第十九章 死出の旅立ち
十九、死出の旅立ち

 「も、もうだめだあーーっ……!」
雷羅が、悲痛な叫びをあげた!
 大地たちは一カ所に集まり、雷鳴轟く空を見上げていた。体は遙か宇宙空間にあっても、そのあまりの巨大さゆえに、暗黒龍王の姿は、なおも火星の空一面を覆いつくしていたのだった!
「ハアハアハア……紫蘭。」
「!?」
大地は地面にあぐらをかいて座り、愛羅の止血治療を受けながら、紫蘭に言った。
「飛ぼう……ぜ、紫蘭!」
「と………ぶ?」
「そうだよ! オレたちは同じ魂を持ち、神剣の力を同じように引き出せる………。ハアハア、………だ、だったら二人で剣を持ち、力を倍にして、ヤツに突っ込もうじゃねえか!!!」
 横でこの提案を聞いていた、大全は、
「大地お主!!……」
言いかけて、大地と紫蘭を見た。
 コクッと深くうなずく大地、そして紫蘭。
 「ふーーっ……」
と、大全は、大きなため息を一つついて、言った。
「……あい分かった。よし、二人を飛ばすのは、ワシに任せるがよい。幸いにも、ここは重力が小さいからして、ワシのありったけの“気”で、お主らを見事、ヤツののど元に送り届けてみせようぞ!」
 これを聞いた雷羅、
「な、何言ってんだよ大全のじっちゃん! ヤツは今、宇宙空間にいるんだぜ? そんなことしたら、大地も紫蘭も死んじゃうじゃないかあ?!!」
と、大全にくってかかった。
 それを、
 「おやめなさい、雷羅!!」
と、舞羅が制した!
 「だ、だけど、姉貴…!」
「雷羅…、大地様と紫蘭王子は、もう覚悟をお決めになられたのです。」
「でも!……」
「よくお聞きなさい、雷羅……。どのみちこのままでは、わたくしたちはおろか、この太陽系そのもの、そして、この宇宙そのものが滅びてしまうのですよ。」
そう言って、舞羅は静かに首を横に振ってみせた。
 この言葉に雷羅は、
ガクッ!
と、ひざを地面についた。
 「そんなの……、分かってるよ姉貴……、そんなこと……、でも…、やだよ、いやだよ、あたし………、死ぬときは一緒って…、死ぬときはあたしたち一緒だって……言ったんだもん。……大地、大地ぃーーーーーーー!」
雷羅は立ち上がり、死出の旅立ちを決心した大地の元へ駆け寄った。
 そして……
「雷羅!!……」
「大地ー!!!」
雷羅は大粒の涙を流し、大地に強く抱きついた。大地もまた、そんな雷羅を抱きしめた。
強く……、強く抱きしめ合う二人!
 雷羅は顔を上げ、見つめ合い、最後のキスを…………交わした。

 我々の太陽系は、今まさに死の瀬戸際に立たされていた。
今や、外惑星軌道よりも遙かに巨大化した暗黒龍の前には、ますます激しくフレア爆発を繰り返す巨大な太陽も、もはや小さな砂粒に等しかった!
 暗黒龍が尾の先を一振りすると、冥王星が吹っ飛び爆発した!
その体の鱗をわずかに震わせただけで、水星がバラバラに砕けた!
金星の厚い大気がはぎ取られ、宇宙空間に飛び散った!!
 そして地球では、数百メートルの大津波が地上を襲い、人々はこの日のために宇宙鎮尊が各地に作った地下シェルターに避難し、恐怖に震えていた!
 「じいちゃん、頼むぜ!」
大地と紫蘭は、一段高い岩の上に立つと肩を並べ、かつて神より授かりし神剣を、ともに握りしめた!
 その前に、杖を持ち立つ大全!
そして雷羅たちは、少し離れた岩かけでこの三人を見守っているのだった。目の前を、ハリケーンのように激しい風と共に、赤い砂塵が容赦なく吹き抜けていく!
 大全は、二人が立つ岩にゆっくりと近づくと、
「ゆくぞ!!」
激しい地震が襲う中、杖を右脇へと引き、二人の足下に狙いを定めた!
「キイイイイイイイエエエエエエ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!」
天変地異を凌駕する、裂帛の気合い!
 目にも止まらぬスピードで杖は、
 ドズウ!!! 
岩に深々とめり込んだ!!!
 瞬間!
 ビカーーーーーーーーーッ!!
杖の先より激しく注入された気が激烈な光を発した!
 そして気は、岩の内部で一気に圧力を高め、
 バッ!!!
原子に帰るかのように、粉々に岩が砕けたかと思うと、
 ド、ドオオーーーーーーーーーーン!!
強烈な火柱を天高く吹き上げた!
 この時、大全の杖もまた粉々に砕け散り、自身の発した激烈な気の爆風により、瞬時に後方へ吹き飛ばされたのだった!
 砂塵の舞う中、神殿の崩れたガレキに叩きつけられた大全は、
 「ど、どう………じゃ……?」
舞羅たちに助け起こされると、息も絶え絶えに上を見上げた。
 その視線の先には、火柱に包まれ急上昇してゆく、紫蘭と大地の姿が!
「うむ……、うまく……いったようじゃ…な…。大………地…あとは……あとは……ううっ…」
 そこまで言うと大全は、
 ガクッ!
と首を落とした!
 「た、大全おじいさまーーーーーーー!!」
舞羅たちは、二度と目を開けぬ大全を抱きかかえたまま、火柱を見上げた。
 そして雷羅は立ち上がり、
「大地……大地ぃーーーーーーーーーーー………………………………………………!」
上空へ、そして宇宙へと消えゆく光の矢に向かって、哀絶の叫びをあげた。

 暗黒龍王は、自分が解き放たれた惑星から、火柱に押し上げられてくる小さな光球に気付いた。
最初は小さな小さな光球だったが、それは急激に膨張を始め、火星の大きさを越え、なおも大きくなっていく!?
「!!……な、なんだあの光球は?!……………ぬお、このパワー! ………………剣者かっ?!!!」
 そう、暗黒龍王の感じた通り、その中心には、
「うおおおおおおおおーーーーーーーっ…」
神剣を握りしめた二人の剣者が、そのありったけのパワーを剣に乗せていたのだ!
 気の球……“球気”!
今や、二人の継承者へと無限に供給される宇宙パワーは、二人を包み込み、恐るべき光のエネルギーを発しながら爆発的に急拡大していた。
 その大きさ、そして光は、最大惑星である木星を遙かに凌駕し、すでに太陽をも越えつつあった!!
 しかし!
「くっくっくっく……」
暗黒龍王は、不敵な笑いを浮かべた!
「遅いのだ、剣者たちよ! 余はすでに“完全実体化”した!! 今さら“神”のパワーを身にまとっても、余の鱗一つ傷つけること出来ぬわ!」
額部分にかすかに残っていた未来の顔も、今や完全に消え失せていた!
 未来の体を完全に吸収してしまった暗黒龍王は、今や、その名の通り“暗黒の王”として、完全復活を果たしたのだ!!!
 「はあっはっは! お前たちが崇める宇宙の心、“天地核”と共に砕け死ぬがいいーーーーーーーっ!!!」
言うや、龍は迫り来る光球に向け、一天文単位ほどもある口を開けた!!
 その奥から!!
 ブオオオオーーーーーーーーッッッッッ!!!!!
まるで太陽から噴出するフレアのように、しかしその何万倍も大きな規模の、“暗黒フレア”とでもいうべき暗黒エネルギーの固まりを吐き出した! 
 と!
この暗黒フレアはすぐに丸くなり、まるで狂った巨大ブラックホールのように突き進んだ!
 その回りに、激しく走る黒い稲妻をまとい、そしてその中心点に、神の御心の結晶球“天地核”を包み込んで!!!