第四章 核ミサイルエクスプレスその1
四、核ミサイルエクスプレス その1

 「ぎゃ〜〜〜〜っ!」
大地たちの未来世界最初の朝は、けたたましい雷羅の悲鳴で明けた。
「どうしたっ!」
大地たちはあわてて飛び起きると、急いで雷羅の元に駆け寄った。
すると雷羅は、“ダウジングロッド・雷羅スペシャル”を手にし、ワナワナと震え立っていたのだった。
「あ、あたしもう一度、紫蘭と大地の魂のシンクロ率を確認しようと思ったんだよ〜〜…」
雷羅はそう言うと、二本のロッドの先をそれぞれ紫蘭と大地に向けた。そして、
「ほら、こうしてな、この一番下のボタンを押して………」
と言ってボタンを押し、その上にあるディスプレーが見えるように、その向きを変えた。
「??」
いぶかりながら、みんながそれをのぞき込むと、そこには“73”という数字が…………
「な…七十三パーセントお? ど、どういう事ですの雷羅?」
「そ、それがね〜。ほら……」
雷羅は、今度はロッドの先を自分と未来に向けた。そしてそのスイッチを押して、また同じようにみんなに見せた。するとそこには、今度は“82”の数字が!
「雷羅お姉ちゃまと、未来お姉ちゃまのシンクロ率が八十二パーチェント??? い、いったいどういうことでちゅか????」
「あ!………」
舞羅が短い声を上げた。
 「も、もしや雷羅、ひょっとして……、大地様と紫欄王子同様、未来さんもあなたの前世……旧バージョン体なのですか?!!」
「そ、そうみたい〜〜〜〜。うるうる。どうやら、最初に紫蘭の魂を入れた時、機械のシールドが不十分で、あたしの魂の波動も一緒に取り込んだらしいんだよね。」
がっくりとうなだれる雷羅。
「つまりなんですか、偶然にも、王子とあなたの生まれ変わる前の二人が同じ場所にいて、強く反応してしまった……と?」
「そ、そうらしいのよ〜。は、はは、はははは………」
雷羅は頭をかきながら、ひきつった笑いを浮かべた。
「笑い事じゃないでちゅ! やっぱ雷羅お姉ちゃまの作ったバカ機械でちゅ! 何かどんでん返しがあるのではと思ってたでちゅよ!」
「七十三パーセント……。よりによって、調べた旧バージョン体の中でも一番低い値でしたね……。はあ〜………」
ため息をつき肩を落とす舞羅に、
「ど、どーいうこと?」
事態をよく飲み込めない大地が聞いた。
 「魂は、生まれ変わる度に変化や進化を繰り返します。つまり紫蘭王子の魂は生まれ変わりの時変化したため、大地様の魂とは七十三パーセントしか似ていないのです。これでは違いが大きすぎますわ。ああ……」
舞羅はそう言いながら、頭を左右に振って嘆いた。愛羅と雷羅もまた、同じようにがっくりと肩を落としてしまった。
その様子を見て、大全はあらためて大地と紫蘭を交互に見比べた。
 「う〜む。おかしいとは思ったんじゃ。この大地と、この高貴さを醸し出す少年がそっくり同じとは、ど〜〜しても信じられんかったでのお…。違いはおそらく、コイツから下品さとバカさを引いて、あの高貴さを足した分じゃろうの。いや、みごとなバージョンアップじゃ! 天晴れ!!」
「な、なにお〜〜〜!! 真顔で言うな、くそジジイー!」
 そしてその横では、未来が驚きの目で雷羅を見つめていた。そして、その目からはポロポロと大粒の涙が!
「あ、あたしが、この人の旧バージョン体〜? てことは……あたしの生まれ変わりがこの人お〜?!!  そ、そんなあ〜!!!!!!! そりゃあたしは、女の子なのに科学が大好きよ! 将来の夢は立派な物理学者になることよ!  でも、それがなんでぇ〜〜〜??? よりによって超こんな変な、怪しげな、うさんくさい、イカサマっぽい………え〜〜〜〜〜ん………」
「かわいちょうに。よちよち。」
その頭をなでて慰めてやる愛羅。
「な、なんだよてめーら、そりゃどーいう意味だよー!」
「だって、大地お兄ちゃまがバージョンアップなら、未来お姉ちゃまは、生まれ変わったら魂にバグが入って、“マッドサイエンティスト”になるんでちゅよ。死にたいほど……違ったでちゅ、“死にたくない”ほど悲惨でちゅ!」
「てててってて、てめーーーーーーっ! 誰がバグだ、誰がぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!! 何が死にたくないだあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!! 待っちゃがれ、このバカ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
ここでまた、愛羅と雷羅の鬼ごっこが始まった。

 「舞羅どの……、紫蘭王子どのと大地の魂が、あまり似ていなくて大丈夫なのかな?」
追い駆け回る二人を眺めながら、大全が聞いた。
「無理…かも……………、しれません……。」
目を伏せる舞羅。が、
「でも、もう後には戻れません。私たちが時空を飛び越えた機械を今一度作るには、もう時間がございません。行くしか、ない………のです!!!」
そう言うと彼女は顔を上げ、決意の目でキッ! と遠くを見つめた。
 その言葉に、
「がくっ! やっぱ行くのか〜……」
と、今度は大地がうなだれた。
「あいわかった…。で、本日の行動予定は?」
「とりあえず……お腹、空きましたわねぇ?」
そう言うと、舞羅はニコッとほほえんだ。


 「…って、これ、畑泥棒じゃねーかー!」
「し〜っ、大声出すと、お百姓さんにバレますわよ大地様!」
森を抜け出た大地たちは、石造りの家々がのどかに立ち並ぶ、谷あいの小さな村を見上げる段々畑に身を伏せていた。
「ほら大地さま、これなんかおいしいかもしれませんわよ。」
「は、はあ〜……」
大地は舞羅に手渡された、スイカとナスとイチゴを合わせたような奇妙な色と形の作物を、複雑な表情で見つめた。
 その横で大全が、
「なつかしいのう。子供の頃よくこーして、近所の畑からイモやスイカをかっぱらったもんじゃ。」
と言いながら作物に耳を当て、ポンポンと指ではじき熟れ具合を確かめていた。
 さらにその横では愛羅が作物に聴診器を当て、
「は〜い、次の方〜、具合はどうでちゅか〜? あ、これは大変、おなかに虫がいまちゅね。あ、こっちの方は大変結構な健康状態でちゅ、健康優良児でちゅねぇ! ほら、おじいちゃまコレ?」
と、まるで患者でも診察するかのように、トントンと指先で打診をしていた。
「おーっ、見る目があるのう愛羅ちゃんは。よー熟れとるぞそれは。」
「きゃっきゃ、やったでちゅ♪♪」
愛羅はそう言って喜ぶと、聴診器をランドセルにしまい込み、今度はメスを取りだして実を切り出した。
「ささ、いい子だから手術ちまちょうねえ〜。痛くないでちゅよぅ〜、うぴぴ♪♪」
「バ〜カ、遊んでんじゃね〜よ愛羅。ほら、い〜からその切ったの一つあたしによこしな!」
と、その後ろから、背中越しに切りたてを一ついただいく雷羅。雷羅はすぐにその場にあぐらをかくと、ムシャムシャと実にかぶりつき始めた。
「うんうん、結構いけるでね〜の♪♪♪」
 そして、さらにその三畝(うね)後ろでは未来が、
「な、情けない、情けない〜。何が悲しゅうて、未来に来てこんな畑泥棒なんて、超恥ずかしいことしなければいけないの〜〜?」
と、右手で顔を押さえ自分の身を嘆いていた。
 これに、雷羅の肩がピクッと反応した。
雷羅は、
「ケッ、ごちゃごちゃ言ってんじゃねえよ、おめー! あたしたち指名手配されてんだから、仕方ねーだろ!」
と、未来に背を向けたまま、実をムシャムシャ喰いながら言い放った。
 これには未来もまた、両肩をピクッと反応させた。
そして、
「ふ、ふん、何言ってるのよ雷羅さん。だいたいあなたはそれでも…………あ、だめですよ王子それは葉っぱです、葉っぱ! 食べちゃだめ〜〜!」
と、言い返しかけて、横で葉っぱを口に入れる紫蘭に気づき、その行動を慌てて止めた。 
 「なんだあ? おいおい、話を途中で切るなよ! 『だいたいあなたはそれでも』? なんだってんだよ? あー未来?!」
雷羅は、まだ未来に背を向けたまま言った。しかしその目だけは、にらむようにして後ろを向いている!!
「ふん、だいたいあなたはそれでも、科学者としてのプライドがあるの? と、言いたかったのよ! いくら指名手配中でも、畑泥棒なんて卑しいマネ、科学者として超恥ずかしいと思わないの?」
「うるせーっ! なんだとお、科学者のプライドお? たかがあたしの旧バージョン体のてめーに、そんな説教される筋合いはねえ!」
ついにプチッと切れる雷羅!
雷羅は怒鳴りながら立ち上がり、そのまま振り向きざまに今食べ終えた皮を、
 パシーン!
と、未来に投げつけた!
「きゃっ、何すんのよ! 言っときますけどね、あたしはあたしよ! あたし!!!!! あんたみたいなバカ科学者が、あたしの生まれ変わりなんて、超超超超、絶対絶対絶対認めませんからねーーーーーーーーっ!!!!」
未来もまた、横に転がっている実を投げ返した!
「あいた! やる気かてめええ!!」

 「お、おいおい、静かにしろよーっ……」
横から大地が、あわてて止めに入った。
 が、時すでに遅かった。
そのあまりの騒がしさに、丘の上で早朝の草取りをしていた一人の農民が気付いてしまったのだ!
 「あ〜〜っ! おんみゃぁーら、な〜にしとるだ? さてはおんみゃーら、畑泥棒だなモシ! ゆるさねーだぎゃ! 村の衆〜、みんな出てくるだ 畑泥棒だっぎゃあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
「ば、バレた、にげろ〜〜〜〜〜〜〜!」
盗んだ作物をかかえ、一目散に逃げる畑泥棒一行!
 その背中に農民の罵声が続いた。
「おんのれ、逃がしてなるだぎゃーっ! 畑泥棒は打ち首獄門だぎゃ! 皆の衆逃がすでねえ、為吉、鐘を鳴らせ、留三、竹ヤリもってくるだぎゃ! 皆の衆、追いかけるだぎゃーーーーーーーーーーーっ!」
 ウ〜! カンカンカン!!
火の見櫓の半鐘が谷あいにこだまし、手に手にクワやカマ、包丁ににすりこぎまで持って現れた老若男女数十人の村の衆が、牛や馬も総動員して畑泥棒の一行を追いかけだした!
 「だめでちゅ、お百姓さんメチャ元気でちゅ! このままだと、すぐに追いつかれまちゅう〜!」
愛羅の言うとおり、村人や家畜があっという間に後ろに迫ってきた!
しかもこの逃げ道、両側を切り立った崖に囲まれた一本道で、一行は前へ進む以外、どこにも逃げ場は無かったのだ!
「ちいい、こうなりゃあたしの秘密兵器で…」
雷羅は振り返ると、右手のブレスレットを村人目がけ振りかざした!
「だ、だめですよ、雷羅、人に危害を加えるのは……」
「分かってるって姉貴、まかしときな!」
ためらうことなく、そして有無を言わせる間もなく、雷羅は素早くそのスイッチを入れた!
「!!!!!」
 するとブレスレットはすぐに反応し、
 ブオオン、ブオオンン!!
光り輝きながら強烈な振動音を発し始めた!
 それはまるで、ガード下かジェット機のエンジンの真後ろにでも立っているかのような、鼓膜の振動が分かるほどのすさまじい音!
 と!?
「“衝撃音波・雷羅スペシャル”発射で〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!」
雷羅の掛け声とともに、
 ド・ドーーーーーーーーーーン!!
瞬間、ものすごい音圧の衝撃波が、後ろに発射された!

 「な、なんだぎゃ〜〜〜????」
「ブヒヒ〜〜〜〜〜〜ン?!」
そのあまりの圧力に、後ろに押し戻される村人や家畜たち!
 その様子を見て、
「どうだいみんなあ! これでもう大丈夫だぜ♪ そ〜れ、それそれい♪」
と、得意気に何度も発射してみせる、雷羅!
ドーーーーーン、ドカーーーーーーン!! ドドーーーーーーーーン!!!
駆け抜ける衝撃波、砕け散る岩肌、崩れ落ちる岩石!!
 立て続けに発射される衝撃波は、谷あいにこだましながら共鳴増幅していき、地は脈打ち、山は震え、山肌に亀裂が走った!
 そして……
 パラパラパラ……カラカラカラ……ガラガラガラ…ドガラガラガラ、ズゴゴ ゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオ〜〜ッッ!!
山肌の小さな崩れは、やがて巨大な落石へと代わり、さらには山崩れへとその勢いを増した!!
「うっ、うわ、やっべ〜〜、振動で崖崩れが起こっちまったあっ! みんな逃げろーーーっ!」
「ぎょえ〜〜〜〜っ、やっぱりこうなったでちゅう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」


 『臨時ニュースを申し上げます! 六日前、国民議会を爆破し、国会議員全員を殺害した上に紫蘭王子を拐かし逃走した神司姉妹は、その後、仲間を集めさらに凶悪化したもようです! 彼らが神世期の遺跡を破壊し、駆けつけた取り方衆にも多数のけが人を出させた上、なおも逃走を続けていることは連日お伝えしていますが、今日新たに、その悪逆非道の足取りが判明いたしました!
 彼らは遺跡での警察との衝突に続いて、三日前には薩摩郡芋焼酎村の畑を襲撃し、作物を奪い、崖を爆破して逃走、さらに一昨日には、不敵にも肥後郡馬刺市の王立銀行馬刺支店を襲い、およそ八百万マネーを強奪、警備員三人と駆けつけた取り方衆六人を殴り倒し、またまた逃走した模様です! そして、これがその時、防犯カメラがとらえた映像です!!!』
 「あっちゃー、キレイに写ってるぜ。最近のカメラは性能がいいねー!」
「あらあら、こんな事ならわたくし、ちゃんとお化粧して銀行に乗り込めばようございましたわ。」
「おーっ、ここここ、ここであたしの作った爆弾が爆発して、見事に金庫が吹っ飛ぶんだよな。ほら、やったー! きゃっほーー♪♪」
「あらまあ、大全おじいさまの取り方衆への見事な攻撃、スローで写ってましてよ。」
「なんのなんの、その前の舞羅どのの警備員への当て身も、なかなかでござった。」
「まあ、お恥ずかしいですわ。」
「大地お兄ちゃまって、案外度胸ないでちゅね。なんにもしないで見張ってるだけでちゅ。あたちと王子様なんか、あーんな大きなお金の袋担いだでちゅよ。」
「は、はは、ははは……うう〜〜〜〜〜……」
「どうだい見たかい、あたしの作った爆弾。こーんなにちっこいのに、すんげえ威力だっただろ?」
「ふん、さすがマッドサイエンティストね。悪事になると成功するんだ。」
「なんだと、この旧バージョン!」
「なんですって、このバグ女!」
「しーっ、静かになさい二人とも! また正体がバレますわよ!」

 『実は、昨夜の捕り物の際にも、王子は取り方衆に反抗したと伝えられます。事実この映像を見る限り、実は、王子もこの凶悪集団の仲間だったのでは? という疑いが、浮上しています。では、警視総監のインタビューをお聞きください。』
『全国民のみなさん、これをご覧ください! これは、一昨日爆破された銀行で発見された、爆弾の一部です。分析によりますと、これは、議会爆破跡から発見された破片と一致します。
 これにより、紫蘭王子が議会爆破の“首謀者”であるという疑いが、非常に濃くなりました! 現在も、王子一行は逃走を続けております! 万が一見かけましたら、すぐに最寄りの警察署もしくは交番へ……』
 「あんのやろ〜〜〜、言いたいこといいやがって!」
「すっかり本物の警視総監気取りでちゅ。」
「正体をさらけ出すより、その方がこの国の権力を掌握できて、都合がいいんですわ。」
「それより、どうするんだよこれから? 腹が減ったからって畑泥棒するわ、資金が無いからって銀行強盗するわ……。外を見ろよ外を、どこもかしこも新しい指名手配書がベタベタだし、警察……取り方衆も沢山走り回ってるし〜〜〜……」

 今や、この国で知らぬ者はない凶悪犯と化した一行は、周りに気付かれないように変装し、地方都市の古びた大衆食堂の片隅でひっそりと丸テーブルにつき、カウンター奥の小型テレビに映し出されるニュースを見ていたのだった。
そして、その窓の外には、いかにも“凶悪そうな”国家反逆者全員の似顔絵を描いた指名手配ポスターが貼ってあった。それも街のあちこち、数メートルおきに!
 「仕方ございませんわ。古来より、腹が減ってはイ草は伸びぬと申しますし…。―いただきまーす― だいいち、お金が無くては旅も出来ませんからね。モグモグ。」
と、サラダを食べながら、舞羅が言った。
「い、イ草ねえ…、ところで、旅って王宮まででしょ? 遠いんですか? ズルズル。」
ラーメンをすすりながら、大地。
「そうだなー、あたし達、来るときは飛行船だったから早かったけど、歩くとなるとかなり遠いぜ。バクバク。」
その横で大地にべったりくっついて、三段重ねハンバーガーをほおばりながら、雷羅。
「え〜〜っマジ〜? やだな〜。パクパク……」
サンドイッチを食べる未来。
「でも、歩くのは健康にいいんでちゅよ、未来お姉ちゃま。人間、一日最低一万歩でちゅ! クチャクチャ。」
お子さまランチの愛羅。
「じゃが、愛羅ちゃん、ワシら歩くわけではないからのう。ズズ〜……」
みそ汁をすすりながら、大全。
「…………ゴクッ」
無言でミルクを飲む紫蘭。彼は未来と並んで座り、未来にサンドイッチを食べさせてもらっている。
「フーフーッ、でもさあ、ノコノコと王宮に出かけるなんて、それこそ暗黒龍王の思うつぼじゃ…、ズルズル……」
「覚悟の上ですわ。モグモグ」
「ズルズル、覚悟の上って、実際に戦うのはオレ…!!」
 言いかけて、急に大地の箸が止まった!
この時、レストランのドアが開き、頭にテンガロンハットをかぶり胸に星のバッチをつけた、西部劇の保安官ふうの男が入ってきたのだ。
 ただ、西部劇とちょっと違うのはこの男、銃の代わりに腰に“十手”を差していた。そしてさらにその後ろには、例の、『鋼鉄でできた“びーに、じゅーく”と呼ばれる鳥型の空飛ぶ船落とした』という伝説の“竹やり”を持った屈強の取り方衆4人が控えていた。
 保安官はゆっくりと店の中央に立つと、右手で十手を抜き肩にトントンやりながら、左手に持った手配書と見比べつつ十五名ほどの客を見渡した。

 「!!!」
思わず身構える大地。
 「しっ、大丈夫ですわ大地様、落ち着いて。私たちのこの完璧な変装が、見破られるはずございませんわ。」
そう、実は大地たち一行、昨日からとんでもない姿に変装していたのだった。
「そーそー。それによ、あの手配書ってみんな凶悪そうに描いてあるから、かえって大丈夫だって。」
舞羅と雷羅の言う通り、保安官は大地たち一行を気にする様子もなく、そのままカウンターに近づくと片肘をつき、中を斜め下からのぞき込むようにして言った。
「おやじぃ、今日、不審人物を見かけなかったか? あやしい集団とか、よそ者とか。」
奥では、年季の入った白いエプロン姿の小太り中年主人が、野菜炒めの最中だった。
 主人は、
「いいえ、べつに。」
と、めんどくさそうに答えた。
「そうか……。おやじ、怪しいやつを見かけたらすぐ通報するんだぜ。なんせ一昨日、紫蘭元王子一味が襲った銀行は、ここから三十キロほどの隣町だからな……。ま〜、もっとも、ここいら一帯は非常線が張られていて、“水虫”の這い出る隙もないが。はっはっは!」
 「しかし保安官様、あたしゃ信じられないねえ。この国をお作りなすった宇宙鎮尊(おおぞらしずめのみこと)さまの高貴なお血筋だよ。紫蘭王子も、それはそれは立派なお方と伝え聞いていたけどねえ……」
横のテーブルで皿を片づけていた、まるまると肥えてエプロン姿がはちきれそうな主人の女房が言った。
 見ると、他の客も無言でうなずいている。
「バカ野郎! もう王子じゃねえ、元王子だ、元! 第一、宇宙鎮尊がこの国を作ったとかいうのは、王家を神格化するための作り話だろうが! 誰が今時、あんなおとぎ話みたいな話信じるかってんだ! がっははは!」
 「あんのやろう〜〜!」
「押さえなさい雷羅。今は我慢するしかないのですよ。」
カチンときて思わず身を乗り出そうとする雷羅を、舞羅が制止した。
「そうかねえ。あたしゃ信じるけどねえ。」
そう言って女房は、カウンターの奥を見た。
 そこには、この王国、つまりこの世界の家庭なら一家に一つは必ずあるという、宇宙鎮尊の立派な肖像が掲げてあった。もっともその絵は、今や神格化されすぎていて、絵と言うより図形に近かったが。
 「ちっ!」
保安官はいまいましげに舌打ちすると、客をぐるりと見回した。そして、
「いいか! お前達も何か気付いたら、すぐ警察に通報…………ん? お前ら、見かけない顔だな。」
言いかけて、大テーブルに座っている大全たち一行に目を止めた。

 「巡礼の者でござる。」
食後のお茶をすすりながら、平然と答える大全。
「巡礼だとお?」
保安官は一行をじろじろと見渡した。
「なるほど……。しかしじいさん、あんた以外はまだ子供のようだが?」
「ワシの孫たちでござるよ。冥土の土産にと巡礼を思い立ったこの年寄りに、孫達が供を申しでましての。」
「ほ〜……、今時殊勝なこった。」
そう言うと保安官は、腰をかがめて一人一人の顔をのぞき込んだ。
「はい、ほんに良くできた孫達で。はっはっは。では、そろそろ行こうかの、お前達。」
「はい、おじいさま!」
一行は立ち上がり女房に代金を払うと、足下に置いていた歯のない下駄みたいなのを両手に付けた。
「では、失礼。」
 彼らは、薄汚れた一枚布を頭からグルグル巻きに身にまとっていた。そして両手には板。
 それは、この地方でよく目にする、敬けんな聖地巡礼者の格好だったのだ。彼らは全身土とほこりにまみれていて、これまでの長い巡礼の苦労ををうかがわせていた。
 ……ように見えた。
 大全は、まず両手を胸の前で合わせ、顔、頭の順に上げて拝むと、床に膝を着き、そのまま前へひれ伏した。そして、身を起こしながら手を着いた位置に再び立つと、また同じ作業を繰り返しながら、入り口へ向かった。
 そして大地たちもまた、一人一人、大全と同じ動作でその後に続いた。
 「“五体投地礼”(ごたいとうちれい)か。けっ、ご苦労なこったぜ………。じいさん、じいさんよぉ!そんな調子じゃ、聖地に着く前にあんたの寿命が来ちまうぜ〜〜! がっはっはっはっは!…………ん? な、なんだお前?」
バカにする保安官の前に、舞羅がすっと立ちふさがった。
 彼女は懐から数珠を取り出すと、
「保安官さま、保安官様にも聖なるご加護がありますように〜。φποβρ∋∞………ムンッ!」
と、何やらブツブツ呪文を唱え、
 パチン!
と、目の前で指を鳴らした。
「え? いや、そりゃどう…も??……」
そして、ていねいにお辞儀をするとみんなの後に続いた。
 「くくくっ、舞羅姉貴、あたしのことは止めたくせに。保安官に何をやったんだよ〜いったい?」
「え、分かりました? うふふ………、ちょっとね。」
 保安官は、一行が角を曲がり、その姿が見えなくなるまで彼らを見続けた。
そして、見えなくなっても………………
 見続けた。
ぼ〜〜っ……として。
 「??? ほ、保安官? ど、どうしたんですか、あ、よだれがたれてますよ、保安官………保安官??」
取り方衆が、やっと上司の異変に気付いた時は手遅れだった。
「ここ、は、どこ? わたしは、だれ? れれれのれ〜〜! お〜れか〜けれ〜すか〜〜??」
「ほ、保安官〜〜〜?????」
レレレのおじさん状態になった保安官は、それから二日ほど、記憶喪失状態にになっていたそーな。


 大全率いる巡礼一行が、レストランを出発して、すでに五時間ほどが過ぎていた。
「陽もだいぶ傾いてきたのう……。もう随分進んだから、今日はここいらで野宿でもするかのう、大地。」
「そうだね、じいちゃん。今日は、もうたーーっくさん進んだし、ひとつここいらで終わろうかあ♪ ………って、まだ全然先に進んでないじゃんかよ〜〜〜〜っ!!!」
あれから一行は、五時間ほどかけてまだやっと数百メートル進んだ所だった。
 振り返ると、まだはっきりと、昼食を食べたレストランへの曲がり角が見えている。
「この街を抜けるまでの辛抱ですわ、大地様。ここは巡礼の通る道、代々巡礼者は通行手形が免除されていますからね。」
「そうそう、あちたになれば普通に歩けるでちゅよ、大地お兄ちゃま。」
「あ〜あ、あたし、この二日でもうすっかり体中泥まみれ。早くお風呂に入りたいよぉ〜…」
薄汚れた顔で、未来は泣き出しそうな声を上げた。
 赤茶けた日干し煉瓦を積んだ三〜四階建ての建物が並ぶ大通りの一角で、一行は一つの路地を選ぶと芋虫のようにそこへ入った。
 そして、
「うむ、いい路地ぢゃ!」
と、そのままこの場へ野営することに決めた。
 「でも、こんな堂々とした逃走犯も珍しいよねえ………」
未来は、地面に直接座ってレンガ造りの壁に背をつけ、そのひんやりとした感触を感じながら大通りを眺めていた。そこには絶え間なく、大地たち一行の探索に土煙を上げ駆けずり回る、大勢の取り方衆の姿があった。
「だーいじょうぶだって。なんせここではあたしたちも、“その他大勢”の珍しくない存在なんだからよ♪」
 そう、実は雷羅の言うとおり、街には大地たち同様似たような巡礼集団がたくさん存在していて、いろんなグループがあちこちで野営をしていたのだった。
大地たちのいる小さな路地も、実はそんな巡礼で溢れかえっていた。

 「みんなおまたせ〜!」
しばらくすると、夕餉の食料を買い出しに行ってた舞羅と愛羅が、手に手にをいっぱい買い物袋を抱えて帰ってきた。
「はい、おじいさまには、これ。」
「おーっ、ここ、こ、これは酒ではないか♪ これはこれは、舞羅どのは気がきくのう〜〜〜〜♪♪」
大全は、思いもよらず一升瓶を手渡され、小躍りせんばかりに上機嫌になった。
「でも、なんか矛盾だよな〜。日の出の時に、前の日止まった場所から出発しさえすれば、夜は自由に歩き回っていいっていうんだからなあ〜………。で、どこまで買い出しにいったんですか、舞羅さん?」
「ええ、お昼を食べた食堂ありましたでしよ? あのお隣りにあるスーパーまで♪♪」
 『はあ? あ、あ〜〜〜……』
それを聞いて、大地と未来は全身の力が抜けてしまった。まったく、なんのための五体倒地礼なのだろうか?
 「おや、二人とも後ろへのけぞって、どうちたでちゅか? ほらほら、見てくだちゃい、今夜はスキヤキでちゅよ〜〜♪♪ ほら、ぱーっとやりまちょう、ぱーっと!」
グツグツと鍋は煮えたぎり、辺りにい〜匂いが漂い始めた。
 大地がのぞき込むと、中には黄緑色の物体が…。
「な、なんですかこれ?」
「資金は沢山あるから、極上の“神戸黄緑牛(こうべきみどりぎゅう)”のお肉買ってきましたのよ。」
「“資金”……って、それ強盗したお金じゃ……あちゃ〜!」
頭をかかえる未来。
「ひゃっほうー、さーっすが舞羅姉貴だぜ! ようし、食うべ食うべ、いっただきま〜す♪ ん〜、んめえ、こりゃんめえ♪♪♪ ほら、何してるんだ? 大地も食べなよ。ほら、なんなら昼間の未来と紫蘭のように、あたしも大地に食べさせてあげようかあ?」
雷羅は真っ先にうまそうにバクバク食べると、お椀に取った“黄緑”の肉を大地の前へと差し出した。
 あの“お礼のキス”以来、雷羅はいつも大地のそばにいるようになり、今夜もまた大地の隣に座っていのだった。
「い、いや、いいよ。自分で食べるから、自分で〜。ちょ、ちょっと気持ち悪いけど…、え〜い、こうなりゃ、やけくそだ〜!」
大地も、お椀を持つと、開き直ったようにグツグツ煮えたぎる鍋の中に、箸を突っ込んだ。
 そして、食ってみるとこれが旨い!
みんなの顔もほころび、路地の一角での晩餐が、こうして始まった。

 一行は、午後から数百メートルも進んだ“大移動”に、昼食もすっかり消化していたのだった。
大地も旨そうに食べるていると、自分の顔をじっと見ている視線にふと気づいた。
「ん、ど、どうした雷羅? オレの顔に何か?」
「い、いや別に。」
あわてて目をそらす、雷羅。
彼女は、旨そうに食べる大地のその横顔に、自分もなぜかうれしくなるのを感じて、ついじっと眺めていたのだった。
 実は雷羅は、大地をこの騒動に巻き込んだ詫びや、危機一髪を助けてもらったお礼の意味だけではなく、男勝りの自分とも不器用ながらちゃんと受け答えしてくれる大地が、マジ気に入っていた。
そこには、大地といると楽しくなる自分がいた!
大地といると、ワクワクする自分がいた!
過去と未来の人間が、お互い深い関わりを持つのはいけないと分かっていながら、その思いだけはどうしようもない一人の少女が、ここにいた!!
 そして未来もまた、雷羅の言う通り、こっちに来て以来いつも紫蘭にべったりとくっついて、移動や食事とかいがいしくその世話をやいていた。
それは、いいなずけである雷羅が彼の世話をしないからという訳だけではなく、未来もまた雷羅同様、紫蘭といると心が満たされる自分がそこにいたのだった。それは、いいなずけである大地といる時にも、決して無いことだった。彼女もまた、いずれ必ず別離が訪れると知りつつも、その想いだけはどうしようもなかったのだ!!
 ところで一方、大全は、酒も入り上機嫌!
すっかり酔っぱらうと、すぐにそこいらの巡礼者集団を巻き込み、酒や食事を振る舞い、あるいは交換し、あっという間に、お互いの地酒やお国訛りが飛び交う、大騒ぎの大宴会となってしまった。
 歌に手拍子、酔って踊り出す大全たち!
こうして、走り回る大勢の取り方衆と鳴り響く呼び子を横目に、どんちゃんパーティーは深夜まで続いた。