第二章 紫蘭・奪われし魂
二、紫蘭・奪われし魂

 夕闇の中に、今は神話として語り継がれる先史文明の遺跡群があった。
それは我々同様、大地と未来もよく見知った風景の残骸だった。
 その、今は無人の廃墟の一角で、
 ズッドォオーーーーーーーーンンンン!
突如爆発は起こった!!
 またしても激しい光! 突風! 雷鳴!
光は巨大な火柱となり、その激発エネルギーは魔法陣と機械群、部屋、そして建物そのものを瞬時に蒸発させ、あるいは吹き飛ばし、天地を揺るがす衝撃波とともに激しく天空へと突き抜けた!
こうして、一瞬前まで存在した建物の跡には、瓦礫(がれき)が飛び散り、土煙舞い、今は巨大なさら地 が出現していた。

 「ふ〜………、危機一髪でしたわね。」
天井から落ちる埃の舞う中、床に伏せていた舞羅はゆっくりと立ち上がると、薄暗い天井を見上げ、ほっと胸を撫で下ろした。
 その横で愛羅も、
「ゴホ、ゴホ……ったく、雷羅お姉ちゃまの発明品は、いつもいつも欠陥品ばかりでちゅ!」
と、文句を言いながら、ドレスに付いた埃をはたき立ちあがった。
「ばかやろう、今のは定員オーバーだったからで、あたしのせいじゃ………あ、あれ?」
「どうちたでちゅ?」
「よく考えたら、定員オーバーなのに、よくこっちに帰り着けたよなあ…。時空間移動には、エネルギーが足りなかったはずなのに。」
雷羅は床にあぐらをかき、腕組みして頭をひねった。
 その様子を見て、
「くすくす。」
と、舞羅が笑った。
「な、なんだよ舞羅姉貴。」
「あのお方のおかげですわ。」
「あのお方…?」
と、舞羅が視線で指し示すその先には、薄暗い部屋の中で杖を持ち、呆然と立っている大全がいた。
「あ、なーるほど! そういう事か。」
ポン! と、雷羅は手のひらを叩おいた。
「どういうことでちゅ?」
「つまり、こういう事です。時空間断層を飛び越える時、偶然に、もあのおじいさまの放たれた強烈な“気”によって、エネルギー不足を補ったのですわ。」
舞羅は、首をかしげる愛羅に分かりやすく説明した。

 「大地………、ねえ、大地、どうしたの、大丈夫? いやー、どうしたの大地、しっかりしてよ、目を覚ましてぇーーーーー!」
この時、未来は薄暗い部屋の中、足下に倒れている大地に気付き、その体を揺すっていた。
「なに言ってんだよ未来。オレなら、ここにいるぜ?」
「え?」
その未来の後ろから、大地が声をかけた。
「じゃあ、この人は、だれ………よ???? きゃ〜〜〜〜〜〜〜っ!」
目の前の人物が、見知らぬ人間だと言うことに気づくと、未来は、あわてて飛び退き大地の後ろにしがみついた。
 「誰だ?……これ」
大全と大地、そしてその後ろから未来は、床に倒れる謎の人物に恐る恐る近づくと、その顔をそっとのぞき込んだ。
「うむ、これは……、未来ちゃんが間違えるのも、無理はない。大地、お主によく似ておるな。」
「あー、びっくりしたあ。あたし、まだ心臓バクバクだよお…。ほんと、顔つきも体つきも、大地によく似てるんだから。……あれ? でも…、よく見ると、なんか違うなあ……。なんかこう、気品があるっていうか…、超かっこいいって言うか〜……」
「あのなー。」
未来は、ついたった今驚いたのを忘れ、まじまじとその顔を見つめた。
 この少年は、ウエストを金のベルトで締めた白いパーカーのような服に、白いズボン、青いブーツを身につけ、床に敷かれた純白のシートに横たわっていた。
 そしてその顔は大全の言うように、確かに大地とよく似ているものの、未来の感じたとおり、あきらかに気高い気品が漂っているのだった。

 「そのお方は、我が地球(チタマ)王国の高貴なる王家の血筋、宇宙紫蘭(おおぞら しらん)王子にあらせられます!」
三人の後ろから、舞羅が静かに、しかし厳かに説明した。
「王子ィ? こ、このコ汚い床に倒れているヤツがぁ?」
大地は、小馬鹿にしたように少年を指さした。
 するとそこへ、
「雷羅、愛羅、早く処置を!」
と、言いながら、舞羅が割って入るようにしてひざまずいた。
「おっと、そうだった!」
「でちゅ!」
舞羅の指示に、愛羅は急いで背中のランドセルを下ろした。
 そして、中から注射器とアンプルを取り出すと、紫蘭王子の腕に何かの薬を注入し、聴診器で心音を確かめ始めた。
 (な、なんかお医者さんごっこみたいだな)
と思いながら顔を見合わせる大地たち。
 「ん、…………心音回復、血圧正常♪ 良かった、無事仮死状態から回復したでちゅ!」
 その愛羅の言葉を合図に、
「よし!」
今度は、雷羅が愛羅と入れ替わった。
 そして彼女は、腰に畳んでいた“ダウジングロッド・雷羅スペシャル”を取りし蓋を開けると、中から、キラキラ光る透明の液体が詰まったガラスの小瓶を抜き出した。
 「なんだ、それ?」
のぞき込む大地。
 舞羅は、
「紫蘭の…………“魂”さ! 半分しか、ねえんだけどな!」
と、悔しそうに答えた。
「魂!?……」
雷羅は無言でうなずくと、小瓶の蓋を開け、その中身を横たわる紫蘭王子の体にそっと注ぎかけた。
すると液体は、ゆっくりと落ちながら気化し、キラキラ光りながら体を覆っていくのだった。そしてそれはやがて、ゆっくり…、ゆっくりと、紫蘭王子の皮膚から、体内に吸収されていった。
 やがて、最後の光が体に吸収されると、紫蘭王子は、まるで永い眠りから覚めたかのように、静かにその目を開けたのだった。

「……………!」
無言のまま、ゆっくりと上半身を起こす紫蘭王子。
その顔は、寝ていたときにも増してすがすがしく、よく似ているとはいっても、やはり明らかに大地とは違う、高貴な気品に満ち満ちているのだった。
 王子は、心配そうに自分を見つめる舞羅三姉妹を見ると、安心させるかのように静かににうなずいた。
そして、次に大地たちにも、ゆっくりと顔を向けた。
 「王子様? 二枚目、超大金持ちぃ〜〜♪」
みるみる、目がハートマークになる未来。
 そして大地は、
「こ、こんちは。あのー、今日もいいお天気で…」
と、アホヅラ丸出しの間抜けな挨拶をしてみせた。
 が、これに対して、
「…………………」
紫蘭王子は、無言無表情のままだった。
「??????」
大地と未来はこの反応に、とまどうように顔を見合わせた。どうやら彼には、感情というものが無いように感じられたのだ。
 するとその横で、
「…無駄です。今の王子は、言葉を忘れてしまったのです。」
と、舞羅が静かに首を横へ振ってみせた。
「ええっ?!」
驚く大地たち!
 「そう言えば、今しがた……、魂が半分とか、申されたようじゃが……」
大全が、腕組みしながら尋ねた。
「半分は、……盗まれ……ました。うう〜っ……」
舞羅は涙を浮かべた。
「ぬ、盗まれたあ?」
「ああ、“暗黒龍王”(あんこくりゅうおう)の野郎になあ!」
またまた驚く大地たちに、今度は、雷羅が悔しそうに答えた。
「暗黒龍王? な、何者なのじゃ、それは?」
 この大全の問いに、舞羅と雷羅は唇をかむようにしてうつむいた。そして、しばしの沈黙の後、舞羅は沈痛な面持ちで言った。
「この宇宙の破滅を……、滅亡を願う者……“暗黒世界の魔王”です!!」
 『魔王〜??????』
甲高い声を上げ、またまた顔を見合わせる大地たち!
 「はは…。な、なによそれ〜? 冗談キツイよ、アニメじゃあるまいしィ〜。ははは…」
「アニメ? なんですかアニメとは?」
「え? アニメ………知らないの? マジぃ?」

 その時、
「なんか、外が騒がしいでちゅよ!」
ハシゴを登り、外の様子を見に行った愛羅が警告した!
「なにっ!」
雷羅は急いでハシゴを駆け上がると、愛羅と共に蓋の隙間から外の様子をうかがった。
「どうです雷羅。」
心配そうに見上げる舞羅。
「間違いねえ………、近づいてくる……。奴らだ! もう奴らが来やがったぜ!」
「ほんとうですか! ……それは困りましたねえ。派手に花火を打ち上げて、居場所を教えましたからねえ、わたくしたち…。」
雷羅の答えに、舞羅はおろおろしはじめた。
「でも、それにしても早すぎまちゅ! きっと、周りに非常線を張っていたに、違いないでちゅ!」
「だな! よしみんな、とにかくここは危険だ、急いで外へ出ようぜ!」
雷羅が叫んだ。
 が、それを!
「待て待て、待てーい! 外には出ないぜ、オレら!」
と、大地が拒否した!
 「なにい!」
「だってそーじゃねーか、いきなりこんな、ワケ分かんないとこ連れてきて、いったいどーしようってんだオレたちを?! ちゃんとした説明してもらうまで、一歩もここ動かないぜ、オレは!」
そう宣言すると、大地は腕組みしドカッと床に座り込んだ。
「な、なーにごちゃごちゃ言ってんだよ! 時間がねえんだよ時間がーーー!」
顔を真っ赤にし、ブチキレる雷羅!
 が、大地はそれを無視し、なおも平然と座り続ける。
「あの……おじいさま………」
その横で舞羅は、両手を合わせすがるような目をして、大全を見つめた。
 しかし大全もまた、
「舞羅どのと申されたな。いや、ワシもコイツと同じ意見じゃ。説明を聞くまでは、やはりワシも動けんよ。」
と、大地同様首を横に振り拒否の態度を示してみせると、言葉を続けた。
「…と言うのも、この先どうなるものか、ワシ自身、保護者として二人への責任もあるしの。まずは、聞かせてもらおうかの、目的はなんじゃ? ワシらをここへ連れてきた、目的は!」
 そう言うと大全は、舞羅の目の奥底をじっと見つめた。
「……………!!」
舞羅は一瞬沈黙し、そして、
「…………分かりました。ご説明いたしましょう。」
と、決心したように言った。
「だけど舞羅姉貴、時間が、やつらが!…」
「お黙りなさい、雷羅!!!」
姉の鋭い一括! 雷羅はそれ以上の言葉を失った。
(ほう、この娘は……)
舞羅の強い口調の中に、何かの“力”を感じ取る大全。
(なるほど…、ようするに神法陣に般若心経、七福神の類は、この娘の真なる“力”を出すための単なる小道具というわけじゃな………)
 「時間がございませんので、手短に。」
「うむ!」
大全は、コクリと深くうなずいた。

 「ここは……、あなたがたの時代の………、遙か未来の世界なのです。」
「それはさっきの、時空ナントカと言う面妖奇天烈(めんようきてれつ)な空間で、聞き申した。が、遙かとは、具体的にどれくらいのものじゃな?」
この問いに、舞羅は困ったように首を振った。
「分かりません…。あなた方は、歴史が封印された神世紀時代の方々ですから、さっきの時空間移動の様子では、少なくとも数百年、いえ数千年……」
『数千年〜?』
舞羅の説明に、ぶったまげる三人! それにしても数千年とは??!!
 「過去の人間と接触することは、自らの存在を含め、歴史が大きく変わってしまう可能性があるので、本来許されるべきことではありません……。でも今回、事は緊急を要するのです!」
そう言うと、舞羅は大地の方を向き、キッとその目を見据えた。
「大地様!」
「は、はい?」
「わたくしたち三姉妹は、今朝、自ら使命を帯びて時空の彼方へと、旅立ちました。その使命とは、暗黒龍王に魂を半分盗まれし、我が紫蘭王子の“旧バージョン体”を探す事でした。そしてついに、最高のシンクロ率を持つ大地様、あなたを探り当てたのです!」
「旧………バージョン体?」
「はい。旧バージョン体、それはすなわち、王子の生まれ変わる以前の姿、“前転生体”のことです。逆に言えば大地様………、あなたは、あなたの世界で天寿を全うされて後、何回かの転生を経て、ここにおわす紫蘭王子に生まれ変わりあそばすのです!」
「なにーーーー! こいつが、オレの……、生まれ変わり〜〜〜……………!!!!」
口あんぐりの大地!
 それはなんとも信じられない話だった! いくらなんでも、目の前にいるこの少年が、まさか自分の生まれ変わりだとは……
「うっそお〜、こんな超りりしい方と、このアホの大地があ…」
もちろん、未来も信じられない。
「え〜〜っ、やっぱりこのお兄ちゃまって、アホでちゅか?」
「もちろんよ!!」
愛羅の問いに、未来は思いっきり肯定した。

 「むううう〜〜〜〜。にわかには信じがたい話! 信じがたい話じゃが………」
言いながら、大全は孫と紫蘭を交互にを見比べた。
「それで大地は、王子と似ておるのか?」
「はい。でも、それだけでは……ないかもしれませんが…。とにかく私たちは、前転生体である大地様を、なんとしても私たちの時代に召喚したかったのです。一緒に、おじいさまと未来さんをお連れしてしまったのは、たまたま偶然が重なってしまったのです。」
「ふむむ………。で、大地召喚の目的は?」
大全のこの問いに、舞羅は一呼吸置くと、目を見据えて言った!
 「“正義”………の、ためです!」
「!!…………………………」
無言のまま、舞羅の瞳の奥深くをじっと見つめる、大全。
(慈愛………。一点の曇り無き“気”の波動………ムウウッ!!!)
大全は、そこに青い青い海原のような澄んだ心を感じ取った!
 そしてそんな二人の顔を、大地は床に座ったまま交互に見上げた。
「じいちゃん? あの、じいちゃん?」
「…………あいわかった。」
「あいわかったって、じいちゃん〜?」
「ゆくぞ、大地!」
言うや大全は、ハシゴに近づき手をかけた!
「行くって、あの、じいちゃん、まてよ、今の説明で納得したのかよ、じいちゃん? じい………じ、じじいーーー!!!!」
だんだん大声になる、大地!
 が、大全は大地を無視し、さっさとハシゴを登って行った。
「さ、王子、こちらへ。」
そして舞羅もまた、紫蘭の手を取りハシゴへ向かった。それにふらつきながら紫蘭が従うと、
「あぶない!」
今度は未来が、後ろからその体を支えた。
「未来、お前…!」
「あたしも行くよ大地!! だってこの人、ほっとけないでしょ!」
言いながら未来は紫蘭の腕をとると、自分の肩にしっかりと回した。
「なにーっ!……… くそーー、あーもう、待てよ待てって、行くよ行くよオレもー!」
こうして結局、大地もみんなの後に続くのだった。


 三姉妹と紫蘭王子と未来、そして大全と大地は、たった今出来たばかりの広場に立った。
見回すと、空一面の星明かりが、回りの遺跡にかすかなシルエットを与えている。
 その時!
 カカカッ!!!!!!
突如、いくつもの光線が広場の外から発射され、昼間以上の明るさで七人を照らし出した!
「!!……。ふふん、こんなにもスポットライトを浴びせてくれるとは、なんとも用意のいいこったぜ!」
手で光をさえぎりながら、一人強がってみせる雷羅。が、あきらかにその口元は、引きつっている。
 広場の回りには、丸太で組んだ三脚に乗せられた投光器が無数に配置されていた! そしてその後ろには、黒くうごめく大勢の人影があった!
 さらに、その投光器の中に、ひときわ高く、強く輝く光があった! なんと、他の投光器の土台が木の三脚ならば、この土台は屋根付きの牛車! それも何十頭もの黒牛に引かれた、ばかでかい牛車だったのだ! よく見ると、その荷台は白黒のツートンカラーで塗られ、横には『国家警察隊』の文字が!
「国家警察隊………警察隊だってぇ?!」
驚く大地たち! 
 さらによく見ると、この牛車の上には、見晴台のようなものが備え付けられており、中に一人の男が仁王立ちしていたのだった。
青白くやせ型の、まだ三十代半ばと見えるこの男は、第二次大戦のドイツ軍指揮官にも似た制服制帽姿をし、その手には、ハンドマイクを握りしめていた。
 「私は国家警察隊警視総監、アイライク・カネガである! 極悪非道の凶悪犯、天をも恐れぬ王家反逆及び紫蘭王子誘拐犯ども、よーく聞けい! 回りはすべて、警察が取り囲んだ! もはや逃げられぬ! 素直に紫蘭王子を返せば、軽い死刑! もし返さぬと言うなら、全員捕まえたあげく重い死刑に処してやる! ふははははは、どうだ! おとなしく降伏しろーーい!!」
スピーカーを通し、鼓膜が破れるほどの大音量で、男の声が響いた!
「くっ、ば、バカ野郎! どっちにしたって死刑じゃねーか、ざけんなーーーっ!」
顔を真っ赤にして、大音量に負けないくらいの大声で怒鳴り返す、雷羅。
「お、おいおい、どーいうことだよ、誘拐犯って?」
「あらあ大地様、言い忘れてましたけど、私たち姉妹はここでは、国民議会爆破による大量殺人の上に王子様を誘拐した、“極悪非道の凶悪指名手配犯”になってますのよ、一応♪」
「この手配書が、証拠でちゅー!」
すかさずランドセルから紙を取り出し、大地たちの目の前に広げてみせる愛羅!
そこには、WANTEDの文字と、三姉妹の凶悪そうな似顔絵が……!
「な、なーにーーーーーーーーっ!!!!!!」

 「なーにをごちゃごちゃ言っとる! そうか、どうしてもいやだと言うのだな! だったらこっちにも覚悟がある! それ、取り方衆突入しろーーーーっ!」
そのかけ声と同時に、
「ワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!」
喚声が上がり、周りから一斉に人影が近づいて来た!
 その姿がライトに照らし出されると、
「あれ…………が……警察ぅ??? う、うっそお〜〜〜〜〜????」
大地たちは、思わず我が目を疑った!
 それもそのはず、取り方衆と呼ばる彼らは、髪型こそちょんまげではないものの、時代劇の岡っ引きに似た格好で、腰に丸めた縄を着け、手に手に二メートルほどの“竹やり”を構え、突進して来るのだ。
「そうです、あれこそが我が地球(チタマ)王国の誇る優秀なる国家警察隊の、そのまた優秀なる精鋭部隊“取り方衆”ですわ! ご覧下さい、あの史上最強の恐るべき武器を……………………ああ、なんと恐ろしい!」
「史上最強って…………あの竹やりがですかぁ?」
「な、何をいっているのですか、大地様! あれは、ただの竹やりではないのですよ! 竹は竹でもあの竹は、世界一強靱な丹波笹山(たんばささやま)の古老竹、しかもその先は、鋭く切って火で固くあぶられ、どんな鎧をまとった敵の胴体をも貫く威力があるのです! いいですか、古来よりたくさんある言い伝えの中の一説に、こういうのがあります。“その昔のとある戦争の時、鋼鉄でできた“びーに、じゅーく”と呼ばれる鳥型の空飛ぶ船を、竹やりでことごとく撃ち落とした”と。あれは、それほどの恐ろしい武器なのですよ!」
舞羅は大地にそう反論すると、両手で頭を押さえ、震え上がった。
「び〜に、じゅ〜く……B29ぅ?……落としてない、落としてない!!」
苦笑いをしながら、右手を左右に振る大地と未来。
 「…舞羅どの、その言い伝え、あんまり信用せん方が良いのう。確かに大昔、第二次世界大戦と呼ばれる戦争の末期、日本では“B29爆撃機に竹やりで挑んだ”なんて無茶な話もあったが………。しかし、竹やりがこの世界の最強の武器ということは、この時代の警察においては、銃火器の類は使われておらんという事じゃな?」
大全は、そう言うと杖を前につき、突進してくる取り方衆に正対した。
「で、でも、あれがほんとに警察なら、普通、人質がいれば、いきなり突入なんかしないんじゃないの?」
未来が聞いた。
「ヤツにとっては、王子の命なんてどうでもいいのさ。残り半分の魂さえ、手に入ればな!」
「ええっ?! …………と、という事は?」
未来は、雷羅の顔を見つめた!
 「ああ、あの警視総監こそ、紫蘭の魂を奪った張本人“暗黒龍王”なのさっ!!!」
雷羅はそう言うと、牛車の上で不敵な笑みを浮かべる国家警察隊警視総監“アイライク・カネガ”を睨み、悔しそうに唇を噛んだ。
「なんだって……? あいつが、さっき言った暗黒龍王〜? いったい何者だよ、その暗黒龍王って?」
「あいつは、この宇宙の破壊・滅亡を願う、“暗黒宇宙の魔王”でちゅ! 大昔封印されてたのが、この時代に復活してしまったんでちゅよ!」
「あ、暗黒宇宙の魔王〜?」
“アニメのない世界”のアニメのような話しに、大地たちはますます頭が混乱してしまった。

 「ふん! 今はもうこれ以上、ごちゃごちゃ言ってる暇ないぜ! さ〜、来い来ーい! この天才科学者雷羅様が、こんな事態に備えもせず、何も用意してないと思ってるのかよおっ!」
雷羅は、大全の横に出て右手を前に差し出すと、金色に輝くブレスレットの一つに左手をかけた!
「お、お姉ちゃま……、なんでちゅかそれ?」
「ああ、よくぞ聞いてくれたぜ、愛羅♪♪ 聞いて驚くな、こいつはな〜なんと、空気中に“巨大プラズマ”を作り出す装置なんだぜ! そのプラズマを自在にコントロールし、迫り来る敵を一網打尽に出来るという、雷羅様一世一代の大発明、その名も“プラズマ電撃・雷羅スペシャル!”だぜい!」
なぜか顔をひきつらせて聞く愛羅に、雷羅は自信満々でそう答えると、
“カチッ”とそのスイッチを入れた!
 するとその瞬間、
 バチバチ、バリバリバリィ!
雷羅の頭上に、青白い火花を不気味にまとった、巨大なプラズマ球が発生した!!
 「みんな、地面に伏せるでちゅー!」
愛羅が叫んだ!
「あー、どーいう意味だよそれ、愛羅!」
「だって、雷羅お姉ちゃまが発明に、“一世一代”とか、“雷羅スペシャル”とか付けたときは、絶対…………!」
身を伏せ頭を押さえ震える愛羅の様子に、大地たちもゾクッっと背中に悪寒が走った!
見ると、舞羅と紫蘭王子も、同じように身を伏せているではないか?!
「ヤバイ!」
三人もイヤな予感が頭をよぎり、慌てて思いっきり身を伏せた!

 「あ、あ〜〜〜っ? みんなでバカにして! よーし、見せてやろうじゃないの、あたしのこのすばらしい武器を! 武器の威力を!! 行っけー、あたしのかわいいプラズマちゃん! 名付けて“プラズマ子♪”!」
「そのまんまでちゅ!」
伏せたままツッコミを入れる、愛羅。
「う、うるさい! 見〜て〜ろ〜よ〜、ほれほれ、自由自在に敵をなぎ倒し、なぎ倒し……あ、あれ、おい、どこ行くんだ、こら、操縦者の言うこと聞けっつーだよ、あ、あ、あ?………ぎゃ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
 なんと、雷羅によって放たれたプラズマ球は、広場の中をその生みの親の意に反して、いや生みの親に似たのか、
 バリバリ・ブォンブォン!
と、不気味な唸りを上げながら、メチャ無軌道に飛び回りだした!
「ま、マジかよ〜〜〜〜〜〜!!!」
必死に頭を押さえる、大地!
 その耳元を、
 ジュウッ!
と、プラズマがかすめた!
「ぎゃあっ、頭が焦げたあ!」 
 
バリバリバリ! パーン! パーン!
「ぎゃーーー!」
「た、たすけてくれーーーーー!」
「モ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」
走る放電! はじける投光器!! 飛び交う悲鳴〜!!!!!
 感電して失神する者、逃げまどう者、恐怖に暴れる牛、広場はパニックに包まれた!
“バリバリ・ブォンブォン”
そして、それをまるで楽しむかのように、ますます嬉々として飛び回るプラズマ球だった!
「し、死むぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
もう、頭を押さえるしかない大地たち!
 こうしてプラズマ球は、数分間もの間自由気ままに飛び回り、(雷羅の言うとおりに?)投光器や大勢の取り方衆をなぎ倒すと、満足したかのように“ブルルッ”と打ち震え、ギューンと空高く舞い上がった!
 そして!
 ド・ドーーーーーン!!!!
と、巨大打ち上げ花火のように、はじけ散った! 
 「た、た〜まや〜……」
上を見上げ、思わず言葉を漏らす警視総監。
彼はその一部始終を、自身も体を焦がされ牛車から吹っ飛ばされながらも見ていたのだった。
「はっ、そ、そうだ、やつらは?」
そして我に返ると、広場を見渡すべく再び牛車によじ登った。
「い、いくらなんでも今の攻撃は、奴ら自身も相当な目に遭ったに違いない!」


 「み、見いーたか、この雷羅様発明品の威力を! かっかっかっか!」
雷羅は一人立ち上がると、広場の“惨劇”を眺めながら腰に手をあて、勝ち誇ったように高らかに笑った!
「な、な〜にが発明の威力でちゅか! たまたまうまく行っただけじゃないでちゅか! 伏せたおかげで助かったけど、みんなを殺す気でちゅか、このバカ科学者! え……、え〜〜〜ん!」
その後ろから愛羅の、涙混じりの罵声が飛んだ!
「な、なんだとお〜!」 
振り返る雷羅!
 が、そこには、焦げた頭から煙を出している大地、怒りに震えるみんなの目が!
「は、はひ〜…。ま、まあまあ。みんな無事だったんだから、いいじゃん。にゃはは……」
思わずあとずさりする雷羅。
 その肩に、
「左様、結局うまく行ったんじゃから、結果オーライじゃ!」
と、大全がポン! と、手を乗せた。
「さ、さすがおじいさまン♪♪ 話がわかるぅ〜。♪スリスリ、スリスリ。♪♪」
猫のようにすり寄る雷羅。
「そ、そうかの〜。ワハハハ♪♪♪………う? う、うおほん! さ、さてと…」
大全は(このスケベじじい〜! うらぎりもの!)とでも言うようなみんなの視線に気づき、顔を赤らめながら一つ咳払いをすると、ゆっくりと辺りを見回した。
 「ふむむ…。残る敵はあと少しか。こうなれば突破あるのみじゃな!」
そう言うと、大全は大地に顔を向けた。
 そして、
「行くぞ大地! お主は愛羅ちゃんを背負って、ワシの後に続けぇーい!!!」
と言うや、取り方衆が一番手薄な所に向かって走り出した!
「わ、わかった! みんな、じいちゃんの後に続くんだーーっ!」
大地は、言われた通り愛羅を背負うと、みんなと共に大全の後を追った!
 それを、
「な、なにい、やつらは全員無事…かっ………!」
半壊し傾いた牛車の上に、再びよじ登った総監が見つけた!
「え〜い何をしておる! こ、攻撃ー! 残った取り方衆、全員やつらを攻撃しろー! 絶対逃がすなーーー! おい、操縦士、牛車を動かせ! 奴らを追え〜〜〜い!!!」
「だ、だめです、総監! 人も牛も倒れていて、牛車は動かせません!」
地団駄を踏み大声で叫ぶ総監の足下から、操縦士が声をあげた。
「なーーーにーーーー……」

 カカッ!!
最初の敵が目前に迫ると、大全の杖が気の発動とともに赤い光を帯びた!
「なんだキサマは?! ジジイ、邪魔すると、死んでも知らんぞお!」
数人の取り方衆が、竹やりを頭上でブルンと一振りするとパシッと前へ構え、目にも止まらぬ素早さと威力で大全めがけ鋭い突きを入れた!
「どてっ腹に風穴を開けてくれるわー!」
 しかし!
彼の目の前にいるのは、ただの老人ではない! 彼こそは、現代の剣聖とうたわれし男なのだ!!
「天昇龍剣秘奥義、連続天昇絶気剣!!!」
大全は、まるで瞬間移動でもするかのようにするりと竹やりの突きをかわすと、その発光する杖を取り方衆たちのこめかみ目がけ、軽く、しかし光のように素早くかすめた!
 瞬間、雷にでも打たれたかのように体を硬直させ、
「ぐ、ぐあああ?!!」
「ぎゃあああっ!!」
白目をむいてその場に倒れる取り方衆たちが、そこにいた!
 大全の放った技“絶気剣”、これこそは、己の気を持って敵の気を絶つ秘奥義だった!
発光する杖の先が、たとえ軽く触れただけでも、敵はその絶大なる気のパワーに撃たれ、一時的に体内の気を絶たれ気絶してしまうのだ! これは、敵を殺す必要のない時に使われる、高等な技の一つなのだった!
「こ、こやつ??!」
驚く取り方衆の面々!
 そして、
「すげえ〜!…」
そのあまりの技のキレに、雷羅たちもまた息を飲んだ!
彼女たちの目の前で、大全は、杖をまるで生きているかのようにあやつり、次々と竹やりの攻撃をはじき、あるいはすり抜け、
「ぎゃあああっ!」
「ぐえええっ!」
と、取り方衆を倒しながら、まるで雷神のごときす早さで敵陣を突き抜けて行った!

 しかし、仮にも警察であり、日々の鍛錬で鍛え上げられた取り方衆はひるまない!
「覚悟おーーー!」
彼らは、正面からでは勝ち目がないと悟ると、今度は、一列に走る大地たち一行の横から突っ込んだ!
「なめるなあ、取り方衆! あたしの発明品は、さっきのだけじゃないんだぜ! 行くぜ、“レーザーブラスター・雷羅スペシャル!”!!!!」
雷羅は、今度も自信満々、二つ目のブレスレットのスイッチを入れた!
 が……
「あ、あれ?」
今度は、その装置はウンともスンとも言わない。
「??、今度はどうしました、雷羅?」
「げげ!!、じ、充電忘れたあ〜〜〜〜〜〜。」
グルグル目で頭を押さえる雷羅に、
「やっぱバカでちゅー!」
またも愛羅の罵声が飛んだ!
 そして、一瞬たじろいだ取り方衆も、不発と見るや、
「こやつらーーー!」
再び一行に雨あられと襲いかかった!
 そしてその中の一人が、
「危険なやつめ、まずはキサマからーー!」
と、雷羅の頭目がけて、鋭い突きを入れた!
「きゃーーーっ!」
思わず目をつぶる雷羅!
 が、
「あぶなーい!」
大地の大声と共に、間一髪、竹やりは顔の数ミリ手前で止まっていた!
すんでの所で、横から大地が、バシイッ! とそれをつかんだのだ!
 大地はそのまま、
「いやああああーっ!」
と、左手で竹やりを引き寄せると、愛羅を背負ったまま体を半回転させ、竹やりに沿って滑るように相手の懐に飛び込むや、強烈な右の肘撃ちをその脇腹に入れた!
「ぐはあ…?!」
白目をむき、ドザッと崩れ落ちる取り方衆!
「す、すごいでちゅう!」
驚く愛羅!
「大丈夫か?!」
大地は、雷羅に声を掛けた。
「お、おう、すまねえ!」
「よし、ここはオレに任せろ。じいちゃんほどじゃねえけど、この程度の相手ならなんとか…!」
 大地はなおも愛羅を背負ったまま、襲いかかる取り方衆相手に、今度は、今奪い取ったばかりの竹やりを使い、次々と当て身を繰り出した!
 そして背負われた愛羅もまた、自分の背中のランドセルに手を回し、何やら怪しげな紫色の粉末を取り出すと、
「やあ、やあでちゅ〜〜〜!」
と、敵に向かって必死にそれを振りかけた!
 それを浴びた取り方衆たち、
「???? ひぇ? ひ、ひい〜〜〜〜〜っ! 痛い、かゆい、しみるぅ〜〜〜〜??!!」
次々と目や口、そして頭から腹、背中、尻まで押さえ、あるいはかきむしりその場にうずくまった!
「これぞ“良薬口に苦し攻撃”でちゅう〜!」
よく分からない攻撃だが、雷羅の危なっかしい装置よりは遙かに効果的だった!
 一方、舞羅と未来もまた、王子を支えながら大全の後に続いていた。そして、横から襲い来る取り方衆に対し、舞羅は“印”を組み、つまりそろばんを振り回していた!
「にいちが、に。ににんが、し〜〜〜!」
今度は二の段だ!
 だが不思議なことに、二の段を言いながら振り回すそろばんは、敵の攻撃を寄せ付けない?!
どうやら九九やそろばんは、単なる精神集中のきっかけにすぎず、舞羅本人がトランス状態になることで、大全や大地同様、遙かなる未知のパワーを引き出しているらしかった!
 そして、あと少しで突破と言う時!
「きゃああっ」
今度は未来が、投げ込まれた竹やりに足を絡め、紫蘭王子とともにその場へ倒れ込んでしまった!
 そこへ!
「もらったあー!」
取り方衆の一人が、力一杯竹やりの鋭い突きを入れた!
 が、間一髪!
 パシイ!!!!!!
今度は紫蘭が、素手でそれを受け止めた!
「こ、こやつ?!」
紫蘭はその槍を握ったまま、
「…………………!!」
無言で腕に力を込めた!

 「な、なんじゃと?」
「あれはーー…?」
大全と大地は、自分たちの間で起こった光景に我が目を疑った!
なんと、紫蘭が受け止めた敵の竹やりを強く握ると、それは、瞬時にまばゆい白銀色で発光したのだ!
 次の瞬間!
 ボ、ボン!!
「ぎゃああーーーーー!」
竹やりは内部の膨大なエネルギーに粉々に砕け、取り方衆を勢いよく吹っ飛ばした!!
「あ、あれはまさしく、我が天昇龍剣に伝わる奥義、“閃光気”(せんこうき)!! ……………じゃが、何ゆえ王子どのが、かような技と力を………」
「すげえ……、オレより何倍もすげえや!!」
大全と大地が驚くのも無理はなかった!
この“閃光気”なる技もまた、長年の修行をして初めて会得できる天昇龍剣奥義中の奥義なのだ!!
 しかし、
「王子、しっかりして!」
紫蘭は技を繰り出すと、すぐにガクッと膝をついてしまった!
そう、彼はまだ、魂が半分しかない上に仮死状態から目覚めたばかりで、今の反撃で、すぐに力を使い果たしてしまったのだ。未来は、すぐにまた紫蘭に寄り添うと、再びその体を脇から支えた。

 だが、ここにもう一人、双眼鏡でその一部始終を見て、もっと驚いている人物がいた!
「な、なんだ………、やつら…は…………?!」
それは、警視総監その人だった!
 彼は、犯罪者と紫蘭王子の中に、見慣れぬ者たちを発見したのだ。しかもそいつらは、不思議な技を繰り出しては、次々と取り方衆をなぎ倒していくのだった!
「魂が半分とはいえ、さすがは紫蘭王子、“王家伝来のあの技”は、見事! …だがどういう事だ? あの老人とアホそうなガキ、それに小娘は、一体どこから湧いて出たと言うのだ? それも、“王家の剣技”と同じ話技を使いよるとは!? ……なぜだ? 王家の剣技は、門外不出のはずでは?? ………いや、まて……、そういえば、あの小僧は、どこか王子に似ているぞ…??? それにあの老人は……、なに? ま、まさか、あの老人……………! いやまて、そんなはずはない、そんな連絡は来ておらぬ! だが、それでは、あの剣技はどう説明する? あの“にっくき”剣技は……? ………ふ、ふふふふ、そうか、分かったぞ! おそらくやつらは、影武者………?!!」
 などと、総監が意味不明の考えを巡らせている間に、大全たち一行は広場の外へたどり着き、そのまま、とっとと闇夜の中へと消えていった。
 「ハアハア、ハア、そ、総監……、に、逃げられましたー!」
駆け寄り報告する部下。
「バカモーン! いちいち報告しなくても見れば分かる! えーい情けない。我が国家警察隊精鋭の取り方衆が、こうも苦もなく犯罪者に逃げられるとはな!」
「どうします、追いかけますか?」
「当たり前だ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
警視総監は額に青筋を立てて怒鳴った。
 が、しかし、何か別の考えが浮かんだのか、すぐに表情を変え、
「いや…………、待て、ここはひとまず引き上げよう! 撤収だ、全員直ちに撤収ーーーーーーっ!!!」
と、命令を変更した。