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十一、好きだよ大地。。
「なるほど、ここに来るようになってたのですね。ウプ……」
舞羅が、ふらつきながら扉を開き外に出てみると、エレベーターはパラシュートを開き、とある大きな屋敷の庭にある池の縁に、半分水に浸かった状態で着地していた。
「し、死ぬかと思ったあ〜。」
「あたしもだぜ。オエ…。」
「目が回りすぎたんで、酔い止め薬を飲むでちゅう〜。」
続いて大地、雷羅、愛羅もヨタヨタと出てきた。愛羅は薬箱から薬を取り出し飲んでいる。
「みんな大丈夫? あたしが気絶している間に、一体なにがあったの?」
逆に未来は、きりもみの衝撃で目を覚まし、紫蘭を乗せたリヤカーを引きながらピンピンして出てきた。
「ふん。いつものことじゃが、情けないのうお主らは。」
と、強がる大全の足下も、今回ばかりは多少ふらついている。
「どこですかここは?」
一行は、ゴルフ場のように手入れをされた芝生や植え込み、そして池のある広く見事な庭園を見回すと、五十メートルほど先にある、大きな洋館風の屋敷に目を止めた。
「ここはかつて、先々代様の別荘でした…。つまりここが、緊急脱出エレベーターの避難場所だったのですわ。幸いここは、都よりかなり離れています。紫蘭王子の容態もよくありませんし、ひとまずここで休憩することにしましょう。」
一行は、大全を先頭にリヤカーを引っ張り、前方の、ツタの絡まる古びた洋館に注意深く向かった。
そして、無事入り口にたどり着くと、大全が大きなドアに手をかけた。
大全は、黒光りする大きな金属の取っ手をにぎると、
ギ・ギギイイイイ〜〜〜〜〜………
ゆっくりと引き、扉を開けた。
その時!
バーーーン!
突如扉が勢いよく開き、
「きえええええーーーい!」
中から気合いもろとも、目にも止まらぬ早さで棒が振り下ろされた!
「なんのお!」
が、さすが大全!
この剣聖はとっさにその棒を、
バシイーーーーン!!!
と、“横にいた大地の頭”をひっつかんで受け止めた!
「キャイーーン!!…は、はらひれはら…」
悲鳴を上げ、目を回す大地!
大地は、突然大全に頭をつかまれ、ドアの中から繰り出された棒に脳天を直撃されたのだ!
そして、その目の前に、なおも棒を振り上げる一人の人物の影が!
人物は、
「ついに来おったか、イグアノ兵ども! この爺、む〜ざむざと貴様らにやられる爺ではなーーーーーーーーーー………ん?」
と、怒鳴りかけて、外にいた一団をみて驚いた!
そして大地も!
「?????? じ、ジジイーーーーーー!!???」
その人物を見て、素っ頓狂な声を上げた?!
白い羽織袴に白い鉢巻き、そして棒を持ったその姿、その顔は…………、そう、
“大全とうり二つ”だったのだ!
「おお、舞羅姉妹! それに、その荷台に寝かされておるのは、孫の紫蘭ではないか! なに、気を失っておるだけとな? 暗黒龍王復活で大変なことになっておるとお前達から連絡をもらい、ワシも心配しておったが、そうか、よしよし、皆、無事であったかーー!」
「はい、先々代様。おなつかしゅうございます。先々代様も、お元気で何よりですわ。そしてこのたびは、ご心配をおかけしましてまことに申し訳ございません。」
喜ぶ老人に、舞羅とその妹二人は深々と頭を下げた。
「せ、先々代様〜〜〜? え? ちょっと待て、てことは、このジジイは紫蘭のじいちゃんかあ? え〜〜〜っ? だ、だって、紫蘭のじいちゃんって、とっくの昔に死んでんじゃないのかあ?」
「誰がジジイだ、誰がいつ死んだあー!」
カポーーーーーーン!
と、棒がまた大地の頭に落とされた!
「うぷぷ〜……、大地、あたしら、いつそんなこと言った? 先々代様はな、十年前に王位から退かれて、別荘だったここを本宅にしてご隠居されてたんだぜ。うくくく……」
雷羅は、必死に笑いをこらえながら、頭を押さえ地べたをのたうち回る大地に言った。
「あー驚いた。あたしもてっきり、先々代王様って亡くなられてるとばかり思ってた。でも、こうしてあらためて実物を見ると、ほんとに二人はうり二つねえ……。」
未来は不思議そうに、大全と先々代王を交互に見比べた。
そして、
「うむむむ??……」
「いやいや……」
と、先代王時津風と大全は、まるで鏡でも見るかのような不思議さで、お互いを見合うのだった。
「な、なんと、こ、このアホみたいな少年が紫蘭の?!!…」
先々代王時津風はみんなを屋敷に招き入れたあと、召使いたちにすぐに食事の用意をさせ、食卓を囲みつつこれまでのいきさつを驚きながら聞いていたのだが、大地の正体を聞いて、さらに驚いたのだった。
「モグモグ、そ。アホみたいだけど、間違いなく紫蘭の前転生体だぜ! ムシャムシャ!」
雷羅が肉をほおばりながら、質問に答えた。
そして、
「アホでちゅけど、そうでちゅ!」
「アホな孫で、誠に申し訳なく…」
「幼なじみのアホで…」
と、一同も口々にうなずいた。
「や、やかましわ! 人をまるでアホの坂田みたいに、アホアホ言うなー!」
ただ一人、むなしい反論をする大地だった。
「そうですわみんな。大地様は、紫蘭王子の前転生体と言うだけではなく、王家の立派なご先祖様なのですよ。………多少アホでも。」
「ま、舞羅さんまで〜〜………うるうる。」
そんなにぎやかな? やりとりを交わす食卓を、窓の外から、夕日がゆっくりと赤く染めはじめていた。
「まあなんにせよ、話を聞けばお主たちも、大変な旅と戦いをしてきたようじゃな…。もう日が暮れる、一同ゆるりと食事を楽しみ、今夜はここに泊まって、ゆっくり疲れを癒すがよいぞ!」
『は〜〜〜い。♪』
食卓には、たくさんのご馳走やワインが並んでいて、
「今日は、飛行船で朝メシ食って以来、なんにも食って無かったんだよな〜。いや〜ホント、うめえやこりゃ、うん、パクパク。。。」
と、雷羅をはじめとして、一同例によって思いっきりパクついたのだった。
夕日も沈み外が暗くなるころ、未来は食事もそこそこに、紫蘭の寝かされている部屋へと向かった。
そう、紫蘭は、昼間の無理な戦いで倒れたまま、いまだ目が覚めずにいたのだ。
紫蘭は、屋敷に入るとすぐベッドに寝かされ、その額には熱を下げるための濡れタオルが乗せられていた。
「すごい熱……。愛羅ちゃんの薬が効いて、なんとか熱が下がってくれればいいけど…。」
紫蘭の熱を確かめると、ベッド横の台に乗せられた洗面器でタオルを絞り、またすぐに額に乗せるという動作を、未来は何度も繰り返した。
そして、時間もだいぶ経った頃、
「どうだー、紫蘭、まだ熱あんのかぁー?」
と、風呂上がりでさっぱりした顔の雷羅が、頭を拭き拭き入ってきた。
「う、うん。まだ……」
疲れた表情で、顔を横に振る未来。
雷羅はそれを聞くと、紫蘭の顔をチラとのぞき込み、
「そうかー。ま、よろしく頼むわ♪」
と、すぐにまた出ていこうとした。
が、それを!
「コリャ雷羅、お主は我が孫紫蘭のいいなずけではないか! 将来、地球王国(ちたまおうこく)宇宙王家(おおぞらおうけ)の妃となるそのお主が、大事な婿の看病を他人に任せるとは、一体どういう了見じゃ!」
と、後から入ってきた先々代王が、一喝した!
「ひゃ! せ、先々代様? ど、どういう了見って言われても〜………、あたし、ど〜もそーいうのはニガテで…。へへ……。それに紫蘭も、未来に看病された方が嬉しかったりして。なはははは……」
頭をかき、笑ってごまかす雷羅。
「ばばば、ばっかも〜〜ん!! 未来どのは、大地どの大全どの共々、いずれ過去にお帰しせねばならぬ、大事なお体ぞ! しっかも聞けば、未来どのは大地どのの、いいなずけと言うではないか!?」
「そ、そんなことは…、あたしだって……」
頭から湯気を出す先々代に、雷羅は目を伏せ口ごもった。
「だったら、なぜお主がー―」
「だ、だぁーからあ! せめて、ここにいる間だけでも、紫蘭を未来にまかせようかな〜なんて……ブツブツ………」
「なあーにを、ブツブツ言っとるか! だいたいお主はだな、妃としての気構えがじゃ……」
こんな二人のやりとりを、背中に聞いて、
「…………………………………………」
未来もまた、目を伏せていた。
そして、タオルを絞ると立ち上がり、説教されている雷羅に無言で手渡すと、そのまま部屋の外へ小走りに出ていった。
「ま、待てよ未来、おい………」
「な、なんじゃあ?」
二人は、未来が立ち去ったドアを、不思議そうに見つめた。
未来は外に出ると、廊下をトボトボと歩いていた。そして、今にも泣き出しそうになるのを、必死にこらえていたのだった。
そして、少し気が緩んだのか、
「あ…」
と声を上げふらついた。
無理もない、実は、未来もまた相当疲れていたのだから。
「あ〜。長い長い、一日だったなあー……」
大地は、二階バルコニーの手すりに寄りかかり、東の空に昇った月を静かに眺めていた。
「明日朝すぐ、飛鳥にある天の岩戸に向かう……とか言ってたけど、それっていったい、どこにあるんだろ…。舞羅さんの話では、かなり遠い東の果てとかいってたけど……。今そこに、孔明たち親子も囚われているんだよなー……。みんな無事だといいけど…、心配だな〜…………」
「多分、大丈夫よ。何たって、天の岩戸を開くための、大事な技術者なんだから。」
「未来?!」
後ろを振り向くと、そこには、いつのまにか未来が立っていた。
彼女は、そのままゆっくりと近づいてきて、大地の横に並んで手すりに寄りかかった。
「お前………、いいのか? 紫蘭をほっといて…。」
「な、なーに言ってんのよ、大地。よ〜く考えてよ、紫蘭王子のいいなずけは、雷羅さんだよ? 彼女が、しっかり看病してるって!」
「未来、お前……」
「わーっ、今夜もキレイなお月さまね。」
大地の言葉を遮るように、未来は夜空を見上げた。
「え? あ、うん、そだな。」
「………………」
それっきり、二人は無言で月を眺めた。
そしてしばらくして、また未来が口を開いた。
「ねえ、大地……。」
「うん?」
「あたしたち、無事、元の世界へ帰れるのかな? あの平和な高校生活に…………」
「…そうだな……。どうかな……。」
「でも……、帰っても、戻れるのかな? ……………元の生活に……、心…に………………………」
「?!……………」
「あたしね……、お父さんもお母さんも、恋しい、とっても会いたいんだ。あの高校生活も……ほんとに恋しい………。でもね、遠いんだ。ついこの間なのに、すっごく遠い昔のような気がするんだ……………。」
「………………………」
大地は無言のまま、未来の横顔を見つめた。
「ねえ、大地……、あたしは、どうしたらいいの……。あたしは………うっ、うっ……、やだあたし、こんなに泣きべそじゃ、…うっ……、なかったの…に………うっ、うっうっ………………………」
大地は、月の光を反射してとめどなく流れ落ちる宝石の滴を、未来の頬に見た。
そして知った。
幼なじみの心が、自分より一足先に、少女から大人へと成長したのを。
そして、そう感じる大地もまた、少年から大人になるステップを、確実に歩んでいるのだった。
「未来……」
大地は、未来の肩に手を回した。
未来は、大地の胸に顔をうずめ、静かに、しかし激しく泣き続けた。
この時、下の部屋の窓辺では、
「……………………………………………」
舞羅が、この二人のやりとりを静かに聞いていた。
この神子は、ゆっくりとイスから立ち上がると、二人のため、そしてみんなのために、月明かりの中、静かに舞い踊り始めた。
「月が…出た出た……月が……出た〜……」
また明日からの、過酷であろう日々の無事を月に祈って。
「おっと、気がついたようだな、紫蘭。」
愛羅の薬、そして未来と雷羅の看病のかいもあって、熱も下がり、紫蘭は夜中に目を覚ました。
「…………?!!」
紫蘭は、枕元にいる雷羅を見て驚いた様子を見せると、首を動かし左右を見回した。
「なんだよー、その反応は?! あたしが看病してちゃ、いけねえってのかあ、紫蘭? あのなあ、未来なら捜したっていやしねえよ。あいつ、今までさんざんお前にくっついてたくせに、お前が熱を出したとたん“職場放棄”しやがったんだよ! ったく、何を考えてんだか一体〜っ!」
「……………………」
「おっと、そうがっかりした顔、すんなって。代わりにあたしが、し〜っかり看病してやったんだからよ! さてとー、熱も下がったようだし、もういいだろ? これであたしゃ寝るわ。じゃあな、フア〜、眠い眠い……」
雷羅は、絞ったタオルをペチャッと紫蘭の頭に放ると、あくびをしながらさっさと部屋を出て行った。
そして自分の部屋へ向かい、その前まで来るとドアを開け、
バタン!
と閉めた。
が!
「むふふふ。。♪♪」
雷羅は部屋に入らず、そのまま廊下にいた!?
そして何やら妖しい笑みを浮かべつつ、抜き足差し足でゆ〜っくりと歩き出した。彼女の向かった先、それは……
「だーいちぃ。。♪♪♪♪♪♪」
そう、それは大地の部屋。♪
彼女は、キョロキョロとあたりの様子をうかがい、誰もいないことを確かめると、ドアをそっと開け、スルリとその中へ滑り込んだ。
そして、ベッドで寝ている大地に近づくと、
「だーいち、ねえ、だーいちってばあ。♪」
と、その体をゆっくり大きく、揺さぶりはじめた。
しかし大地は、今日一日の激しい体験そして戦いに、精も根も疲れ果て、力一杯爆睡していて決して目を覚まそうとはしなかった。
いくら揺すっても目を覚まさない大地に、ついに雷羅は起こすことを諦め、その枕元に腰掛けた。
「ちぇ〜っ、せっかく今夜は、大地とゆっくり“ゆうべの続き”を、ムフフ。♪……と思ったのにぃ〜。」
言いながら雷羅は、今度は大地の横に添い寝をした。
そして、じーーーっ、と顔を見つめ、
「うふ。♪ こうして見ると、結構寝顔もかわゆ〜〜い。♪」
と言い、鼻先をちょん、ちょん、と指先でつついてみた。
「むにゃ……………」
彼女は、熟睡したままの大地の寝顔を、さらに、じーーーーーーっと見つめ、つぶやいた。
「………………………好きだよ。大地……」 |
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