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十八、真の戦い、震える太陽系!!
「な〜がらくのご乗車、あ〜りがとうございました。ま〜もなく終点、火星でございまあ〜〜す。よ〜そろ〜♪ 宇宙戦艦、瑞鷹号、火星大気圏突入、ラジャ〜〜〜〜〜〜!!」
一段高い艦長席で、テキトーな言葉を並べる大地老人。
その下では大地たちが、目の前のスクリーンいっぱいに広がった赤い惑星を、驚きの目で眺めていた。
昨夜なかなか寝付けなかった“寝不足四人”を含めた一行が目覚めると、赤い星はすでに戦艦の眼前に迫っていた。
そして、用意されたご飯とみそ汁、焼き魚に生アマゴ、味付け海苔そして漬け物にお茶と言った、まるで旅館の定番のような朝飯を済まて操縦室に集合すると、もう戦艦は火星の大気圏に突入しようとしていたのだった。
「これが火星……、そして、火星の大地なのね……」
未来は、スクリーンいっぱいに広がる光景にしばし見とれた。
そしてそれは、他の者も同様だった。
ぐおおおおんん…………
戦艦は低いうなり声を上げながら、あっという間に薄い大気を突き抜けると、一行の目の前に、砂塵に煙る赤い大地を広げて見せた。そこには、火星の薄い大気を通しクレーターや砂漠、今は水のない大渓谷が、徐々に雄大な姿を現していく。
やがて船はゆっくりとスピードを落とすと、見る角度によっては人の顔のようにも見える大きな岩山の近くへと降下していった。
と!
ガクガクガクウ!
突然、戦艦は赤い砂嵐に巻き込まれ、激しく振り回された!
「わああ、な、なんだあ?」
「きゃあああ!」
あわてて、そこいらの装置にしがみつく大地たち。
「アッテンションプリーズ! 言い忘れてましたが〜、着陸地点は砂嵐により防護されていますので、船体が多少揺れるかもしれません〜。みなさま、コケないように〜、あ、何かにおつかまり下さいませ〜。」
陽気な大地老人の声が、艦内に響く。
「ばかやろー! 言うのが遅いわクソジジイ〜! かもしれませんじゃなくて、揺れてるんだよ〜!!!」
パイプにしっかりつかまりながら、大地が叫んだ!
と!?
パキ!
そのパイプが、根本から折れた!
「あんぎゃ〜〜〜〜〜〜???」
パイプを握りしめたまま、吹っ飛ぶ大地!
「ぶははは、バカめ、で、ございまあ〜す! お前がそのパイプにつかまりながら、ワシをクソジジイ呼ばわりするのは、当然のことながら分かっていたのだ! だからそのパイプは、あらかじめはずれるようにダミーでつけといたんだよ!! あ、プリ〜ズ?」
「な、なんじゃそりゃ〜〜〜…………」
“だったらなおさら、そう言われないように、最初から揺れること教えておけば済むじゃね〜か!”と突っ込む暇もなく、大地の体は船内で五回半バウンドしたのだった。
そして十数秒の後、戦艦が砂嵐を抜けたとき、そこに現れた光景に大地たちは驚いた!
「?????……… こ、これは……??」
なんと、大地たちの眼下には、赤煉瓦作りの街が、数平方キロにわたって広がっていたのだ!
「これが伝説の、“ほろびの大地”………!!」
大地たちは、その光景をただ食い入るように見つめた。
やがて戦艦は、町外れにある広場へと静かに着陸し、船腹のハッチを縦に開けた。
ハッチの内側は幅一メートルほどの階段になっており、そのまま地上に降りられるのだ。一行は大地老人を先頭に、大全、紫蘭、三姉妹と続き、その後ろから未来が大地に寄り添い、そして孔明親子に族長ンタラチュラと続いて、ゆっくりと地上へ下り立った。
「ここが……ほろびの大地か……」
大地と未来は、前方に広がる赤い町並みの“残骸”をあらためて見渡した。
上空の激しい砂嵐とは対照的に、ここはほとんど風もなく、乾いた空気が静かに街を包んでいるのだった。
「すごいカラカラに乾いてるけど、このへん一帯、ほんとに空気がありまちゅ。」
「ああ……、なんらかの維持システムが、街のどっか、おそらく地下だろうけど、そこでまだ生きてるんだろうな。」
雷羅もまた、上下左右を見回した。
そしてついでに、後ろで仲良く寄り添う大地と未来を見た。
「……!!」
雷羅はその二人に一瞬目を止め、振り払うようにすぐ顔を戻した。
その肩に、
「……………」
紫蘭がゆっくりと手を回した。
紫蘭は少し憂いを持った表情を、しかし、すぐに笑顔に変えて雷羅を見つめた。
「紫蘭……………」
雷羅もまた、
「……………そうだよな…………」
と、自分を納得させるかのようにつぶやくと、複雑な表情を笑顔へと変えて、肩に回した紫蘭の手に自分の手を重ね、そっと頭を傾けた。
そんな二人を、逆に大地もまた複雑な表情で見ていた。
が、
「どこ見てんのよ!」
未来は、大地の顔に両手を当てると、自分の方に無理矢理向けさせた。
「いででで! く、首が?!」
「いででで、じゃないでしょ! 大地のいいなずけはあたしでしょ、あたし! だったら雷羅さんじゃなくて、あたしの方を見ときなさい! あ・た・し・だ・け・を!」
「わ、わかったよ、ふ、ふあい!」
「ん、分かればよろしい!。」
そしてもう一人、そんな四人を複雑な表情で背中に感じている人物がいた。
「………………………」
それは先頭に立つ大地老人だった。
年老いた大地であるから、当然のごとく彼らの思いを一番知る彼もまた、いや、それだけでは無いかもしれないが、何かを思い詰めたように前方をじっと見つめていた。
しかし彼は、そんな表情をすぐに吹っ切り振り返ると、みんなに言った。
「よく見るがいい。ここがかつて、剣者や神子とその一族が移り住み、そして暗黒龍王との戦いで滅び去った街の一部だ…。」
大地老人は、懐かしい故郷へでも帰ってきたかのように、かつて高度に栄えたであろうこの街を、しかし、ほとんどの建物が崩れ、あるいは倒れ、そして風化し、今やガレキの街と化しているこの街を見渡して見せた。
そして一行を従え、静かにその中へと歩を進め始めるのだった。
この時、
「ん?……んん? んんん〜〜〜〜〜???」
最初は恐る恐るみんなの最後についていた孔明が、踏み出す一歩一歩に、今までと違う感覚に気づいた。
そして、
「うっわ〜〜、ホンマにここ火星や、重力小さいから、こんなにジャンプ出来るで♪♪」
と、楽しそうにピョーンピョーンと飛び跳ね始めた。
そう、火星の重力は地球の半分以下、〇・三八倍しかないのだった!
「うわあ、ほんとでちゅう、面白ーいでちゅう〜〜〜〜♪」
愛羅も面白がり、すぐにその後に続いた。
そして未来は、
「まるでヨーロッパかエジプトあたりの、古い遺跡のような……」
と、二階から上が崩れた建物に近づいて、ザラザラしている壁に、そっと触れてみた。
と、
「!!」
建物は触れたところから、サラサラと崩れはじめた!
そして、その範囲はどんどん広がり、ついには建物全体が、
ズザザザ……
と、乾いた音をたて、元の砂へと還っていったではないか?!
「むうう……、弱い重力で今までもってたようなものの、あまりにも古くて、ちょっとした振動でも崩れてしまうようじゃな。」
あっけにとられる未来の後ろで、大全たちも、また、この街の遙かなる歴史に思いを馳せるのだった。
こうして、ホログラフィーの大地老人を先頭に、大地たちは古い古い街並みの奥へと歩いていった。
そして、その歩く振動が建物に伝わると、一行が過ぎた後の建物は次々と崩れていくのだった。
「まるで、砂の国ね……」
崩れゆく建物を振り返りながら、未来がつぶやいた。
一行は街の中を通ると、中央にある一段と高くなっている丘を目指していた。
丘には、それまでの街並みと違って赤い石積みの、ギリシャのパルテノン神殿にも似た建物が建っていて、どうやらこの建物だけは、他の建物と違い、煉瓦ではなく大きな岩を積み上げてあるようで、街中で唯一崩れずに残っているのだった。
その建物が近づくにつれ、
「な、なんだありゃ?………はあ〜〜………」
そのあまりのばかでかさに、大地は思わず大きなため息をついた。
そして、建物の下に実際立ってみて、
「そりゃ、あたしの住む王国にも、確かにばかでかい王宮はあるぜ。でもこりゃなんだあ? いくらここの重力が小さいからったって、なにもこんな、どでかいもの……」
と、雷羅もまた、あきれたようにその建物を見上げた。
このパルテノン神殿似も似た建物は、しかし、まるで巨人が住むかのように、縦横高さとも人間の使う建物の常識を遙かに越えた超巨大建築物だったのだ!
一行は、まるで巨人の国に迷い込んだガリバーのような気分になっていた。
大地老人は、建物を取り囲むように造られた石造りの階段に足を掛けると、
「それほど、ここが、ものすごく神聖な場所だと言うことなのだよ。」
と、みんなに説明した。
「大地おじいさま、ではここに……」
「うむ!」
舞羅の言葉に、大地老人は静かにうなずいてみせた。
「この奥に、ワシ自らが厳重に封印した“小箱”が、納められておる! こここそが、かつて天地核が封印され祀られた神殿であり、過去、そして現在もなお、この宇宙においてもっとも神聖な場所なのだ!!!」
老人は、そう言いながら大地と未来を交互に見やった。そして、すぐ前を向くと階段を登り始めるのだった。
大地と未来は、
「??」
その、こわばった一瞬の視線に、何か意味深なものを感じ、お互い顔を見合わせた。
神殿の中は、まるでドーム球場のように広かった。
中には、屋根を支えるためのたくさんの巨大石柱が、整然と並んでいた。そして、その床の中央には、もうボロボロの、かつては見事なじゅうたんであったであろう金粉状の道が、真っ直ぐ奥へと延びていて、その上を一行はゆっくりと進むのだった。
そして二百メートルほども進んだろうか?
やっと見えてきた一番奥の壁には、不思議な幾何学模様に囲まれて、どこか舞羅にも似た大きな女神像が、微笑みを浮かべて立っていた。
さらにその下には、階段を数段上って机くらいの大きさの祭壇が祀ってあり、よく見るとその上には、キラキラと光り輝く、宝石箱のような小箱が一つ乗っていた。
「見よ! やはり封印が解けておる!!」
大地老人は、階段を駆け上がるとその小箱を指さした!
その後に続いた大全と大地、そして未来は、
『!!!!???』
それを見て固まった!
「こ……これが封印………かよ……」
顔を引きつらせる大地。
「そう、これがワシが天地核に施した封印じゃ♪」
「ふ、ふざけんじゃね〜〜〜!! 封印ってえから、どんなすごいもんかと思や、何じゃこりゃ〜〜〜〜〜〜!!」
大地は大地老人に食ってかかった。
「なんて読むんやこれ?」
孔明は愛羅と並び、机に手を掛け背伸びをして箱をのぞいた。
「これはの孔明、“家内安全厄除け祈願”と読むのじゃ……。て、このバカモーーン!」
大全は横を向くや、大地老人の胸ぐらをつかんでいる大地の頭に、
パカーン!
と杖をぶち込んだ!
「あいたーっ、な、なにしやがんでえ、クソジジイ〜〜!」
涙を飛ばし振り返る、大地。
「やーかましい! これは隣の球鎮神社の“厄除けお札”ではないか! 何が封印じゃあーーー!」
そう! それは大全の憤慨したとおり、未来のおばあちゃんが守る神社の、お札だったのだ!!
箱には縦に、隣の神社のお札が貼られていて、しかしそれは、蓋と本体の合わせ目の所で横に破れ、箱が半開き状態になっていたのだった。
「だからって、なんでオレが叩かれなきゃいけないんだよ〜!」
「うるさいわ! これは、後々のお主の所行であろうが!」
「でもオレは、まだ何もやってねえっつーの! だったら、あっちを叩けばいいじゃねーか!」
と、大地は頭を押さえながら、大地老人を指さした。
「バカモン! あれはもう“コレ”をやった後で、手遅れじゃろーが! その点お主は、これから“コレ”をしでかす身であろう!」
「な、何をー! また変な屁理屈を……」
ここでもまたまたケンカを始める二人に、
「まあまあ、じいちゃん、大地、それにみんな、あんまりそうカッカせんと。これは冗談じゃ、ジョーーダン! かっかっか!」
大地老人は、笑いながらお札をはがした。
「確かにこの箱は、天地核を封印するための絶縁体の役目をしておる。なぜなら、蓋を開ければその封印が解け、暗黒龍王が復活するのは“事実”なのだ。過去、幾度もそれで戦いが繰り返された……。
そして雷羅の実験により、天地核からあふれ出した“邪念”が、箱の容量をオーバーして、これ、この通り、蓋をこじ開けおったのも、“事実”!」
「“神の御心の結晶”である天地核から……………“邪念”???」
変な話に、顔を見合わせる大地たち。
「うむ。そもそも天地核の封印とはな―」
「天地核の封印とは…、箱に封印することでは……ない…のよ………。」
この時突如、未来が大地老人の説明を続けた。
「天地核とは、この宇宙の意志が作った自身の結晶球なのよ……。宇宙誕生の時、取り込んでしまった異宇宙を、封印するために………。」
未来は、そう言いながら小箱に手をかけ、中の“天地核”を取り出した。
『おおっ!……………』
なんという輝き、美しさ!
直径十センチ程のその小球は、しかし、この世のものとは思えぬほどの美しさで、無限色の光の粒を絶え間なくほとばしらせていた!!!
一同は、そのあまりの美しさに我を忘れ、ただただ息を呑む他はなかった。
「時間も空間も何もない場所で“ある時”沢山の目に見えない“宇宙の卵”が生まれたわ。そのうちの、たった一つがインフレーションを起こし、ビッグバンとなり、この宇宙が生まれたの…。
でも、その誕生の時…、本来は消滅するはずの異宇宙のかけらを、この宇宙は取り込んでしまったの……よ…………。」
「未来? お前………???」
急に未来が説明を始めたので、呆気にとられる大地たち。
が、大地老人だけは、
「いよいよじゃな…」
と、険しい目つきでつぶやくのだった!?
未来は、妖しい目つきで天地核を見つめたまま、話を続けた。
「時は始まり………流れ………、この宇宙の成長と共に、異宇宙のかけらも、また、成長したわ………。
そしてある日、ついに……、ついに自己に目覚めたのよ!……と、同時に彼は、“自分はこの宇宙の存在でない!”とも悟ったわ……………!!」
その目が、徐々に険しくなる。
「そして逆に、自分こそが………“真に生まれるべき存在”だったと考え、“自分が神となるべき宇宙”を誕生させよう!……と決心したの…。
そう、この“邪念”は、宇宙の膨張し発展しようとする想いを阻止し、宇宙を爆縮反転させようと誓ったのよ!!!」
未来は、右手で天地核を頭上に掲げた!!
「な、なんだよ? どうしたんだよ、未来? なんでお前、そんなことを―──」
「見て、この輝き、きらめく球を。よく見るとほら、ここに、光を発しない……、まるで“龍”のような形をした、黒い塊があるでしょ?」
大地の言葉を無視し、とりつかれたように未来は説明を続けた。
そして確かに彼女が指し示すとおり、光り輝く球の中にあってただ一点、不純物のように小さく黒い筋が沈んでいた!
「……宇宙は、“星や生物を育み発展しようという自分の想い”を、この天地核という球に結晶化した……。そして、その中に、自分の想いを破壊しようとする“異宇宙”そのものをおびき寄せ、封じ込めた……のだ…………。」
『!!!!!!!!!!!!』
大地たちの脳髄を、激しいショックが襲った!
説明する未来の口調がだんだん変わり、不気味な低音へと変化すると共に、天地核を掲げる手の先から、モヤモヤと暗黒体が立ち昇り始めたのだ!!
「見よ………真に美しき……この黒点を! …………真に美しき、我が暗黒を………!!!!」
『まさか、まさか、まさか………………、そんな、そんなバカなーーーーっっ!!』
一行の脳裏に浮かぶ一つの答え!
それを、
「あ、暗黒龍王様ーーーーー!!」
祭壇の下で一行の様子を見ていたンタラチュラが、卒倒しつつ叫んだ!
「くっくっく……。ついに、ついに、ついに手に入れたぞ、この“にっくき”天地核め!!!」
ブオオオオオーーーーーッ!!
未来の手から吹き出す暗黒体は、すぐに天地核の暗黒点へとつながった!
と、今度は逆に、まるでエネルギーを送り出すかのように、
ドクッ! ドクッ!
と、中から外へと暗黒体が激しく脈打ち始めたではないか!
そして暗黒点から吹き出す暗黒体は未来の腕を一気に包み込むと、その指先から皮膚をはぎ取り、裏返し、またたく間に異物質へと変化させ始めたのだ!!
「み、未来ーーーーー?!!」
思わず未来の腕をつかむ大地。
が!
ドシュウッ!!
その瞬間、腕から強烈な“暗黒光”が放出され、
「うわああーーーーーーっ!!」
「きゃあああーーーーーーっっ!!」
凄まじいその圧力で、大地は、他の者と一緒に、祭壇の下へと吹っ飛ばされてしまった!
「こ、こりゃ一体、どうなってんだよ、大地ーーー?!」
「お、オレに聞かれても、分かんねーよ雷羅! そうだ、おいお前、お前はこのこと、知ってたはずだよなあ! どういうことなんだよ、これはよおーっ?!!!」
大地は立ち上がると、一人平然と立っている大地老人の胸ぐらをつかんだ!
すると老人ははその手を握り、大地の目をしっかりと見据え、言った!
「やつとの“真の戦い”が、………今、始まったのだ!」
「な、何いーーーーーーーーーー??!!」
「若き大地よ、これだけは教えておこう。ヤツは未来の体を利用し、変身を始めた! 変身が完了する前にヤツを倒さねば、ヤツは宇宙の御心の結晶体“天地核”を破壊し、封印された自分の心をこの宇宙に開放するであろう!
そうなった時、宇宙はヤツの邪悪な想いで満たされ“大爆縮”へと向かうのだ! 天地核の封印を解くとは、そういうことに他ならないのだ!!!」
「!!!!!!!!!」
「ついでにも一つ言うと、“ワシの時”は、ちゃ〜んと未来を助け、ヤツを倒し、無事元の世界へ戻ったぞ! だが今度、お主はどうかな? くっくっく!」
「!!?」
顔から血の気が引く大地に、大地老人は意味ありげに笑った。
天地核の暗黒部分から供給される暗黒体は、未来の体を包み込み、広がっては収縮を激しく繰り返していた。
そしてそれにつれ、未来の手は急激に、巨大で醜い暗黒龍の腕へと変化していくのだった!
「はあっはっはあっ!! 剣の継承者よ、余があの天の岩戸の戦いで、本当に貴様ごときに倒されたと思っていたのか!」
「なにいーーー!?」
「あの時余は、単に総司令官の肉体を離れたにすぎんのだ! 離れた瞬間、素早くこの小娘の心に入り込み、自らを凍結したのだよ! 小娘の体が天地核に近づくと解凍する、センサー付きでな! おかげで、お前たちはおろか、この小娘自身ですら、その事にはなんら気付けなかったというわけだ!!!」
「くっ…、き、キサマーーーー!!」
怒りに震える大地!
大地は、素早く背中の神剣を抜いた! もちろん大全、紫蘭も杖と鉄棒を、そして雷羅も腕を差し出し身構えた!
が!
「どうした……? かかってこい、遠慮はいらぬぞ、この小娘の命が惜しくなければな! はあっはっはっはっは!!!」
そう、身構えたものの、大地たちは一歩も動けなかった!
なぜならヤツは、“未来の体”を使って変身した! と言うことはつまり、ヤツの言うとおり、総司令官の時同様に、ヤツを倒すこと=未来を殺すこと! に他ならないからなのだ!!
「じ、じいちゃん、どうしよう!」
草薙の剣を正面に構えたまま、為すすべもない大地!
「どうしようと言われても、こ、これでは…!」
「……………………!!」
「ちくしょーっ! 卑怯だぞてめーっ!!」
しかし、大地同様、大全、紫蘭、そして雷羅も身動きできないのだ!
そうしている間にも、未来の腕は巨大な暗黒龍の腕に変身を終え、変身は腕から体へと広がり始めた。
その時!
「そう、お前たちには何も出来ん!!」
ズビュビュ、ジュル、ドシュウ!
嫌らしい音をたて暗黒龍王の巨大な右手が伸びて来たかと思うと、大地の体をわしづかみにした!
「ぐわあーーーーっ!!」
強烈に締め上げられ、苦痛に声を上げる大地。
「どうしたどうした? くっくっく……。苦しくば昨日のように、その手にした神剣で、この腕を斬り落としてみよ! どうだ、出来るか? ん? そうかそうか、そうであろう、はあっはっは、出来ぬであろう! 余を斬るは、小娘を斬るに他ならないのだからなあ!」
「ぐわあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
さらに暗黒龍は大地の体を締め上げ、ズボッと引き抜くように持ち上げた!
「今こそ見せてやろう、余の真の姿を! 真の力を!!!」
言うや、今度は未来の体は足先から急激に浸食され始めた!
そして!
“グオーーーーーーーーーー!”
もの凄い音圧の咆吼と共に、暗黒龍王の体は爆発的に膨張し、
ドーーーーン! ドガラガラガララ!!
高さ百メートルはあろうかという天井を一気に突き抜けた!
吹っ飛ぶ屋根の石、そして石柱!!
「いかん、みんな逃げるのじゃ〜〜〜っ!」
「きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「うわ〜〜〜〜〜〜〜!!」
巨大な岩石が一行の上に降り注ぐ!!
ドーーーーーーン、ドドドド……
が、間一髪、大全たちは、崩れ落ちる岩を避けながら外へ飛び出した!
いくら火星の重力が弱く、ゆっくり落ちてくるといっても、岩石の重さが半分以下といっても、やはり、大岩に当たればひとたまりもないのだ!
大全たちは、安全と思われる場所まで走ると、土煙を上げて崩れ落ちる建物を振り返った。
それはまるで、映画のクライマックスを思わせるような光景だった。とてつもない巨大な石造りの建造物が、激しい音を立てながら、目の前で崩れ落ちていくのだから。
そして、その土煙の、さらに上には……
「な、なんと………!!!!!!」
一行は、我が目を疑った!
そこに見たもの、それは……………超巨大な“龍”!
地球で見たものとは比べものにならない、天をも覆い尽くすような、長さ数十キロ数百キロにも及ぼうかという、超超超超巨大な暗黒龍の姿が、そこにあったのだ!!!!
その大きさは、もはや何物にも例えようがなかった!
街の上空を覆っていた砂嵐を吹き飛ばした、巨大な“とぐろ”は、不気味な暗黒体に身を包みながら、遙か遙か地平線の彼方へと行きつ戻りつしつつ、火星の空をほとんど占領していた!!
そして、
“グオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!”
龍が、一声雄叫びを上げた!
その振動、なんという振動!!
龍の叫びは、怒りは、星を振動させ、赤い大地をうがった!
巨大な振動は、遙か昔に活動を停止した地下プレートを揺さぶり、その摩擦で溶融したマグマを地上に噴出させた! 地下に眠るガスを、水を噴出させた!! 激しい砂嵐を誘発させた!!!
龍のたった一声は、火星を一気に天変地異へと激変させたのだった!!
かつて、いくつもの星々が、そして銀河が滅び、この太陽系においても第五惑星を砕き、火星を死の星へと変え、地球の大陸をいくつも沈めた暗黒龍の、真の姿、真のパワーが、今ここに、開放されたのだ!!
「ぐははははははははははーーーーーーーーーー!」
稲妻が激しく飛び交う遙か上空で、とぐろを巻いた龍は大きく首を曲げ、右手につかんだ大地に顔を近づけた。
その額に、今や頭だけしか原型をとどめない、未来の顔を埋もれさせて!!
「見たか剣者よ、これが余の真の姿なり!!」
暗黒龍王は、天地核を持つ左手の指一本を立て、剣を持つ大地の右肩付近に、
グサア!!
その鋭い爪の切っ先を突き立てた!
肩を貫通し、噴き出る血! 苦痛にゆがむ大地の顔!
「ぐわああっ!!」
『大地ーーーーー!!』
地上に悲鳴が交錯する!
「小僧…………、あのホログラフィーは言ったな。ヤツは将来のお前で、宇宙鎮尊(おおぞらしずめのみこと)だと………! では、余は、お前に二度倒される運命だというのか? それも、余がかつて戦い破れた、宇宙鎮尊と呼ばれし男の“過去の若造”に!」
「ははっ……、そ、そうらしいな!」
苦痛に顔をゆがませながらも、大地は笑いを浮かべた。
と!
「バカめ!!!!」
龍は怒り、指先を一ひねりした!
「ぐわあーーーーーーーーーっ!!」
穴は押し広げられ、
ズビュウ!
と血が噴き出す!
「たとえ剣者に破れし余の“過去”が、お前が過去に帰りし後の“未来”だとしても、それが“今現在”の続きである限りは、今お前を殺すことによって、新たに“別の未来”を作ることが可能なのだ!
小僧、これがどういう意味か分かるか?!!」
「!!!!……別の未来?………ま、まさか、多重世界……、パラレルワールド?!!」
「その通り! ここでお前を倒せば、そこから新たに別の歴史を持つ世界が始まるのだ!!!」
「あ、ああ……………………!!!!!!」
大地は愕然とした!
そうか、これが未来ばあさんから大地老人に託された伝言の、真の意味だったのか!? たとえ大地老人が自分の未来の姿だとしても、今の自分が倒されれば、そこから新たに別の歴史が始まってしまうということなのだ!
それも“暗黒龍王の望む歴史”が!!!!!
「どうやら、理解したようだな……! では、にっくきその腕、まずは、神剣をあやつるにっくきその腕から、切り落としてくれるわあ!!」
ズビュウウッ!
龍王がぴくりとその指を動かすと、爪はさらに深く肩をえぐり、噴水のように血が吹き出した!
「ぐあーーーーーーー!!」
この時!
「や、やめろーーーーーーーーっ!!」
雷羅が叫び、ブレスレットのスイッチに手をかけた!
しかし、
「や、やめろ雷羅〜〜……ぐはっ…」
苦しみながらも、だいちがそれを制した!
「だ、だけど大地、このままじゃお前が………」
「ぐわあ、あ……、いいから、やめろ……やめるんだ雷羅!………………未来を、未来を…助け………」
「だ、だけど、大地……、大地……大地…? あ、あたし、お前が死んだら、大地…、でも……、大地、大地……、うわあ、大地ぃ〜〜〜〜〜………」
雷羅は、腕を震わせながら葛藤した!
しかし、どうすることも出来ないのだ! 彼女は、ブレスレットに手をかけたまま、大地の名を叫び号泣した!!!
そして大全も、紫蘭も、舞羅も、愛羅も、孔明親子も、またンタラチュラも、誰一人この光景に、どうすることも出来ないのだった!
「くっくっく…。哀れなものよな人間は! “愛”とやら言うくだらぬ感情で、我と我が身を縛り付けておる。はあっはっはあ!」
暗黒龍はそう言うと、さらに指先に力を込めた!
その時!
「ちいええーーーーーーーーーーーっ!」
強烈なかけ声と共に、ホログラフィーの大地老人がエネルギーの塊と化し飛んだ!
そして!?
バチイーーーーーーーーン!!
暗黒龍王の左手にぶつかるや、
ズボオ!
と、大地の肩から、その爪を引き抜いた!
「キサマーーーー!」
バキイッ!
邪魔された暗黒龍王は怒り、瞬時にホログラフィーをなぎ払った!!
と!
ズッドーーーーーン!!
ホログラフィー大地はクレーターを形作るほどに地面に叩きつけられた!!
「や、やられた〜〜!!」
口から血を流し胸を押さえる大地老人!
それに、
「しっかりするでちゅう!!」
あわてて愛羅が、医者として本能的に駆け寄った!
「あり? ちょっと待つでちゅ!? どうちて、ただの立体映像であるホログラフィーが、ケガするでちゅか??」
「どうしてって、つまりその、これは〜、リアリチーを追求した結果じゃあ♪ ほれ、愛羅ちゃん、傷の手当を♪♪」
ゴン!
手にした薬箱を、ホログラフィーの頭に叩きつける愛羅!
「ば、バカにつけるクスリはないでちゅ! プンプン!! そうでちゅ、それより大地お兄ちゃまは? 大地お兄ちゃまーーーっ!!」
愛羅は、再び上空を見上げた。
「こうなれば面倒! 剣者の末裔よ、今すぐあの世へ送ってやるわーーーーっ!!!」
暗黒龍王は、振り払った左手を振り上げると、今度は大地の頭めがけて爪を突き出した!
その時!
「やめてえーーーーーーーっっ!」
龍の額に埋もれた未来が、叫んだ!
「!!!?」
瞬間止まった、暗黒龍王の腕!
「………ほう…………、わずか顔が残るのみとなったその状態で、なおも腕の支配を保つとは……。大した意志力だな、小娘よ!」
「………んた……に、あんた…なんかに、あたしの体を…自由にさ…せて…たまるもんですかーーーーーーっ!」
未来は、必死に声をふり絞った!
「くっくっく……………面白い……! いいだろう小娘よ、その強き意志に免じ、余がなぜお前にとり憑いたか……、いや、とり憑くことができたか、それを死ぬ前に教えてやろうではないか!」
(?! あたしに…とり憑くことが出来た………、ワケ??…)
「そうだ。余がお前にとり憑いた訳、それはな……………………それは、お前の心の中に…………“愛する者への偽り”があったからなのだ!!」
「?????!!!!!」
「……驚いたようだな、小娘よ。余が寄生できるのは、人間の持つ“負の心”! 余が最初に警視総監にとり憑けたのは、ヤツがワイロ好きという卑しき負の面を持っていたからなのだ……! そして昨日、天の岩戸にて剣者に破れし寸前、余はすぐに新しい体を探すべくあたりを見回したのだ。そこにはもちろん、イグアノ族族長ンタラチュラがいたが、ヤツは余を崇拝する心が逆に“純粋”すぎたのだ。
しかしあの時、お前だけが負の心を持っていた…………! そう、身に覚えがあろう? 愛する者への偽り! 裏切りの心!!」
「!!!!!!!」
「分かったようだな、はあっはっはっはあ!!!!!!」
「!!!!!」
そうか、そうだったのか!
暗黒龍王を寄生させたのは、“愛する紫蘭を避けようとする自分自身の心”! 大地への偽りの態度をとり続けた、自分自身の心!!!
衝撃が未来の心を襲った! 溢れ出る…………涙、涙…………!!!
「………!!!」
それは紫蘭も同様だった!
彼もまた、彼女の真実の思いを、今知ったのだ!!
「だい………ち……………」
「み、未来?!」
必死に声を絞り出す、未来。
「……おね…がい……はやく………」
「はやく?」
「…こ…ろし…て……………、へんし…ん……おわる…ま…え………………」
未来は、薄れゆく意識の中、最後の力を振り絞って自分の意志を言葉に変えた。
その頬に大粒の涙を流しながら。
「早く…殺…して? 早く殺して?! そ、そんなこと、そんなこと出来るわけないだろーーーーっ!!」
大地が悲痛な叫びを上げた!
この時!
「………ぅ…ぅ…う、うお〜〜〜〜〜!!」
紫蘭が初めての叫びを発し、
バーン!
と、音を立て地面を蹴ると、空中高く飛翔した!
そして、
「うおーーーーーーーーーーーっ!!」
大地の所まで達するや、その手から神剣をもぎ取ってから龍王の腕を蹴り、そのまま龍王の頭めがけて突っ込んだ!
「み……ら……い、いい〜〜〜〜〜〜っ!!」
紫蘭は、心の奥底からの声を発し、ありったけの気を乗せた剣を、激しい光とともに突き出した!
「や、やめろ紫蘭ーーーーっ!!!!」
叫ぶ大地!
「み……ら……い……」
突っ込む紫蘭の目には、涙が溢れていた。
未来だけを見つめて。
「紫……蘭……」
未来もまた溢れ出る涙の中、近づいてくる紫蘭の目だけを見つめた。
「ちいい、二人とも死ぬ気じゃあ!!」
大全が叫ぶ!
そして、剣がまさに龍のこめかみに突き刺さろうとした、その瞬間、
バチイーーーーーン!!
龍は、その尾を一閃させた!
ドーン!
吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられる紫蘭!
が、間一髪、大全が下に飛び込み、地面との間で気を爆発させ衝撃を吸収させた。
そこ目がけ!
「うわああーーーーーっ!」
今度は、大地が投げ飛ばされた!
ドカア!!
またもや、激しい激突音が響く!
「こざかしや人間ども!! 原子にも等しきその存在で、真宇宙を創造しようという余を倒そうなど、笑止千万!! 総ての暗黒を開放した余の、この宇宙を凌駕する…真のパワーを見るがよい!!!!!!!」
グガ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
暗黒龍王は、その手の中にある天地核より今だ噴出する暗黒体を、まるでブラックホールのごとく吸収し、
ドドドドドドドドドドドドーーーー!
惑星を揺るがすものすごい衝撃波を発しながら、なおも爆発的に巨大化し、その体を一気に宇宙空間にまで開放した!!
太陽系が…………………………震えた!!!
そのあまりの存在に、太陽系全体が激しく震えた!!
今や木星の軌道まで届こうかという超巨大な暗黒龍は、火星の空を覆い尽くし、大地たちの頭上に頭をもたげた!!
「かつて、余が隣の惑星を破壊したとき同様、この星も…………、いや、天地核を手に入れし今、この惑星系そのものを、天地核もろとも破壊し、ここを剣者と神子の墓場に変えてやろうぞ!!!」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
惑星系全体が、まるで巨大スピーカーにでもなったかのように、龍の一語一語に震動した!
太陽は激しくフレアを噴出し、爆発を繰り返した! 水星、金星、地球、火星は大地が避け、溶岩が噴出し、地軸が揺れ動いた! 木星、土星、天王星、海王星は凝縮した水素原子が核融合を始め、原始太陽のように輝いた!
今や暗黒龍は、太陽系全体をまたぐほどにもに膨れ上がっていた!!!!!!! |
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