五、王子……お背中、流しましょうか?
雲一つない空に、ギラつく灼熱の太陽があった。
乾いた大地に、全てを焦がすかのような熱風が吹くと、それにつれて赤茶けた砂がサラサラと移動しては、無数の風紋を形作っていた。そしてその風紋は、まるでさざ波ののように砂丘一面を覆い、さらにその砂丘は、果てしなく連なる山々のように、遙か遙か地平線まで続いていた。
その、砂漠のど真ん中にある砂丘の窪みに、突如、
ガボーーーーーン!
と、空気の吹き出すような大音響が響いたかと思うと、
スッポーン!
と、舞い上がる砂と共に、核ミサイルを積んだ台車が勢いよく飛び出して来た!
台車は、それまで何時間も走っていたレールに別れを告げ、まるでエンジンヘッドを突き破ったピストンのごとく、砂の壁を吹っ飛ばして地上へ飛び上がったのだ!
そして、
ぎゅるぎゅるぎゅる……!!
空気をかき混ぜる回転音を立てながら、ゆっくりと空中を翔けると、
ズッドオオオオオン!
対角にある砂丘の上部へ突っ込んだ!
と!
ぶわああああっ!
台車はそのまま勢いよく砂をはじき飛ばし、まるで隕石が落ちたかのような大きなクレーターを形作りながら、砂の中へとめり込んで行った!
さらに、この衝撃に耐えきれず、
ブチブチイ!
と、核ミサイルを止めていたワイヤーが、音をたててブチ切れた!
そして、ミサイルはそのまま台車を離れ、なおも勢いを保ったまま、砂の上を滑るように飛んで行った!
一方、台車もまだ勢いが止まらず、前が突っ込んだ反動で後方が持ち上がり、そのまま、
ドン、ド・ドン!
と何度も縦に回転しながら、ミサイルの後を追いかけるようにして、たった今自身で作った巨大クレーターよりはるか先に、
ズ・ドオオン……!
と、砂煙を上げながら停止した!
この様子では、内部もかなりの衝撃を受けたに違いなかった! 果たして、大地たちは無事なのか?!
カンカンカン……パラパラパラ……サラサラサラ………
台車に激しく降り注ぐ小石や砂の音は、だんだんと小さくなり、砂煙もやがて風に流され消えていった。
そして、そのまま数分の時が過ぎ………………、
砂漠は、また風の音だけが響く、元の静かな荒野へと帰っていった。
そして、
ガチャ……
ゆっくりと、台車のハッチが開いた。
「ぷはーーーっ、死ぬかと思ったぁ〜〜。」
中から最初に姿を現したのは大地だった。
大地は外に出ると腕を入れ、中から愛羅を引き上げた。それに続いて、雷羅、舞羅、未来、紫蘭、大全と、全員無事台車の上に姿を現した。
「いてててて、体のあちこちをぶつけちまったぜ、あたし!」
雷羅は顔をしかめ、両手を当てた腰をグルグルとまわした。
「どれどれ、どこじゃ痛いのは? この辺が痛いのかの?」
「きゃ〜、ドスケベ!!」
すかさずケツに手を出した大全に、雷羅は慌てて身をよけた。
「なんじゃあ? 大地にはムネやら触らせるくせに、ワシに尻触らせるのは、ダメなんかいのう〜?」
「じ、じいちゃん〜。」
「がっはっは、そう情けない顔をするな、大地。冗談じゃ、冗談♪ ま、なんにせよ、みんな無事で良かったの。いずれどこか終着駅につくと思っとったが、いきなりこれじゃったからのお。」
一行はあらためて足下の台車、そして回りの砂漠を見渡した。
そこには三百六十度、赤茶けた砂漠が地平の果てまで広がっている。
「驚いたなあ、いつのまにか夜が明けてるよ。あんなに太陽が昇ってる。」
眩しそうに空を見上げる大地。
「ここ……どこでちゅか、舞羅お姉ちゃま?」
愛羅は姉の腰に不安そうに頭をすり寄せると、その服をギュッとつかんだ。
「さあ………。でも見当はつきます。私たちお城から脱出したあと、街づたいに飛行船で逃げましたわね。ここはおそらく、その時、はるか彼方の地平に垣間見えた、砂漠……」
遠くを見つめたまま、舞羅が答えた。
「…てことは、……なにか? ここは“禁断の地”かよ姉貴!」
「あの禁断の地でちゅか?!」
驚きの声を上げる雷羅と愛羅。大地は、この姉妹のただならぬ様子に、
「な、なんだよその禁断の地って?」
と、姉妹に尋ねた。
「禁断の地ってのはな、その昔、十八時間戦争でアレがたくさん飛んでいった所、そして飛んできた所だ。」
雷羅は、さっきまで旅を共にし、今は目の前で頭から半分砂に埋もれた核ミサイルを指さした。
「昔ここに大きな国があり、大勢の人々が住んでいたそうですわ…。だけどあの兵器が飛び出すと、十八時間後には、ここはこのような光景に変わっていたそうです。」
「しかも強い“毒”が残ってしまい、長いこと人が入れなかったそうでちゅよ。」
愛羅は、そう言うと姉の服をいっそう強くつかんだ。
この説明を、紫蘭に肩を支えられながら聞いていた未来が、
「核戦争が起こり、毒が残った? ………そうか、分かった、放射能の事ね!」
と、声を上げた。
「放射能?」
「そうよ大地、放射能よ! そうね………、もしこの光景が本当に核戦争の結果だとしたら、核戦争でこんな光景を作り出したとしたら………、少なくとも、何百年かは……人…が…………」
未来は、今自分が言った推測の、そのあまりにも恐ろしい意味に気付き、それ以上の言葉を失った!
「なんとも、愚かなことじゃ………。」
大全は、天を仰ぎ大きな嘆息をついた。
そして大地もまた、ただ呆然と遠くに舞う砂塵を見つめた。
その時紫蘭が、
「………………」
未来の肩を叩き、地平の彼方を指した。
「?? なんですか王子?????? え? あれ…は……???」
未来が目を凝らしてよく見ると、三百六十度砂漠の中にただ一点、砂丘とは違う小さな尖んがりが“ちょこん”と突き出ていた。
赤い砂漠にたった今誕生したクレーターの先には、ミサイルとその台車が半分砂に埋もれ横たわっていた。その台車からは砂丘の淵へ、さらにその先の砂漠へ、そして数キロ先にある岩山へと複数の足跡が一直線に延びていた。
「ノゾくなよ大地!」
「誰がノゾくか、そんなデカケツ貧弱胸!」
「なにい! だれがデカケツ貧弱胸だってえ? ああ、確かにケツはでけえさ! でも、胸もデカいんだよ、あたしは! あれ? お前、ゆんべ触って知ってんだろう? はっは〜ん、それともなにか? もう忘れちまったのか? ん〜、じゃあ仕方ねえなあ、ちょっとだけならノゾいてもいいぞ、大地。うぷぷ♪」
「な、な……、ば、ばかやろう!」
顔を真っ赤にする大地に、雷羅は笑って手を振りながら岩陰へと消えていった。
実は、この岩山のふもとには、小さな温泉が湧き出ていたのだった。偶然にもここを発見し、たどり着いた大地たち一行は、
「ラッキー♪」
とばかりに、昨日の“巡礼”と、その後の“地下鉄逃走”の汚れを落とそうと、とりあえず入浴することにしたのだった。
もちろん女性優先で。
大全と大地は岩陰に腰掛け、ゆっくりと順番を待つことにした。そして紫蘭もまた、少し離れたところで石に腰掛け、静かに空を見上げていた。
「なあ、じいちゃん、じいちゃんはどう思う?」
「ん? …何がじゃ?」
「本当にここって、オレたちの未来なのかなあ?………… 本当に、神話通りに戦争が起こって、人類は滅びるんだろうか?…」
大地は両手を頭の後ろに組み、背中を岩に押し当てるようにしながら大全に聞いた。
「残念じゃが、最初に連れてこられた遺跡やミサイルを見る限り、本当のことじゃろうのう……」
大全は、地面についた杖に両手をのせ、さらにその上に顎を乗せつつ、じっくりと考えるように答えた。
「でも遺跡もミサイルも、日本とは違ってるよーな………」
「うむ………。おそらくは、別のどこかの国じゃろうて。」
「そういえば、今まで見てきた風景って、どっか大陸っぽかったよね。」
「うむ…。それにじゃ“宇宙鎮尊(おおぞらしずめのみこと)が、生き残っていた人々を集め王国を築いた”という神話のくだりも、これまで出会った人々が、洋の東西を問わず人種別なく入り混じっておったことが、何よりその証拠と言えるじゃろうの。」
「ふーん………。じゃあ、なんで日本語が通じるんだろ?」
「ふむ、それは、紫蘭王子を見てみい。王子はどう見ても東洋人、しかも、お前にそっくりじゃ。つまり、そのご先祖様である宇宙鎮尊は、ワシらと同じ“日本人”じゃったと言う事じゃな。それで日本語が……、ん? その、当の紫蘭王子はどこじゃ?」
顔を上げると、いつのまにか、目の前にいた紫蘭の姿が消えていた。
しかし、
「ん? ああ、多分トイレでも行ってんじゃないのお〜?」
と、無関心な大地だった。
その時、
「あー、すっきりさっぱりした♪ これでまた元の美人に戻ったぜい♪♪♪」
と、あっというまに入浴を済ませた雷羅が、頭を拭き拭き温泉から上がってきた。
そしてその服装は、巡礼からいつものミニスカートに戻っていた。
「は、早いなーお前、まるでカラスだな。」
あきれるように大地が言った。
「カラス? なんだそれ? …あれ? それより大地、紫蘭はどこ行った?」
「うんこ!… かな?」
「あ、そ。」
これまた無関心な、雷羅だった。
「はーい、今度は脇の下ねえ。」
「きゃはは、くすぐったいでちゅう、舞羅お姉ちゃま〜♪」
まるでプールのように広い温泉の端っこのほうでは、愛羅が姉の舞羅に身体を洗ってもらっている最中だった。
そして未来は、この二人から少し離れた、温泉の中に大小いくつも点在する岩の一つに背もたれし、ゆっくりと肩までつかっていた。
「あー、超気持ちいい……。この世界に来て、やっと落ち着いた気分になったよ………………。あ、あ〜〜〜〜〜♪………フンフンフンフン〜…………………………」
彼女が鼻歌を歌いながら、パシャパシャと顔を洗ったりのんびりと手足をさすったりしていると、目の前の湯気の先に、うっすらと人影が浮かび上がった。
「!?」
そして、その人影はお湯をかぶると中に入り、ゆっくりと未来の方に近づいて来るのだった。
雷羅は先にお湯からあがったはずだし、後ろの方では、まだ、舞羅と愛羅の声がしているのに???
「だ、だれ!? 雷羅? それとも大地!?」
あわてて胸を隠し、口までお湯につかる未来。
しかし影は、
「………………」
なおも無言で近づいてくる!
そして、影は近づくにつれ徐々にはっきりとし、目の前まで来ると、ついにその顔が分かった!
それは……
「し、紫蘭王子……?!」
なんと、それは紫蘭王子だった!
紫蘭は、ゆっくり未来に近づくと横に並び、同じように背中を岩肌にあてた。
(な、なに? ど、どういうこと? どういうこと〜〜〜?????)
未来はうつむき、どうしていいのか分からずそのまま固まってしまった。と同時に、見る見る顔が真っ赤になっていくのが、自分自身でもハッキリと感じられた。
「あ、あの?……」
やっとの思いで、一言を発する未来。
そんな彼女に紫蘭は、
「…………………♪」
ゆっくりと顔を向け、ほんのかすかに微笑むと、またゆっくりと前を向いた。
「なあ雷羅、お前、紫蘭王子のいいなずけなんだろ?」
大地の質問に、さっきまで紫蘭がいた岩に座り、手櫛で髪をほどく雷羅の指が一瞬止まった。
「?!!! ……ま、まあ、一応……な。」
「その割には、なんか、紫蘭への態度が淡白だよなあ?」
「そ、そうか?」
ぶっきらぼうに答え、また髪をほどき始める雷羅。
「そうだよ。かえって未来のほうが、親身に世話してんじゃないか?」
「いーじゃねーか別に。やりたいやつにやらしとけば。……おんやあ? はっは〜ん……」
雷羅は身を乗り出し、大地に顔を近づけた。
「な、なんだよ?」
「大地お前…………もしかして、紫蘭と未来の仲を妬いてんのかぁ?」
雷羅がにやりと笑い顔を指さすと、大地は一瞬とまどったような表情を見せ、顔を横にそらした。
「ば、ばか、妬いてなんかいねえよ。妬いてなんか、別に。…不思議なことに…………」
「え?」
横でこのやりとりを見ていた大全が、
「紫蘭王子にそなたのお二方と同じく、コイツと未来ちゃんもまたいいなずけなんじゃよ。はっはっは。のう大地!」
と言って、大地の肩をポンとたたいた。
「なにっ!…(大地と未来がいいなずけ?!!)……そ、そうかい、そりゃ知らなかったぜ。」
雷羅もまた一瞬目が泳いだものの、すぐに腰掛けていた岩の上に立ち上がると、そのまま後ろを向いた。
そして、左手を腰に当て、右手で頭を叩くかのように髪を梳(す)きながら言った。
「そうかい、そうかい、はっはっは、そりゃなんの因果かねえ。過去と未来、同じ人間どうしが二回もいいなずけになっちまうなんてな……。こりゃ、よっぽどあたしら、“腐れ縁”ってやつでつながってるに違いないぜ! はは、はっはっは…。」
その表情は分からないが、心無しか言葉の割には笑いに力が無い。
「ご、誤解すんなよ雷羅! オレたちの婚約は、オレたちが生まれる前に未来のばあちゃんの占いを元に、このくそじじいと勝手に決めた話なんだからよ!」
大地も立ち上がると、慌てて祖父の話を否定、いや、否定できないので補足した。
「なーにを言うかあ。明日野家伝来の占いは打率十割じゃ! その占いで、お前と未来ちゃんの魂は“必ずや結ばれる!”と出たのじゃぞ。“運命として決まっておる!” との。かっかっか!」
「こ、こっちこそ、“なーにを言うかあ”だぜ! なにが打率十割だよ、信じられるかそんなの!」
「なんじゃとお!」
思わず立ち上がる大全!
またもやいがみ合う二人の前で、雷羅が背を向けたまま言った。
「へ、へーっ、そいつも偶然だぜ。あたしと紫蘭の婚約も、あたしらが生まれる前、今は亡きうちのばあちゃんの占いで“魂が結ばれる運命だ〜!”とか言って、先々代王様と二人で勝手に決めた話だからな!」
「ほーっ、そりゃすごい一致じゃのう。うんうん、こりゃやっぱ、お互い逃れられない運命なのじゃな。かっかっか♪」
大全だけが納得し、大地の肩をバンバン叩きながら、一人高らかに笑った。
(あ〜ん、どうしよう、あたし、ムネバクバクだよ〜〜………)
未来はうつむいたまま、紫蘭と並んで静かに湯船につかっていた。
(ここ、こ、この世界では、王子様って混浴が当たり前なのかしら? それとも、もしかしたら、王子、あたしのことを………………ううん、まさかそんなこと、でもひょっとして、でも、あ、ああ〜〜〜、ダメ! 頭が、頭がくらくらしてきたあ〜〜〜〜! とにかくなにか、とにかくなにか話さなくっちゃ、このままだとあたし、湯あたりして、のぼせて、のぼせて………そ、そうだ!)
何かを思いつく未来。
未来は、
「あ、あの、王子…。さっきは、ありがとうございました。足を痛めたあたしを、ずっと支えていただいて……」
と、やっとの思いで口を開いた。
が、
「……………………………。」
無言、無表情のままの紫蘭。
「………………………………………………」
仕方なく、未来もまた黙り込んでしまった。
そして、しばらくの沈黙が続い後、未来はもう一度勇気を出して話しかけた。
「あの、王子…………お背中…………………、流しましょうか?」
「????」
きょとんとする、紫蘭。
「はい、あっちを向いて!」
未来は、紫蘭の肩にさっと手をかけ向こうへ回すと、少し恥ずかしそうにしながらも、手に持った布切れでやさしく背中を流し始めた。
「……………………♪♪」
しばらくすると未来の手に、彼が気持ちよさそうにしている感じが、布を通して伝わってきた。
そう思うと、
「♪♪♪♪♪♪」
未来もまた、すごく幸せな気分になっていた。
こうして、恥ずかしいような嬉しいようなひとときが過ぎた後、紫蘭が突然、未来の方に向き直った!
「きゃっ!」
未来は、あわてて胸を両手で隠すと、湯船に沈んだ。
「ぶくぶくぶく……」
顔を真っ赤にし、お湯の中で息を吐く未来。
紫蘭は、その彼女の肩にそっと両手を伸ばすと、触れる寸前で一瞬ためらったように動きを止めたものの、すぐにやさしく手を乗せた。
「お、王子、な、何を……」
紫蘭は、そのままゆっくりと未来を自分の方に引き寄せた。
「し、紫蘭………」
未来の視界が、紫蘭の顔でどんどん埋まっていく!
未来は、あまりの胸の鼓動に、自分の心臓が爆発するんじゃないかと思った。そして、その高鳴りの奥で別の何かが激しく“キュン!”と音を立てるのが分かった!
と、それを合図にするかのように、彼女の体から急激に力が、
力が…………抜けていった…………
(あ、ああ……)
この時、体の奥底から沸き上がる、優しい、熱い、そして激しい“何か”が、未来の体と心を貫いた!
彼女は、観念したかのように、そして全てを受け入れるかのように、ゆっくりと目を閉じた。
そして…………………
その体は、“くるん”と後ろへ向けられた?!
「え?!」
紫蘭は、目が点になったままの未来から、手にした布きれをゆっくりと引き抜くと、今度は逆に未来の背中を流し始めた。
「♪♪♪♪♪♪」
楽しそうに。
優しく。優しく…………
「やっぱ、運命なのかなあ…………」
雷羅は、砂漠を見渡す小高い岩の上に立ち、一人ぽつりとつぶやいた。
「いたかあ?」
その後ろから、ゆっくり大地が登ってきた。
「え?…なんだよ、なんか用か大地?」
「なんかって、いや、こっから、紫蘭王子を探してたんじゃないのかあ?」
「別に…。砂漠を見ていただけだ。」
「なんだそうか。オレはてっきり……」
大地はそういいながら、雷羅の横に並んで立ち、一緒に遠くを眺めた。
「紫蘭ならあたしが心配しなくても大丈夫さ。あんな状態でも、元々がしっかりしてるからな。」
「へーっ、紫蘭のこと、信じてるんだな。」
「へっ、そんなんじゃねーよ。アイツとは、ガキの頃からの腐れ縁ってやつで、よーく知ってるだけさ………。あたしってば、こんなんだろう? 男勝りで、ガサツで、おっちょこちょいで…。逆に紫蘭は、頭脳明晰、しっかりした性格でさあ。一緒にいると、イマイチお互いかみ合わないっつーか、気疲れするっつーかよ……。」
「ふーん……。」
大地は、雷羅の横顔を見つめた。
「オレは、お前といると面白いけどなあ。」
「な、なんだそりゃ、そりゃあたしのことバカにしてんのかあ? はは。……それより、大地こそいいのかよ? 大地こそ、未来のこと、あんましカマってやって無さそうだけど?」
「あ、ああ………、それはオレもおんなじさ。アイツ、ほっといても、しっかりしてるから。」
そう言うと、大地は、両手を上げ大きく背伸びをしてみせた。
「へ、へーっ、なんだ、お前こそ、未来のこと信用してるんじゃねえか。」
この言葉に、大地はにやりと笑い言った。
「ああ。なんせ雷羅と違って、“まっとうな科学者”を目指してるからな、あいつ。」
「な…なにおーっ、『あたしと違って』は、余計だろーが! やっぱりお前、あたしのことバカにして〜!」
雷羅も半分笑いながら、大地に向かって突っかかった。
が!?
「………あっ?!」
不安定な足場に、雷羅はその足を滑らせてしまった!
「きゃああああっ!」
宙に浮くその体!
「あぶなーーい!」
大地がとっさに飛びついた!
大地はそのまま雷羅を抱きしめ、自らが下になるように体を回し、その身体をかばった。
ドサアッ!
地面に叩きつけられる二人!!
岩山の下に、たくさんの砂ぼこりが舞い上がった!
「いててててて…………あ、……………!」」
雷羅が頭を押さえながら顔を上げると、自分の下敷きになって目をつぶったままの大地がそこにいた。
「大地、大丈夫か大地!! 大地、大地、あ、大地……、お、おい、息してるのかよ大地ーー!」
大地の頭を抱え、頬をゆさぶり、そしてその胸に耳をあてる雷羅。
「よかった、心臓は動いてる、でも息は、息は? そうだ、人工呼吸、こんな時は人工呼吸を……人工、呼吸?!」
青ざめていた雷羅の顔が、少しずつピンクに染まっていく。
「そ、そうだよ、人工呼吸だよ。そうとも、人工呼吸だこれは! 誰がなんと言おうと、……うひ、二度目の、人工呼吸〜♪♪♪」
雷羅はポンと手を鳴らし、嬉しそうに顔を近づけた。
そして、今まさにその唇が重なろうとした時、
「な〜にが“二度目の人工呼吸〜”だよ。じゃあ、最初の“アレ”も人工呼吸かあ?」
大地がパチリと目を開けた。
「あ〜〜〜〜〜、だだだ、大地、お前、死んだフリしてたなあ!!」
顔を真っ赤にし、慌てて顔を離す雷羅。
「フリしてたんじゃねーよ。ほんとに一瞬気を失ってたんだよ。いててて……。それより雷羅、お前こそ大丈夫か?」
「う、うん、あたしは、大地のおかげで大丈夫みたいだけど……、大地は?」
「ああ、とっさに受け身を取ったから、大丈夫……だと思う。」
「良かった。ああ……」
顔は離しても、まだ上におおいかぶさったままの状態で、雷羅は安堵のため息をついた。
「雷羅。」
「え?」
「な? どっちかと言うと、未来より雷羅の方が目が離せない。」
言いながら、大地がパチッとウインクした。
「……………………!!ば、ばかやろう。……………………ば、ばか…………」
じっと大地を見る雷羅。
と、その目には、うっすらと涙が…………。
そして、
「……あの………、あのさ、大地?」
「ん?」
「やっぱ、二度目の人工呼吸してやるよ〜〜〜〜〜♪♪♪♪♪」
と言って、ガバと顔を近づけた!
「どわ〜〜〜、こら〜〜〜〜!」
その時、
「きゃ〜〜〜! 雷羅お姉ちゃまが、大地お兄ちゃまを襲ってまちゅう!」
「雷羅、あなた!……」
と、愛羅と舞羅が大声を出した。風呂上がりの二人が散歩をしていると、大地を押し倒し上から襲っている………ような雷羅の姿を見たのだった。
まあ、半分はその通りなのだが。
「え? わ〜〜〜、ま、まて、ゴカイすんな二人とも、これは、岩の上から落ちて、そこを大地に助けてもらっただけなんだよ!」
慌てて大地から飛びのく、雷羅。
「ほんとでちゅかあ?」
けげんそうな顔をして、愛羅が横目で疑った。
「ホントだってば〜。お、おい、大地、お前もなんか言え!」
「そ、そうなんでちゅか、大地お兄ちゃま?」
「ああ、本当だよ愛羅ちゃん、あの上から落ちたんだ。」
「そ、そうでちゅか♪」
岩の上を指さす大地の答えに、ほっと安心する愛羅。
「でもその後、確かに襲われたけどね。」
「あー大地、てめえ、ばらすな、こら!」
「や、やっぱり、お姉ちゃまーーーーーっ!!」
そんな大騒ぎの最中に、
「楽しそうね、なんの騒ぎ?」
と、今度は、未来と紫蘭がやってきた。
その声に四人が振り返ると、そこには、風呂から仲良くあがってきた二人の姿が!
『あ・う? …………』
固まる大地たち。
「ん? どーしたのみんな?」
未来と紫蘭は、不思議そうに顔を見合わせた。
一方そのころ大全は、
「い〜い湯っだな、あ、あはん♪」
温泉で上機嫌だったのじゃ!
「何い! 銀行強盗の次に隣りの市街を爆破されたあげく、そこの古代地下トンネルにあった乗り物で、まんまと逃げられただとお!」
ここは地球王国(チタマおうこく)首都“都”(みやこ)の中央に、ひときわ高くそびえる、“国家警察隊ビル”である。警視総監は、この最上階にある警視総監室で、革張りのどでかい椅子にふんぞり返り、これまたばかでかい黒光りのする机をはさんで、部下からの報告を聞いていた。
「はっ! その通りであります!!」
「バカモン! それでも我が地球王国の誇る警察隊と言えるかあっ! すぐに非常線を張り直し、探索逮捕に全力を上げーい!!!」
「ははーーっ! 直ちに!」
この叱責と命令に、部下は震える手で敬礼すると、大慌てで部屋から出て行った。
「ちいっ、やはり人間どもでは所詮この程度か!」
一人苛立つ警視総監。この時、
「お恐れながら、陛下、奴らの行く先には、いささか心当たりがございます。」
横のドアを開け、例の、飛行船の暗い船内で聞いた低音声の主が入ってきた。
「なに?! どこへ行ったと言うのだ?」
「伝説ではその昔、あの街から我がイグアノ族の街まで、毒矢を運ぶ地下トンネルでつながっていたと伝えられます。しかして、奴らの消えた町からこの都までの線上に、我がイグアノ族の街がございますれば、奴らは、間違いなくその手前のどこかの地点へ現れるもの、と……。ここは一つ、やつらの捕獲は私どもにお任せいただければ……」
「ほう……? だがお前達イグアノ族は、もはやあの土地から………」
「いえ、兵力の一部は街に残留させておりますので、我らにお任せくだされば、必ずや紫蘭王子一行を捕まえて御覧にいれましょう!」
「よくぞ申した! それでこそ、余とともにこの世の暗黒化を目指す余の僕(しもべ)! いいだろう、族長ンタラチュラよ、お前に総て任せよう。王子以外の生死は問わん! 見事に奴らを捕えてみせよ!!」
「ははーっ、有り難き幸せ!」
そう言うと、男は片膝を床に着き深々とお辞儀をした。
この“イグアノ族族長ンタラチュラ”と呼ばれた男は、実に不思議な姿をしていた。
彼は、頭からすっぽりと黒マントを被っているのだが、普通の人間と違うのはその中身で、マントの下からのぞく顔や腕は、一円玉ほどもある赤いウロコ覆われていた。その皮膚といい顔といい体型といい、そして何より後ろにはみ出したずんどうの“尻尾”といい、それは人間と言うより、まるでどでかい“赤イグアナ”が二本足で立っているかのようだった!
「それより、例の計画は進んでおろうな?」
総監は足を組み、椅子に斜めに背もたれつつ男に尋ねた。
「はっ! 我がイグアノ族にも、科学に精通する者がございますれば、十日ほどで良い結果をご報告出来るかと……。」
「ふ、ふん。それが首尾良くいけば、無理に紫蘭を捕らえる必要もなくなるのだがな…。」
総監は、ニヤリ、と、不敵な笑みを浮かべた。
「さようでございますな…。くっくっく。」
「ふっふっふ。ようし、そっちも急がせよ!」
「ははーっ!」
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