第三章 大統一論! 暗黒龍王復活は雷羅の…
三、大統一論! 暗黒龍王復活は雷羅の…

 「綺麗な星空だなー。こんな綺麗な星空、オレ生まれて始めて見たよ。」
 クエーッ、クエクエ、キャオーーーーン、 ドド、バゴガゴ、バサバサバサ…
聞き慣れぬ動物の鳴き声や不気味な音が響く、山深い森の中、小さな広場の真ん中で、焚き火を囲んで彼らはいた。
「うむ。こんなに見事な星空は、ワシも子供の頃見て以来じゃ……」 
木々の隙間からのぞく夜のとばりには、無数の星々が穴を開けており、祖父と孫は、二人並び、しばしうっとりと夜空を見上げていた。
 「いてててて!」
そしてその横で、雷羅は妹の愛羅から傷の手当を受けていた。
「この程度の傷、大げさに騒がないでちゅ!」
無事追っ手を逃れたとはいえ、一行は完全に無傷とはいかず、雷羅もまた手や顔にいくつかのカスリ傷を受けていた。
「ばかやろう! いてーもんは、いてーんだよ! もう少し、シミない薬はねえのかよ、愛羅!」
「贅沢言うんじゃないでちゅ! 愛羅ちゃま特製の塗り薬“万金胆”(まんきんたん)は、どんな傷でもたちどころでちゅ!」
愛羅は、さらに力を入れて薬をすり込んだ!
「ぎゃ〜〜〜! こっ、殺す気か〜〜!」
あまりの痛みに飛び上がる雷羅!

 「さ、次は大地お兄ちゃまの番でちゅ。」
放心している雷羅を横目に、今度は、愛羅は大地に近づいた。大地もまた、顔や手足にいくつかの傷を受けていたのだ。
「い、いや、いいよ、いいよ、オレは〜〜。な、なんか余計、痛そうだから。はは……」
思わず後ずさりする大地。
「そーそー、死ぬほど痛てえから、やめたほうがいいぞ〜!」
後ろから、雷羅が涙声で忠告した。
 「やだなー、大地お兄ちゃま。あたちがそんな痛いお薬、使うはずないでちゅよ。♪♪」
そう言うと、愛羅は万金胆に蓋をして、今は横に下ろしているランドセルの蓋を開けた。
 ??
よく見ると、そのランドセルの裏には、何やらでっかい文字が。
 その文字とは……、
“富山”???!!!!!
 そう、愛羅がいつも背負うこのランドセルは、実は、各種の薬草や薬、そして手術道具から滋養強壮ドリンクまで入った、愛羅専用の薬箱だったのだ!
「ガマの油でちゅ〜♪」
愛羅はその中から別の薬を出すと、今度はやさしく丁寧に、大地の手にすり込んだ。
「あ、あれ、ほんとだ、痛くないや。それどころか、ああ…、すごく気持ちいい〜……」
「万金胆より傷に良くて、傷あとも残らず、治りも早いでちゅう!」
 「あーっ、て、てめーーーっ! あたしには、わざとシミる薬付けやがったなーーー!」
だまされたことに気付き、雷羅が愛羅に飛びかかった!
「へっへーん、バカに付ける薬はないでちゅ〜だ!」
すかさず身をかわし逃げる、愛羅。
「愛羅ー! だいたいてめえは、大地のこと最初見たとき、下品そうだとかなんだとか言ってたくせにー!」
「あ、あ〜?」
ドテッ、と倒れる大地。
「言ってまちぇ〜ん! 大地お兄ちゃまは、あたちを守ってくれた、あたちのステキな王子様でちゅう〜。♪♪」
「てっ、てめーーーこの、手のひら返しの、嘘つき寝ションベン小娘がーーっ!!」
「きゃはははは♪♪♪♪♪ こっこまでおいで〜だ!」
こうして、広場の中で愛羅と雷羅の鬼ごっこが始まった。
 そんな二人を見ながら、大全は、静かに焚き火に小枝をくべていた。
「大地よ……。」
「ん? な、なんだよじいちゃん。」
大全は、静かに大地に語りかけた。
「今日の戦いを見る限り、お主、まだまだ修行が足りんの。」
「う、うんー……」
目を伏せる、大地。
「おのれの未熟さが、身に染みたであろう?」
「う…ん………。」
「いつも修行をさぼってばかりで、真面目にやらんじゃったことを、後悔しておろう?」
「…………………」
「それに比べて、な〜んてじいちゃんは凄いんだろうと、尊敬したじゃろう? ん? どうじゃ、ん?」
「☆☆……………!」
「ほれ、ど〜した、なんか言うてみい!」
「☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆!!」
「『じーちゃんカッコイー! おいら感動して思わず涙を流しちゃったー』なんて言うてみい! ほれ、ほれ、遠慮なんかせんでえ〜んじゃぞお、正直に言うてみい、正直に〜♪♪」
「じ…………」
「じ? じ? ほれ、な〜んじゃ? 言うてみいってば〜〜〜♪」
「じ…、じじい〜、人がおとなしく聞いてりゃ、勝手なことばかりぬかしやがってーーっ!」
 こぶしを握りしめ、大地が立ち上がった!
「なんじゃあ、やるかあ?!」
「おう、朝のお返しもあるからな! 覚悟しろよ、このくそじじい!」
「ぬぬぬ、よーくぞぬかしたあ!!!」
ガバと大全も立ち上がり、二人は火花を散らしにらみ合った!!
 その時、
「静かにして! バッカじゃないの!!」
低く押さえた、しかしきつい声が二人に飛んだ!
焚き火から少し離れた所で、疲れて眠る紫蘭を、未来が膝枕していたのだ。
「紫蘭王子が、目を覚ますでしょ! かなり疲れているみたいだから、みんな静かにしてあげて!」
未来は大地と大全、そして走り回る雷羅と愛羅をキッとにらんだ!
 その迫力に、
『は、はーい…』
雷羅と愛羅は追いかけっこをやめ、大地たちもまた、おとなしく元の場所に座った。
 「雷羅お姉ちゃま、いいんでちゅか?」
「んー? なにが?」
「だってあれ……。」
愛羅は、姉とともにたき火の所に帰りながら、未来と紫蘭に視線をやった。
「別にいーんじゃねえの? 看病やりたいやつに、やらしとけば。」
知らんぷりしながら焚き火の前に座る雷羅に、
「雷羅、だけどあのお方は、あなたの未来の旦那様なのですよ。」
と、今度は舞羅がいさめるように言った。
 その言葉に、
(えっ?)
未来は、心の中で驚いた!
「へーっ、てことはなにか? 紫蘭王子と雷羅は、いいなずけどうしだったのか?」
大地は、焚き火の向こう側にいる雷羅を見た。すると雷羅は、少しドギマギした様子で、顔を横に向けた。
「いや、あの、ち、違うんだよ! いいなずけってのは、お互い生まれる前に、勝手に決められたことで、あたしは、別に……その…」
「なに急に焦ってるでちゅか? 顔が赤いでちゅよ?」
愛羅がニヤニヤしながら、その顔を下からのぞき込んだ。
「ば、ばか、焦ってなんかいねえよ!」
そう言って、今度は反対を向く雷羅。
「そうか、婚約者かあ……。」
大地はそう言うと、紫蘭を膝枕する未来を見た。未来もまた、さっきの驚きを隠したまま、無表情で大地を見つめた。
 
 「さて舞羅どの、そろそろ詳しい話を聞かせてもらおうかの。ワシらの身に起こっているこの出来事が、いったい何なのかを。」
大全は、焚き火をはさんで反対側に座る舞羅に質問を投げかけた。
 舞羅は少し間をおき、決心したかのように口を開こうとした。
 と、その時、
「こうなったのも、みーんな雷羅お姉ちゃまの実験のせいでちゅ!」
と、その横で愛羅が答えた。
「あーっ、ばか、愛羅、シーーーッ!」
「もごもご……」
顔を赤くし、慌てて愛羅の口をふさぐ雷羅。しかし、もうすでに遅かった。
「雷羅の……………せい?」
大地、大全、そして未来の視線が、一斉に雷羅に集まった。
「ははは、はひー……………。」
右手左手の人差し指をツンツンしながら、その場に縮こまる雷羅。

 「………二か月前、雷羅は無断である実験を行いました。それは……、神の意志に背く、やってはいけない実験だったのです!」
炎を見つめ、舞羅が静かに口を開いた。その目に、悲しみと憂いを浮かべて。
「実験って……、いったい何の??」
実験と聞いて、今度は未来が問いかけた。
「大統一論の………実験だよ。」
雷羅はしぶしぶと、ふてくされたように答えた。
「大統一論? なんですか……それ?」
そんな名前の理論に、未来は心当たりがなかった。
「ああ…………。お前、宇宙の始まりって、どんなか知ってるか?」
「え? ええ。………えーと、ハッブル定数の定義にもよるけど、量子力学による素粒子宇宙論では、今から百二十から百四十億年前、高エネルギーだけど何もない真空から素粒子が生まれ、その一つがインフレーション、さらにビッグバンをおこし、この宇宙が誕生した、と…」
「ふん、よく知ってるじゃねえか。じゃあ一つ聞くが、その高エネルギーがもしも、“神の意志”だとしたら?」
 『か、神の意志?!』
大地たちは顔を見合わせた。
「さ、さあ……、でも、神とか言い出すと、それは宗教の範囲で、もう科学とは言えないのでは?……」
「宗教と科学の違いは、そこなのです。」
未来の質問に、今度は舞羅が続けた。
 「宗教とは何か? そう考え突き詰めて行けば、宇宙の始まりに神の意志“光あれ”という言葉があったかどうかに行き着くのです……。」
「ふむむ……。なるほど……………、いろんな宗教、そして宗派があるが、根本はそこじゃと言うのじゃな? つまり、宇宙の始まりに神の意志があったかどうかと!」
 大全は一人うなずいた。
「そうです…。そして一方、私たち人間は、この宇宙を“秩序ある統一体として考えられる存在の総体”などと哲学的に表現したりしますが、その秩序ある統一体は、生まれて以来膨張を続けています。この、膨張宇宙の存在意義をさらに考える時、膨張とはすなわち“成長と発展”を意味するという考えに到達するのです。宇宙が生まれ、膨張し続ける限り、そこに生まれ住む私たちもまた、文明を成長・発展させ、ヒストリーを作り続けることが出来るのだ、と……」
「どゆこと?」
もうまったく意味が分からない、大地。
「なるほどなるほど……ふーむ…………」
大全は、感心したように深くうなずいた。
「つまり、こういうことじゃな……。宇宙それ自身には、誕生以来、成長・発展しようとする流れがあり、その流れに乗れば、つまり………言い換えれば……そうじゃの、言い換えればその流れに沿って“正しく行動”すれば、人もまた発展していく、と、こう言うのじゃな?」
「その通り! さすが、ダテに歳くっちゃいねーぜ。大全のじっちゃん!」
調子が乗ってくる雷羅。

 「で、その大統一論とは、いったい?」
「大統一論とは、つまり、姉貴が今言った、科学、宗教、哲学の壁を無くし、一つにまとめようという理論なんだよ。我が家系では、代々その大統一論が受け継がれて来たんだ!」
「…雷羅はそれを確かめようと、一つの実験をしました。それが宇宙の“時空間停止実験”です。」
『時空間停止?』
大地たちは、舞羅の発した言葉に一斉に声を上げた。
 「ああ、宇宙の始まりに、本当に神の意志があったのか? そして宇宙の存在と膨張に、我が家系では哲学という学問で意味づけをしたが、そこにも神の意志が存在しているのか? さらに、科学的にそれは正しいのか? この三つの疑問を解けば、科学と宗教と哲学の壁が取り除かれ一つになるはずだ! そしてそれを確かめる方法はただ一つ、それは、この“宇宙”から“神の意志”を切り離してみればいいんだ!」
「う、宇宙から、神の意志を切り離すう?」
とてつもない話に、未来でさえ目を丸くした。
 「ああ、そうだ! じゃあ、それをどうするか? そこであたしは考えたね。“宇宙は膨張している”それがつまり“神の意志”であるのなら、その宇宙の膨張を、神の意志に反して一時的に止めてみればいいじゃん、と!」
「え、ええ〜〜〜〜〜〜っ?」
もう、叫ぶしかない未来!
「そう閃いたあたしは、こっそり“ウルトラパワー超空間力場発生装置”を作り、宇宙の始まりと正反対の反素粒子作用を発生させ、この宇宙全体にかけてみたんだ! 結果、ほんの数十秒だけど、時空間を止め、この宇宙の膨張を完全に止めることに成功したんだぜ! がははは。」
雷羅は、得意気に高笑いした。
「ゴクッ、すっ、すごーい。で、どうなったの?」
未来は思わず唾を飲み、話の続きを聞いた。
 「う〜ん、それが、別になんにも………。装置の外で確かに時間は停止し、宇宙の膨張も止まったんだ。あたしはこの“神の意志無き状態”を回復させるべく未知なる力、つまりそれこそ神の意志だが、それが作用することを期待し、いろいろ観測もしてみたんだ。だけど、結局、何一つ異常は記録されなかったんだ。そして実験後、この宇宙の時空間は何事も無かったように元の状態に回復したんだ。………と、思ったんだけどなあ〜……」
「と、思ったんだけどなあ〜?」
最後の付け足しの一言に、イヤ〜な予感が大地たちの頭を思いっきりかすめた!
 「皮肉なことに、大統一論は証明されたのです…。雷羅がこの宇宙と“神の意志”を一時的にせよ分離したため、暗黒龍王が地獄の底より復活してまったのですから!」
「なんだってえ!」

 警視総監を乗せた装甲車(牛車)は、鉄条網と警備兵に厳重に警戒されたゲートを抜け、広い敷地の中へと入っていった。
 その広場の中央には、長さ三十メートル、高さ十五メートルほどの黒い飛行船が係留されていて、装甲車はその前にゆっくりと停止した。
総監は、装甲車のドアを開け地面へ降りると、今度は、その飛行船に立てかけられたタラップを、ゆっくりと上がっていった。
 その真っ暗な船内から、
「ご首尾はいかがでございました? 暗黒龍王様…」
と、不気味な低音が出迎えた。
「うむ。奴らがこの街に向かったと聞いて、追ってきたのだが、王子の影武者のような連れが増えておってな、見事に取り逃がしたわ。」
「な、なんと!」
「ふん、仕方あるまい。余がこの間抜けな、“警視総監”の姿をしている以上はな。」
 総監は、真っ暗なままの船内へ入ると、中央にある椅子へと腰掛けた。
 「では、これよりどうなされますので?」
「まあ、焦る事はない、やつらは今や国家反逆者。全世界指名手配の身では、この先どうしようもあるまいて。」
「ですが、万一逃げおおせたら……」
「逃げる? 逃げてどうする? 逃げるものか奴らが。どうあがこうと、いずれ奴らは王宮に向かうはず。いや、向かうしかないのだからな! くっくっく…」
「なるほど、“草薙の剣”(くさなぎのつるぎ)にございまするな?」
「そういう事だ! 奴らはまず、草薙の剣を手に入れようとするはず! “計画A”はこのまま続行し、その間我々は、例の“計画B”に着手するのだ! その準備は?」
「はっ! すでに整えてあります!」
「よし、都へ帰るぞ!」
「ははーっ!」 
飛行船は係留を解かれると、静かに上昇し、闇夜の彼方へ消えていった。


 「あれは、三日前の事です。」
疲れ果て、すやすや眠る愛羅を抱っこしながら、舞羅は語り始めた。
「紫蘭王子は、先日、十六歳の誕生日を迎えられました。このめでたき日に、王子幼少のみぎりに先代王が崩御され空位となっていた王位を受け継ぐため、王子は、王位即位の儀式、“封印の儀”を受けられました。」
「封印の儀!?」
その言葉に驚き、顔を見合わせる大地と大全!
 それは今日、大地が、天昇龍剣の伝承者として受けるはずの儀式と、同じ名前だったのだ!
「はい、代々この地球(チタマ)王国では、王位継承者が十六歳になると、神話に習い、神剣“草薙の剣”の継承者となるべく、“天地核”(てんちかく)という神の御心の結晶球を封印するための儀式、封印の儀を受けるのです…」

 三日前、王宮殿の“王家即位の間”において、王子と舞羅により、王位即位の儀式“封印の儀”が執り行われようとしていた。
それは、何人たりとも見ること能わぬ神儀ゆえ、儀式を執り行う神子である舞羅以外、誰も立ち会うことは許されない神聖なる儀式だった。
 王子は上下真っ白な剣道着姿にも似た格好で、舞羅から一本の刀を受け取ると、呼吸を整え大上段に構た。
 そして、
 「きえええっ!」
気合い一閃! 刀を鋭く左下に振り下ろした!
 そして、そのまま、王家秘伝の“剣舞”へと移るのだった。
しかし、ここに舞羅以外、観客が一人もいないのは、なんとも残念なことだった。
その舞い、何という華麗さ、優雅さ、力強さ、そして荘厳さ! この王子が、幼少より人知れず、厳しい剣の修練を積んできたであろう事は、その舞いを見れば、どんな説明よりも明らかだった ! まばゆいばかりに光り輝く若さと、躍動感あふれるしなやかな剣舞に、ただ一人の観客舞羅は、ただじっとうれしそうに見とれていた。
 そして、
「たましずめたまえ、くもりはらしたまえ……」
と、呪文を唱えながら舞羅もまた、両手でこぶし大の水晶球を捧げ持ち、王子にあわせて舞い始めるのだった。
 それはまるで、若き剣の神と天女が舞うがごとく、優雅にして華麗な踊り!
二つの舞いは、重なり、補い、やがて一つの空間を形作り、一つの世界を形作った! その神聖さは、これまで人類史に存在した、どの踊りもかなわないだろう! 繰り返すが、ここに観客がいないことは、真に残念な事だった。もしここに百億の観客がいたとしても、感動し涙を流さぬ者は、誰一人としていないだろう!
 こうして、うっとりするような、しかしいっそうの激しさを増す舞いがしばらく続き、二人の額にうっすらと汗がにじんだ時!
「いやああーーーーーーーーーっ!」
突如王子は剣を真正面に構え、激しい気合いとともに剣に“気”を乗せた!
 と?!
 カカッッッッッッッ!!
瞬時に、まばゆいほどに剣は光り輝き、振動を始めた!
 その輝きは宝石のように美しく、剣の全身より次々と溢れ出る光は大きな粒となり、小さな体育館ほどもある王家即位の間に充満し、乱舞し始めたではないか! その動きははまるで、剣が喜びを表しているかのようでもあった!
 「お見事ですわ王子! 今まさに神剣は紫蘭王子の魂と一体化し、あなたさまを真の継承者と認めました! さあ、今です王子! “草薙の剣”とともに、この“承認の台”に立つのです!」
 即位の間の中央には、まるで宝石をちりばめたかのように、色とりどりに光り輝くコタツほどの小さな台が備え付けてあった。
 王子はその前に立つと、光り溢れる剣とともに、軽やかにその上に飛び乗った!
「αιηθππω……」
舞羅が呪文を唱えると、台の光はさらに増し、頭上に剣を構えた王子を、ゆっくりと、ゆっくりとその輝きで包み込み始めた。そして、光がその手先まで来ると、今度は、もつれ合うように剣の光と混じり合い、一体化して行くのだった。
 そして、その融合が完全に一つになった時!
「イヤアアアアーーーーーーーッ!」
王子は、渾身の気合いを込めて剣を振り下ろした!
 ズッドーーーーーーーーーーーーーーーンン!!
激しい振動とともに、瞬間、そこに太陽が出現した!
 その、目を閉じてもまぶたを貫く烈光は、部屋全体の空気をも圧縮した!
「うおおおおおおおおお!!!」
激烈な波動が、王子の身体を、脳髄を貫く!
 細胞のDNA一つ一つを打ち振るわせるような衝撃に、王子は歯を食いしばった!

 そして数分の後、光が消え、波動も収まった時…
「はあ、はあ、はあ………」
王子は、台の前で舞羅と向かい合い、肩で大きく息をしていた。
そして、その口元は、満足の笑みで飾られていたのだった。
 「成功ですわ、王子。これであなたの“魂の波動”は、神剣草薙の剣の正当な継承者となると共に、王家の正当な世継ぎとして、“天の岩戸”に新規登録されました。今やあなた様は、王として、天の岩戸を開き“ほろびの大地”に眠る天地核を封印する力を、ここに授かったのです!!」
この言葉に、王子は、嬉しそうにうなずいた。
 「これであとは、この吉報を待つ議会にご報告なされば、いよいよあなた様は、この国の正式な国王とおなりあそばすのです。ほんとうに、ほんとうに、おめでとうございます、王子♪♪」
舞羅は、涙ぐみながらお祝いの言葉を告げた。そしてその顔には、大役を終わらせた安堵感が満ち溢れていた。それは、王子も同じ事だった。
 「では最後に、台から剣を引き抜き、議会へ向かいましょう。議員のみなさん、今日のこの良き知らせを、今か今かとお待ちですわ。」
剣は承認の台中央にある、超合金で作られた直径三十センチルほどの半円球のでっぱりに、その根本まで深々と突き刺さっていたのだった。
王子は、舞羅の言葉にうなずくと、再びゆっくりとその剣に手をかけた。

 その時!
 バーン!
と、けたたましい音を立て、入り口の扉が開いた!
 そこには!
「た、大変です紫蘭王子ーーー!」
と、一人の、制服制帽姿の男が、息せき切って立っていた。
 それを見て、王子と舞羅は驚いた。
「な、何事ですか総監! あなたは今、議会の警備をなさっているはずでしょう? 今はまだ、大事な儀式の最中です! 誰もこの部屋に入れないのは、ご存じのはずですよ!」
そう、その男は警視総監だった。
 舞羅は慌てて総監に駆け寄りその体を押しやると、一緒に部屋の外へ出て入り口の扉を閉めた。
「ハアハアハア、ゴクリ、そ、それは分かっておりますが、舞羅様、実は、大変な事件が起こったのです。たった今、その議会が何者かに爆破され、議員全員が即死いたしまして…」
「な、なんですって?…」
思いも寄らぬもの凄い報告に、舞羅は愕然とした!
「私は、偶然にも、外の見回りをしていて助かったのです。それで、すぐに警視本部より国家非常事態宣言を発動させ、現場の収拾に向かわせました。で、私は急ぎ王子にご報告をと思い、こちらへ駆けつけた次第にございます! それで舞羅様、封印の儀の進み具合は?!」
「はい、剣と岩戸の承認、ともにたった今終わりました。あとは台から剣を引き抜く儀式だけです!」
「そうですか…それはちょうどよかった。」
総監はニヤリと笑い、手に隠し持ったスプレーを、シュッと舞羅の顔に振りかけた!
 「な、なにを? あなた、いった…い……」
言いながら、舞羅は意識が薄れ、崩れ落ちてしまった。
 この時王子は、外の異様な様子に気づき、剣から手を離すと入り口へと近づき、その扉を開けた。
 そこへ、
「うっ!!!????……………」
総監はまたもやスプレーを噴射した。今度はたっぷりと!!

 「……目を覚ますと、私と王子は床に縛り上げられていました。王子は、なにかの機械を頭にかぶせられ、その傍らに総監が立っていました……」
舞羅の話は続いた。
 「総監、あなたはいったい何を???」
「おや? 気付かれましたか、舞羅様。くっくっくっ…。見ての通り、天の岩戸を開く“パスワード”として、岩戸に新規登録された王子の魂を、抜き取っているんですよ………あと少しで、丁度半分ほどになりますかね。」
「なんですって??! ど、どうしてそんなことを?!!」
「くっくっく……。終わったら、どうせ二人とも死んでもらうんだ。いいでしょう……。教えてあげましょう、私の正体を!!」
 そう言うと、総監は立ち上がり、舞羅の方を向いた。
「???!!」
「苦労しましたよ、神子のあなたの目を、ごまかすのは……………グ……………、グオ…オ……!!」
 総監の形相が見る見る変わった!!!
目はつり上がり、口はよだれを垂らしながら耳まで裂けた!
 グオオオオオオオオーーーーーーーーッ!
総監は、邪悪な雄叫びをあげた! 不気味な赤い光を放つ目! 牙をむく邪悪な口!
 その口の中から!
 ぐしゃあっ! べしゃあっ!
まるで体を裏返すように、内蔵が次々と飛び出してきた! 見るもおぞましい光景! 漂う腐臭!
「きゃああああーーーっ!」
舞羅の顔から血の気が引いた!
 これは何なのか? これは一体何なのか!?? この男は一体…!!! 
驚愕と恐怖に怯える舞羅の目の前で、総監の体からは、なおもグチャッ、ベチャッと内容物が吐き出されて行く。そして……
 ついに総監の体は、完全に『裏返った』!
 かと思うと、
今度はその表面を、新たに黒い組織が包み込んでいくではないか!
 真っ黒い、腐臭漂う組織はどんどん巨大化し、やがて、新たな生き物を形作って行くのだ?!
 人…………か?
いや、人ではない!
 獣か?
いや獣でもない!!! 
 そう、それはもうこの世の生き物では無かった!
漆黒の、いや、暗黒の化け物と言う方が正しいだろう! 巨大な“真っ暗”な体に長い尻尾、三本指の手足、背中にはカラスかコウモリのような羽根、頭には耳か角のようなものが生え、その顔には不気味に赤い目が光っていた。
 それは真っ黒な体ではあるものの、まるで巨大な恐竜や伝説に登場する龍のような姿をしていた!!
 舞羅は、空中に浮かぶこの巨大な化け物を包む、黒い陰を見た。
「そ、その黒い陰、その姿……、ま、まさか…!」
「我…こそは………、かつて“暗黒龍王”と呼ばれし…暗黒の王…………! この世の滅亡と破壊を望む……魔王なり!!!」
 ブオオオオ!!
不気味な言葉とともに、吹き出す暗黒体!
 先ほどまで光り輝く希望で満たされた部屋が、今度は邪悪な妖気に満たされていた!
その妖気、なんという邪悪!
 壁という壁、柱という柱が、天井が、床が、
 ズゴゴゴゴゴゴ……!
暗黒の波動で、不気味にうち震えた!!

 「暗黒龍王!!!! ま、まさかそんな…、それではまさか、“ほろびの大地”に眠る“天地核”の封印が解けたとでも……!!」
「その通り! 今より二か月ほど前にな! なぜかは知らぬが、この宇宙を包む“神の意志”と宇宙が一時的に分離したらしく、天地核の封印が開き、我もまた、地獄の底より復活したのだ…!」
「な、なんですって!!!???」
舞羅は、その恐怖の驚きに震え上がった!
「そして、しばし余は地上をさまよい、観察した。この時代のさまをな。そして知ったのだ“お主らの作った仕組み”を! それゆえ余は、王家に近づくことのできる地位と権力を持つこの男を選び、その体を乗っ取ったのだ!」
「!!!!!!!!!!」
 舞羅の顔からは完全に血の気が引き、死人のように真っ青だった!
無理もない! かつて、先文明を戦争へと駆り立て滅亡させた、この宇宙の滅亡と破壊を望む暗黒の魔王、“暗黒龍王”が復活したのだ! 復活して、目の前に立っているのだ!

 「我が目的は、天地核の破壊! あのおぞましき結晶球さえ破壊すれば、この宇宙は膨張をやめ“大爆縮”へと向かう! 余はこの宇宙を滅亡させ、余の支配する新たなる暗黒と恐怖の時空へと再生させるのだ!!!」
「そ、そのために、王子の魂を……」
「そうだ…。今やパスワードとなりし王子の魂を持ちて、天の岩戸を抜け、天地核の眠るほろびの大地へ向かうためにな! ふふふ、ふはははははははは!」
 その時!
 バーーン!
またもや突然、部屋の扉が開いた!
 「舞羅姉貴大変だーっ! 臨時ニュースで国民議会が何者かによって爆破されたって言ってるぜ! 一体どうなってんだよ、この宮殿もばたばたと人が倒れて……倒れて………! ひえええ?!」
「きゃあー! な、なんでちゅかこれーーーーーー!!!」
それは、舞羅の二人の妹、雷羅と愛羅だった!
 二人は議会の混乱を聞き、急いで宮殿へ駆けつけたのだった。が、そこに見たものは、床に縛り上げられた紫蘭王子と姉、そして部屋中に広がり、空中に揺らめく巨大な暗黒生物の姿だった!!!!
 「な、なんだよ、コレ???!!!」
二人は、目の前にある光景の意味が分からず、ただ呆然とと立ちすくんだ。
「雷羅、愛羅! 二人ともお逃げなさい! この化け物は、闇の魔王、“暗黒龍王”です!」
舞羅が叫んだ!
「あ、暗黒龍王?!!!」
言われてもなお、頭が混乱したままの二人に、
「邪魔するな、小娘ども!」
暗黒竜王は尾を一振りした!
 すると!
 ブシュウッ!!
その先から暗黒体がほとばしり、
 グシャアアアアッ!
二人の少女にぶちあたったかと思うと、
「きゃああああ!」
瞬時に、その体を部屋の隅へと吹っ飛ばした!
 「暗黒龍王……。ま、まさか、そんな…………」
雷羅は、愛羅を抱きかかえながら立ち上がると、目の前の化け物を見上げた。
「う、うそでちゅ……」
愛羅もまた、信じられなかった。
 無理もない、少女達にとって、いや、この時代の全ての人類にとっても、それは、神話にでてくるにすぎない、ほとんど架空に近い“言葉”だったのだ。

 だが、雷羅は負けん気の強い少女だった!
「くそったれーーーーー!!」
雷羅は愛羅を抱きかかえたまま、いつも身につけている沢山のブレスレットの中の一つに、素早くスイッチを入れた!
 すると?!
「ぐああああっ、き、貴様何をした〜?!」
突然、暗黒龍王の身体を異変が襲った!
 そう、暗黒龍王の体は、まるで金縛りにでもあったかのように、動けなくなってしまったのだ!
が、異変は暗黒龍王だけではなかった!
 あらゆる空間の、時が、動きが、ふいに止まったのだ! 風さえも! 

“時が……………、止まった!”

 それは、舞羅も王子もは同様だった! 二人は、まるで凍りついたかのように、髪の毛一本すら動かなくなっていたのだった!
 「見ぃ〜たかあ! 雷羅さま一世一代の大発明、“時空間停止装置・雷羅スペシャル!”の威力を! このブレスレットは、あたしんちの秘密地下実験室の装置につながっていて………あ、あれ? なんでてめえは口がきけるんだよ? この宇宙の時空間は、あたしと愛羅以外、すべて止まっているはずなのに?」
「くっくっく……。なるほどお前の言うように、確かにこの身体組織は“借り物”で動けぬようだ。だが、我が意識は………この宇宙に属するものではないからな!」
 「ば、化け物……!」
雷羅は、思わず二・三歩後ずさりした。
 と?!
「…………。そうか、そういうことか?」
暗黒龍王は、急に何かを納得した!
 「さてはお前か? お前がその装置でこの時空を止め、ほろびの大地に眠る天地核の封印を解き、我が魂を地獄から復活させてくれたのだな? 感謝するぞ小娘、感謝するぞ!! はあっはっは!」
「な…………、なんだとお??!!! あ、あたしが天地核の封印を……??!!!」
その言葉に、愕然とする雷羅!
 この時!
愛羅が、姉の手の異変に気づいた。
「お……、お姉ちゃま、ブレスレット、ブレスレットが……! ひえええ、ブレスレットがあ〜〜〜!!」
「え? な、なに? あ、あらら〜〜〜〜?!」
愛羅の言葉に腕を見ると、なんと、今スイッチを入れたブレスレットが、線香花火のように火花を飛ばしているではないか!
「ぎゃあ! やっば〜〜〜っ! 回路がどっかショートしてるう! もうすぐ時空間停止が解けるぞ、愛羅、急げ〜〜〜〜!」
「は、はいでちゅう!」
愛羅と舞羅は、急いで物置に走ると、中から、さすが王宮、金とダイヤモンドでできたリヤカーを引っぱり出すと、姉と王子をその上に素早く積み込み、宮殿から一目散に遁走した!


 「これが……三日前に起こった出来事です。」
舞羅の、このとても信じがたい不可思議な話に、大地たちの背筋は凍りついていた。
もしそれが本当の話なら、なんと恐ろしいことだろう!?
 「“大爆縮”“違う宇宙の再生”………あたしが、仮説を立て研究していた、十次元宇宙や超ひも理論と同じだわ……。今、宇宙は、化学的観測により、平ら、もしくは開かれた宇宙だと予想されているわ……。そして、さらに“真空のエネルギー”により第二のインフレーション期を迎え、加速度的に膨張していると言う科学者もいるわ……。今の話で言えば、つまり、その真空のエネルギーが“神の意志”ってこと?…………」
未来が、信じられないという様子でつぶやいた。
「わたくしたちに、神話として語り継がれるお話があります。」
焚き火を見つめながら、舞羅はさらに話を続けた。
 「昔々、ほろびの大地と呼ばれる“かの地”で、“天地核”(てんちかく)という“神の御心の結晶球”の入った箱が発見されました。これは厳重に封印されていましたが、学者達がその意味を知らずに開けてしまったために、大いなる災いが復活し、世界は戦争になってしまいました。
 大いなる災いをもたらす者は“暗黒龍王”と呼ばれ、人々の悪い心をあやつり戦争を引き起こす、暗黒の魔王でした。魔王は、世界の国々を戦争に駆り立て、人間同士がお互いが殺し合い滅亡していく様を楽しむ一方、そのすきに天地核を奪い、破壊しようとしたのです。天地核、すなわち“神の御心の結晶”を破壊することは、この宇宙から神の意志を消し去ることに他なりません。もしそうなれば、この宇宙は膨張を止め、さらには大爆縮へと向かい、この宇宙そのものが消えて無くなってしまうのです!
 ですがその時、宇宙鎮尊(おおぞらしずめのみこと)、神司姫(かみつかさひめ)と後に名付けられ崇められし一組の夫婦が、氷の世界より現れました。
 宇宙鎮尊は、手に携えた神剣“草薙の剣”(くさなぎのつるぎ)を持って魔王に挑み、大けがを負いながらも、これをうち倒したのです。そしてお二人は再び、“天地核”を元の場所に封印されたのです。」
「うむ、む、我が綴目家に伝わる、“天昇龍剣伝説”とそっくりな話じゃ!…………!!」
大全は、腕組みをして舞羅を見つめた。
 が、かたや大地は、
「わーかった! その神話といい封印の儀といい、あ、さっき紫蘭王子の出した技、“天昇龍剣秘奥義、閃光気”、あれもそうだ! もしかして、うちの伝説や技のパクリなんじゃないの〜?」
と、疑いの目つきで姉妹を見渡した。
 「ば〜か! お前らの天昇龍剣ってのは、パクリで出来る程度の技か?」
顔を指さし、雷羅がそれにつっこみを入れるた。
「そ、それは〜……」
「な? 違うだろ? それに今、舞羅姉貴が話した神話ってのは、“あたしたちの過去の話》と言っても、おめーらの“未来の話”なんだからよ!」
『……………!!!』
 一行に訪れる一瞬の沈黙!
 そして、
「オレたちの未来の話………??」
「えーっ、じゃあなに? あたしたちには、戦争で滅亡する未来が待ってるって言うのお? そ、そんな〜、マジィ〜〜……」
「な、なんと?!」
と三人は驚き、それに舞羅が静かにうなずいた。

 「話には続きがあります……。宇宙鎮尊(おおぞらしずめのみこと)と神司姫(かみつかさひめ)は、戦争で滅んだ世界において、わずかに生き残っていた人々を一カ所に集め、王国を築きました。それが現在の地球(チタマ)王国であり、宇宙(おおぞら)王家は、宇宙鎮尊の子孫なのです。
 そして重要なことが一つ。宇宙鎮尊は王国を築く時、地球を破滅へと導いたそれまでの歴史、つまりあなたがたの文明、そして戦争の記憶、さらにご自分たちの名前すらも、ほろびの大地への道とともに、総て、“天の岩戸”の奥に封印されてしまったのです。それでそれらは神話として残るのみで、今では何も詳しいことは分からないのです……」
「でもって、その王家から分かれた女系、つまり神司を受け継いだうちの家系のみが、神霊学、哲学、科学、そして医学の知識を代々受け継いで来たってワケさ!」
「はーーーーー……」
大地は大きなため息をついた。なんという不思議な、そして荘大かつ悲惨なストーリーなのだろう。
 「でも不思議な話ね……。神の心の結晶というのなら、なぜそれを封印しなきゃならないの? どうして封印が解けると、悪いやつが復活するの?…………」
独り言のように未来が問いかけた。
が、それに答えられる者は誰もいなかった。それは、舞羅達にも分からない謎なのだった。
「いずれにしても、なぜ、封印の儀や王子の技が、あなた方のものと同じかと言うことは、いずれ証明出来ると思いますわ。ね、雷羅。」
「そだな。」
そう言うと、二人は大全の顔を見つめた。
「ん………?」
キョトンとする大全。それは、どういう意味なのだろうか?
 「んー、まあ、一応いきさつはわかったよ。分かったけど、まだ肝心な事を聞いて無いんだけどな。」
「んー? 肝心なことって……まだ何かあったっけ?」
大地の言葉に、雷羅は姉と顔を見合わせた。
「あるだろう〜、一番肝心な事が!」
「??????」
「で……、いったいオレに何をしろっちゅうの??????」
「あ………」
そう、大地にとって、それが一番肝心な所だった! 自分がここへ連れてこられた目的、大地はそれをまだ聞いてなかったのだ!!
 この問いに舞羅は、
「…………………」
と、一呼吸置くと、背筋を伸ばしまっすぐ大地を見据えた。
 「唯一、暗黒龍王を倒すことの出来る武器は神剣“草薙の剣”のみと伝えられます…。そして、神剣草薙の剣は、未だ王宮の承認の台に深く突き刺さったままなのです。なぜなら、再び引き抜く事ができるのは、唯一、“岩戸の承認”を受けた者の発する“魂”の波動パターンのみだからなのです。」
「ふーん…、しかしまあ、龍とか剣とか、なんか、アニメやゲームでよくある“聖剣伝説”みたいなんだよな〜………。で?」
「で、王子と同じ魂を持つ大地様には、紫蘭王子の代役を務めていただきたい、と……」
「だ、代役……って、具体的には? ゴク…」
いや〜な予感のする大地。
「はい! つまり大地様には、王子の代わりに神剣草薙の剣を引き抜き、暗黒龍王と戦い、これを討ち倒し、さらに天の岩戸を開け、ほろびの大地に向かい、天地核を再び封印していただきたいのです!」
「なにおーーーーーっ!」


 「マジかよ〜、ったくう…。」
大地は、自分の誕生日に起こった突然の展開が今だ信じられず、みんなが寝静まった場所から少し離れ、草の上にひざを抱え一人座っていた。
 それにしても、自分が紫蘭王子の代わりとは? しかも、この宇宙の破壊を願う暗黒の魔王、暗黒竜王をうち倒せとは? たかが高校一年生の、しかもあまり出来の良くないヤツと自分でも自覚するオレに、そんな大それた願いを託すなんて、どうかしてる。一体オレは、どうすればいいんだ? 一体オレは、どうなってしまうんだ?……などといった考えが、頭の中をぐるぐると駆けめぐり、とても寝られたものではなかったのだ。
 「なんだ、寝付けないのかよ?」
「え? ああ……」
大地がはっと我に返り振り返ると、そこには一人雷羅が立っていた。
「すまねえな、大地。あたしのせいで、とんでもないコトに巻き込んじまって。」
彼女は、そう言いながら、ゆっくりと大地の横に座った。
「今さら謝られてもなあ〜……」
うつむき、力無く大地が答えた。
「でもさ、大地、あの遺跡で取り方衆に襲われたトキ、危ないとこ、助けてくれて……、サンキュー、な。」
「う、うん……?」
顔を上げこっちを向く大地の目を、雷羅はじっと見つめた。
「………?」
大地は、自分を見つめる雷羅の瞳が、焚き火のゆらめく炎を反射してか、小刻みに揺れ動いているようにも感じた。あらためてみると、常に男勝りな少女なのに、なんて綺麗な瞳をしているのだろう。彼女の、暗黒の王を目覚めさせてしまったという大きな間違いも、しかし、その純粋さゆえのなせる罪なのかもしれない。大地はそう思いながら、心を奪われたかのように、その純真な空間の広がりを見つめた。
こうしてしばし、二人の間に不思議な間が訪れた。
 そして…
「コレ、お礼のしるし……」
再び大地が我に返ったのは、雷羅の唇が自分の唇に重なった時だった!
「○○◯♂▽☆◎♀???」
「愛羅じゃないけどさ、あたしも、お前ってけっこータイプだぜ。♪ じゃ、オヤスミ♪♪」
大地は、雷羅の甘い残り香を脳裏に感じ、あたたかくて柔らかい感触の残る唇を半開きにしたまま、焚き火のところに戻る雷羅の後ろ姿を、ボーゼンと見送った。