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二十、地域限定、カラスなぜ鳴くの
雷羅はなすすべもなく、抜け殻のように立ちつくし上を見上げていた。
その目からは、後から後から、止めどなく大粒の涙が溢れている。
「大地、大地、大地…………………」
彼女の頭の中には、大地と初めて出会ってから今日までの事が、まるで早送り画像のように駆けめぐっていた。そして、それとともに、大地への想いが、心の叫びとなってこだましていた。
わずかな期間なのに、無事暗黒龍王を倒したとしてもいずれ別れなければならない相手なのに、なぜ自分の心はこうまで大地の事でいっぱいになってしまったのだろう?
なぜこれほどまでに、なぜ??…………
それはきっと、最初に出会ったときから、ううん、出会う前から、大地が好きだったから!! 生まれるずっとずっとずっとずっと前から、大地が、大好きだったから!!!!
雷羅は、悲しくともつらくとも苦しくとも、遠ざかりつつも拡大していく光球から、決して目を離さなかった。
なぜならその光球が消えた時こそ、暗黒龍王が倒された時!
そして未来と紫蘭……そして大地が、この世から消えて無くなる時なのだから!!
と、その時、
雷羅の後ろから、その肩にそっと手を伸ばす者がいた。
「???………」
力無く雷羅が振り返ると、そこには孔明の母アグネスの姿が!
「今こそ………使うんですわ、雷羅さん!」
「え? 」
アグネスは、雷羅の体を回し自分に振り向かせると、その両肩を両手で握りしめ、目を見据えて言った!
「あの巨大な龍も、元をただせば“未来さんの体”ですよって、今こそもう一度、雷羅さん一世一代の大発明、“時空間停止装置”を使うのです!!」
「??!!」
雷羅は意味が分からなかった。
今さらあの、暗黒龍王復活の原因となった時空間停止装置を使えとは? アグネスは、いったい何が言いたいのだろうか?
「わたくしも、科学者のはしくれです。雷羅さんの実験で暗黒龍王が復活した話や、これまで見てきたヤツの生態について考えてましたら、ある疑問がわいたんです。」
「疑問…………って……??」
「はい! なぜヤツは、天地核の封印が解けたこの地で復活せずに、わざわざ地球に来て復活したんやろか? そして、なぜこの地を目指すのに、人の心にに寄生せなあかんのやろか?…………と。」
「…………!!!」
雷羅は、アグネスの顔を見つめた。
そして、
「あっ!!!」
と、声を上げた!
彼女もまた科学者であり、頭の回転は早かったのだ!
「分かったみたいですね、雷羅さん。ヤツは生きた人間の体を、いわば“触媒”にすることで、自分の体をこの空間に実体化してるんです! そう、ヤツは“異宇宙、別次元”の存在ですよって、おそらく、この宇宙の生物に“寄生する”という方法でしか、この宇宙そのものに“干渉”できへんのです!!」
雷羅の目が、見る見る輝いた!!
「そうか………、そうか! そうだよアグネスさん! そうか、そうだったのかーーーーーーーっ!!」
言いながら雷羅は、天空に向かって素早くブレスレットを構えた!
「行っくぜーっ、雷羅様一世一代のスペシャル大発明、“時空間停止装置・雷羅スペシャル! ただし地域限定バージョン”!!!」
雷羅がスイッチを入れると、瞬時に太陽系の遙か外側に、時空間を止めるバリヤーが出現した!
「ぬおお??!!」
暗黒龍王は、突如止まった自分の体に驚いた!
「これは一体?? !……そうか、分かったぞ……、あの小娘がまた、時空間停止を行ったのだな?!」
魔王は、見た! 太陽系を包むバリヤーが、その外の時空間と摩擦を起こ、激しく光り輝いているのを
その内側では、全ての惑星がその動きを止めたのを! そして、激しく爆発噴出していた太陽フレアが、まるで立体模型のように停止してるのを!
そしてそして、自分が放った暗黒球が、こちらへ飛んでくる剣者の光球が、バリヤー内部のあらゆる物質が、全て全て止まっているのを!
が!
「くっくっく。バカめ! 今さらこの時空間の流れを一時的に止めた所で、どうしようも無いものを………!」
暗黒龍王は、雷羅の装置では時空間停止が長く続かないことを知っていた! そして、停止がとけるのをただじっと待っていればばよいことも!
しかし雷羅は、ただ単に時空間を止めたのでは無かった。彼女はブレスレットの蓋を開けると、マイナスドライバーを差し込み、ゆっくりと左へ回していたのだ!
「ど、どうするんでちゅか、お姉ちゃま? ああ、ま、また煙、また煙が出てまちゅう!!」
愛羅、そして舞羅、孔明父子にンタラチュラが、雷羅とアグネスを残し反射的に岩陰に隠れた!
愛羅の言うとおり、ブレスレットは見る見る白熱し、雷羅の手を焦がし始めていたのだ!!
「な、何してるんやお母ちゃん! そんなとこでのぞき込んでると、爆発に巻き込まれるでえ!!」
「お姉ちゃま、はやく、はやく捨てるでちゅう!!」
「雷羅!」
が、二人は動こうとしない!
「くうう……………」
雷羅は、チリチリと手を焼きながら、なおもドライバーをゆっくりと回していた!
そしてアグネスも、
「まだです、まだ、慎重に……そう、あ、そこ! 少し戻して、ゆっくりと……」
その作業を食い入るように見つめた。
「今です、雷羅さん!!」
「よっしゃあ!!」
雷羅がこの作業をしていたとき、そのドライバーの動きに合わせて宇宙空間では、光り輝くバリヤーの急激な収縮が起こっていた!
そしてそれは、暗黒龍王にもある重大な異変をもたらしていた!!
「ぬおおおうう、こ、これは!!!」
急激に収縮するバリヤー表面は、龍王の体に重なったかと思うと、そのまま一気に突き抜け、なおも火星表面へ向かって収縮した!
一方、大地と紫蘭に時が戻った時、
「!!!!!」
二人は、目の前に信じられないものを見た!
自分たちが突進する暗黒龍王の頭の部分に、急速に収縮していく光があったのだ!
その中に!
「み、未来ーーーーーー!!!!」
そう、未来が、“生まれたままの姿”で実体化した!!!
さらに暗黒球の中から、やはり光球に包まれた天地核が姿を現した!!
そしてこの二つの光球は、収縮するバリヤー本体を追うようにして、瞬く間に大地たちとすれ違うと、雷羅のいる火星表面へと超高速で引き寄せられて行くのだった!!
火星で見上げるみんなの視界に、やがて、未来と天地核の二つの光球が入った!
雷羅はその姿を確認すると、ドライバーの回転を緩め、光球の速度を落とし、ゆっくりと目の前に着陸させた。
「未来お姉ちゃま!」
愛羅がすぐに駆け寄る。
そして聴診器を当て無事を確認しすると、興奮しながら雷羅に言った。
「す、スゴイでちゅ! いったい、何がどうなったんでちゅか雷羅お姉ちゃま?!」
「……覚えてるだろ愛羅? 王宮で、あたしが初めてこの装置をヤツに使ったときのこと。……あの時、ヤツの体だけは時空間停止したけど、その意識は止まらなかったて!?」
「そう言えば……」
「つまりな、あたしのこの時空間停止装置は、“別次元宇宙の存在”である暗黒龍王には“効かない”ってことなんだよ。だから今回、逆に、その作用範囲を徐々に縮小していくことで、“装置の作用する未来の体”だけを、ろ紙を通すようにして“こし取る”ことが出来たっていうワケだ!」
「な、なるほどでちゅう!………あれ? でもどうして、そのあとここまで連れ戻せたんでちゅか??」
「それも、前回のがヒントだ! 前回この装置を使ったとき、回路に無理が来てショートしたろ? それは装置の故障じゃなくて、唯一の不確定要素である暗黒龍王がいたせいだったんだ! だから、今回この装置の作用する範囲を絞っていき、回路の無理が消えた時、つまりそれは未来と天地核が暗黒龍王から分離した瞬間、その場所にのみもう一度時空間停止作用を働かせ、そのままこちらへ移動させたってわけだ!」
「いわゆる、未来さんを守るバリヤーとして使ったのですね。」
言いながら舞羅は、横たわる未来に、自分の肩からはずした布を掛けてやった。
「やりましたね、雷羅さん!」
「は、はい、アグネスさん。アグネスさんのおかげです!」
雷羅は、アグネスに深々と頭を下げた。
「すごーーい!! はじめて、雷羅お姉ちゃまの装置が役にたったでちゅう!!!」
「う、うるさい! だけど、こううまくいくとは思わなかったぜ!!! でも、同じようにこれを使えば、あの二人を無事戻すことも出来るはず……」
そう言うと、雷羅は再び空を見上げた。
今度は、その目を希望で輝かせて!!
「バカな、バカな、そんなバカなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
今や、“ただの異宇宙物質”に戻った暗黒龍王は、たった今起こった出来事に錯乱状態になっていた。
もういくら巨大化したところで、たとえこのまま銀河をまたぐ大きさに巨大化したところで、もはやその存在は、この宇宙に何の作用も引き起こすことが出来ないのだ!! もはやヤツは、“邪悪な意志を持っただけの異物質”にすぎないのだった!!!
その体の中心めがけ!
「いやああああああーーーーーーーーー!」
太陽をも凌駕する大きさと輝きの光球が、超高速で突っ込んだ!
激突する光と暗黒!!!!
「そんな、バカなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーああ・あ…………………」
それが、太陽系を震撼させた暗黒龍王の、……何十回目かの……最後の叫びだった。
瞬間、光と闇は交錯し、闇は氷解するように融けていったのだった!
「からすな ぜな くのから すのかってでしょ から すがな くから かえろ…」
舞羅は、天地核を両手で頭上に掲げ、古来より伝承された“暗黒封印”の神歌を唱えていた。
天地核は、神子の神力により明るく輝き、そこを目がけ宇宙より、黒い砂粒のような結晶がサラサラと降り注いでは、吸収されていく。
そして、それにつれ、球の中にまたあの黒いシミが、徐々に、徐々に形作られていくのだった。
神剣の力により異宇宙の“想い”は再結晶化され、さらにこうして神子の手により、今また天地核の中に還っていくのだった………。
そしてその同じ方向から、ゆっくりと、ゆっくりと、光り輝く光球が降りてきた。それは未来の時と同じく、雷羅がその時空間停止装置により、大地と紫蘭を無事連れ戻すバリヤーの光だった。
雷羅は、光球を無事目の前の地面に下ろすと、
「良かった………」
また大粒の涙を流しながら、そのスイッチを切ったのだった。
大地は紫蘭と共に渾身の気を融合させ、暗黒龍王目がけ突っ込んだはずだった。
が、次の瞬間、
「…………え?」
目の前には、目にいっぱいの涙を、そして顔にいっぱいの笑顔を浮かべた雷羅が立っているのだった。
「お帰り………大地………」
喜びで震える手が、大地の頬に触れた。
「!!……………」
大地は辺りを見回した。
回りには、雷羅同様、涙と笑顔のみんなが立っていた。そして舞羅の手に、暗黒龍王を再び封印した天地核があるのに気づくと、大地は紫蘭と顔を見合わた。
そして再び雷羅に目をやり、呆然としたように言った。
「天国でも…夢でも………ないようだな。とすると………勝ったのか……オレたち……?」
「そうだよ、大地! 紫蘭!! 勝ったんだよ! あんたたち……勝ったんだよ!!」
雷羅は、大地に飛びついた! そして紫蘭にも!
それは舞羅、愛羅、孔明親子も同じだった! みんなは二人に抱きつき、喜びの涙で顔をくしゃくしゃにしながらその偉業を讃えた!
そしてこの様子を、
「紫蘭王子………」
少し離れたところで、未来が、上半身を起こして見ていた。
生まれたままの、舞羅に薄い布一枚掛けてもらっだけの姿で、みんなと同様目に涙をいっぱい浮かべて!
紫蘭はその前にゆっくりと近づくと、片膝をつき未来の顔を見つめた。
そして……
「…………未来!!」
紫蘭は未来を抱きしめた。強く、強く………!!!
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