第十六章 ホントの歴史と頑固な女の意志
十六、ホントの歴史と頑固な女の意志

 天の岩戸に、人の通れるほどの隙間が開いた時!
「待ちくたびれたわーーーーーー!!」
突如、大声がドーム内に響き渡った!! と同時に!!!
 バキイン!!!
大地の脳天に、扉の中から飛び出してきた“何か”ががヒットした!
「キャイ〜〜〜〜〜ン????!!!」
目の回りに星をチカチカとちりばめながら、床をのたうち回る大地。
大地は訳が分からないまま、目の前に前に立ちはだかる一人の人物を見上げた!
 そして、
「じ、ジジイ〜〜〜〜〜〜〜〜〜??!!」
目を見開き声を張り上げた!
「こ、これは一体……」
そして大全たちも、また呆気にとられていた!
 無理もない、目の前に現れた人物とは紫蘭の祖父の時同様、またまた大全とうり二つの老人だったのだ! 羽織袴に杖をついた姿のこの大全そっくりの老人は、床に倒れ頭を押さえながら自分を見ている大地に顔を近づた。
 「な〜にがジジイだ。ワシゃ、“自分自身”にジジイ呼ばわりされる覚えはないぞ!!」
「じ…………、自分自身〜????」
 目が点になる大地。
「そう〜じゃ! ワシはお前自身、つまり、綴目大地のなれの果てじゃあ♪ そして、宇宙鎮尊(おおぞらしずめのみこと)その人でもあーる!! かっかっかっか!」
老人は、胸を張り高笑いした。しかし、この老人が大地自身、そして宇宙鎮尊その人とは一体???
 「はあ〜〜〜〜〜〜〜?????????」
大地の頭の回りを星に変わって、今度は“?”マークが百個ほど飛び回り始めた。
「いや、正確には、ワシの嫁である未来が作った、スーパーコンピューターによる“3D実体ホログラフィー”だがの♪ ちょっとバグがあって、若干映像が乱れておるが、ま、気にせんでくれの♪♪」
言われてよく見れば、確かに老人の言うとおり、その体のアウトラインは細かくささくれ立っていて、ポリゴンのアルゴリズムがおかしいのか、表面がポコポコと出たり引っ込んだりしていた。し、しかし???…
 「はあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜???????????????????????????」
この時、大地の頭の回りでは、“?”マークが百万個ほどに増え、光速の十一倍の早さで飛び交っていた! そしてそれは、
「ワシそっくりの、これが大地じゃと?」
「大地様が宇宙鎮尊様ですって?」
「未来が大地の……嫁だってええ!!!???」
「あたしが、大地の‥‥‥奥さん?………」
「てことは、未来お姉ちゃまは、我が神司家始祖“神司姫”(かみつかさひめ)てことでちゅか????」
みんなも同様だった!
 「やあじいちゃん、懐かしいなあ。元気してたあ?」
大地を名乗る老人は、気安く大全の肩を叩いた。
「む、む、見た目はワシそっくりじゃが、た、確かにこの軽薄さは、大地そのもの……」
大全は額に脂汗を浮かべ、奇妙な生き物でも見るような目つきでホログラフィーを見つめた。すると当のホログラフィー、今度は懐かしそうにみんなを見回した。
「おお未来、やっぱ若いなあ、肌もツヤツヤじゃん♪ 舞羅さん、愛羅ちゃん、孔明にご両親、おお、イグアノ族族長もお久しぶり。それに……………………………」
動きを止め、しばし雷羅を見つめるホログラフィー。
「??? な、なんだよ……??」
その目には、嬉しいような悲しいような、複雑な光が漂っているようだった。
 「オホン、い、いや、雷羅も元気してたか? いや、元気してたよな、そ〜りゃそうだ! だってお前たちの“今”はワシの“過去”でもあるからして、聞く必要は無いってか? かっかっか!」
 こうして、唖然としている一同に一通りの挨拶を済ますと、
「さ、さ、みなさん〜、ようこそおいでませ天の岩戸へ♪」
まるで客を案内する旅館の番頭のように腰を低くし、一行を岩戸の中へ導いた。
「うるうる、し、信じられん……、こ、このアホジジイが、未来のオレだってえ〜〜〜……」
「うるさい! お前にだけは言われたくないわー!」
 ホログラフィーは、大地のケツを思いっきり蹴飛ばした!


 今まさに………天の岩戸は開かれた!!
その中に大地たちが見たもの………………………………、それは!!!!
 「船? いえ、これは……、まさか、宇宙船……?」
呆然と上を見上げ、声をあげる未来。そして大地たち。
「ピンポーン、未来! これはワシがデザインして、ばあさん………つまり未来、お前が作った“宇宙戦艦”で、その名も“瑞鷹号”(ずいようごう)じゃ! 都で見ただろ? 反重力発電タービン、あれと同じものを、推進エンジンとして内部に搭載しておる。これで宇宙の果てまでもひとっ飛びじゃあ! かっかっかあ!」
大地老人は船の前に立ち、杖で船底をカンカンカンと叩きながら得意気に答えた。
 そう、岩戸の内部、実はそこは縦長の、巨大造船所ドックのような構造になっていたのだった! その広い空間の壁一面には、様々な計器類や機械群が所狭しと奥まで並び、真ん中の船台には、長さ二百メートルはあろうかという、まるでアニメにでも出てくるような巨大戦艦が、鎮座ましましていたのだ!!!
 「う、う〜む…………、た、確かに………。いかにもオレが設計しそうな軽薄な…………………、ん? ちょっと待て? 宇宙戦艦って、じゃあ“ほろびの大地”ってのは、一体どこなんだ?!」
「う〜ん、我ながらナイスな質問だネ、大地♪ いわゆるそれはね〜…………」
大地老人は、まるで長島監督のような口調でそう言った後、ニヤリと笑い上を指さした。
「なんだ、二階かあ???」
 天井を見上げる大地。
「アホー! 我ながらベタなボケかますと、もっぺんしばくぞ! もっと上だ上、ずーっと上!」
「ずーっと上って……………???? 外? 空の上?? えーーーーーっ、もしかして宇宙〜〜???」
「そうだ! だいたいなんのために、ここに宇宙戦艦があると思ってるんだよ、ボケ!」
「う、うるせえ! いちいちなんか腹立つジジイだな! ほんとにお前は未来のオレなのかあ? その性格、コンピューターウイルスでも入ってバグってんじゃねーのかよ!」
 次の瞬間!
“シュウウウ………”と、頭のタンコブから、煙を出し床に倒れている大地がいた。
「じ、ジジイ〜〜〜〜〜!」
が、すぐに復活し、ホログラフィーにくってかかる大地!
 するとホログラフィーは、その目じっとを見つめ、言った。
 「火星だ!」
「な、なに?」
「だから、ほろびの大地は、火星にあると言うておる!」
「か、火星? 火星って、あの………火星?!」
コクリ、とうなずく大地老人。
 『か、かせい? 火星〜〜〜〜??!!』
驚き、顔を見合わせる一同!
 それは、イグアノ族族長ンタラチュラも同じだった。無理もない、それは王王子である紫蘭はおろか舞羅姉妹、そして暗黒龍王でさえも知らない事実だったのだ!
 しかし、まさかそこが地球の外、火星とは………?!!
「そうだ! さーみんな、さっさと船に乗った乗った、すぐに出発するぞ♪ いやあしかし、ワシゃこの日を長〜いこと待ったぞい。一応目覚ましタイマーはセットしたんだけど、この時代の正確な年代が分からんもんで二百年ほど早く目覚めてもーて、この岩戸の中でずーっと一人ヒマだったんよワシ♪♪♪」


 飛鳥の広場奥に、小高い山があった。
突如その山に地響きがしたかと思うと、長年の堆積物、そしてその上に生い茂った原生林が、バキバキバキと音を立てて崩れ始めた!!
 突然の出来事に鹿やイノシシ、小鳥や蛇たちが慌てて逃げまどう中、山は山頂部から左右に、ゆっくりと割れ始め、まるでアニメの秘密基地のように、中から宇宙戦艦が斜め上を向き、静かにせり上がってきた!!! そして、よく見るとその船先には、なんと、大地の実体ホログラフィーが風に羽織袴をたなびかせながら腕組みをし、キリリと空を見上げているのだった!
 しかもその頭には、アニメの船長ににありがちな帽子をかぶって!!
 「波動エンジン・出力百二十パーセント!…………じゃなかった、反重力エンジン出力一定のまま、宇宙戦艦瑞鷹号、微速上昇!!!」
ホログラフィーの声が響き渡った!
 ズ、ゴゴゴゴゴゴゴゴ………… 
重々しい音を立て、ゆっくりと空中に浮かび上がる戦艦!
「五百メートル上空までそのまま!、後、仰角四十五度!」
戦艦はゆっくりと上昇を続けると、命令通り島の上空で仰角四十五度の姿勢をとった。
「行くぞ、宇宙船瑞鷹号〜〜〜……、はっっ…………し〜〜〜〜〜〜んんっっ!!!」
 瞬間!
 ズキューーーーーーーーーーーン!!
瑞鷹号は空気を切り裂き、瞬時に宇宙へ飛び出した!! なんという反重力の凄まじいパワー!
 「我ながら決まったあ! やっほー、ワシ、一度これやってみたかったんよねー♪」
船先で小躍りするホログラフィー。
 その一部始終を船内から見ながら大地は、
「う、う〜、あれ、ほんとにオレかあ? オレって歳くうと、あんなんなっちまうのかあ? ウソだあ〜、絶対ウソだあ〜!! うう〜〜〜〜…」
と、宇宙に飛び出した驚きよりも、自分自身のそのあまりの軽さにガックリ来ていた。
 そしてそれは、みんなも同じで、
「わ、たたくしたちの敬愛する王国開祖、宇宙鎮尊様があんな軽薄なお方だなんて…」
「は、ははは……、やるじゃねーか、大地!」
「でちゅ……」
「………………☆☆☆☆☆☆」
と、姉妹、紫蘭の顔も引きつっていた。
 そして大全は、苦虫を噛みつぶしたような表情で大地の後ろに近づくと、その頭をゲンコツで“パコン!”と殴った!
「いて、な、何すんだよ!」
「なんか情けなくて、腹が立ったのじゃ!」
 しかし孔明だけは、
「あーっはっは、さすが大地兄ちゃんの“なれの果て”やで、あのじいちゃんおもろいわ!! あーっはっはっは…」
と、一人笑い転げていた。

 「ほら大地、そんなに慌てて食べないの。♪」
「だって未来、うまいんだぜ、コレ♪」
「けっ、ベタベタすんじゃねーよ! しかし、ま、ホント結構いけるじゃねえか、なあ姉貴♪」
「ええ。とても長い年月保存されてたとは、思えませんわ♪♪」
「うん、サイコーおいちいでちゅう♪♪」
「ホンマや、いけてるで♪」
「いいんでしょうか、私ら親子までついてきて。“なんでも治療装置”とかで火傷をすっかり治してもらった上に、こんなごちそうまでいただいて♪♪」
「いやいや料理だけではない、正真正銘、この超年代物の酒は、まっこと美味いのう♪♪」
「☆☆☆♪♪♪♪♪」
「かっかっか! みなさん気に入ってもらえた? なんせ“あの旅”では、食事だけが唯一の楽しみだったからねえ♪ ……ということで“今回”も最高の食材や飲み物を、絶対零度で完全保存しておいたもんね♪」
 そこはまるで、賑やかな通りにある炉端焼き屋といったふうで、こぢんまりした店内の台にはたくさんの“古くて新鮮な”食材が並んでいた。そしてその台の向こうにみんなを座らせて、大地老人は袴姿の上から割烹着を着た出で立ちで、“客”に料理をふるまっていたのだった。
 この店、内部は一見ただの店なのだが、入り口横に畳半畳ほどの小さな小庭が作られてあって、その後ろにある半開きの腰高障子の隙間からは、異様にデカいお月様がのぞいていた。
 宇宙戦艦瑞鷹号は、地球の大気圏を脱出すると、なおも超高速で月の横を疾駆していたのだ。
反重力エンジンの、とてつもないパワーによって!
 「おや? 族長のタラタラさんは一つも箸もつけずに〜……、遠慮せずにどうぞどうぞ♪」
大地老人は、カウンターの片隅で身動き一つせずじっと座っている族長に声を掛けた。
「わ、ワシはタラタラではない、ンタラチュラじゃ! それにメシなぞいらぬわい! ワシはお前たちの敵だぞ! そのワシまで連れてきた上、メシまで喰わすとはキサマよほどの―――」
「まあまあ、そうカッカせんと……。おっと…、そうか、アンタやみんなには、まだ、“ホントの歴史”を教えて無かったっけ?」
 『ホントの歴史?!』
一同のハシの動きが止まった。
「うむ………………。火星到着まで丸一日はかかるから、時間は、たーっぷりあるでの。みんなにもゆっくりと、“真の歴史”を話して聞かせようぞ。」
 こうして大地老人は、遠ざかってゆく月を見ながら、“ホントの歴史”を語り始めた。


 「それは………、ワシらがここから元の世界へ帰って、二十数年後のことだ……。ある時、世界各国合同で人類初の“有人火星探査”が行われたのだ。」
「ええっ、人類がついに火星に♪」
 嬉しそうに声を上げる未来。
「そうだ未来。…………ところが探査チームは、そこで“どえらいモノ”を発見してしまう……。」
「どえらい………モノ?」
未来は、月明かりに青白く浮かぶ大地老人の顔を見つめた。
 老人は、しばらく月をながめて後、ゆっくりとみんなに振り返り、言った。
「それは………、かつて文明が栄えた“遺跡”!」
 『……………!!! 遺跡?……………ええっ? か、火星に、遺跡い?!』
一同は驚き、顔を見合わせた。
「そうじゃ! それゆえそこは、後に“ほろびの大地”と名付けられたのだ。さらに探査チームは、ギリシャ神殿のような建物を発見し、中にあった祭壇のような台の上で、謎の文字が刻まれた石版と、厳重に封印された小箱を発見したのだ!」
「へーっ………」
 一同は、食べるのも忘れて大地老人の話に聞き入った。
「それらはともに地球へと持ち帰られ、各国合同の科学者チームが冗談混じりにそれぞれに“十戒”“パンドラの箱”と名付け、賢明に文字の解読と箱の開封を試みたのだ。」
「ふーん……、で、どうなったんだ?」
食べかけの車エビを手に持ったまま、雷羅が聞いた。
「それは、ともに成功した!………………が、それは文字通り“十戒”であり、開けてはならぬ“パンドラの箱”だったのだ!!」
 『??!!!!』
一同は再び顔を見合わせた。そして大地老人は、悲しげに天を仰いだ。
 「まず科学者チームは、複雑に封印された箱を開けるのになんとか成功した。その中からは人のこぶし大ほどの結晶球が出てきたのだが、それこそが今に言う“天地核”だったのだ。その後、コンピューターにより石版の解読に成功したのだが、それはもう後の祭りであった……。」
「暗黒龍王が、復活してしまったのですね?」
「うむ………」
舞羅の問いにうなずく大地老人。
「その石版には、なんて……?」
未来が聞いた。
「石版には、“決して箱を開けてはならぬ。開ければ、神の御心の結晶球と共に地獄の災いが甦るであろう”という警告が書いてあったのだ。そしてそれに続き、かつて神に選ばれし剣者一族と、宇宙の破壊神との戦いの歴史が刻まれていたのだ………………。大地、お前の背中にある草薙の剣、そして暗黒龍王との戦いの歴史がな!!!!」
 『ええっ!!!!!!!!!!!』
さらに一同が驚く!

 「…で、でも、なんで火星にそんなもんがあったんだよ? て、てことはもしかして、この剣を継承するうちの家系は、元は火星人だったってのかあ〜〜〜〜??」
「なんと!?」
またまた顔を見合わせる、大地と大全。
 「うんにゃ!  石版によれば、我が家系は、古い古い時代にはさらに遠い遠い銀河の、とある星の住人だったらしいのだ。そこは“神の御心の結晶球”を奉り神と心を交わす神子がおり、神と人々の心が相通ずる国だった……、と、記されておったそうだ。
 一方、この宇宙にはその誕生以来、神を倒し宇宙を滅亡させようと願う邪悪な存在、“暗黒の王”がおり、神はこれと戦うため、“神子を通じ一人の剣者を選び、神の御心の結晶と同じ物質で出来た剣を授けた”と記されていたそうだ。」
「それが今に伝わる、暗黒龍王、天地核、そして神剣草薙の剣、というワケじゃな? 」
 大全の問いに、大地老人は静かにうなずいた。
「その通り。余談だが、当時それらはそれぞれ、“大樹芯”(たいじゅしん)そして“デカンの剣”と呼ばれておったそうだ。もっとも、その意味するところは不明だが……」
大地老人の言葉が、しばしとぎれた。
 この時、この話を聞きながら頭をひねっていた未来が、隣に座る大地に言った。
「これって……、やっぱり変な話よねえ……。ねえ、そう思わない、大地?」
「え? な、何が?」
「だってこれじゃ、最初からの疑問が解けないよ。」
「疑問って??」
「ほら、初めてこの世界に来たとき、あたしが舞羅さんたちに聞いたじゃない。どうして“神の御心の結晶”の封印を解くと、暗黒龍王が復活するのか? 逆に、それを封印すると、どうして暗黒龍王も封印できるのか? って」
「ああ、そういやそうだな、確かに!??」
一同は、再び大地老人に目をやった。
 「ね、今の疑問、“私たちの未来を経験してきた”あなたなら、当然知ってるわよね? だったら教えて、なぜ、神の心の結晶と言われる神聖なものと、この宇宙を滅ぼす暗黒の化け物と言う存在が、同じ箱に封印されているの?」
未来は、この未来世界に来て以来、どうしても納得行かなかった疑問を聞いた。
 なぜ神の心の結晶を封印することが、暗黒の王を封印することにつながるのか? 彼女に、そしてみんなにとっても、それは最大の謎だったのだ。
 しかし大地老人は、その問いに、静かに首を横に振った。
 「………残念ながら、今それは言えぬ。今教えれば、これからお前たちが作るであろう“歴史”が、悪い方向に変わってしまうかもしれんのだ………。もっとも、その答えは今教えずとも、今から向かう火星の遺跡、“ほろびの大地”へ行けば分かるがな。」
『?????………』
目をそらし、無表情のまま意味深な事を言う大地老人に、一行はまた顔を見合わせた。
 「ところで未来、お前は自身の家系の事を、何かしらおばあちゃんから聞いてないか?」
大地老人は、台越しに未来に顔を近づけた。
「うちの家系って……“祈祷術”の?」
「祈祷術ではない……。まだ気づかぬか? ならば教えてやろう………、お前の家系、明日野家こそが、剣者と行動を共にした“神子”の直系ぞ!!」
「え、ええ〜〜っ?!!!」
あっけにとられる、未来!
 大地老人は、言葉を続けた。
「そう、この二つの家系は、ワシとお前がそうであるように、時にはその血を交えながらも常に行動を共にしてきたのだ。そしてその歴史はこの時代へも引き継がれ、紫蘭と舞羅三姉妹に至っておる………。分かるか、これは共に神の定めた“宿命”なのだ!!!」
 『!!!!!!!!!!』
未来と三姉妹は驚き、顔を見合わせた。
 そう、大地老人の話によると、彼女らもまた神に選ばれし一族だったのだ!!!

 「とにかく、こうして剣者と邪悪な者との熾烈な戦いは、宇宙の歴史上何度も繰り返された。その間、いくつもの星が滅び、神子と剣者はやがて星を越え、銀河を越えて、ついにこの太陽系へとたどり着いたのだ。そして剣者と神子の子孫たちは、この太陽系五番目の惑星に、最初の新天地を築いたというわけだ。」
「それが、火星……………え? ちょっと待って、5番目って、水金地火木…………地火木………えーっ、ウソぉ、木星? 木星に住んだの??」
指折り数え、驚く未来。
「いや………、その時木星は、まだ六番目だった。」
「六番目ぇ????」
もう一度指を折ってみる未来。だが、何度やっても六番目は木星なのだ。
 するとその時、今までの話を黙って聞いていた孔明が突然声を上げた。
 「……う、あーーー! わ、分かったで! “小惑星帯”やな! その最初に住んだ惑星って、火星と木星の間にある、小惑星帯やないの?」
「おお、孔明は、星にも詳しいのか?」
「あったりまえやあ、大地じいちゃん! オレ、こう見えても、保育園では天文クラブだったんやでぇ!」
孔明は胸を張った。
 「その通り、最初はそこだったのだ! 実は、かつてそこには、火星よりやや大きな地球型惑星が存在していたらしいのだ。が、やがてそこでも、光と闇の戦いが始まり、ついには惑星は粉々に砕け散ってしまった。そこで剣者たちは、次の居住地として火星を選んだと言うわけなのだ。」
 「そして………つまりそこも、戦いの末、滅びたというワケじゃな?」
「ピンポーン! その通り! さーすが、じいちゃん。おっと、ほら、飲んで飲んで! 刺身も食べて〜♪」
 大地老人は、新しい熱燗をお湯から取りだし、大全のお猪口に注ぐと、また話の続きを始めた。
 「……で、やむなく彼らはそこも捨て、今度は地球へと移住し、先住民、つまり“古代地球人”と同化していったのだ。しかし、やはりここでも、暗黒龍王と剣者の戦いは繰り返され、その度にいくつもの国や大陸が沈んでいったのだ。よく知られる、ムー大陸やアトランティス大陸が沈んだ伝説も、その中の一つらしい………」
 「へーっ………。だけど、なんでそんなに何度も、戦わなきゃいけないんだあ? 天地核を封印したままにしときゃ、いいことだろう?」
「若き大地よ、そこが人間の愚かしさじゃ。どの星でも、いつの時代も、邪悪な心や好奇心、時には“アホな実験”で、パンドラの箱を開けてしまうヤカラが、いるものなのだよ。」
大地老人はそう言って、ジロッ! と雷羅の顔を見た。
「は、はは。な、なんだよ、その目は……」
 気まずそうに目をそむける、雷羅。
「オホン、いや別に………! だが、大地の言うことも、もっともなのだ。本来、天地核は神子の家系によって、代々守られてきたものなのだ。が、悲しいかな、長い年月に人々の記憶や歴史は薄れ消え去っていくもの。
 天地核や剣の記憶、そして歴史も、また然りであったのだ……。」
 大地老人は、再び窓の外の月に目をやった。
「…そこで、アトランティス帝国が海に沈んだ日、つまり時の剣者がなんとか暗黒龍王を打ち倒し、天地核に何度目か何十度目かの封印を施した時、時の神子と剣者は、今のお前と“同じ事”を考えた。」
「封印したままにしとこう、と?」
 「うむ……。で、彼らは二度と封印が解かれぬように、かつて自分たちの祖先が住み、今は廃墟となった無人の星、“火星”に天地核を葬ったのだ。そしてこれこそが、我が綴目家に代々伝わる“天昇龍伝説”の基となったのだよ………。」
 なんという、凄まじく壮大な歴史なのだろうか!
おそらく、その長い歴史の中にある戦い一つ一つに、心の張り裂けるようななつらい物語があったであろうことは、ここに居合わせた誰もが、容易に想像できたのだった。
「はあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜………………」
「なるほどの……。ふー……………………」
初めて知る、自分たち家系の深き真実に、大地と大全はあらためて大きくため息をついた。 


 「で……、科学者たちが箱を開け暗黒龍王が復活して、どうなったのじゃ?」
大全は、この時代の始まりに直接関わる質問へと、話を戻した。
 大地老人はそれに、今度は焼き鳥をパタパタと焼きながら答えた。
「復活したヤツは地上をさまよい、ある新興核保有国の指導者に目を付けた。そしてヤツは、今回警視総監の体を乗っ取ったと同様、その指導者の肉体を乗っ取り、すぐに言葉巧みに側近たちをも洗脳したのだ。
 こうしてヤツは、元々、独裁的軍事国に近かったその国の軍事を完全に掌握し、当時その国で開発されて間もない長距離核ミサイルを、アメリカやロシアなどの核保有国、そして日本に向け放ったのだ。」
「ええっ! じゃあそれが、神話に残る最終戦争?!……」
「そうだ未来。数十機にも上る突然の核ミサイル攻撃に、当然かつ自動的にアメリカを始めとする核保有国は反撃した!
 そしてそれは報復攻撃にとどまらず、あらかじめ想定されていた仮想敵国に対しても、核ミサイルが飛び交う状況へと発展してしまったのだ。こうして、あっという間に人類を滅亡へと導く世界大戦が、いとも簡単に勃発してしまったのだよ……。」
 「な、なぜヤツはそんな事を?! だって、わざわざそんなことをしなくても、自分が復活した時点で、神の御心の結晶である天地核を直接破壊すれば、この宇宙を“爆縮”させるっていう目的は、達成されるんだろう?」
 そう、確かに大地の言う通りだった!
一同は、店内にいい香りを漂わせている焼き鳥を、パタパタとうちわで扇ぐ大地老人を見つめた。
 「……天地核は、アメリカNASAの地下にあるラボで、厳重に管理されていた。そしてこれは重要なことだが、そこに集まっていたのは、“純粋な科学者たちばかり”だったと言うことだ。」
「純粋な……科学者?」
「うむ……。大地よ、その謎もすべて火星に行けば分かること。
 ただ一つ言えること、……………それは、ヤツは“戦争を楽しんでいた!”ということだ。人間が仲間同士殺し合う愚かさを、自身をも滅亡させる武器を使う人間の、心の闇の愚かしさをな!!!」
『!!!!!!!!!!!!』
一同は、言葉を失った。
 「ひ、ひでえ……!!」
言葉を絞り出す、大地。
「確かにひどい! だがな大地……、そのひどい状況に陥ってしまう世界を、当時の人類、つまり我々は作り上げてしまっていたのだよ!!」
 『!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
 そうか、そうなのか!
大地たちは気づいた。自分たちの社会もまた、愚かだったのだと! 人類自身が、その滅亡に至る原因とプロセスを作り上げていたのだと!!! 
 未来は思った!
(あたしたちの時代では、かつての東西の壁は崩れ、核抑止力による冷戦時代は確かに終わったわ…。
 でも、確かに現実には、世界中で、なおも何万発という核ミサイルが、“よその国”に向けて配備されているのには変わりないわ……。そして、世界中の人々が““核廃絶”や“核拡散防止”をいくら叫んでも、次々と新しい核保有国や核保有疑惑国が誕生しているのが、あたしたちの時代の……………それは、どうしようもない現実………!!!)」
…と!
 大地たちは黙り込んでしまった。
「へい、焼き鳥お待ち!」
そんなみんなの前に、うまそうな湯気を立てる焼き鳥が並べられた。


 「ちょっと待ったあ! まだ何か変だぞ! それまでアンタ、つまり大地はどうしてたんだよ? 未来はどうしてたんだ? 大全のじっちゃんは?? ここから帰った後なら、当然二人は、その戦争のコトを知っていたはずだろう?!」
「え? そ、それは……」
雷羅の鋭いツッコミに、手にしたうちわを口に当て、口ごもる大地老人。
「 そういえばそうよ。その時、あたしと大地はどうしてたの? 帰ってすぐ、政府とかに警告を出さなかったの? 新聞やテレビのマスコミは? 帰った時点でもインターネット使えば、そんなこと簡単に出来たはずよ!!」
 「……当然出したさ、未来。だけど、田舎の一高校生や年寄りの言う突拍子もない話、誰が信じる? 『私たちは、数千年後の未来に行ってきました、二十数年後には暗黒龍王という悪魔が復活します』……なんて話? 」
「で、でも、ずーっと言い続ければ!………ううん、あたしは絶対言い続けるわ!!」
未来はムキになり、立ち上がった。
 「言い続けたさ、お前は…………。でも結果は、“いい加減な未来予言を流布する危ないカルト”、と同一視され、当局にマークされただけだったんだ。それでお前は、自分の言っていることが正しいことを証明しようとしたんだ。ある実験でな!」
「じ、実験って………どんな?」
 大地老人はここまで言うと、急にポロポロ涙を流し始めた。
 「シクシク……、き、聞かんほうがええ〜、それは、聞かんほうがええ〜〜〜……シクシク……………。と、とにかくその時“ばあさん”は焦って実験を失敗しての、それが原因で、ワシら夫婦は“地球を破壊しようとする危険なカルトの教祖”と見なされ、“国際犯罪者”として指名手配を受けたのだ。」
「ええ〜っ?!」
驚き、顔を見合わせる大地と未来!
 「……そして、何年も何年もの長くて辛い逃避行のあげく、潜伏先のロシアで遂に逮捕されての、丁度人類が火星に向かう頃には、二人とも極寒のシベリアで服役していたのだよおぉぉ。う、う〜、シクシク………」
 『え、え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!』
さらなる思わぬ“事実”に、もう腰が砕けそうになる二人。
 「じゃ、じゃあ、なんでその実験を止めようとしなかったんだよ? オレ、つまりアンタは? だってその事も、今ここで聞いて知ってたんだろ?」
「もちろん、止めたさ。シクシク〜…………。でもほら、知っての通りあの性格だろ? 言うても聞かんのよ、ばあさん〜。シクシク〜〜……。さっき、歴史が変わるかもしれんと言うたが、変えられん歴史もある。それは……、“頑固な女の意志”じゃあ〜。シクシクシク………」
 『あ、あ〜…………』
あり得る、未来の性格なら、あり得るかもしれない!? 
 一同はそう思いながら、言葉を無くしたまま未来を見上げた。
「は、はひー………………………、あたしって、呪われた運命?」
 未来も自分の性格を知っているだけに、顔をヒクヒクとひきつらせるのだった。

 そして大地老人は、一通り泣くとまた話し始めた。
「とにかく核戦争が始まると、アメリカもロシアも中国、日本も…、地上のあらゆる国が一瞬にして壊滅した。当然、刑務所も機能を失い、ワシらはロシアを脱出し、すぐさま焦土と化したアメリカに渡り、天地核を奪いに乗り込んで来た暗黒龍王と、“二度目の対決”をしたのだ。」
 「そして、再び勝った!……と!」
「うむ!」
大全の言葉に、大地老人は深くうなずいた。
 「ヤツを倒し、天地核を再び箱に封印すると、みなさんご存じのように、ワシは僅かに生き残った子供たちを集め、王国を築いた。そして、ワシと未来はこの船を造り、元の場所、火星へと箱を納めにいったのだ。」
 「ちょーっと待った! なんでわざわざ、元の場所に置かなきゃいけないんだよ?」
またまたツッコミを入れる雷羅。
「だって、場所は分かるし、誰にも手は出せんじゃろ? 少なくとも、お前が“時空間停止実験”をするまでは、安心じゃあ!」
「う…………、く…、そー、そういうコトかよ……」
雷羅はスゴスゴと引っ込み、目の前の焼き鳥にかぶりついた。

 「フン…、くだらん! 長々と話を聞いてやったが、何のことはない、それが暗黒龍王様を崇拝するワシらイグアノ族と、何の関係があると言うのだ?!」
炉端の隅で、いまだ食事に箸一つ付けずにいたンタラチュラが、しびれを切らし立ち上がるとついに叫んだ!
「おお、そうじゃった、タラタラさん。」
「ンタラチュラじゃあ!!!」
赤い顔を、ますます赤らめる族長!
 「さっきワシは言ったの。『復活したヤツは、ある新興核保有国の指導者に目を付け、その指導者の肉体を乗っ取ると、すぐに言葉巧みに側近たちをも洗脳した…』と。その側近こそが………、あんたらの祖先だ!!」
「!!!!!」
「彼らは人類の歴史が滅び、暗黒龍王が倒れても、なお、洗脳されたままだった……。いや、本当は皆、洗脳から覚めておったのだが、同時に自分たちのしでかした愚行に気付いておったのだ。気付いておったからこそ、暗黒龍王崇拝を口実に、自らを放射能の穴に閉じこめたのだよ……。」
 「じゃあ私らの祖先は、自分たちの“罪”に、自ら“罰”を与えたと……?」
今度は、孔明の父が尋ねた。
「その通り、張飛さん……。彼らの心情を思えば、その行動にワシは涙こそすれ、とても罪を問う気にはなれなんだ。彼らもまた、我々と同じ“犠牲者”なのだ!」
 そう言うと、大地老人は頬に一筋の涙を流した。
「そうか! オレたち、なんも呪われた種族なんかじゃ無かったんやな♪ もとは大地兄ちゃんたちと、同じ人間だったんやな♪♪」
「おおう! 孔明、良かったな♪」
孔明は、うれし泣きしながら大地に抱きついた。
 両親も、また泣いていた。


 明かりが消え、誰も居なくなった炉端屋の片隅に、ンタラチュラは一人まだ座っていた。その目の前には、自分のためにとってあった食事が、大皿の上で手つかずのまま冷めているのだった。
 彼はじっと座っていたが、やがてゆっくりと食事に手を伸ばすと、カニを手に取り甲羅ごとポリポリと食べ始めた。
 食べながら、
「……………」
今はもう、とっくに月が過ぎ去った障子の隙間を無言で眺めた。柔和な目で…………。
 その様子を、孔明親子が入り口の影から、そっと見ていた。
そして、その行動に、
「あの様子なら、族長も、もう大丈夫やな。」
「そやね、アンタ……」
と、安心し、自分たちのために用意してある部屋へと向かった。

 純和風の旅館のような部屋に入ると、アグネスは、
「ところで……ねえアンタ……。天の岩戸での、暗黒龍王の姿覚えてる?」
と、星の見える窓辺の椅子に腰掛けながら、夫の張飛に尋ねた。
「なんや急に? 忘れるもんかいな、あの恐ろしい龍の姿……」
「ううん、そうやなくて、あの人間の姿をしていたときの、腕の代わに生えてた“暗黒体”やがな。」
「ああ、あの気色悪い…………。」
あの不気味な部分を思い出す、張飛。
 「そら、もちろんそれも覚えてるけど………、今さらそれがどないかしたか?」
「うん、その前に孔明から、暗黒龍王復活のいきさつを聞いてたやろ?」
「ああ……、雷羅さんの、時空間停止実験の?」
「そう、それで、あの腕見た時、そして大地さんが暗黒龍王をやっつけた時、あたし、あることに気付いたんや…」
「あることって?」
「…………いや、やっぱもういいわ。もう終わったことやし……。うん。」
 アグネスは、一人何かを胸にしまい込むと、前にかけてあるタオルを手に取った。
「孔明、お母ちゃんと一緒お風呂行こか? 上に、星の見える露天風呂あるらしで♪」
「うん、行く行く♪ ほら、父ちゃんも一緒に行こ♪♪」
「よっしゃあ〜♪♪」