十二、籠の中の孔明
「やつらもやりおる………。影武者かと思っておれば、まさか紫蘭の過去世、前転生体を召還して来ておったとはな………。」
暗黒龍王は、再び人間の姿、つまり国防警視軍総司令官、アイライク・カネガに戻っていた。
そして、暗黒体の充満した暗く不気味な部屋で、椅子に座り足組み腕組みをして、一人思考を巡らせているのだった。
しかもその姿をよく見ると、その腕組みした右腕部分は実は腕ではなく、腕の形をした暗黒体が揺らめいているではないか。それは、大地との戦いで切り落とされたせいなのか?
「しかし……、あの神剣使いは確かに名乗った、“天昇龍剣伝承者、綴目大地”………と! どういう事だ? もしや、余は再びヤツと…」
彼は、人間のように転生の度に記憶がリセットされる訳ではなく、前の記憶ならほぼ完全に残っていたのだ。そして、自分の素性や剣への恨みは、何度転生しても鮮明に残っているのだった。
「……いや、それでは、あの若さは説明がつかぬ! その仮定に立てば、余は未来において、過去のヤツと…、しかもその結論は………、いや、バカな、そんなはずはない! あってたまるか!! 考えただけでもおぞましい!!」
彼は、ブルッと身震いした。
「そう……、そうだ、多分ヤツは、神剣の継承家系における、単なる同名に………いや、それとも本当に…? ……いや、しかし…いや…うぬぬ、分からぬ……分からぬ……………分からぬ!!! うおーーー!!!!」
仮にも魔王とも呼ばれし者の、この苦悩ともとれる思考は、一体何を意味するのだろうか?
一つ言えることは、この堂々巡りの思考に結論を導き出すためには、彼には決定的な情報が不足しているということだった。
だが、思考を巡らして丸二日、彼は、ついに一つの結論に達した!
「いずれにせよ、あの小僧は“神剣の継承者”には違いない! 故に、“まだこの肉体を必要”とし、まだ“完全復活した訳ではない”余にとって、ヤツは危険極まりない存在には違いないのだ! となると、一番の安全策は……ただ一つ、二度とヤツと接触せぬこと! つまり、ヤツをここに絶対近づけぬ事だ!! ふはは、ふはははははは!!」
この時、
ドンドン、とドアをノックする音がして、イグアノ族族長ンタラチュラが部屋に入ってきた。
「暗黒龍王様、その後の紫蘭一味の行動に関する報告が、ここに入りましてございます!」
族長は、一枚の封筒を取り出した。
イグアノ族族長は、総司令官より一歩下がり、狭くて暗い岩のトンネルを歩いていた。
「報告によりますと、都より消え去った次の日、やつらは東の都市で再び郵便局を襲い、旅の資金を得た模様にございます。……なんせ、王家の資産は全て凍結されてますからな。
その後、駆けつけました取り方衆と衝突! 例の、雷羅とか申します科学小娘の放った武器で、またまた街が壊滅、一味はそのまま逃走した…と、書かれてございます。
そして二日目は、旅芸人に変装し長距離列車に乗り込んだものの、警戒中の鉄道公安部隊に見つかり激しく抵抗、ついには機関車をぶんどったそうでございます。そしてそのまま、機関車だけを切り放して数百キロ逃走、終点についてもなお止まらず、車止めと駅舎を突き破り市街地をそのまま激走、街の大部分を破壊したあと、そのまま郊外へ消えたそうにございます。」
「や、やつららしいな。何ともはや、相変わらずの傍若無人ぶりではないか。」
「ま、まったくでございますな。」
総司令官は呆れ、族長もまたうなずいた。
「えー、そして三日目、つまり今日ですが、昨夜、一行は長良川上流までたどり着くと、機関車を乗り捨て河岸の高速パトロール船を奪い、待ち受ける各流域の河川警察と衝突を来り返しながらも、次々とそれを突破、例によって、通り抜ける川筋の街をことごとく破壊しながら今朝に至り、現在もなお下流に向かって逃走中とのことでございます。その詳細と地図はこれに………」
総司令官は、族長より受け取った書類と地図を見た。
「うーむ。この壊れた街が足跡か………、これほど、逃走経路が分かりやすいやつらもおらぬな。
しかしひどいもんだ、いったい、やつらのせいでいくつの街が消えたのだ……? まあ、そんなことはどうでもいい、要するにだ、この地図を見る限りでは、やつらは確実にこっちへ向かっていると言うわけだな?」
「はい。長良川を下った先には港町、長崎の出島がございますれば。が、ご安心くださいませ暗黒龍王様♪ わたくしめ、すでにこの事態を予測し、現在そこに全イグアノ兵と取り方衆を集結させ、厳重な警戒に当たらせております! 」
「よし、なんとしてもやつらをそこで食い止めるのだ! ここに着いてまだ二日、扉が開くまであと四日もある! それまで、絶対ここに向かわせるではないぞ!!」
「ははっ! それはご安心くださいませ! 港は軍艦で固め、プランクトン一匹這い出る隙もございません!!」
二人は洞窟を抜けると、広くて明るい空間に出た。
そこは、それまでのごつごつしたトンネルと違って、金属色に輝く壁に囲まれた、頂点の高さ五十メートルはあろうかというドーム空間だった。
しかし、この内部は完全なドームという訳ではなく、正面奥は、まるで巨大な分度器を立てたような、高さ三十メートルほどの半円の壁でふさがれていた。
そしてこの壁の丁度真ん中には、九十度の目盛りを指すかのように、縦に一筋の切れ目が入っていて、その上には、大きな文字が書かれた看板がデカデカと掛かっていた。
その文字とは?!……………
“♪おいでませ天の岩戸♪”!!!!
さらにその下には、小さな文字で“無理に開けるな核爆発危険!”とも書かれている。
そう、何を隠そう、この半円こそが“天の岩戸”だったのだ!
こここそが、神の御心の結晶球“天地核”の眠る“滅びの大地”に通じると伝えられる、唯一絶対の入り口なのだ!!!!
「陛下、その扉が開く日にちのことでございますが、ここに来てて丸二日、あの二人には一睡もさせず作業を続けさせておりますれば…」
あの二人、それは孔明の両親、山形屋張飛とアグネスの事だった。
天の岩戸の左横には、公衆電話ほどのボックスが備え付けてあり、中に、岩戸に登録された王の魂を識別するための王冠が納められているのだが、その王冠は取り出され、前に備え付けられた“王宮の王家承認の間にあったのと同じ装置”に接続されているのだった。
そして、その装置の前には、沢山のダイヤル群を微妙に調節し続ける孔明の両親、張飛とアグネスの姿があった! ……その表情に疲労の色を浮かばせて。
が、二人は嫌々ながらも、必死に装置を作動させなければならなかった。
なぜなら二人の後ろには、息子孔明が鳥籠(とりかご)のようなものに閉じこめられ空中に吊り下げられており、両脇には槍を持った二人のイグアノ兵が見張っていて、
「こりゃあ、二人とも、もたもたするんじゃねえ! でないとガキの命はねえぞ!!!」
と、今のところ口先だけなのだが、脅し続けられていたからなのだ。
総司令官は、その様子を満足そうに眺めながら、族長に聞いた。
「それで? 一睡もさせず作業させているから、どうしたというのだ?」
「はっ、陛下、お喜びください。その結果、予定より二日も早く、明後日には天の岩戸を開くことができそうにございます♪」
「おおーーーっ、そうか♪ よし、良くやった! 誉めてとらすぞ、族長ンタラチュラよ!!」
「ははーっ、ありがたき幸せ! しかし陛下、こうもうまく行くのなら、何も都で、紫蘭王子を迎え打つ必要もございませんでしたなあ。」
「それを言うな。お主を信用していなかったわけでは無いが、いや、有るか……」
「は?」
「お、オホン! いや、とにかく、奴等など無視し、最初からここに来ておればよかったのだ。我ながら、とんだ無駄骨を折ったものよ。はっはっは!」
この時、
「暗黒龍王ってのも、案外間抜けなんやな!」
籠の中から、そのやりとりを聞いていた孔明が、二人に聞こえるように大声で言った!
「こ、こりゃガキ! 我らイグアノ族の、神様にあらせられる暗黒龍王様に向かって、何という口をきくのだ!!」
無礼な言葉に、族長はあわてて籠に近寄り怒鳴った。
「へん、間抜けやから間抜け言うてんねん! その何が悪いんや! その間抜けを神様呼ばわりする族長も、ドアホや! 何が神様や、単なる宇宙の破壊者やないか! アホちゃうん〜〜〜〜?」
「こ、ここ、このガキャ〜〜〜〜〜〜〜!! 今すぐここでぶっ殺されたいか!! それ兵士ども、この生意気な口をきくこのガキを、半殺しの目にあわせてやれい!!」
族長はますます怒り、兵士に命令した!
が、
「し、しかし族長様……」
なぜか兵士たちは、尻込みするのだった。
「な、なんだお前たち? お前達は何をためらっておる、いいからやれい! やらぬなら、代わりにキサマらを半殺しの目にあわせるぞ! これは、族長命令だぞっ!!」
「は、ははーーーっ!」
兵士は、あわてて孔明に槍先を突きつけた!
「へん、やれるもんならやってみい! 可愛い一人息子が少しでも傷つけられたらなあ、お父ちゃんもお母ちゃんも、もうお前らの言うことなんか聞けへんで!」
「な、なにっ?」
するとこの時、
「息子の言うとおりでっせ!!」
と、孔明の母親アグネスが叫んだ!
驚いて族長が両親を見ると、二人は自らの喉にドライバーを突きつけ、必死でこっちを睨んでいた。
「仕事はしますよって、これ以上息子には手を出さんとってください! もし手え出したら、こっちにも覚悟あります!!」
「な、なにを? ………わ、分かった、何もしない! 頼む、だから落ちつけ、ワシが悪かった! この通り〜!」
思わぬ母親の怒りに、族長はうろたえペコペコ平謝りした。
それを見て、
「分かればよろしい!」
と、孔明は腕組みをして胸を張った。
「う、く、……脅してるのはこっちなのに、なんちゅう奴等だ。ブツブツ………」
ブツブツ言いながら、総監の横に引っ込む族長だった。
「族長よ、な〜んか、情けないぞお前…。まあ、余は二人が仕事に励んでくれれば、あとはどうでもいいのだがな。」
「は、はあ〜……」
そんな二人並ぶ姿を、孔明の母アグネスはチラチラと見ては、夫張飛にそっと耳打ちした。
「あんた、ヤツの右腕見てみ、気色わる……」
「ああ、オレも気付いとったで。ありゃあ多分、大地さんに切り落とされたせいやな…」
孔明親子が、ここに来て暗黒龍王を見たのは、実は、今が初めてだったのだ。
「ひょっとしてあいつ……………」
アグネスは、何かを思いついたようにその腕を見つめた。
総司令官は、その視線には気づかず孔明に近づいた。
「くっくっく、小僧、何か余裕ではないか? 余が、少しも恐くはないようだな?」
「あったりまえや! 必ず大地兄ちゃんたちが、助けに来てくれる! 助けに来て、お前なんかやっつけてしまうんやからな! それより腹減ったで、メシやメシ、メシ持ってこんかーい!」
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