクが今さっき、タケシ君のせいで失ったアイテムに比べれば、“へ”みたいなもんじゃないですか!」
「せやでフトシ、食べ物と命と、どっちが大事なんや!」
「どっちも大事バイ〜!」
その時、
グオオオオオーーーーー! ドスドスドスドス!!
また鬼の咆吼と地響き。
四人の体にその振動が伝わる! 鬼がすぐそこまで来ているのは、間違いなかった!!
「よっしゃあ!」
ついにタケシが、縦穴の反対側にある穴の入口にたどり着いた。
左足を入口の地面に伸ばし、トンネルの内側に左手を伸ばし、入ろうとした、その時!
ドーーーーーン!
もの凄い音と共に、今さっき自分たちが出てきた穴から、鬼が勢いよく飛び出した!
タケシが驚き振り向くと、さっきまで自分たちを食べようとしていた岩の化け物は、何もないように一直線に平らになっていた。
「き、汚ねー!」
思わず文句を言うタケシ。
が、そのタケシに向かって、
グオオアアアーーーーーー!
雷のような吼え声をはきながら、鬼の巨体が空中を一直線に迫ってくる。
10メートル以上は確実にある距離をものともせず、まるでネコが屋根から屋根へ飛び移るような姿勢と身軽さで、鬼は楽々と空中を飛んでいた。
『あぶなーーーーい!』
あとに続く3人が思わず叫んだ。
タケシの体に鬼の手が届く!
直前、
「このやろおー!」
タケシはとっさに足を曲げ、かべを蹴って飛んだ。
そして空中で体をひねると、
バーーーーン!
逆に鬼の顔面に、両足で強烈なケリを入れた。
グワ!?
鬼もおどろき声を出した。タケシはそのケリの反動を利用すると、そのままトンネルの穴へと飛び込んだ。
「やったぜ!」
なんたってタケシは普段、勉強より遊びが大好き。海や山で遊びまくり鍛えた運動神経はダテじゃないのだ!
一方鬼は、
ガラガラガラ…
顔面を蹴られておどろいたのか、バランスをくずし、トンネル入口から数メートル下の壁にしがみついていた。
しかし何という力。鬼はその“缶ジュース”のような太さの手の指を、
グバキバキバキ…!
まるで豆腐でもつかむかのように岩壁にめり込ませていた。
その目は怒りに燃えているのか、さらに赤くなり、
グワウウウウウー!
その口は牙をむき、うなり声をあげている。
「今だ、早く、早く!」
タケシはトンネルの入口から手を伸ばし、たどり着いたウッチー、デコを引き入れた。
しかし!
「急ぐんや、フトシ!」
「早く早く、フトシくん!」
「だからリュックを捨てろと、言ったんだ!」
「そんなこと言ったってバイ〜、うえ〜〜〜んバイ〜〜!」
フトシはまだ、入口から数メートルの距離にいた。
泣きながら、一生けん命くぼみを伝ってくるフトシに、タケシたちは懸命に声をかけた。
そしてその数メートル下には、鬼が岩壁にしがみついている。
いや、鬼はただしがみついているのではなかった。右手左手と腕を上に伸ばしては、
グバキバキバキ! バキグワキメキ!
そのものすごい力で岩壁をつかみ、上へ上へと登っていた。
「このやろー、来るなーー!」
タケシたちは、足もとに落ちている小石を拾っては、鬼目がけて投げつけた。
しかし鬼は、びくともしない。うめき声を上げながら、ズンズン登ってくる。
一方フトシもまた、なんとか入口へと近づいていた。
そしてフトシの手が、最後のくぼみにたどりついた時、
ガシッ!
鬼の左手もまた、トンネル入口下のフチへとかかった。
「フトシー!」
タケシは左手で体を支えながら身を乗り出し、懸命に右手を伸ばした。フトシもまた左手を伸ばす。
しかし、
グオオオオオオオーーーー!
鬼は片手けん垂で一気に上体を持ち上げ、そのまま右手をフトシの足へと伸ばした。
「ぎゃあーーー!」
フトシの悲鳴が響く。
『フトシーー!』
3人は思わず目をつぶった。
しかし鬼の手は、フトシの足へ届いてはいなかった。フトシは恐怖で手を滑らせ、鬼の右手と入れ替わるように下へ落ちたのだ。悲鳴は、そのせいだった。
ぼふっ!
そして、変な音がした。
3人が目を開けると、巨大な鬼の顔が目の前にあった。
そしてその上に、仰向けになっているフトシの姿があった。フトシは鬼の手をすり抜けると、そのまま鬼の顔の上に落ちたのだ。
「フトシーー!」
3人は、フトシの体をつかんだ。そして引っ張った。
が、その瞬間、
グオーーー!? ブチブチイイ!
鬼は、口の中に入ってるものを、その鋭い牙でかみちぎった!
「あいたー、バイー!」
フトシの体は3人に引っ張られた反動で、3人の頭を飛び越えトンネルの奥へ“ドサッ”と落っこちた。
そしてその背中からは、あんなに大事にしていた食料の入ったリュックが、肩ひもだけを残して消えていた。
そう、それは鬼にかみちぎられたのだ。鬼は、口の中に飛び込んできたフトシのリュックを、かみちぎったのだ。
グオ、オエエーーーー!?
トンネルの入口にしがみついている鬼が、首を下に向けて変な声をあげた。
それは、なんか苦しそうな声だった。そして声と共に、フトシのリュックを口から吐き出していた。
グオ、オエエーーーー!? オエオエエーーーー!?…
「ど、どうやら、口に合わなかったみたいやな」
「だな」
「人間の食べ物は、苦手みたいですね」
「し、失礼なバイ。あの中には、お母ちゃんが作ったおにぎりと、店のお菓子が入っとるとバイ! うまかとバイ! ボクの大好物バーーイ!」
地面に倒れたまま4人は、目の前でオエオエ苦しんでいる鬼の顔を、あっけにとられて見ていた。
「…って、見ている場合じゃねえ、今のうちに逃げろーー!」
4人は立ち上がると、トンネルの奥へとまた走り出した。
いっぽう鬼は、
オエエーーーー!?…
よっぽどフトシの大好物が体に合わなかったのか、緑色のよだれを垂らしながらなみだ目で、そのまましばらく苦しみ続けたのだった。
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