六,天昇龍剣最終奥義“天昇球気”
「舞羅さ〜ん、本当に都の方角は、こっちで間違いないんですかあ?」
「ええ、時刻と太陽の角度から、おおよその自分たちの位置と都の方向を検討つけましたから、多分三・四日で都にたどり着くはずです。それに、よく考えてみれば、こっちの方が街を通らないので安全ですわ。盗んだお金は、使えませんけど…。」
「そんなもの、昨日街から逃げる時、とっくに無くしてますって〜…」
大地たち一行は、砂漠の真ん中をただひたすら歩いていた。
「はひ〜、しっかし、アジ〜〜〜。こりゃなんのために温泉入ったか、分かんないや。」
背中を丸め、ダラダラ歩く大地。
「暑いでちゅ〜。」
「ほんとうに。こう日差しが強くては、このままではシミになってしまいますわねえ。」
「あー、あたしも超汗だっくだくぅ。」
未来も、胸元をぱたぱたさせた。
「“心頭滅却すれば火もまた涼し”じゃ。みな修行が足りんの。王子を見よ!」
ダラダラ大地とは対照的に、紫蘭は、酷暑の中ほとんど汗もかかず、背筋を伸ばししっかりと歩いていた。しかも、未来が昨日痛めた右足を気遣い、その手をしっかりと支えながら。
「んなこと言ったってぇ〜。アジ〜もんは、アジ〜………あれえ、そういや雷羅、お前も汗一つかいてないなあ?」
大地は、横に並んで歩く雷羅の軽やかな足取りに気付いた。
「ふっふ〜ん。あたしも修行を積んでるからね〜。」
しかも暑いどころか、一人涼しげに歩いている。
「??? な〜んかあやしいなあ、お前……。あ、あああ〜っ! なんだよ、その点滅してるブレスレットは? よく見るとそっから、冷気みたいなのが体に向かって出てるじゃねーか!」
「ばれた? へっへー……、実はこれ、携帯型エアコンなのよ♪」
雷羅は、ちょっと自慢げにブレスレットをかざしてみせた。
『なにーーー!』
驚く一同。
「な、なんだよ、みんなして驚いた顔して! やだな、言っとくけどこれって、ソーラーパワーを利用しただけで、そんな大した装置じゃ……」
「雷羅、お前…」
雷羅に顔を近づける、大地。
「な、なん……?」
「ほんとにそれ、ちゃんと作動してるのか?」
「当たり前だろ、あたしが作ったんだから!」
『お〜〜〜〜〜……』
一同今度は感心した。
「な、なんだよみんな、それどーいう意味だよ!」
「だってオレ、初めて見たぜ。お前の作った装置、マトモに動いてるの!」
『ウンウン。』
大地の言葉にうなずく一同。
「あ〜もう、みんなしてバカにして〜!」
「いや、見直したぜ雷羅。な、見直したから、オレもそのエアコンの中に入れさせろ♪♪」
大地はそう言うと、ふくれっつらの雷羅に迫った。
「あ、ばか近づくな、これは一人用なんだよ、一人用! あー、さわるな、これって定員オーバーだと……」
ひたすら広がる砂漠の一角に、
ちゅど〜〜〜ん!……
突如爆発が起こり、砂煙が舞い上がった!
「ゲホゲホ…や、やっぱりい〜……。こ、こんなこったろうと思ったぜ〜〜〜。」
「だーから、近づくなって言ったのにぃ〜……、ゴホゴホ……」
その砂煙りの中に、ススだらけの大地と雷羅の顔が。
「かっかっか、飽きさせんのうお主らは。まるで漫才コンビじゃ! かっかっか。」
こうして雷羅も、大地と同じくダラダラ歩きの仲間になった。
「あー、でもあたし、お腹空いたなー。水は温泉汲んで来たからいいけど、食料をどうにかしないとぉ〜…」
未来は、おなかを押さえた。
そう、実はまたまた、一行に空腹の危機が迫っていたのだ!
「そうだなー、ここには畑もないし、レストランもスーパーもコンビニだってないし………あ、あってもまた金がないかあ。ははは〜……」
力なく笑う大地。
「うむ〜、どうにかして食料を調達せねばならぬのお……。」
大全は周りを見回した。が、視界に入るのは、三百六十度赤茶けた灼熱の砂漠のみで、動物はおろか虫一匹すら見えないのだった。
こうして一行は、空腹のままひたすら歩き、野宿し、次の日、そしてまた次の日を迎えた。
「腹減った〜…、し、死むぅ〜〜〜……」
空腹も3日目となり、ダラダラ歩きがダラダララ〜〜となる大地。
「すみません、王子。」
一方未来は、昨日足の痛みが悪化して、朝から紫蘭におんぶされていた。紫蘭は背中を振り向くと、
「………………♪♪」
無言のままニコッと笑った。どうやら紫蘭は、未来の重さが苦にならないらしい。
「王子………♪♪」
細くしなやかなのにたくましい紫蘭の背中に、未来もまた言いしれぬ思いが止めどなくこみ上げては、胸を熱く高鳴らせていた。
いつまでもこうしていたい、そんな幸福感が二人を包み込んでいるかのようだった。今やこの二人は、寝る時も起きている時も、まるで本当の恋人のようにぴったりと寄り添うようになっていたのだ。
この二人の様子に、
「ハハ……、ただでさえ暑いのに、なぁ〜んかうっとおしいヤツら〜〜…」
と、余計暑苦しさを感じて、離れて歩く雷羅だった。
しかし彼女は、この二人からただ離れているだけではなかった。
雷羅もまた、知らず知らず常に大地の横に並んで行動するように、なっていたのだった。
こうして砂漠行三日目も、やがて日が高くなった頃、
「むっ!」
大全は、遠くに何かを見つけた。
「ついに食料発見ぢゃ!!!!」
熱い砂の上を、大地たちは獲物を狙うオオカミのごとく、匍匐(ほふく)前進でゆっくりと進んだ。
そして、緩やかな丘陵を登り切ると、その前方二十メートルほどの所に、一匹の緑色をした大トカゲがうずくまっていた。
「食料ぢゃ!」
「うん、確かに…。でかいぜありゃ! トカゲというより、イグアナの仲間かな? あれ? でもなんか…様子が変だぜじいちゃん?」
大地の言う通り、このイグアナらしき大トカゲは、体にぼろ布のようなものが絡まり、それが岩に引っかかって動けずにいるらしかった。
「へ、へへっ、じゅるる〜! 好都合じゃねえか。とっとと捕まえて食っちまおうぜ!」
辛抱たまらず、雷羅がよだれをたらしながら立ち上がった!
が、しかし!
「きっ、来ました隊長、ほんとにやつら現れましたよ。」
「うむ。族長様の予想通りだったな!」
と、 その様子を反対側の丘陵に身を潜め、見ている者たちがいた!!!
「しかしやつら、あんな罠にかかりますかねえ? いくらなんでも、単純すぎませんかあ、隊長?」
「ばかもん! あんなうまいエサ見逃すものか! あれが囮(おとり)でなかったら、とっくにワシが食っておるわい!」
「そりゃ、私もそうですが……。でもあれ、単純な下等動物を捕まえるときのやり方ですよ。」
「うーむむむ……、そー言えばそうだなあ。いくらなんでもヤツらも人間だから、かかるにしてもよっぽどアホじゃないと……」
「あ、かかりましたよ隊長!」
「ウソ!」
この時、大地たちは全員、イグアナもろとも見事に落とし穴に落っこちていた!
「な、なんだこりゃ〜〜?!」
「痛いでちゅう〜!」
「しまった、これは罠ですわ!」
そう、“獲物”たちが穴の中から上を見上げると、そこには鎧兜(よろいかぶと)に身を固めた沢山の人陰があった!
「はっはっは。飛んで火に入るとはお前らの事だ!」
「くそーっ、お前たちか、オレたちをこんな罠に……………………………………」
言いかけて、大地は目をまん丸くしてそのまま固まった。
「な、なんなのこの人たちは………。いいえ、人……なの…………????」
「こ、これはなんじゃ………」
そして、未来と大全もまた、大地同様唖然となった。
大地たち“古代人”が驚くのも無理はなかった。目の前に立つその生き物たちは、この不思議な時代に来ても、なお初めて見る異様な姿だったのだ。身長二メートルはあろうかというその体は、古代ヨーロッパの兵士のような鎧兜(よろいかぶと)に包まれ、腰の左右には蛮刀とこん棒を携えていたのだが、問題はその下、鎧兜からのぞく顔や腕は赤いウロコで覆われ、後ろにはずんどうの尻尾を引きずっているのだ!
その姿形、その顔、それは人間と言うより、まるでどでかい赤イグアナが二本足で立っているかのようだった!
「!!、てめえら……イグアノ族だな!!」
雷羅が、敵の正体に気付き叫んだ!
そう、彼らは、暗黒龍王と密会していたあのイグアノ族族長と同じ種族であり、彼らこそ、その命により大地一行を捕まえるために配備されていた兵士だったのだ!
その数、総勢五十人をゆうに越えている!
「イグアノ…族? てことは……」
「えーっ、じゃあ、あれってやっぱり人間なの?!」
「なんじゃと?!」
またまた驚く大地たち!
そして、他の兵士よりひときわでかくて屈強な、頭に金色の筆のような飾りを立てた兵士が、大地たちを見下ろしながら叫んだ!
「それ、コイツらを捕らえて檻(おり)に入れい!」
どうやらこの男がが隊長らしく、命令と共にすぐに網が投げられ、まるで底引き網にかかった魚のように、大地たち一行は生け捕りにされた。
「な、なんなんですかこいつらは?」
「イグアノ族…、彼らこそかつて、暗黒龍王と共にこの世を暗黒の世界に変えようと、最終戦争を起こした種族の末裔ですわ。」
「ええっ?」
舞羅の説明に驚く大地たち。
「そして彼らは、今でも暗黒龍王を崇拝しているのです!」
「ということは…、これはきゃつの罠という訳じゃな?」
一行は上に引き上げられると、鉄格子付きの、大きな犬小屋のような檻に放り込まれていた。
「てめえら、あたしらをどうする気でえ!」
鉄格子に両手をかけ、大声を出して揺さぶる、雷羅。
「黙れい、囚人! ようし、檻をダクラに乗せい!」
隊長の命令一過、十数名の部下たちが、今度はその檻を持ち上げ運び始めた。
「な、なんだ、あの生き物は……???」
またもや、大地たちは呆気にとられた。
それもそのはず、イグアナ人間の次に目の前に現れた生き物は、象のようなばかでかい胴体にキリンのような長い首、体はシマウマのような模様で、背中にはラクダのような二つのこぶを持つ異様な動物だったのだ!
二こぶには、荷物を運ぶのに便利なように板が渡されていて、兵士たちはその上に、大地たち一行が入れられた檻を担ぎ上げた。
こうして、生け捕った獲物たちの積み込み作業が無事に済むと、兵士たちは今度は、さっき大地たちを捕まえるのに使った囮、緑イグアナを十重二十重と取り囲みはじめた。
「ぐへへへ、う、うまそうだぜえ〜。じゅるる……」
「おいおいお前ら、抜け駆けは無しだぜえ! いいか、この“ごちそう”は我がイグアノ族のしきたり通り、一斉に飛びかかって最初に食ったやつの物だからな。」
「隊長〜、それを抜け駆けってんじゃないですかい? ひゃっひゃっひゃ。」
そう、彼らは、今や不要になった囮を、今度は自分たちで食べようとしていたのだった。
この、今にも飛びかからんとする兵士たちの殺気に、“ごちそう”は、
「キイィ…!」
と、悲痛な鳴き声を上げ、縮こまっていた。
「こ、こら〜〜〜! そりゃ、あたしたちが食おうと思ってたんだぞ! 三日ぶりの食いもんなんだぞ! てめ〜〜ら、こら〜〜〜〜〜〜〜〜〜! あ、あ〜〜ん、あたしの食いもんがあ〜〜〜!!!」
雷羅は鉄格子から頭だけ出し、今目の前で始まりつつある晩餐にクレームをつけ、泣き出した。
その後ろで、大地は、
「どうする……じいちゃん?」
と、大全に尋ねた。
すると、しばらく無言で兵士たちを見ていた大全、
「どうするもこうするも…、わしゃ、こういうのは好かんのじゃ!」
と言うと、泣きわめく雷羅の横で、鉄格子を一本掴んだ!
「キエエエエエエイ!!!」
瞬間的に放たれる、“気》!
と!
ボ、ボン!
鉄格子の上下を留める部分が、瞬間的な“爆発気”により吹っ飛んだ!
「ひええ、す、すげえ!」
驚く大地たち!
大全は、
「ほれ、大地!」
と、今はずした鉄棒を、大地に放り投げた。
「え? え?」
大全は、鉄棒を持ったまま意味が分からないでいる大地の後ろに回ると、
ドカッ!
と、その“ケツ”をけ飛ばした!
「わ〜っ、な、何するんだよじいちゃ〜…!」
鉄格子のはずれた隙間から、受け取った鉄棒を持ったまま外に、
“スッポーン”
と、飛び出る大地!
「よい機会じゃ! たまにはお主一人で、その危機乗り切ってみせい! お主が、天昇龍剣第三百代目、真の継承者であるならば、な〜っ!」
「な〜〜〜に〜〜〜〜………!!!」
大地は叫びながら、よだれを垂らした兵士たちが今まさに襲いかからんとする、“ごちそう”の真横に、
ドサアッ!
と、へっぴり腰で着地した!
「な、なんだ貴様あ! どうやって、あの檻から?!」
シャキ、シャキキーン!!
兵士たちは身構え、その腰から一斉に、幅五十センチ、長さ二メートルはあろうかという、ばかでかい蛮刀を引き抜いた!
見事に研ぎ澄まされた面に、太陽光が鋭く反射する!!
「いえ、おかまいなく、どうぞ、ぞうぞ、お気になさらず、お食事をお続け下さいませ。ははは〜…」
大地は、右手で鉄棒を体の後ろに隠し、腰をおとしながら左手を前に出すと、あいそ笑いで誤魔化しながら前を横切ろうとした。
が、この時!
「キィ〜〜〜…!」
突然、囮のイグアナが大地に飛びついた!
「わあお!? なな、なんだお前?! 離れろ、おい、こら、体にしがみつくな〜〜!」
頭をつかみ、必死に振り払おうとする大地。
だがその囮イグアナは、まるで子泣きじじいのように離れなかった!
「キュィ〜〜〜…」
「…………! お、お前…………?!」
大地は、はっ! とし、それ以上振り払うのをやめた。なぜならそこには、恐怖に震え、うるうると涙する純真な瞳があったのだ!
(このイグアナは、オレに助けを求めている!!)
それを悟ったとき、大地は体を動かせなくなってしまった!!
そして、この一人と一匹の様子を見て、舞羅たちがあることに気付いた。
「お、お姉ちゃま、あれって……」
「う、うん、舞羅姉貴、あれひょっとして…」
「ええ、あれは…」
姉妹は、息を呑んで大地と囮を見つめた。
「グフグフグフ、面白い……! どうせ王子以外、後で全員食っちまおうと思ってたんだ! ようしみんな、まずこのガキから美味しくいただけい!」
「はい隊長! いただきま〜〜〜〜す♪♪」
部下は、思いもよらぬ嬉しい命令に、よだれを垂らしながら大喜びで大地に飛びかかった!
それもそのはず、彼らにとっては、目の前でご馳走が一気に“二倍”になったのだから!
「ち、ちくしょお、なんて奴らだ!! こ、こうなりゃやってやるぜ、見るがいいオレの華麗な技! 天昇龍剣奥義“気昇天穴”(きしょうてんけつ)う!!」
大地は、鉄棒を前に構えた!
“気昇天穴”!
それは、閃光気よりもさらに激しい技!
体内より立ち昇る気により、天に穴を開けるがごとく、強烈なエネルギーを放出する技なのだ! ひとたびこの技を発動すれば、大勢の敵を瞬時に倒すことも可能な、奥義中の奥義だったのだ!!!!
「おお大地、お主そこまで奥義を会得しておったのかあ!」
大全は、孫の信じられない大技に、小躍りして喜んだ。
「いやあああ〜〜〜〜〜っ!!」
気合いを入れる大地!
ブオオオオオ!
沸騰する“気”で、鉄の棒が振動を始めた!
そしてっ!!!
プシュ……
先から白い湯気を出して、
…………………………………………………………
その技は、終わった?!
『あ、あ〜〜〜……』
ダクラの上で、ずっこける一同。
「あ、あれ? 不発??? れれれ???」
レレレのおじさん状態で棒を見つめる大地に、
「え、え〜〜〜〜い、なんという不甲斐なさ! 大地! 普段の修行が足りんからぢゃ! もはや、お主に継承者の資格は無いわ〜〜〜〜〜〜! みんごとそこで、そいつらのエサになってしまえ! 喰われて死ねい! 死んでしまえい、このボケが〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
大全は、そおあまりの情けなさに頭から湯気を出し、怒濤の罵声をバカ孫目がけて浴びせかけた!!
「そ、そんなあ〜〜…ひぃ〜〜〜〜〜〜〜ん……」
一方兵士たちは、一瞬たじろいでいたものの攻撃が不発と知るや、
「グオオオオオオ〜!」
まるで大全の命令を聞くがごとく、再び大地に襲いかかった!
「ひえ〜〜〜〜〜!! こ、こうなったら天昇龍剣奥義なんて使うかあ! 見てろ、剣の技のみで戦ってやるぜい! いやああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!! 」
大地は、奥義を使うことをあきらめ、鉄棒をむちゃくちゃに振り回し戦い始めた!
しかしイグアノ兵は、元々分厚い皮膚の上、固い鎧兜で身を固めているのだ。大地の攻撃は、蚊に刺されたほども利かないのだった!
が、奥義に失敗したとはいえ、そこはやはり道場の継承者!
大地は、蛮刀や、さらにはこん棒をふりかざして襲いかかる兵士達の攻撃を必死に受け止め、反撃を繰り出していた!!
……あまり効かなかったが。
しかし、敵の武器は、実は蛮刀や棍棒だけではなかった。彼らには、生まれながらにして“第三の武器”が備わっていたのだ!
それは…………
“丸太のような太い尻尾”!!
「あ? あいた、コノヤロ! てめえ、痛て! やったな、こいつ〜〜!!……」
大地は、そのブンブンうなって振り回される尻尾に、容赦なく顔や頭、体中をビシバシとはたかれていた!
「やっぱ、ヤバイよ、大全のじっちゃん! じっちゃんたちは知らないだろうけど、イグアノ軍と言えば、この世界では最強の軍隊なんだぜ!」
雷羅は、大地の形勢が不利と悟ると、大地が蹴出された所に仁王立ちになって左腕を差し出し、彼を助けるべく(?)、ブレスレットの一つに手を掛けた!
が、
「待つのぢゃ!」
大全は右手でさえぎり、その仕草を止めた!
「ど、どうして…………???」
「よい機会じゃ。たしかにあやつ一人なら、この危機切り抜けるは、無理かもしれん……。じゃが見よ! 今は助けを求め、命を預けているものがおるのじゃ……………。例えそれが、“一瞬前まで食料にしようとしていた命”でも、の!!!」
大全は、大地の背中に必死にしがみつくイグアナを指さした。
「“天昇龍剣は己の為にあらず!”これぞ天昇龍剣最終奥義の教えぢゃ!!!!! 」
「……と、言われてもう十分近いけど…………。いいのかい、大全のじっちゃん? 相変わらずの一進一退だけど……。ズズ〜〜〜…」
「かまわんかまわん、普段の修行をサボっとった報いじゃ! ま、なんとか敵の攻撃を防いどるし、すぐ殺される事もなかろうて……。ズズ〜……。いや、舞羅どの、けっこうなお手前で。」
「お粗末様でした。」
正座をし、丁寧にお辞儀をする舞羅。
大全たちはダクラ上の檻の中で、舞羅のたてたお茶をすすりつつ、まだ必死に戦っている大地を“のんび〜り”と見物していた。
そして、紫蘭と未来にいたっては、もう大地の戦いを見るでもなく、紫蘭が未来の足の湿布を交換してやったり、お互い足や手のマッサージをし合ったりと、イチャイチャと二人だけの世界に浸ってるのだった。
が、ただ一人、愛羅だけはずっと、
「がんばるでちゅ、大地お兄ちゃま……。」
と、手に汗握り、必死に大地を応援していた。
ドカ、バシ、ベシ……
「あいた、てめ、コノヤロ、しつこいぞお、お前たち〜〜〜〜!!!」
大地と兵士の攻防は、続く。
「お〜お、さっきから見とると、まるで子供のチャンバラごっこじゃな大地! もう、ワシもみんなも見飽きたぞい。早く終わらぬと、日が暮れてしまうぞ〜〜〜〜い♪」
寝っ転がり、腕枕で眺める大全。
「う、うるせえクソじじい! 手を出さないのなら口も出すなあ! ハアハアハア〜〜〜!」
大地とイグアノ兵は、お互いヘロヘロになりながらも、なおも一進一退の攻防を続けていた。
が、しかしここに来て、
「キュ、キュィ〜〜〜〜〜…」
と、大地の背中のイグアナが、しがみつくのも限界に近づいたのか、小刻みに震えだした。
「こ、こら落ちるな! こうなったらお前も必ず助けてやるからなあ! ハアハア!」
そう言いながら、しかし、大地自身にもまた疲労感が重くのしかかっていた。無理もない、この三日間、温泉水以外何も口にしてないうえに、死にものぐるいで鉄棒を振り回しているのだから。
ところが大地の身体には、疲れの色だけではなく、最初と違う“変化”が、もう一つ起こり始めていた。
それは……、
“鉄棒の先”!!
そう、大地が必死に戦うにつれ、その手に持つ鉄棒の先が、徐々に……、徐々にではあるが、赤く発光し始めていたのだ!
「ふむ!」
それを見て、大全がニヤリと笑った。
しかもその光は、ここにきて、急激に輝きを増し始めていた!
そして!!!
「必ず……、必ず助けてやるからな………………いぃやああああああーーーーーっっ!!!」
渾身の気合いが、乾ききった赤い砂漠に轟いた!
刹那!!!
ブオオオオオオ!!
棒の光は球となり、球は爆発するがごとく一気に膨張した!
突如生まれたその恐るべき爆発球面は、瞬時に大地の体を包み込むと、なおも輝きを増し、まるで超新星爆発のごとく光り輝いた!!!
と!
ズッドオオオオオーーーーーーーーーーーーーン!!
強烈なパワーが、砂漠の砂を吹っ飛ばし、強烈な衝撃波(ショック・ウエーブ)が、地球の地核までをも貫いた!!
瞬間!
『ギャ〜〜〜〜〜〜〜ッ?!!』
その数五十数名の、屈強を誇るイグアノ兵たちもまた、その凄まじい気の爆発に一気に数十メートルも吹っ飛ばされてしまった!
ド、ドーン、ドドドドド……
次々と、砂丘に叩きつけられる兵士たち!!
彼らはすぐに立ち上がると、
「ひ…………、ひえええええ〜〜〜〜〜!!!」
「ば、化け物だあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「助けてくれ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
その信じられない出来事に驚き、恐怖に怯え、そのまま一目散に逃げ出した!
「ハアハアハア…や、やったあ……」
砂煙を上げ、小さくなっていく兵士たちの後ろ姿を見ながら、大地はその場にドッとへたり込んだ。
「大地お兄ちゃま、すごいでちゅー!」
目の前で起きたすごい出来事に、手をたたき喜ぶ愛羅。
大全も、
(むお、見事!!! 今の“気球”こそ天昇龍剣最終奥義“天昇球気”の基本となるもの! 他者を助けようという心の集中が、己の気だけでなく、あまねく宇宙に広がる、無限にして絶大なる力を導くのじゃ!! ふっふっふ、やはりこやつは……!)
と、内心すごく喜んだものの、口では、
「まあまあじゃの。大地。」
と、当然のこととでもいうように言い放ってみせた。
「ハアハア………、う、うるせえ、クソじじい!」
精根疲れ果て、肩で息をする大地。
この時、
パチパチパチ…
と、大全の後ろから、紫蘭王子が笑みを浮かべ拍手をした。
そして、
「ひゃー、やるときはやるんだな大地。」
「お見事ですわ!」
「超すっごいじゃん、やったね大地!」
雷羅たちもまた、心からの喝采を贈った。
「い、いやあ…はは……………」
大地は、まだ背中に囮イグアナをしがみつかせたまま、照れたように頭をかいて右手を前へと差し出し親指を立ててみせた。
と、その手に!?
ペタン!
「?!」
生ぬるい“何か”が接触した!
次の瞬間!
「いって〜〜〜〜〜〜!」
大地は、大慌てでイグアナを振り落とした!
「どうした大地?」
「ど、どうしたもこうしたも、こいつ、オレの腕に噛みつきやがったあ〜〜〜っ!」
と、かざす右手首からは、ジュウッと音をたてながら、白い湯気が立ち昇っている?!
次の瞬間!
「あ〜〜〜〜ちちち?! な、なんだあ〜〜〜?????」
大地は、まるで熱湯でもかけたような熱い痛みを覚え、右手を抱えそこいらを走り回った!
そして、フーフーと息を吹きかけていると、今度はその湯気の跡に、一つの模様が徐々に赤く浮かび上がってきたではないか。
「こ、これは…………………?!」
目が点になる、大地!
大地は、手首に浮かび上がった模様と、今助けたイグアナを交互に見比べた。
「?????????????? 」
そう、その赤い模様とは、このイグアナの“顔”そっくりだったのだ!
「な、なんで……………」
もう訳が分からない、大地。
するとイグアナは、大地に向かってニヤリと笑うかのように、口元をゆがめた。
そして、その口から今度は、ピュッ、とカメレオンのように長い舌を出してみせた。
「???」
びろ〜んと伸びた舌、その先っちょをよく見ると、そこには、このイグアナそっくりの模様が!!
「!! そ、そうか、このアザはその舌のアトかあ!!!! この野郎〜、恩を仇でかえしやがってえ! ま、まさか、ひょっとしてお前、やばい毒とかバイキンとか持ってないだろうなあ!!」
イグアナは、舌をまたピュッと引っ込めると、その口から今度は、
「……………………………お礼の印や♪」
と、言葉を発した!!??
「へ?」
「……安心しいな、オレ、毒はもちろん変な病気だって、なんももっとらへんで。兄ちゃんのその腕に付けたのは、お礼の印を付けるための、特別な“胃液”や!」
またまた目が点になり固まる大地!
未来と大全もまた目を丸くした!
「こ、こんどはこのイグアナがしゃべった〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
驚きに髪の毛を逆立て、あわてて飛び退く大地!
その様子を見て、
「ぷ〜〜〜〜っ。」
雷羅が、思わず吹き出した。
「はーっはっはっは、ソイツは、さっきの兵隊と同じイグアノ族の子供だよ、大地! イグアノ族ってのはな、子供の時は、皮膚の色が緑色なんだよ。あ〜〜〜っはっはっは♪♪」
「な、なにーーー! じゃ、じゃあ、こいつも人間かあ?」
大地は口あんぐりのまま、あらためてこのイグアナ少年を見回した。
「そや! オレ人間やでえ!」
「ほ、ほ〜〜〜……………………」
「は〜〜〜〜〜〜〜…………………」
ダクラから降りた大全と未来もまた、初めて見る“人種”を、不思議そうに観察した。
「イグアノ族は、心からの友情や感謝の印に、相手に“舌印”(べろスタンプ)を付けるんだそうですわ。本当の友人になると、つい、相手が胃液でとろけるまで、印を付け続けることもあると聞いてます。」
「舌印(べろスタンプ)う? 相手がとろけるまでぇ〜????」
舞羅の説明に、ますます驚く古代人三人。
「あっはっは♪ キレイな姉ちゃん、大げさやで、そら昔の話や。今は“あんまり”とろけさせへん! それに、舌印押す時は、今みたいに命懸けの恩に対してだけや。オレらの舌印をもらうなんて、逆にホンマ、名誉なことなんやで! 喜べやー、兄ちゃん♪♪」
少年はニコニコと、そして得意げに胸を張った。
「よ、喜べるかー!!! 見ろこの腕を、この焼けた穴を! 恩を仇で返しやがって〜、まったく〜! それに第一なんだ、助けてもらったくせに、その偉そうな態度は!」
「仇あ? 頭悪いなー兄ちゃん、人の話聞いとらへんのかいな? それは“感謝の印”言うとるやん。なんなら、もう二・三コつけたろか♪」
少年は、またもやペロペロと、舌を出してみせた。
「こ、こここ、このお〜〜〜……」
「まあまあまあ大地、落ち付けって。こりゃ、お前の負けだぜ。きゃははははは。」
雷羅は笑いながら、頭から湯気を出す大地をなだめた。
「くそー…。だいたいお前な〜、さっきまでギィーギィー泣いてたくせに。」
「ふ、ふん、そ、そ、そら作戦や。オレが泣くわけないやろ。グスッ……」
言いつつ少年は、涙を拭った。
「(負けん気の強いやつだなー)何が作戦だ、ウソつけえ。」
思わず大地が苦笑いすると、
「ウソやない〜、オレがあのまま、あんたにしがみついてたんはな………………、ズバリ! あんたの“実力”を見たかったんや!!」
少年は涙を吹いた指で、そのまま大地を指さした。
「なにい? 実力?」
「ああ、ホンマにあんたらに、“暗黒龍王を倒してくれる力”があるんかどうかな!」
「へ?」
「あんたら、暗黒龍王に魂を半分取られた、紫蘭王子一味やろ?」
一行は驚いた。イグアノ族は、こんな少年まで事実を知っているのだ。
「な…、ちょっと待て『暗黒龍王を倒してくれる』って…………、はっは〜ん、そうか、そんなことを言って、お前、あたしらを騙そうったって、そ〜はいかねえぞお? あたしら知ってんだぞお、暗黒龍王はお前らの、“神様”じゃねーのかぁ?!」
雷羅が、疑いの眼差しで少年の顔をのぞき込んだ。
すると少年は、小馬鹿にしたような目つきで彼女を見返した。
「は〜……、頭悪いなー姉ちゃん。オレが暗黒龍王を崇拝しとったら、囮になんかされるかい!」
「あ、頭悪い? こ、この天才科学者雷羅様をつかまえて、頭が悪いだとおお!!」
今度は顔を真っ赤にし、雷羅が詰め寄った。
だが、少年はそれを無視すると、知らんぷりしてスタスタと歩き出した。
「お、おいお前、待て、あたしを無視しようたあ、ますますいい度胸……ん? な、何してんだお前?」
少年は、さっきまで一行が乗せられていたダクラに近づくと、その手綱をとり、イグアノ兵の逃げた方と反対方向に頭の向きを変た。
そしてその巨体の後ろに回り、
「話はあとや。すぐにヤツら、兵隊増やして引き返してくるでぇ!」
と言って、
バチ〜ン!
と、そのケツを思いっきり、ぶっ叩いた!
これにはダクラも驚いた!
ダクラは、前足を高々とあげたかと思うと、
パオ〜〜〜〜〜ン!
といななき、ものすごい勢いで走り出した!
ドドドドドドドドドドド………
それはまるで、積載オーバーの大型ダンプカーが全速で突っ走っているかのような、すごい迫力と勢いだった!
そして、ダクラはそのまま狂ったように走り続けると、竜巻が通った後のような砂ぼこりを後に残しながら、あっという間に地平の彼方目へと消えていった。
「ようし! これでヤツら、あんたらがあれに乗って逃げたと思うはずや♪」
しばらくすると、今度は逆の方から、
ドドドドドドドドドド!
と、激しい地響きが近づいてきた!
それは、イグアナ少年の言うとおり、総勢数百人に増兵して引き返してきた、イグアノ兵の軍団だった! しかも今度は、さっきの少人数の兵士と輸送用ダクラとは訳が違い、鋼鉄の鎧(ヨロイ)で完全武装されたダクラに、これまた完全武装の兵士が数人ずつが乗り込んだ、いわばダクラ戦車の大軍団だった!
それは、さながら生きた重戦車部隊!
彼らは、大地と戦った所まで来ると、地平に続くダクラの足跡を発見し、
「おのれえ逃がすものか! 追えーーーーーっ!!」
と、隊長の号令一過、耳をつんざくような地響きを立て、まるで砂漠に起こった津波のごとく、怒濤の勢いで追撃を開始した!!
「うっわ〜、す、すっごい数だなあ〜…」
大地たちはその様子を、少し離れた砂丘の上に身を伏せ、そっと眺めていた。
「よっしゃ、うまいこといったワ! これでヤツら追いつくのに5・6時間、騙されたことに気付いて引き返してくるのに、その倍はかかるはずや。ということで、オレら、あと約半日は大丈夫ってことやで!」
少年はそう言うと、スックと立ち上がり、
「ほな行こか!」
と、一人、さっさと歩き出した。
「ちょ、ちょっと待てよ、おい、行くって、どこへ…………?」
「どこって、オレの家に決まっとるやん兄ちゃん。あ、言い忘れてたけど、オレの名は山形屋孔明や。歳は、かわいい盛りの九歳やで〜♪ ほらほら、どないしたん、とっとと後について来んかいな。時間無いんやでえ!」
大地たちは、
「?????」
顔を見合わせつつ、少年の後に続いた。
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