第十章 オレは天昇龍剣伝承者、綴目大地!
十、オレは天昇龍剣伝承者、綴目大地!

 「はあっはっは! 先祖自らが作った認識システムのため剣を引き抜けぬとは、何とも皮肉なことだな紫蘭王子よ!!!」
その時、突如、雷鳴のような声が部屋を包んだ!
 驚き入り口を見る、大地たちの目に飛び込んできた者は!!!!!
「警視総監………、い、いや、暗黒龍王!!!!」
一同は驚き身構えた!
 そう、そこに現れたのは、警視総監改め国防警視軍総司令官…の姿を借りた闇の魔王、暗黒龍王だったのだ!!

 ついに今、紫蘭、姉妹、そして大地たちは、この宇宙の大敵に再会した!

 「これはこれはこれは……。国家反逆者とその協力者一味、全員お揃いとはな……!」
総司令官は、両手を制服のポケットに突っ込み、カツーン、カツーンと靴音を鳴らし、ゆっくりと部屋の中へ入って来た。
 そして、身構える大地たちの前をそのまま通り過ぎると、承認の台の前で立ち止まり、再び突き刺さった草薙の剣を、氷のような目で見下ろした。
「くっくっく、こうなると、この剣もただのガラクタよの……。」
総司令官は、未来に肩を抱えられた紫蘭に目をやった。
「紫蘭王子よ、余がなぜこの剣を恐れるのか、その訳を知っているか?……」
「?!」
「ふん……、どうやらその顔では、知らぬようだな。どうせお前たちは全員、この場ですぐ死ぬのだから教えてやろう…。それはこの剣が………」
 総司令官は一呼吸置くと、言った!!
「それはこの剣が、“天地核と同じ物質”で、できているからなのだ!」
「!!!!!!」
「驚いたようだな……。ふん、そんなことも忘れてしまったのか。“遥か古代、神に選ばれし剣者の末裔”よ!!」
「!!!!!!!!!!」
 これには大地と大全も驚いた!
二人もまた、剣にそのような言われがあるとは知らなかったのだ!
 しかも紫蘭、つまり自分たちの家系が、神に選ばれし剣者の末裔とは一体?!
「くっくっく…。宇宙鎮尊(おおぞらしずめのみこと)もやりおる。時の継承者の、霊波動と共鳴する剣の性質をもって、天の岩戸開封の鍵とするとはな……。が、その姑息な手段が、このような情けない結果になろうとは、さすがのヤツも計算外だったであったろう! はあっはっはっは!!!」
 高笑いし、総司令官はこう大声で続けた!
「もはや、そのイグアノ人どもに作らせた装置も、不要となった! こうしてノコノコと、紫蘭が、魂の残り半分を、余に捧げに来てくれたのだからなあっ!!!」

 「き、き、き、キサマあーーーー!」
ついに雷羅がブチ切れ、ブレスレットに手をかけた!
 その目は怒りに燃え、その体は、憎しみに震えていた!
 が、総司令官は、
「おおう、誰かと思えば、愛しの、我が生命復活の恩人ではないか? くっくっく、また、“時空間停止”でもやってくれるのかな?」
と、余裕たっぷりに皮肉を込め、邪悪な笑みを浮かべた。
 「なめるなあクソッタレ! ……ふふん、あまりにも危険で、これだけは使いたくなかったけどよお。見せてやるぜ、雷羅様一世一代究極のスペシャル大発明―――」
 「ぎゃ、『究極』なんて言ってる〜!」
「今度こそこの世の終わりでちゅう〜!」
 条件反射のように、身を伏せる大地たち!
「――“原子核素粒子分解砲・雷羅スペシャル”だあ〜っ! 逃げてももう遅いぜ! 体を素粒子レベルにまでバラバラにされて、消滅しちまうんだなーっ!!」
言うが早いか、雷羅はそのスイッチを入れた!
 と!
雷羅の前に、直径数メートルはあろうかという巨大な光球が出現た!
 そして、
 ズドオオオオッ!
それは、もの凄い勢いで獲物に向かって突進した!
 あなおそろしや“原子核素粒子分解砲”!!
これは、あらゆる物質を素粒子レベルに分解してしまうという、恐怖の最終兵器なのだ! 雷羅の言う通り、なんという危険な武器! なんという恐ろしい武器!!!
 が!
「ばかめ!!!!」
 ブオオオオオオオオオッ!
総司令官は、この迫り来る恐怖の最終兵器に向かって、全身から暗黒体を放出した!
 瞬間!
光と暗黒の、ものすごい激突が……?! 

 いや…………、違った??????
その恐るべき光球は、暗黒体に接触するや、
 ぷしゅう……
と、情けない湯気を出して、消滅してしまったではないか?! 雷羅の意に反して!!!
 「い、今までで、一番情けないでちゅう…。」
「ホンマや。身い伏せて損したわ………」
後ろから、みんなの非難が飛ぶ!
 雷羅は、
 「あ、ありゃりゃ?………」
あまりと言えばあまりの結果に、ただただ呆然としていた。 
 と?!
 ブオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
「エ?」
その目の前で、暗黒体はなおも止まることを知らず、ますます激しく噴出し始めていた!!
 「余の実体は、この宇宙の者に非ず! そのような攻撃が、効くものか! 分かったであろう、しょせんお前たち人間の力とは、その程度なのだ!!!」
そして、吹き出す暗黒体の圧力は、遂にその限界を超えた!
 総司令官の体が、見る見るカリフラワーのように膨れ上がったかと思うと、
 ぶしゅうっっっっっっ!!!!
黒ごまを巻き散らかしたかのように細かくはじけ飛び、中から内臓が飛び散った!
 「うげええええっ!」
「ゲロゲロ!!」
あまりにもおぞましい光景、そして腐臭に、大地たちは吐き気をもよおした! 
 ベチョッ、ベチョベチョッ!
飛び散った内蔵は、いやらしい音を立て、さらに裏返り、徐々にグロテスクな組織へと変化していくのだ! そして、やがてそれは立ち上がり、ついに、揺らぐ暗黒体に包まれた邪悪な存在へと変身を遂げたのだった!!

 かつて、そいつのために、何度文明が滅んだであろう……。
そいつは、決して復活させてはならない存在だった! そいつは、決して決して、復活させてはならない存在だったのだ!!
 が………
やつは遂に復活をとげた!
 そして今まさに、大地たちの目の前に、その完全な姿を現したのだ!!!!!
 「グガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」
その恐ろしき咆吼に、石造りの巨大なピラミッドがうち震えた!
 宮殿が、地面が、そして地球全体が、この地獄からの轟音にうち震えた!!!

 「こっ、これが暗黒龍王か!!!!!」
大地の全身を、恐怖が包んだ!
絶対の邪悪、絶対の暗黒、絶対の恐怖が、みんなの体を芯まで凍らせ、震え上がらせた!!
 目の前に現れたその姿、それは………
 巨大な爬虫類!?
“真っ暗”な体に長い尻尾、三本指の手足、その背中にはカラスかコウモリのような羽根、頭には耳か角のようなものが生え、その顔らしき場所には、大きく開いた口と共に、不気味な赤い目が光っていた!!
 「こ、これはまさしく、暗黒の……龍王…!!」
部屋を覆い尽くす暗黒龍の姿に、大全は絶句した!
 そう、今まさに目の前に現れた邪悪な黒い龍の姿こそ、暗黒の王、この宇宙の破滅を願う恐怖の存在、そのものなのだ!! 
大地たちは、凍りついたように立ちつくした!
 「残念ながら、余も転生のたびに、古い記憶は薄れていく……。が、忘れられぬものもある。それこそ我が素性、そして憎っくき剣の記憶! 余は幾度となく転生を重ね、また幾度となくその剣に敗れた!! たとえ貴様ら剣の継承者が、その由来を忘れても、余はその怨み、決して忘れはせぬのだ!!!」
 ゴオオオオオオオオオオッ!!!
耳をつんざく怒り! 激しい振動!!
「継承者紫蘭よ、惨めに死ぬがよい! その魂の残り半分、今こそ我が手に―――」
 言うや、龍を包む暗黒体が、紫蘭、そして彼を支える未来目がけ、激しい勢いで襲いかかった!!

 「!!!」
「お、王子?!」
紫蘭は、とっさに未来を脇へ突き飛ばした!
 と!
「きゃああっ?!」
間一髪!
 ぐしゃあああああっ!
暗黒体は未来をかすめると、泥水を浴びせるように紫蘭の体を包み込んだ!
「!!」
そして、まるで高圧力の深海に突然放り込まれたかのごとく、紫蘭の体を締め付けだした!
「…………!!!!!!」 
苦悶の表情を見せる紫蘭!
 その暗黒体の中に、今度は暗黒龍王の右手が実体化した! 不気味な黒い三本指の手が、容赦なく紫蘭の体を締め付ける!
「はあっはっは、苦しめ、苦しむがよい! あまりの苦しさに、体から魂が逃げ出したくなるくらい、締め上げてくれるぞ! 人間ジュースでも搾るようになあ! はあっはっは!」
 紫蘭は、
「がはあ!!」
その口から血しぶきを上げた!
 この時!
 「おおーのれーーーーー!!」
「てめえ、このやろーーーーーーっ!」
大全と大地が、ほぼ同時に地面を蹴った!
 二人は空中へと舞い上がり、
 バリバリバリバリバリイイッ!
と、空中で瞬間的に杖と棒を発気発光させた!!
 それは、これまで誰も見たことがない、激しい気のパワー! 二人の体が、杖が、棒が、そして回りの空気までもが、激烈な怒りの放電に包まれた!
 二人は、その怒りのパワーを持ったまま、
「いやあああああーーーーーーーっ!」
「キエエエエエエエエーーーーーイ!」 
化け物目がけ左右から、稲妻のごとく突っ込んだ!
 が?!
 「愚か者め!!!!」
暗黒龍は左手を一閃! その指先から、凄まじい両の暗黒体を噴出させた!
 ズドオオオーーーーーーーーーーーン!!
激突する光と影!
 しかし……!!
 バチイイイーーーーーーーーーン!!
二人の武器は、暗黒体にことごとくはじき返され、
「なにい?!」
「うわあーーーーーーーーっ!!」
その体は、瞬間移動したかのように吹っ飛んだのだ!

 ド、ドドン!!
「ぐはあっ!」
固い石の壁に超高速で叩きつけられ、そのまま床へと崩れ落ちるる二人!
「お、おじいさま!」
「大地ーーーっ、!」
三姉妹は、急いで二人の元へ駆け寄った。
「ふ、不覚………」
そのまま、気を失ったかのように目をつぶる、大全!
 そして大地は、ふらつきながらもなんとか上半身を起し、頭上に漂う暗黒生物を再び見上げた。
「ふははは!! キサマらが、いくら王家と同じ技が使える影武者とはいえ、“神剣”を使えぬ貴様らが、余の実体にナノメートルほどの傷も付けられようか! 紫蘭の魂を頂いたら、すぐお前たちも殺してくれる! それまで、おとなしくそこで待っているがよい!!」
 暗黒龍王は、なおも紫蘭の体を空中に捕らえながら、不気味に光る赤い目で大地たちを見おろした!

 「!!!!!……」
なおも締め付けられ、苦悶の表情を見せる紫蘭!
 未来は、
「やめてえーーーーーっ!!!!」
涙を流し叫んだ!
 と、今度はその体を!
「きゃああっ!」
暗黒龍王の左手がすくった!
 「!!!! ほほう、? これはこれは…………感じる、感じるぞ、くっくっく。どういうことだ紫蘭? お前の婚約者は、そこにいる間抜けな“科学小娘”ではなかったのか? お前のその苦痛に身もだえする魂の中に、今泣き叫んだこの小娘の姿があるのは、どういう訳かな? くっくっくっく!!」
「…………!!!!!!」
暗黒龍王には、人の心を読みとる力があると言うのか?
「し、紫蘭………」
涙を流しながら、未来は紫蘭を見つめた。すると紫蘭もまた、苦しみの中、未来に向かって微かに口元を緩めるのだった。
 「……ふん、そういうことか……。どうやら二人の心には、お互いの存在があるようだな…。…………気に食わぬ…………、気に食わぬぞ人間ども!! 貴様らの、そのくだらぬ想い、今ここで苦痛の中に沈めてくれるわあ!!」
「きゃああああああ〜っ、あ、うっ……!」
暗黒龍王は、今度は未来の体を締め上げた!
 苦痛に身悶えする未来!
「くっくっく、どうだ紫蘭、小娘の苦しむこの姿は………。おお、伝わって来るぞ、王子よ、お前の怒りが! 憎悪が! 面白い、面白いぞ紫蘭、もっと怒れ、余を憎め!! こうなったら、お前より“数秒先”に、小娘を殺してやろうではないか? 今のその怒りを小娘の死と共に、悲しみ、苦しみ、絶望へと変えてやろうぞ! お前は悲嘆に包まれて、死の時を迎えるのだ! はあっはっはっは!!!!!」

 「……ぅぅうう、うあああーーーーー!」
言葉を無くしたはずの紫蘭が、そのあまりの怒りに叫び声を上げた!
 そして、体をつかむ黒い手に、
 バリバリバリバリィ!
激しい光を発し、爆発的な気を放出した!!!!
 大全や大地に劣らぬ、激しい副次的放電が部屋を包む!
 が、しかし! 
やはりその力は………、何事もなかったかのように、暗黒体へと吸収されてしまうのだった!
「あ、あっ……」
一方未来は、そのあまりの苦しさに、ガク、ガクッと痙攣(けいれん)を起こし始めた!
 もはや、ここにいる誰にも、なす術は無いのか?!!!! 

 この時!
「やっろーーーーっ!!! さっきは失敗したけど、今度は、これでどうだ! これでーーーーーっ!!!!」
雷羅は、再びブレスレットを構え、このにっくき悪魔に立ち向かった!!
 ズドン、ドカン、バヒョ〜〜ン……
そして、ブレスレットの武器をいくつも使った!
 しかし、ことごとく跳ね返され、吸収され、無力化されてしまう! やはりこの異生物には、なんの攻撃も通用しないのか?
「ちっくしょーーー!!」
雷羅は地団駄を踏んだ!
 と、その腕を、
「だ、大地……?!」
大地がふらつきながらつかんだ?!
「はあ、はあ、はあ…、雷羅、お前の武器は……、こうすると、役に、立つんだよおおっ!!」
 大地は、腕からブレスレットを抜き取り、
 「大地! な、何すん――?……」
スイッチを入れるや、暗黒体の頭目がけて投げつけた!
 ドッガーーーーーーン!!
ブレスレットは、見事に赤い目の真ん前で炸裂した!
大地は、さらに数個ブレスレットを抜き取ると、同じように投げつけた!
 ドド、ドドーーーーーンッ!!
さらに、立て続けに起こる爆発!
 「ぐわああ?! 貴様ーーーっ!!」
 目つぶし!
そう、大地は雷羅の武器を、武器としてではなく単なる爆弾として使用したのだ!
 これにはさすがの暗黒龍王も驚き、思わず未来を大地に向かって投げつけた!
「よっしゃあ!」
それを、大地は体ごと必死に受け止めた!

 「や、やったあ! 見たか雷羅! な、うまくいったろ♪」
大地は、未来を抱きかかえたまま、雷羅に右手の親指を立てて見せた。
「あ、あのな〜〜〜〜!!」
これには、さすがの雷羅も怒るに怒れなかった。大地の言うとおり、自分の武器が“一応”役には立ったのだから。
 大地は、急いで未来を部屋の隅に連れて行くと、そのままそっと床に寝かせた。
「未来、おい、大丈夫かしっかりしろ?」
「大…地…」
未来は、今にも気絶しそうになるのを必死にこらえ、大地の腕をぐっとつかんだ。
 そして、
「お願い……大地、紫蘭を………紫蘭を……助けて…………お願い、大地………紫蘭を、紫蘭を…………」
と、大地に懇願した。その目に、大粒の涙を滴らせ。
 「未来、お前……」
「お願いだよ、大地、お願い………お、おおお、おっおっおっ………………………」
くるおしいほどの嗚咽が、大地の腕に伝わる。止めどなく溢れる涙が、大地の腕を濡らしていく。
「未来………」
大地の胸に、未来の心が痛いほど伝わった。
 そう、今や彼女は、心の底から紫蘭のことだけを想っているのだ! 深く、深く、誰よりも深く…!!!!!!

 「分かったよ……、未来。」
大地は、未来の頭をそっとなでると、舞羅たちにその体をゆだねた。
 その頭上で!
「小僧、よくもやってくれたなあ!」
暗黒龍王が怒りに震え、暗黒体を激しく沸騰させていた!!
 「こうなれば、貴様も惨めに殺して………?!! ん? な、なんだ貴様、剣をどうするつもりだ?!」
大地は、まるで暗黒龍王を無視するかのように前を横切ると、そのまま承認の台へ向かった!
 そして、再びその上に飛び乗ると、また草薙の剣に手を掛けた!!
 「!!!!!」
一瞬驚く暗黒龍王!
「ほう…、影武者のお前が、その剣に手をかけてどうしようというのだ? 面白い、継承者でもないお前が、その神剣を抜こうとでも言うのか? いいだろう、余の目の前で抜いてみよ! そして、見事使いこなしてみよ! どうした、どうした? はあっはっはあ!!!!」
 大地の正体を、紫蘭の前転生体と知らない暗黒龍王は、完全に大地を小馬鹿にしていた!

 「イヤアアアアアアーーーーーー!」
裂帛の気合いと共に、剣は再び大地の“気”に包まれた!
 すると、剣は、先ほど同様激烈な光を発しながら、またゆっくりと抜け始めたのだった!
「な、なにい?!」
この光景に、暗黒龍王は驚いた!
 ヤツは、自分がここへ駆けつける前に、大地が一度チャレンジしていたのを知らないのだ!
 「なぜだ? なぜ抜ける?!!」
そして慌てふためき、大地に向かって、
 グバババババババ……
体から、激しく暗黒体を噴射した!
 だが、大地の“気”によって光る神剣は、それを寄せ付けない!
大地の体は剣の光に包まれ、光は暗黒体を瞬時に蒸発させていくのだ!
 「おおーーーーのれーーーー!!」
暗黒龍王は、自分の攻撃が聞かないと知るや、いったん後ろへ頭を振ってかま首をもたげ、まるで蛇が獲物に襲いかかるがごとく、真っ赤に燃える巨大な口を開けながら、もの凄い勢いで大地めがけ襲いかかった!
 が、寸前!
「そうはさせるかあ!」
雷羅が右手をかざし、大地の前で立ちふさがった!
「こざかしや! 二人まとめて、食いちぎってくれるわあ!」
巨大な口は、丸ごと飲み込む勢いで二人に迫った!!
 と?!
 ぐしゃああああっ!!
その口は、雷羅の体数センチ手前でつぶれ、急停止した!?

 「どうだ、時空間バリアーだぜ! これならさすがのお前も、こっちへ来れないだろう!」
ブレスレットに手をかけ、雷羅は必死に踏ん張った!
 雷羅は、自分の装置が物理的にヤツに通用しないことを悟り、最後の防御手段としてバリアーを張ったのだ!
「!!……。くっくっく、どうかな? どうやらそのバリア、かなり粗雑であちこち隙間があるようだが?」
 ブシュウッ!
目の前に開いた巨大な口の中で、今度はその真っ赤な舌が、イソギンチャクの触手のように変化した!
 そして、
ぐじゅるじゅる!!!
と、いやらしい音をたてながら、あちこちでバリアのわずかな隙間を見つけては、まるでミミズが穴からしみ出すように、じわじわと進入してきたではきないか!
「う、うわああ、気持ち悪い、寄るな、や、やめろーーーーーーっ?!」
雷羅が叫ぶ!
 が、しかし、触手は雷羅にからまりつき、
「ぐ、ぐげっ!!。」
今度はその体を、そして喉を締め上げた!
 「ら、雷羅…!」
「だ、大丈夫だって、大地、それより、は、はやく剣を、草薙の剣…を……ゲホホッ…」
強がるものの、その顔色はだんだん悪くなっていく!
「う、うおーーーーーーーーっ!」
大地は、さらに気を高めた!
 しかし…!
 バチイーーーーーーーーーン!!!
またもや剣に強烈な火花が走った! またもや剣は、大地の魂を拒否したのだ!
 が、しかし大地は、今度は吹っ飛ばされなかった!
体中の骨という骨、筋肉という筋肉が“ミシミシ”ときしみ、脳髄を貫くような衝撃が大地を襲ったが、歯を食いしばり、全身にあらんかぎりの力を込め、必死に耐えていたのだ!
 「大…地……」
この間にも、雷羅の様子はますます悪くなり、さっきの未来同様、体を痙攣が襲い始めた。
「うおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
大地はさらに、力の限り叫んだ!
 と?!
 カアアッ!
突然、巨大な気の光球がその体を包み込んだ!
 そして!
 ド、ドーーーーーーーーーーーーーン!
光球は激しく爆発し、周りに宝石をまき散らしたかのような光の玉となり、剣の衝撃を跳ね返したのだ!!
 それとともに、
 バキ、バキイ!
承認の台に縦横に亀裂が走った!
 そこから!
 ビカーーーーーーーーーーーッ!
内部圧縮されていた大地の気が、超新星爆発のように激しく噴出した!
 「ば、馬鹿なーーーーーーっ?!」
暗黒龍王は、この信じられない出来事に愕然とした!

 遂に…!
遂に剣は抜けた!
 遂に、遂に剣は、大地の手により抜けたのだ!!!
剣は激しく気を噴出し、瞬時に、舞羅にからみつく触手を蒸発させた!
そしてなんと、大地の体をそのまま吹き出る気の反動で、まるでロケットエンジンのように空中に持ち上げたのだった!
 「いやあああああああああーーーーー!!」
大地はこれを利用!
 そのまま剣を腰の右後ろに構えると、
 ズパアッ!!
暗黒龍王目がけ、下から一気に切り上げた!
「グワアアアア〜〜〜〜〜〜〜〜〜?!」
分断される右腕!
 紫蘭をつかんだ腕が、まるで大根でも切るかのように、その付け根から暗黒体もろとも吹っ飛んだ!
そして大地は、そのまま暗黒龍王の頭の上に達すると、
「たああああああーーーーーーーーっ!!」
返す手で剣を振り下ろした!


 「急げ、急ぐのだーーー!」
イグアノ族族長ンタラチュラは、街の崩壊に驚き逃げ出した兵士を再び結集させ、自ら先頭に立って宮殿へと急いでいた!
 そして街の大通りを駆け抜け、王宮中庭からピラミッドへ飛び込み、やっと王家承認の間へ辿り着いた時、
「な、なんと!!!!!………」
彼は、信じられない光景を目にした!
 自分たちの“神”!
この不浄なる宇宙を消し去り、新しい世界へ導いてくれる“絶対の神”が、なんと目の前で、一人の剣者にやられようとしていたのだ!!
 彼の眼前で、紫蘭をつかんだ神の片腕が吹っ飛び、落下しつつあった! さらに、我らの神聖なる神の頭上に、悪魔の剣が振り下ろされようとしていたのだ!
 「ああっ、暗黒龍王様ーーーーー!」
族長が叫ぶ!!
「グアーーーーーーーーー!」
闇の王は、迫り来る剣に真っ赤な口を開け、恐怖の咆吼を発した!
 そして、今まさにその剣が、再び暗黒龍王を切り裂こうとした、
その時!

「!!!!!!!!」
時間が……………………………
 止まった?!
誰もが、この暗黒生物の最期を予想したとき、まるで時間が止まったかのように、大地の剣がストップしたのだ!
 瞬間冷凍したかのように、部屋の空気が凍てついた!!!
その空気を!
 「こ……………、孔明ーーーーーーーー!」
母親の絶叫が振動させた!
 彼女の目に飛び込んできた光景、それは、とても信じられないものだった!!
一瞬前までそこには、確かに赤い目と口を見開いた暗黒生物の頭があった!
 が、今そこには、暗黒龍王の腕につかまれた、愛する息子の姿があったのだ! その皮膚に触れる寸前で止まった、大地の剣と共に!!
 次の瞬間!
 どぴゅう!
暗黒龍王の体から、切り落とされた腕が瞬時に再生した!
 かと思うと、
 バグウ、バシイ!
腕は、目にも止まらぬスピードで大地を部屋の隅へはじき飛ばし、駆け寄る孔明の両親を入り口の方へ吹っ飛ばした!
 この時、
 ドスウッ!
大地に切り落とされた龍王の腕が、紫蘭の体をつかんだまま床に落ちた!

 そう、全ては、一瞬の出来事だったのだ!
 「ああ…」
未来は、薄れゆく意識を奮い立たせ、ただただ紫蘭だけを見ていた。
 そして、大地に暗黒の腕が切り落とされ、紫蘭が無事だということを確認すると、安心したように気絶した。
 「どういうことだ……。お前は、なぜ剣が使える? 貴様は一体、何者だーーーーー!!」
暗黒龍王は、よろよろと立ち上がり、剣を前に構える大地に吼えた!
「はあはあ、……オレか? …オレは、はあはあ、……オレはなあ、ずーっと大昔から“さらわれ”…じゃなかった、“召喚”されてきた、紫欄の前転生体にして天昇龍剣伝承者、綴目大地、だあーーーーーーーーーっっっっ!」
「な、なにいいいいいいっ!!!!!!」
 狼狽?!
 この時、一瞬だが、大地の目に、この恐怖の魔王が驚きと共にうろたえたようにも見えた! いや、それともそれは、単なる気のせいなのか?!

 「…………くっくっく。そうか、なるほどな…、そういうことか…。よもや、そんなウラ技があったとはな……。おっと動くな! 動くと、このチビをプチッと潰すぞ!」
 龍王は、今度は孔明をみんなの前に差し出してみせた。
「い、いててててて! あ、あほう、何がプチッや、ノミと違うんやど、オレはー!」
「やかましい! 族長ンタラチュラよ、よいところへ来た! 再びその夫婦を捕まえるのだ! たとえ別の継承者が現れたところで、岩戸に登録されし魂は依然として、紫蘭のもの! このまま二人を飛鳥に連れて行き、再び研究を続けさせるのだ!」
「は、ははーっ! それ、兵士ども!!」
族長は、目の前に倒れている孔明の両親を、またもや兵士たちに捕まえさせ、外へと連れ出した!
 「くっくっく。残念だったな紫蘭! わざわざ“過去の自分”を連れてきてまで余を倒し、自らの魂を取り戻したかったのだろうが、お前の魂の残り半分は、始めからここにはないのだ!」
「!!!!」
「驚いたか? はあっはっはっは、知りたいか?どこにあるのか知りたいか? では教えてやろう、お前の魂はな……、お前の魂は最初から、遥か“飛鳥”の地にあるのだ!」
「!!!!!!!」
愕然とする紫蘭。
 その体を支え、
「そ、それはいったい、どういう事なのですか?」
舞羅が叫んだ!

 「くっくっく、この承認の台と“天の岩戸”が、実は地下の古代通信回線で結ばれているように、この魂を復元する装置もまた、向こうにある“同じ装置”に連動しているのだよ! これがどういう事か分かるか? つまり、ここで無理に紫蘭の魂を奪わずとも、向こうで魂の残り半分を復元すればいいのだよ。それはすなわち、“岩戸に登録された鍵を復元する”ことに他ならないのだからな!!」
「ああっ…………!!」
 そう、そうなのだ!
舞羅は気付いた、自分たちにとっては、この“承認の台に突き刺さった剣が暗黒龍王を倒すために必要”なのだが、龍王にとって必要な物は、最初から“岩戸の鍵である紫蘭の魂だけ”なのだ!
 そして、その復元作業をここでわざわざ行っていたのは、最初から、自分たちを捕まえるための罠だったのだ!!
 「くっくっく、分かったか! どのみちあと一週間もすれば、確実に天の岩戸は開くのだ! 紫蘭、そして過去の継承者よ、それまでに、余を倒しに来れるものなら来るがよい! ただし、ここから無事脱出出来たならなあ! はあっはっは!!!」
 そう捨てゼリフを残した、次の瞬間!
暗黒龍王は、大地たちの目の前から瞬時に消滅した!

 大地たちは、あわててあたりを見回した!
だが、つい一瞬前まで闇で埋め尽くされていたこの部屋は、完全に元の姿へと帰っていた!
「こ、これは………」
いくら見回しても、同じ事だった。
 そう、ヤツは孔明の体もろとも、この場所から完全に立ち去ったのだ!
後に残るのは、暗黒体を蒸発させながら元の肉片へと還っていく、床に転がるヤツの片腕!
 そして………
そして、“三万のイグアノ兵〜?”!

 「うわーーっ、さんざん苦労して、やっとここまでやって来たのに、これじゃ、何の意味もないじゃんかよーっ!」
「ほんとでちゅう〜〜〜〜!!」
大地、舞羅、愛羅は、あわてて物置に飛び込み、またもやリヤカーを持ち出すと、気絶しかかっている紫欄、気絶している大全、未来、雷羅をドドッと積み込み、迫り来るイグアノ兵から遁走した。
 「はあ、はあ、多分、外も兵士で一杯ですよ。俺たち、どうすりゃいいんですかあ??」
大地の言うとおり、宮殿の外は足の踏み場も無いくらい、ぎっしりと兵士が集結していて、もはや外に逃げ場は無かったのだ!
 「奥ですわ。奥に逃げましょう!」
「こっちが、本殿につながってまちゅう!」
右に左に、複雑に入り乱れた通路を抜けると、大地たちは宮殿の頂点にそびえ立つ王宮本体、金色に輝く巨大な“五百重塔”(ごひゃくじゅうのとう)の一階広間に出た!
 そこはまるで、ホテルのロビーに土産物の物産館を合わせたような場所だった。
 そして、
 「あの中ですわ!」
と、舞羅の指さす部屋に大地たちは飛び込んだ!
そこは金色に輝く小部屋で、舞羅はすかさず入り口横に埋め込まれた、五つの宝石の一番上を押した。
 すると、左右から扉がゆっくりと閉じ、
 ガクン!
と、衝撃が小部屋を揺らした?!
 「はあはあはあ………え? エレベーター?…」
かすかに加重力を感じ、部屋を見回す大地。
「ピンポーンでちゅう。♪ しかもこれ、緊急脱出装置にも、なってるんでちゅよぉ♪」
そう言うと愛羅は、ちょうど目の高さにあるさっきの宝石横の蓋を開け、中のレバーをグイッと引いた。
 と、今度は、
 ど、どん!!!
という衝撃が、部屋を襲った!
 それとともに、体にかかる加重力がどんどん、いやメチャメチャ強くなっていくではないか!
「ど、どうなっているんだ、一体〜?」
 「ゴホ…。このエレベーターは、超伝導リニアで動いてるんだよ。で、緊急脱出時は地下の超伝導バッテリーから、一気に、数万アンペアの巨大電流が供給されるようになっているんだ。」
 目を覚ました雷羅が、咳をしながら説明すると、少しふらつきながらリヤカーから降りてきた。
「お姉ちゃま、気がついたでちゅか?!」
「え、あれ、雷羅、もう大丈夫なのか?」
 大地は、心配そうに雷羅を見つめた。
「ああ! あったりまえだろう、大地! あたしゃ、丈夫と天才と美貌が取り柄の“美少女”だぜ。へ、へへん♪♪」
そう言うと雷羅は、大地にウインクしながら、床にあぐらをかいて座った。
 その背中は弱々しく、強がってはいても、まだ相当参っているのに違いなかった。
「な〜にが美少女でちゅかね〜、ねえ舞羅お姉ちゃま?」
これに舞羅は、安心したようにクスクスと笑ってみせた。
「そうか、良かった……。」
そして大地も、ほっとした。

 「おっと雷羅、そういや、さっきは危ないとこサンキューな。お前のおかげで、この草薙の剣を無事抜くことが出来たよ。」
「え? いやあ、気にすんなって。それより、ついにやったな大地! あたしは、大地のコト信じてたぜ♪ あたしこそ、サンキューな。」
雷羅は、大地の手にある草薙の剣を見、大地を見つめた。
 大地もまた嬉しそうに雷羅の顔を見つめた。
 が、
大地はすぐにハッとして、もう一度部屋を見回した。
「その“緊急電流”ってのが流れると、ここは一体どうなるんだ?」
「どうなるって、通常の何倍もの加速度で五百階分、雲の上まで急上昇するんだよ!」
「ゴクリ…、じょ、上昇して、その先は?…」
「その先……?」
 姉妹は、ハテと言った表情で顔を見合わせた。
「さあ………、そういや、行き先なんて誰も知らねえなあ? なんせ、これって、一度も使われたことのない装置だからなあ。実は、設計した先々代様以外、どうなるかは誰も知らねえんだよ。」
「な、なに〜っ、そそそ、そんな無責任な〜?!」
そのあまりのいい加減さに、パニクる大地!
 その頭に! 
 バコーン!
と、杖が飛んだ!
「あいたーーーーーーーっ! なななな?」
「うろたえるでないわ! それでもその、神剣虎鉄、いや、草薙の剣を引き抜き、天晴れ紫蘭を助けた剣の継承者か!」
頭を押さえながら大地が振り返ると、今度は大全がリヤカーから降りてきた。
「や、や〜、じいちゃんも気がついのかい? よかった〜。し、心配したぜ! はは……」
 スコーン!
大全の杖が、また脳天に刺さった。
「て〜〜〜〜!!……」
「フン、嘘をつけ嘘を! それにワシゃ、最初から気絶なぞしとらんわい。きゃつの毒気に体がしびれ、動けなかっただけじゃ! それより大地、この先どうなるかは、何も案ぜずとも良いぞ。素直な心で、先々代王を信頼するのじゃ、先々代王をな!」
「な、なんで? 何を根拠にそんな?」
この問いに大全は、背筋を伸ばして床に静かに正座すると、大地の目を見据えながら言った!
「なぜなら、先々代王は、人格品格完璧なこのワシと、う〜り二つだからぢゃ!!!」
「なにおーーーーーーーーっ!!!!」
 すっこーーーーん!
と、大全の言葉に大地がずっこけるのと、
 どっかーーーーーーーん!
と、エレベーターが五百重塔一番上の屋根を突き破るのが、ほぼ同時に起こった!
 「な、なんだこりゃ〜〜〜〜!」
「目が回るでちゅう〜〜〜〜〜!!」
 エレベーターは、まるで大砲の弾のように勢いよく空中へ飛び出すと、バランスを崩してきりもみしながら、
 “ビョーッ”
と都の上空を横切り、遙か地平の彼方へと超高速で飛んでいった!
 「な、なんと……????!!!」
イグアノ族族長ンタラチュラ、三万のイグアノ兵、そして郊外に避難した都の住人たちは、流れ星のように最後を“キラッ”と輝かせ、瞬く間に消えゆく飛行物体を、唖然呆然愕然としながら見送った。