第七章慣性消滅、人間のやることではないのう-2
七、慣性消滅、人間のやることではないのう-2

 「いやん、プクプク……。そんなにジャレつくんじゃないよ。あん、そんなにペロペロ顔を舐めちゃ……くすぐ、くすぐった……………l?」
「気がついたかお姉ちゃん。ベロベロ〜」
岩陰に寝かされていた雷羅が目を覚ますと、目の前に、舌を出しよだれを垂らした孔明の顔があった。
「ギャ〜〜〜〜! て、てめえ、あたしの顔を舐めてやがったなあ! ぺーっぺっぺ! う……、ま、まさかお前、あたしのこと食おうとしてたんじゃ……!!」
雷羅は、慌てて起きあがった。
 「何言ってんねん。お姉ちゃんの目を覚まさせるために、舐めたんやないかー! もっとも、結構うまそうやったけどな……」
「目を覚まさせるう?……………あ、そ、そうだ、大地のヤロー、あたしのことを………」
 雷羅は辺りを見回し、
「あ、あそこか!」
頭上に飛び交う光を見つけ、一気に走り出した!
 が、
「やめるんや姉ちゃん!」
「な、なに?」
孔明がその手をつかみ、引き留めた!
「何のために大地兄ちゃん、雷羅姉ちゃんの気い失わせた思うてるねん! それは、姉ちゃんを危険な目に会わせたくなかったからやないか!」
「!!!……………」
その言葉に、雷羅は、立ち止まったまま動けなくなってしまった。
 雷羅は知った、大地はまたも“こんな目に遭わせている張本人”の自分を、守ろうとしてくれたのだ!
「ほら、分かったら、とっとと引き返すんや。もうすぐ飛行船にガスの充填も終わるよって、戦いよりも離陸の準備を手伝ってんか!」
手を引く孔明に雷羅は素直に従い、家の方に向かって走り出した。その背中に突き刺さる、戦いの音と悲鳴を聞きながら!
 が、その中に!
「うわあああーーーーーっ!」
大地の悲鳴が混じった!
「だ、大地ーーーーーーーっ?!」
瞬間、振り返る雷羅!
 暗闇の中、その目に映ったものは!!

 直前、イグアノ兵の中でもひときわ体のでかいイグアノ兵隊長が、一匹のダクラを頭上に持ち上げ、
「これでどうだーーーーーー!」
大地たち目がけて、放り投げたのだ!
「し、しまったあ!」
いくら天昇龍剣の使い手二人とはいえ、吹っ飛んでくる何トンもある巨大なダクラではどうしようもない!
 避けきれず、二人とも下半身を、その胴体の下敷きにされてしまった!
そこへ、隊長が近づく!
「があっはっはっは! チョコマカと小うるさいやつらめが! それではもう、どうしようもあるまい? 王子はともかく、今度こそキサマを叩っ殺してくれるぜ!」
 隊長はまず、昼間殺し損なった大地目がけ、こん棒を振り上げた!
絶体絶命!!!!
「!!!!」
大地はなすすべもなく、たまらず目をつぶった!!!

 が!!!!!
「“慣性消滅装置・雷羅スペシャル!”でえーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」
崖下では、それより素早く、雷羅がブレスレットをかざしていた!
 ビカアアーーーーーーーーーーっ!!
瞬間、クレーター全体を明るく照らすほどの光が、ブレスレットより放出された!!
 慣性消滅装置!
それは物体が動き続けようとする力、またはそこに留まろうとする力、“慣性”を消し去る機械!
 それはまさに、雷羅一世一代の大発明だった!!
イグアノ兵隊長の振り下ろした棍棒が大地の頭に当たるより一瞬早く、そのスイッチは入った! そして、こん棒が大地の頭に叩きつけられた、
 その瞬間!!
 「????????????」
叩かれたはずの大地に、何も衝撃が伝わらなかった?! 
 そう、こん棒は、何の衝撃も無しにその動きを止めたのだ!
それはこん棒の、“動き続けようとする慣性”が、雷羅の装置により消え失せていたからに他ならなかった!
 「ぐ、ぐああ? ど、どういうことだこりゃ〜〜〜! くの、くのくの〜〜〜〜〜〜っ!!」
 隊長は、この異常事態に驚き、何度も繰り返し大地の頭を叩いてみた!
が、しかし、慣性の消えた世界では、それは無駄なことだった。何度叩いても、こん棒が大地の頭に触れた瞬間、ポコポコポコという音すらせず、それはストップするのだ?!
「??????? な、なんかよう分からんが、今のうちに……!!」
叩かれている大地もまた不思議だったが、その隙にダクラから自分の足を引きずり出すと、紫蘭の体も引っ張り助け出した。

 「す、すごいやないか、姉ちゃん!」
雷羅のブレスレットから発せられた、魔法のような威力に孔明は驚いた!
「やったね! おい見たか孔明、天才雷羅様一世一代の大発明、“慣性消滅装置・雷羅スペシャル”の威力をよ! がはははははは……!」
 またも、腰に手をあて威張る雷羅。
「ひゃー、たまげた! ほんまにすごいわ! 慣性を無くした上に、岩を吹っ飛ばすなんて!!」
「がはがはは……は? …………な、なに? 岩? いや、この装置にそんな作用は………あ、あらーーーーー???」
雷羅はあわてて回りを見回した。
 すると孔明の言うとおり、そこら辺に転がっていた岩があちこちで、ゆっくりと、ゆっくりと、空中に浮かび上がってるではないか!
しかも、それは周りだけではなかった!
 自分の足下の岩も………!
「げ、こ、こりゃイカン、パワーが強すぎて、反作用が出てしまったぁ〜〜〜〜〜〜〜!」
そう、動くものは確かに動かなくなったのだが、今度は、動かないものが勝手に動き始めたのだ!
 地面は、
 ガラガラ、ドドド………
と、大きく揺れ、空気はあちこちでバチバチと火花を散らし、いつの間にか、超巨大クレーターの中は、装置の“反作用”で満たされていた!!
 『こ、これは、さてはまた雷羅が………!!!!』
大地たちの心の中に、共通の推測が浮かんだ!
 当然のごとく!!!
 
 『ぎゃあああ、ど、どうなってるんだこれはーーーーーーーーーっ?』
一方イグアノ兵たちは、この突然の異常事態にパニックになっていた!
無理もない! クレーターのそそり立つ断崖が、突然大地震のように揺れ、暴れ、ガラガラガラと一気に崩壊を始めたのだから!
 「た、隊長、あれをっ!」
その時、彼らの目の前に現れたもの!
 それは、舞羅と愛羅、そして未来が乗った、飛行船“白岳号”だった!
 「みなさ〜ん、今の不思議な出来事で、納屋が壊れ、勝手に離陸してしまいましたわ〜っ!」
下の操縦室の窓から、舞羅が手を振った。そして未来は、
「二人とも、これにつかまってーーーーっ!」
と、空中に漂う岩の間に縄ばしごを投げ降ろした。
 未来は、この岩の一つに、雷羅と孔明がしがみつき乗っているのを発見したのだ。
 「ほら、もう少し…」
雷羅は孔明を抱きかかえると、近づく縄ばしごに掴まらせた。
 が、その時!
「あーっ!!」
岩は突然向きを変え、雷羅を空中へと置き去りにして飛び去ってしまった!
「お、お姉ちゃーん!!」
孔明の必死の呼び声も空しく、雷羅の体は、再び闇の底へと消えていった…。

 「雷羅ーー!」
この時、大地と紫蘭王子は、上から一定の速度で落ちてくる雷羅を見つけた。
 慣性が無いため、重力による落下加速度も無く、雷羅はゆっくりと落ちてきたのだった。二人は、その体を無く受け止めた。
 「た、助かったあ。サンキュー、大地い。♪♪」
雷羅は、思いっきり大地に抱きついた!
「ば、ばか、そんな場合か?!」
大地は舞羅を地面にたたせると、頭上に漂う岩石の、さらに上に浮かぶ飛行船を見上げた。
 「よし、あの空中に浮かぶ岩を利用しようぜ! 岩から岩へ飛び移るんだ!」
そう言うと大地は、思いっ切りジャンプした!
 が?!
「あ、あれれ????」
慣性が消えた世界では、力の作用が消えた瞬間、あらゆる動きは停止してしまうのだ!
 ということで、大地がいくらジャンプしても、足は地面から一ミリも離れることができないのだった!
「げげ、こりゃアカン! どうすりゃいいんだよ、一体〜〜〜?」
 「相変わらず情けないのう、大地!」
「じ、じいちゃん!」
声のする方を見て、大地は驚いた。
 なんと、大全が岩の一つに乗って杖を構え、自由自在に空中を飛んで来たのだ!
「ほれ、お主らもこれに乗るのじゃ!」
大全は、岩を三人の目の前に止めた。
「じ、じいちゃん……、まるで孫悟空みたいだな。そういや、もともとサルみたいな顔だけど。うぷぷぷ…イデ〜〜〜!」
大全は、よけいな一言を言う口をひねり上げると三人を岩に乗せ、
「よし、落ちぬよう、しっかりつかまっておれよ!」
杖の先から、“気”のビームを地面めがけて放出した!
 そう大全は、慣性の無い中において、連続放出する気のエネルギーを自らの推進力としていたのだ!
「ひゃー、やるねえ、大全のじっちゃん!」
感心する雷羅。
「なんのなんの、これくらい朝飯前じゃ。かっかっかあ!」
 四人を乗せた岩は、これまたそこに留まろうとする慣性も無いため、瞬時に空中へと上昇した。

 こうして大地たちは、飛行船の所まで上昇すると、竹製の操縦室に、無事乗り移った。
「うわー! こりゃまた、大変な事になってるなあ…。」
大地たちは、窓から下を見てあらためて驚いた。
 暗闇の中、あの超巨大なクレーター全体が、まるで砂山を崩すかのように崩壊していたのだ。断崖は震え、崩れ、あちこちで水が噴出するかのように岩が噴き出し、舞い上がっていた。
「あ、いけねえ! あたしとしたことが、電源切りゃよかったんだ!……スイッチ・オフと!」
雷羅はブレスレットのスイッチを、プチッと切った。
 瞬間…………!
クレーターを満たした力場異常が、全て元に戻った!?
 物質の慣性は蘇り、狂ったように飛び交う岩もまた正気を取り戻したのだった!
「どわあああ〜〜〜〜〜、ど、どうなっとるんだあああ〜〜〜〜〜〜〜っ????」
 ドガラガラガラ…!
イグアノ兵は、今度は、雨あられと降り注ぐ岩を浴びるはめになり、大慌てでクレーターの外へ避難した。
 そして呆然と見た。崩れた岩石でクレーターが埋め尽くされるのを、自分たちの歴史ある街が消滅して行くさまを!
 そして飛行船の上で、大地たちもまたこの様子を見ていた。
「ひっでぇー。いくら何でもこりゃ、やりすぎじゃないのかあ…………」
クレーター自体が消滅するという、あまりのものすごい光景に、思わず大地がつぶやくと、
「ほんとに。あそこから逃げ出せればいいんですから、何もここまですることは………」
「そうでちゅ。これはあんまりでちゅ……」
「とても人間のやることではないのう……」
「雷羅さんって、コワイんだあ………」
「あ、あんまりやあ。お、オレの家が、故郷があ〜…」
「…………………」
と、全員がそれに同意(非難)した。
 「し、仕方ねえだろ、まさかあたしも、こんなことになるとは……………。えーい、くそ! い、いいじゃねえか、みんな無事、脱出できたんだからさあ〜〜!!!」
雷羅は顔を赤らめつつも、開きなおった!
 ………もっとも彼女には、開き直るしか手は無いのだが。
 「そうですわね……。何はともあれ、わたくしたちこれで、都へ向かうことが出来ますものね………。孔明ちゃん、あなたの最初の計画通り、わたくしたちこのまま砂漠越え出来ますの?」
孔明は、雷羅にそう尋ねられると、竹で編んだ操縦室前部の、これまた竹製の操縦席に座った。
 その前には、同じく竹製の小さな台があり、上にたくさんのメーターやレバー類が、積み上げるようにして所狭しと並んでいた。
それらを一つ一つ点検した孔明、
「水素充填率、九十八パーセント、水素ガス発生装置、圧力正常………と。バッチリや♪ 大丈夫! オレら、明日の朝はもう都やで!!」
と言って、右手前にあるレバーを引いた!
「水素エンジン、点火!」
すると、操縦席後部に備え付けられた金属タンクに酸が注入され、内部で水素ガスが新たに発生した。
 このガスはパイプを通り、防爆管を抜け、船外に取り付けられたエンジンで、
 ブルン、ブスブス、ブルルルル…
と、音をたて、プロペラを回す動力に変わった!
「都へ向け、白岳号、発進や!!」
こうして、一行を乗せた飛行船は、都へ向け満天の星空を突き進み始めたのだった。


 空高く突き進む飛行船は、まるで星の海に浮かぶ小舟のようだった。
その星の海に向かい、
「天にまします我らがウルトラの父と母と精霊さま………、何とぞ我らの願いを叶えたまえ…………南無八百万の(なむやおよろずの)………」
と、舞羅は両手を合わせ、しばしの祈りを捧げるのだった。
 そして、それが終わると振り返り、後ろで不思議そうに見ていた大地を見据えた。
「いよいよ、暗黒龍王との対決の時が近づきました………。大地さま、お覚悟はよろしいですか?!」
「は、はあ〜…? ………あの〜、“お覚悟”って……言われましてもぉ〜…‥」
突然の質問に、大地は頭をかきながら、しどろもどろになった。
「だいいちオレ〜、元々、無理矢理ここに連れてこられたんだし、……あんまりピンとは〜……」
 と、その後ろから!
「えーい! なーにを今さら、腑抜けた事を言っとるかあ!」
 パカーン!
大全の杖が、大地の脳天に飛んだ!
「どわあいたーっ! な、なにを……」
「たわけーーい!」
振り返る大地に、大全の顔が迫った!
 「よぉいか大地! この地球の、いーや全宇宙の命運は、今やお主のその両肩にかかっておるのだぞ! この期に及んでは、死ぬ気で覚悟を決めぬかあ!!」
「あ、あのなーっ、くそじじい! “この世界”はオレたちの生きてた、ずーっと後の世界なんだぞ! ここではもう、とっくにオレたち死んでんの! そんな超未来世界の運命に、死ぬ気もクソもねえだろおが?!」
大地はズキズキする頭を押さえ、言い返した!
「そ・ん・な屁理屈を言うのは、どの口ぢゃあ〜! この口か、え? この口かあ! 人生、常に大事なのは、未来のために今をどう生きるかじゃ! 今は、たまたまその未来とワシらの時間が重なっておるに過ぎぬ! 今を一生懸命生きようとせぬヤツが、偉そうに屁理屈こねるでないわあ!」
「いででで、口をひねるな口を、屁理屈はどっちだ、このくそじじい〜!」
「なんじゃ、お主、ワシに逆らうかあ!」
「おーっ、逆らったがどうした○◇□………」
「☆☆▽「□*♭♯♂♀◎◯…………」
 そんな、いつもの祖父と孫のケンカを船室の後ろで聞きながら、未来は、並んで座っていた紫蘭の横からそっと離れた。
「…………?」
その様子に、首をかしげる紫蘭。
 未来は船室横に開けられた窓に近づき、窓枠に手を掛けると、
(そう…、ここは、あたしたちが死んだ、ずーっとあとの世界なんだ………)
と、ため息を一つついて、外の景色を眺めた。真っ暗な中眼下には、星の光に照らされて相変わらず、ずっと遠くまで、果てしなく砂漠が広がっている。
 と、その目の前を、
 ピーヒョロローーー
ゆっくりと、一羽のでかくて黒い鳥が追い越して行った?!
「????、鳥のような、コウモリのような??…………」
未来が、不思議なその鳥を見ていると、
 「あれは、伝書ハドですわ!」
と、横から舞羅が鳥の足を指さした。
「伝書ハド?」
 見るとそこには、確かに、手紙を入れるための小さな筒らしき物が、くくりつけられていた。
「ほんとだ! きっと、イグアノ族から暗黒龍王への報告でちゅ!」
愛羅も未来の横で背伸びをすると、窓に手をかけ鳥を見た。
 大地と大全もまたケンカをやめ、前方に消えゆく、この不思議な鳥の影を見送った。
 「う〜む……、こりゃあ、この飛行船で出発した時と同様、すんなり到着、というワケにはいかんようじゃなあ〜……。はてさて、この先どうするかの、舞羅どの?」
「そうですわねぇ〜。どうすると言われましても、こんなときは…………………そう、とりあえず、お食事にでもしましょうか♪♪ よく考えてみましたら、わたくしたち、まだ今日は一食しか食べてませんわ♪♪♪♪」
「おお、そういえば、そうじゃったのーー♪」
 これには一同、
 『そうですねーーー♪♪♪♪♪』
ウンウン、と、うなずいた!
舞羅たちは出発前、飛行船にガスを入れている間に、狭い船内いっぱいに“これでもか!”と食料を積み込んでいたのだった。
 一行は例によって、当然のごとくご馳走を堪能した。
そんな一行の姿に、
「き、緊迫感が〜…。こんなにのんびりしていて、ホンマに大丈夫かいな〜? はは……」
と、半分あきれつつも、なぜか頼もしく感じる孔明だった。

 一行は、無事食事も済むと、明日に備えすぐ眠りについた。
と言っても、狭い操縦室には機械類が満載されていて、それらのわずかな隙間の床に、ジグソーパズルでもはめ込むようにして、雑魚寝したのだが。
 孔明も、飛行船が自動操縦でちゃんと飛ぶことを確認すると、いつでも起きられるよう操縦席で眠りについていた。
こうして飛行船は、寝静まる一行を乗せて、
 プルルルルルルルル……
と、エンジン音を響かせ、ひたすら星の海を飛行するのだった。

 そして、深夜となり、みんながぐっすりと寝静まったころ、
「…………」
雷羅が目を開け、ゆっくり起きあがった。
 雷羅は辺りを見回し、みんなが熟睡しているのを確認すると、四つん這いになり、ゆっくりと静かに大地の横へと移動した。
そして、大地の横に並ぶと、そのままそっと添い寝をするのだった。
「大地……」
雷羅はそうつぶやくと、大地の胸にそっと手をあて、そこへ静かに頬を乗せた。
 そしてまた、船内にエンジン音だけが響く時間が訪れた……。
しかし、
 トク…、トク…、トク……
雷羅の耳にだけは、大地の胸の鼓動が伝わっていた。
 雷羅は、
「…………………………」
目をつぶり、じっと大地の命の音を聞き続けるのだった。
 そして、その目には、うっすらと涙がにじんでいる………。
それは、昼間は決して見せない、表情………
「うっ……」
やがてあふれる涙が、ほおを、手を伝わり、大地の胸に落ちていく。
 そして、
「…………………」
声を出すのをこらえ、雷羅は泣き続けるのだった。
 その頬を、
「!!」
大地の手が、やさしくつつんだ。
「な、なんだ大地、起きてたのか?」
涙をぬぐい、あわてて離れようとする雷羅。
 が、大地がそれを、
 キュッ!
と、引き止めた!
「!………」
雷羅は、おとなしく、すぐにそれに従った。
 トク…、トク…、トク……
彼女の耳に、再び大地の鼓動が伝わってくる。
 「…お前も……不安なのか?」
「お前もって、…大地も?」
「うん……。舞羅さんやじいちゃんには、あんなこと言ったけど…、ほんとはな……」
「そうか…そうだよな…………………」
雷羅は、頭の上にある大地の手に自分の手を重ねると、ギュッと握りしめた。
 大地もまた、それに応えやさしく握り返した。二人には、あたたかい手のぬくもりが、お互いの心を全て現しているかのように感じた。
 そして、無言のまま二人の間に、長いような、短いようなひと時が流れた……。
 そして………
「大地……、あのときな……、あたし……、死ぬときは一緒…って、言ったろ…………」
「うん?……」
「本気…………だからね………………………」
「……………うん……」
「本気………なんだから……」
「………………」
 雷羅は顔を少し上げ、涙で潤む目で大地の目を見つめると、静かにその唇を重ねた。