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七、慣性消滅、人間のやることではないのう-1
「こ、これは………???!!!!」
十五分くらい進んだろうか。
大地たちは、突然目の前に広がった途方もない光景に、息を飲んだ!
それは、突如現れた何百メートルも眼下に落ち込む砂漠の断崖!
彼らは、その断崖の縁に立っていた。足下に広がるその断崖は、左右にゆっくりと大きな円弧を描き、多分円で一つにつながるであろうその反対側の淵は、そのあまりのばかでかさのために、遙か遙か地平の彼方へと消えていた!
その断崖、あまりに深く、暗く、砂漠に照りつける強烈な太陽の、光さえも届かないかのように思われる地の底からは、なんとも形容しがたいようなひんやりとした風が吹き上げ、大地たち一行の背中に、鳥肌を立たせながら通り過ぎていくのだった。
「ま、まさか……………、そんな………、地球にこんなものが、存在するなんて……………。」
そう言って、未来は絶句した!
そう、そこにあったもの、それは、想像を絶するような超、超、巨大なクレーターだったのだ!!
そのなんというばかでかさ!
あまりの信じられない光景に、大地と大全もまた我を忘れていた!
「な………、なんだ、このばかでかいクレーターは…??!!」
彼らは呆気にとられ、しばし呆然と、その驚愕の光景に圧倒されていた。
孔明は、その三人の横に並び、クレーターの奥を見つめながら言った。
「イグアノ族の言い伝えではな、十八時間戦争の最初の数分で、ここに“神の矢”が何本も飛んできて、天をも焦がす巨大な火の玉がたくさん生まれたそうや。火の玉は、建物や、街や、地面をも蒸発させ、跡には、このでっかい穴だけが残った…。ちゅう話や。ホンマかどうかは、誰も知らんけどな。」
孔明は、当たり前の話をするように、無表情で説明した。
そう、彼らにとってこの光景は、見慣れた“自然”の一部であり、言い伝えも、遙か昔の、古い古いおとぎ話に過ぎなかったのだ。
だが未来は、
「爆心地?……!!!!!!」
と、すぐにその意味を理解し、さらに愕然とした!
それは、紛れもない核戦争の言い伝えであり、ここは、その爆心地に他ならなかったのだ!!
「そ、そんな………。こんなばかでかいクレーターを作る戦争なんて……、いったい、どんな戦争なんだよ………」
大地もまた、青ざめ、全身が震えていた。
「そうかっ………! そういう………ことか…!!!」
そして、またもや大全は嘆息し、悲しく、息苦しいように声を絞り出した。
しかし、当の孔明は意味が分からず、そんな三人の驚きを逆に不思議がりつつ、今度はクレーターの底を指さてみせた。
「……なあに?……………え?………あれは……街?」
そう、未来の言うとおり、よく見るとその先には、薄暗い地の底にへばりつくようにして、灰色の街が広がっていた。
「そや、あそこが、オレらイグアノ族の街や!」
「な、なんだって!? 爆心地のクレーターの、さらにそのど真ん中に、街があるってのか?!」
もう、ただただ驚くばかりの大地たち!
だが、この“古代人”から少し離れて立っていた“現代人”たちは、その事実を知っていた様子で、ただ無言のままじっと中をのぞいていた。
そして、
「“呪縛都市”…………」
舞羅が、ぽつりとつぶやいた。
「え?」
大地たちが顔を上げ舞羅を見ると、彼女はただただ悲しい目をして、その歴史の一端を話し始めた。
「昔々、暗黒龍王を崇拝し、この世の暗黒化を願う人々がいました。……………彼等イグアノ族の、祖先です………」
「彼らの祖先の住む国は、元々が独裁的であったとも、いや、普通の国の一つだったとも様々に伝えられ、よくはわからないのです。
でも一つだけ言えるのは、彼らの国は、いくつかの国に向けて飛ばすだけの“毒矢”を所有していたということです。
そして、ある日ある時、その国の指導者と上層部の人々が、突如復活した暗黒龍王に心を支配されてしまったのです。
暗黒竜王は、彼らに自分を崇拝させ、この世を自分の理想とする暗黒世界に生まれ変わらせようと企みました。そして、同じく死の毒矢を保有する他国へと、その持てる限りの“毒矢”を次々に発射したのです。
この、単純とも思える策略は、しかし、成功しました。
なぜなら、攻撃を受けた国々は、反撃の毒矢を自動的に飛ばすような仕組みを作っていたのです。
こうして、たった十八時間のうちに、あっという間に世界中は戦火に包まれ、この星は滅亡の危機に立たされてしまいました。
でも、あと少しで彼らの暗黒の目的が達成されようとした、その時、遙かなる北方の地より、宇宙鎮尊(おおぞらしずめのみこと)様、玉司姫(たまつかさひめ)様、という、二人の現人神様が現れたのです。尊様は姫様と力を合わせ、その手に携えた神剣“草薙の剣”を持ちて、果敢にも暗黒龍王と対決し、これを見事打ち倒したのです。
そして、暗黒龍王を再び封印して後、宇宙鎮尊様は、この地上にわずかに生き残った人々を世界中から集め、王国を築いたのでした。ですが………」
舞羅は、ここまで言うと言葉を詰まらせた。
「………じゃが、まだ、暗黒龍王を崇拝する者たちが残っていて、その者らは、尊の政策に逆らったのじゃな?」
「……おっしゃる通りですわ、大全おじいさま。宇宙鎮尊こそは、彼らの“敵”なのです。彼らの罪を許し、一緒に王国を築こうという尊の申し出を、彼らは拒否しました。
そして、瘴気(しょうき)渦巻くこの地に移り住み、自らをこのクレーターに封印したのです。
“暗黒竜王復活”のその日を夢見て……」
舞羅は、哀しげにクレーターの底を見つめた。
「そ、そんな…………! 当時ここは、放射能汚染がひどくて、とても人なんか住める状態じゃなかったはずよ!」
「ええ……。未来さんの言うとおり、当時ここは、とても人が住めるような土地じゃありませんでした。
だからこそ彼らは、この過酷な瘴癘(しょうよう)の地に適応するため、自分たちの崇拝する神、つまり暗黒龍王に似せ、自らの姿を造り変えてしまったのです!」
「造り替えたって……!!!!…………。ま、まさか、遺伝子操作?!!!」
未来は、さらに愕然となった!
なんと言うこと!
そう、未来の推測通り、彼らは致死量の放射能に耐え抜くため、自らの遺伝子を組み替え、醜い姿になってまで暗黒龍王にその魂を捧げ、未来永劫の忠誠を誓ったのだ!
しかし、このやりとりをポカンと横で聞いていた当の孔明は、
「いでん……なんや???」
と、またまたなんのことやら意味が分からず、ただ頭をひねるだけだった。
「みなさん、なんや、よ〜分からん話をごちゃごちゃして。そんな事より、今あの街はもう、もぬけの空やで。なんせ、イグアノ族にとって、待ちに待った“約束の日”が、遂にやって来たんやからな!」
「“約束の日”? ……そ、それはもしかして、暗黒龍王復活の日の事ですか?!」
舞羅の顔が、さっと青ざめた。
「そや。さっきの兵隊は、街の警護のための残留軍なんや。住民は三日前、族長命令で三万人の軍本隊とともに、この国の首都“都”(みやこ)へ出立したんや!」
「なんだってえ?!」
雷羅が叫んだ!
なんでも孔明の話によれば、表向き国家暫定指導者となった警視総監が、国の安定を図るためイグアノ族と手を結び、その兵団を正式な国家軍隊として迎え入れたと言うのだ!!
「私たちを、万全の兵力で迎え撃つため、そして、国家を完全掌握するための体制作りなのですわ!」
「あ、のやろ〜〜〜…。好き勝手やりやがってえ!……」
「でちゅ!!」
「ここが、オレの家や!」
大地たちは、イグアノ族の住む街から、畑をはさんで数キロ離れたクレーター真下にある、一軒の小さな家へとたどり着いた。
いや、それは家と言うより、掘っ建て小屋と呼ぶ方が正しいかもしれない。なぜなら、曲がった柱に穴だらけの板が不器用に貼り付けられ、草葺きの屋根は半分崩れ落ちていたのだ。
孔明は、曲がった入り口に斜めに立てかけられた、“ドアらしきもの”をどけると、一行を中へと招き入れた。
「うわー、何これ? まるで軍隊にでも襲われたみたいに、ボロボロじゃない。」
未来の言うとおり、小さな家の中は外にも負けないくらい、テーブルや椅子、食器棚や食器類が散乱していたのだった。
「………襲われたみたい、じゃなく、襲われたんや! 四日前、親子三人で朝飯食ってる時、さっきの兵隊たちに……。」
孔明は、つぶやくようにそう言うと、肩を落としうなだれた。
「ええっ! じゃあ…、ご両親はどうなったの?」
「何か、族長の手伝いをさせるとか言って、無理矢理どっかへ連れていかれたんや…。で、オレは必要ないからって、牢に入れらたまま、今日やつらの朝飯にになる所だったんや……。
そして、今朝、オレが兵舎の調理場でみそ汁の大鍋に入れられる寸前、紫蘭王子一味がこっちに向かったという連絡が入って、急きょ囮に使われた、っていう訳なんや……。」
「お前を朝飯にい? ど、どうしてそんなことを? 同じイグアノ族なんだろ、お前!」
「オレの家族は…………反逆者やからな。」
「反逆者じゃと?」
大地たちの問い、そして驚きに、孔明は悔しそうに目を伏せた。
「ああ。うちの一家は、神に刃向かう反逆者や! オレの両親は、外の世界の人たちと仲良く暮らしたいという考えなんや。それで、街では異端視されて居づらくなり、家業の電気屋をたたんで、ここに移り住んでたんや…。」
「なるほど、それで……」
大地たちは、孔明をじっと見つめた。
彼はしばらく無言で下を向いていたが、やがて顔を上げ、言った。
「そんな事より、あんたらハラ減ってるんやろ。メシ食うか?」
『め、メシ〜〜〜〜〜??!!!!』
その一言に、一行の目の色が変わった!
そう、ご存じの通り彼らは、三日前の路上大宴会以来、まだ何も食べていなかったのだ。一行は九秒ジャストでテーブルや椅子を元通りに起こすと、二秒で台所にあった大型冷蔵庫から食料を取り出し、ゼロ秒で一斉にむさぼりついた!
「うま、うまい、う、うまい♪♪♪」
「い、生き返ったあ〜〜〜〜♪♪♪」
バクバクムシャムシャ、と食い物をたいらげる一行の凄まじい食欲に、
「よ、よー食うなアンタら…」
孔明は、あきれつつも感心した。
「ありがとう、愛羅ちゃん。ほんとうに、愛羅ちゃんのガマの油はよく効くねえ。すぐにもう、痛みが取れてきたよ。傷跡もキレイに消えるしさあ…」
なにはともあれの食事が済むと、大地は長椅子に愛羅と二人座り、また傷の手当を受けていた。
「そうでちゅか、大地お兄ちゃまにそう言ってもらうと、愛羅うれちいでちゅ〜。」
頬を赤くして、嬉しそうにあちこち薬を擦り込む愛羅。
が、しばらくして、
「あ…」
急に愛羅の手が止まった。
「え? どうしたの愛羅ちゃん?」
「うん、ここ……には?……」
愛羅は顔を見上げ、大地の右手首を指さした。
そこには、孔明が付けたお礼の印が!
「ああ、もちろん、ここも……………h」
言いかけて、大地は自分を鋭く睨み付ける視線に気付いた。そっとそちらに目をやると、部屋の隅から孔明が、こめかみをピクピクさせこっちを見ていたのだった。
「い、いや、やっぱ、ここはいいよ。ほかの所に塗って。はは…」
あわてて否定する大地。
それを聞いて、
(♪♪♪♪♪)
友情と感謝の舌印(べろスタンプ)が残る。孔明は安心し、嬉しそうに一人うなずいた。
「さてと、孔明の推測では、あと十時間もすると、イグアノ兵どもが引き返して来るはず…。ここで、このままゆっくりとしている時間は、ないぞ。すぐにも、出立せねばの!」
大全は食後の茶を飲み干すと、すぐに杖をつかみ、椅子からスックと腰を上げた。
「それなら心配要らへん。みんな、こっち来てんか。」
孔明はそう言うと、台所に行き、これまたゆがんだ柱に立てかけられたドアらしき板をはずして、裏口へと一行を案内した。
「?」
いぶかりながらも、その後に続く大地たち。
裏庭に出ると、外はすでに日も暮れかけ、赤い大地が夕日でますます赤く染まっていた。そしてその中に、左右に細長い建物が浮かんでいるのだった。
「うちの納屋や!」
「納屋って、これ、母屋よりずっと立派じゃないか!」
納屋を見渡す大地。
大地の言うとおり、この建物は孔明の住む母屋と違い、真っ直ぐな柱と壁、それにトタン張りの屋根と、一応ちゃんとした作りで出来ていた。
その中央には、トラックでも入れそうな大きな引き戸があって、孔明はそこを力一杯引いて開けると、一行を中へと招き入れた。
「ヒュウ〜!」
雷羅が、驚きの声を上げた!
「どや、驚いたか! これぞ父ちゃんとオレが作った、その名も『白岳号』(はくたけごう)や!」
一行の目の前に現れたもの、それは全長三十メートルはあろうかという、純白の飛行船だった!
そして、その船腹には大きく“白岳号”の文字と、孔明の似顔絵が描いてあった。
「オレの一家は、もうすぐコイツで、外の世界に飛び立つ予定だったんや。地上を行くと脱走者と見なされ、兵隊につかまって殺されるからな。」
大地たちは、この飛行船を観察した。
船体の下には、竹で編んだ小部屋がくくりつけてあり、どうやらそこが操縦室らしかった。上のガス室本体からはホースが伸び、納屋の隅にある大きなガラス容器につながっていて、その中では液体から盛んにガスが発生していた。
さらに、その回りにはいろんな機器類やタンク類が所狭しと並べられ、それらは複雑な配管によりつながれていたのだった。
雷羅と未来はすぐに興味津々の様子で、身分たちの背丈ほどもあるガラス容器に近づくと、顔をくっつけるようにしてその中をのぞき込んだ。
「ふーん、中身は金属と酸のようだな………。水素ガス発生装置! か…。」
「そうね……大したものよ。ガスの出口には、ちゃんと手作りの防爆管が入れてあるわ。」
感心して見回す二人。
その横で孔明は、そのガラス容器に通じるバルブを回し始めた。
「そや! 今、ガスの充填中や。水素ガスやから、火器厳禁やで! あんたら、火花が出るもんとか爆発物とか、危険なモンなんも持ってへんやろな?」
と!?
『爆発……物ぅ?!』
飛行船や機械類を眺めていた一行の動きが、“一人を除いて”一斉に止まった!
大地たちは、額に脂汗をにじませながら、まるで強力な磁力に近づく方位磁石のごとく、“その一人”に向かってゆっくりと体の向きを変えた。
その一人とは、当然……!!
「ほっほ〜ん……、こっちのタンクが、酸の合成装置か……。いや〜、よっくできて………!?!?!?……な、なんだよ、みんな! その目は、どういう意味だよ! 失礼なやつらだな!!!!」
そう、爆発物と聞いて、みんなの視線は雷羅に向けられたのだった!
雷羅はみんなの視線に気付き、怒ったような、しかし、少し恥ずかしいような様子で文句を言った。
大全は、雷羅を半信半疑の目で見つめた後、
「で、お主、これをワシらに見せて、どうせよと?」
と、装置の間を走り回って操作している孔明に、尋ねた。
すると孔明は、操作の手を止め、言った。
「あと一時間もすれば、ガス充填終わるよって、この船で、オレも一緒に都へ連れてって欲しいんや! そして、暗黒龍王を倒して、連れ去られたオレの両親を、助けて欲しいんや!!!」
その目には、大粒の涙が浮かんでいた!
月の砂漠を はるばると 一匹の ダクラが 行きました。
ダクラは、ひたすら走っていた。だがこのダクラ、このところ夜なべ仕事が多く、疲れ気味で、右肩が少し凝っていた。そのため右足の出が悪く、行き先もまたほんのわずかに、右へと曲がっていた。
結果、夕闇の迫る頃には、その足跡は緩やかな弧となり、弧はやがて、直径何十キロという巨大な円を描き上げようとしていた。
「ななな、なんじゃこりゃ〜〜〜〜〜!」
目をまん丸に開け、赤イグアノ兵の隊長は、ダクラ戦車部隊の先頭ダクラの上で大声を張り上げた!
そう、彼らもまた、逃走ダクラを追いかけ、元の出発点に戻っていたのだ! その先に、二周目に突入した空荷のダクラを見ながら!!
「ぜ〜〜〜っ、ぜ〜〜〜〜っ、ぜ〜〜〜〜っ、んなアホな〜〜! やつら、最初から乗っていなかったのかあーーーっ!!」
あたりを見回すと、砂丘の上から、自分たちの住むクレーターへと向かう複数の足跡があった!
足跡は、かすかに残る地平からの赤い夕日を受け、くっきりと立体的シルエットを浮かび上がらせていたのだった。
「ぜ〜〜〜〜っ、ぜ〜〜〜〜〜〜っ、……ぜ、全員、続けーーーーっ!」
肩を息で大きく上下させながら、隊長は部下に大号令をかけた!
こうして兵団は、怒濤のごとく、今度はクレーター目指してばく進した!!!
ドドドドドドド……
その地響き、そして進撃音は凄まじく、目指す巨大なクレーターの中を、あっというまに雷鳴のごとく満たしたのだった!!
「こ、この音は?!」
未来が叫んだ!
「うぎゃ、予想より随分早かったやんけ!」
孔明は、ガス発生装置のバルブに飛びつき、それを全開にして酸と金属の量を一気に増やした。
すると、ガラス容器の内部では、これまでにも増してボッコンボッコンと盛んに水素ガスが発生し始めた。そして、そこから飛行船につながるホースは、今やパンパンに膨らみ、ブルブル震えながら、シュ〜、シュ〜、と、今まで以上に苦しげにガスを送り出すのだった!
「どうなんだ孔明、あと、どれくらいかかるんだ?」
脚立に上り、ガラス容器に付けられたガス圧力計を真剣にのぞき込む孔明に、下から雷羅が聞いた。
「これ以上、ガス発生の圧力を上げると、危険や! 少なくとも、あと三十分はかかるで! 飛び立ってしまえば、あとは、船内のガス発生装置で行けるんやけどな……!!」
「三十分か……マズイな〜…」
雷羅は、苛立ちながら右手親指の爪を噛んだ。
そうしてる間にも地響きはどんどん大きくなり、もはや敵がすぐそこまで迫っていることは明らかだった!
一行は納屋の入り口に移動すると、急激に星の数を増やす夜空と、その星々をさえぎるクレーターの断崖を見上げた。ますます轟音は大きくなっていく。一刻の猶予もないことは、もはやだれの目にも明白だった!
この時、大全と大地は、お互いの目を見合った。
そして、
「!…………」
と、無言でうなずくと、外へと踏み出した!
大全は杖を、大地はイグアノ兵と戦った鉄棒を持って!!
その行動に、思わず顔を見合わせる姉妹と未来。
「ちょ、ちょっと!? あんな大勢を、たった二人で迎え撃つ気?!!」
未来は、あわてて二人に声をかけた。
と、その横を、
「………」
今度は紫蘭王子が、近くに落ちていた棒きれを拾いすり抜けた!
「そんな……、王子まで!!」
さらに、
「あたしで四人やな!」
と、今度は雷羅が、右腕をグルグル回しながらすり抜ける!
「そんな!! 無茶よみんなーーーっ!!」
大地は、大全と紫蘭を先にやると、雷羅が近づくのを待った。
そして、
「雷羅、お前は来るな! さすがに、今度ばかりはヤバイぜ!」
と言って手を前に出し、雷羅を制した。
「な、何言ってんだよ大地。ここであいつらをくい止めなきゃ、どのみちあたしら、死ぬしかないんだよ! それにあたし、あんたらだけ戦わせるなんて、とても……」
「でもな……!!」
言いかけて、大地は言葉を止めた。
大地は、雷羅の目の奥に光る、強い決意を感じ取ったのだ!
大地は気付いた。
“こうなったのも、元はと言えば自分のせいだ”と、実験の責任を、雷羅が強く強く感じていることを! 彼女はああ見えても、本当は責任感の強い少女なのだ!!
「雷羅、お前……」
「大地…」
雷羅は大地に近づくと、その頭を“ぴとっ”と大地の胸にくっつけた。
「ゴメンな大地、あたしのせいで、とんでもない目に遭わせて…………。」
「雷羅…………」
「大地…………。でも、あたし………、死ぬときは一緒だから……。大地、あんたと一緒だから……!!」
「…………………!!!!」
決して大声では無いけれど、しかし、その決意は、大地の胸に深く突き刺さった!
大地はもう何も言えず、右手をゆっくりあげると、雷羅の頭をそっと抱きしめたのだった。
そんな二人の様子を、
「………………」
未来は、納屋の入り口から黙って見ていた。
そして、先を進む紫蘭に視線を移すと、闇に消えゆくその姿をじっとじっと見つめた。
「外は、日が暮れて真っ暗。さらに、この細い道。よいか、この闇に乗じ、立ち向かうのじゃ!」
大全は、クレーターへの登り口に立つと、地響き迫る断崖を見上げながら言った!
この道は、グランドキャニオンを下る道よろしく、まるで蛇がのたうつように、細くクネクネと上下をつないでいるのだった。
「よっしゃあ!」
大全と横一列に並び、大地達はうなずいた。
と、その後ろから、
「言っとくけどな〜、オレらイグアノ族は、闇夜でも、昼間同様目が見えるんやで〜〜っ!」
四人の事が心配になり、追っかけてきた孔明が叫んだ!
「な、なに〜〜〜〜〜〜〜っ?!」
もう遅い!
ドドドドドドドドドド!
地響きは地鳴りとなり、すぐ頭上に迫っていたのだ!
「いたぞ〜〜〜〜! 生意気にもやつら、真下で出迎えてやがる! おのれ、オレたちイグアノ兵をなめやがってえ! みんな、やつらを叩ッ殺せーーーーーーーーーーー!」
隊長の号令一過、ダクラ戦車に数人ずつ分乗したイグアノ軍団は、手に手に蛮刀・こん棒を振りかざし、流れ落ちる瀑布のごとく、坂を駆け下り始めた!
「ふん! 敵が多かろうと、闇夜で目が見えよーと、そんなもの、天昇龍剣にはなんも関係ないわ!」
大全が叫ぶ!
そして、
「よ〜く見ておけ大地、天昇龍剣には、大勢の敵と戦う戦法が三つある! まずはその一、“地の利”じゃ!」
言うや大全は、老人とは思えぬ素早さで一人坂を駆け昇った!!
「なんだ、あのジジイ? 一人で立ち向かって来るぞ! えーい構わん、ダクラで踏みつぶせーい!」
即、大全の目の前に迫り来る、イグアノ軍!
が!
「キエエエエエエエーーーー!」
気合い一閃、大全の足が地面を蹴った!
「すげえ! なんてジャンプ力だよ!」
あっけにとられる雷羅!
この大全の跳躍力、雷羅が驚くのも無理はなかった!
その高さは並みではなく、大全の体は、まるで小石を跳ね上げるがごとく、一飛びごとに軽く十数メートルも上昇して行くのだ!!
「あ、あれは、足の裏から気を発する、天昇龍剣幻の奥義“超跳発翅”(ちょうちょうはっし)!」
そう、大地の言う通り大全は、ひと足ごとに足の裏を発光させていた!
自らの体を上空へ吹き飛ばすほどの“気”を、この剣聖は足の裏から放出していたのだ!!
大全はあっという間に百メートル以上上昇し、先頭のイグアノ軍の頭上にまで到達するや、
「キエエエエエエイ!」
今度は、先頭の兵士をも飛び石に変えた!
イグアノ軍が大瀑布なら、さながら大全は、それに逆らって昇る一匹の鯉だった!!
だが、この鯉は、ただの鯉ではない!
その上昇するパワーの源は、激烈なる“気”なのだ!!
「ギャアアアア!」
「グアアッ!」
気を浴び、次々と吹っ飛ぶ兵士たち!
彼らは、自分の身に何が起こったのか分からなかった! 分かる間もなく、大全の足から発せられる強烈な気を受け、次々と脳震とうを起こし気絶したのだ!!
そして、
「グエエエ!」
「ギョエ〜〜〜………」
飛び飛びの悲鳴は、あっという間に断崖の中程まで到達した!
「戦法その二、“分断”じゃ!」
大全は、空中に浮かんだまま杖を振り上げた!
「“扇広気”!」
一閃!
振り下ろされた杖の先は、大きく扇のような光跡を描き、
ずぱあっ!!
断崖に突き出た大きな岩を、まるで豆腐でも切るかのように真横から切断した!
岩は、スローモーションのように崖から離れ、
ズッドオオオオオオオン!
道の上に落ちた!
そして、見事に隊列を前後に分断したのだ! 大全は鷹のごとく、その岩の上にさっそうと舞い降りた!
「戦法その三“縦に活”! いかな大軍も、縦に戦えば常に一対一じゃ! 後ろ半分はワシが受け持つ!前半分は、お主たちで何とかせーい!」
そう叫ぶと、大全はまた後列に向かってジャンプした!
「分かったよ、じいちゃん!」
呼応する、大地! 紫蘭も、棒を構えた!
そして雷羅も、
「よっしゃあ、久々に見せてやるぜ、雷羅様一世一代の―――」
右手を前へ突き出した!
が!
大地は、後ろから素早くその首筋に手を当て、
パチン!
と、小さな気を発した!
「な、なん?!……」
あわてて振り返る雷羅。
しかし、もう遅かった。
「悪りいな雷羅。“守るべき者”を戦わせたとあっちゃあ、天昇龍剣継承者の名が泣くからな。」
大地はそう言いながら、崩れ落ちる雷羅を抱きかかえると、岩影にそっと寝かせた。
「よっしゃ、紫蘭王子、行こうか!」
紫蘭は、この大地の行動そして言葉に、にっこりうなずいた。紫蘭も、また同じ思いだったのだ!
そして二人は、あらためて前を向き、迫り来るイグアノ軍目がけて坂を駆け昇った!!
「いよいよ始まりましたわ!」
舞羅たちは、納屋の前からクレーターの断崖を見上げていた。
星を遮る真っ暗な断崖のシルエット、その中腹あたりに一つ、下に二つの光跡が躍動していた。
「変でちゅね……。雷羅お姉ちゃまが、いないでちゅ。」
「どうして分かるの?」
首をひねる愛羅に、未来が尋ねた。
「だって、雷羅お姉ちゃまが一緒に戦ってるなら、あちこちで派手な爆発が起こるはずでちゅ。」
「な、なるほど……、そう言えばそうね。はは…」
その、上の方の光跡をダイナミックに作り続ける大全は、まるで雷神のごとき素早さで、敵に立ち向かっていた!
綴目大全(とじめたいぜん)、齢八十、天昇龍剣第二百九十八代目継承者!
彼の繰り出す剣技は、この時代最強と言われるイグアノ軍団の中を、
「キエエエエエエーーーーーー!」
魔法の杖のごとく舞い踊っていた!
「ギャアアア!」
「グエエエエエ……!」
なんという強さ! なんという強さ!!!
振り下ろされ、なぎ払われる“気の杖”は、豪快なる光を発しながら、三百キロはあろうかというイグアノ兵の巨体を、その蛮刀もろとも次々とはじき飛ばした!!
一方、その下の方で、少しぎこちない光跡を作る綴目大地!
天昇龍剣第三百代目継承者!―となる予定―の十六歳高校生! 彼の繰り出す剣技は……イマイチ……ながらも、昼間の戦いの時とは別人のように、ダクラからまたダクラへ飛び移っては、一人、また一人と、イグアノ兵士を確実に倒していた!
そう、大地はこの時代に来て以来、戦いを繰り返すほどに、確実に成長していたのだった!
そして、大地よりも遙かに華麗な光跡を作る、宇宙紫蘭(おおぞらしらん)!
地球(チタマ)王国王位継承者、同じく十六歳! その気の力凄まじく、大地の攻撃を助けるべく、次々とダクラに当て身を行い、その動きを完全に足止めしていた。
もし魂が半分ではなく完全なら、大全に匹敵する力を持つのは間違いないだろう! |
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