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第一章 謎の三姉妹登場その1
一,謎の三姉妹登場、ようこそわたくしたちの時代へ その1

 「ここだ!」
「本当にここですか? 雷羅(らいら)。」
「間違いねえって、舞羅(まいら)姉貴。ほら、こいつを見てみなって。」
雷羅は手に持っている“とある装置”を差し出した。
 それはテレビゲーム機のコントローラーに似た装置で、中央付近で二本の細い金属棒が二十センチほど立ち上がり、途中から水平に三十センチほど折れ曲がっていて、その先は左右に揺れ動きつつも、真っ直ぐ前の方向を指し示していた。
 「雷羅お姉ちゃま、ほんとにその“ダウジングロッド・雷羅スペシャル”、信用できるんでちょうねー?」
「あったりめえだろ愛羅(あいら)! いったい誰が作ったと思ってるんでえ、あたしだよあたしー! この“天才科学者”雷羅様、一世一代の大傑作だよ! かっかっか!」
「でも今は、宇宙を重大な危機に陥れた、邪悪なマッドサイエンティストでちゅ。」
「愛羅、お前な〜〜!」
「だって、本当のことでちょう! こうなったのも、みーんな雷羅お姉ちゃまのせいでちゅ。お姉ちゃまが科学に突っ走って、舞羅お姉ちゃまやあたちのように、冷静に物事を判断ちないから…………」
「てんめーーー! あたしは神司(かみつかさ)家の“科学”を受け継ぐ雷羅さまだぜ? そのあたしが科学に突っ走ってなーにが悪い! “大統一論”の実証は、科学者の悲願だぞ! “神霊哲学”の舞羅姉貴や、“医学”を受け継ぐお前とは、違うんだよ! 感謝されこそすれーー……」
 「おやめなさい、二人とも! 今は姉妹ゲンカしている場合じゃありません、私たちには時間がないのですよ!」
「お、おう。そうだ、そうだった。おーし、今日の所はカンベんしてやらあ。帰ったら覚えとけよ愛羅!」
「それは、こっちのセリフでちゅ!」
 二人はそれぞれ捨てゼリフを言い合うと、再びロッドの指し示す先に目をやった。するとこのロッドはまっすぐ二本とも、小さな神社の横にあるしっくい塗りの白塀に囲まれた、昔ながらの古い屋敷を指し示しているのだった。
 「すげえ、反応してる。多分、ターゲットはこの中だぜ!」
雷羅、そして舞羅と愛羅は、神社横の屋敷を囲むように高く長く延びる塀を見上げた。
 そして、
「あっちに入り口がありまちゅ。」
道なりに延びる塀の途中に屋根付きの立派な門を見つけ、入り口から頭だけを出すようにして中をのぞき込んだ。

 しかし、この姉妹らしい三人の格好はちょっと変わっていた。
 一番上らしい、それでも十八・九歳くらいの舞羅は、透き通るような白い素肌に栗色の長い髪、額にエメラルド色の飾りをつけ、かすかに体が透けて見える、淡いピンクの薄布を体に巻き付けただけのその姿は、まるで生きた妖精か、天女のようだった。
 次に十五・六歳くらいの雷羅。彼女は、小麦色すぎるくらいの健康的な肌に金色の髪、まるで湯上がりにバスタオルを巻き付けただけのような姿で、その両腕には、いくつもの、キラキラと金色に光るブレスレットをつけていた。
 そして一番下の七・八歳くらいの愛羅、彼女は、赤い髪とくりくりした緑の目が印象的な、まるで、西洋のアンティックドールのような愛らしい少女で、フリルつきの、かわいい薄黄色の服を着ていた。そして、その背中には赤いランドセルを背負っていて、一見、ただのおしゃれ好きの小学生のようにも見える。

 「この板、なんて書いてあるんでちゅか、雷羅お姉ちゃま?」
末っ子の愛羅は、門横に掲げられた看板の文字を、すぐ上の姉に尋ねた。
「ん、んー?……、えーとな…………。なんて書いてあるんだ、舞羅姉貴? なはは。」
雷羅は頭をひねり、さらに長女に尋ねた。
「えーと……、これは……古い古い文字ですから………。てん・しょう…りゅう……けん………そう、『天昇龍剣道場』(てんしょうりゅうけんどうじょう)ですわ♪」
ポン、と手をたたく舞羅。
「さーすが姉貴! で、どーいう意味?」
「え? さ、さー、そこまでは〜………」
なんとか文字は読めたものの、舞羅もまた頭をひねった。
 そう、そこはどうやら剣の道場らしかったのだが、その看板に書かれた文字を“古い古い文字”というこの三人は、いったい………?

 一方、この古くて大きい屋敷、中をのぞくと母屋らしき立派な建物の横に、植木に囲まれて池や灯ろうの並ぶ和風の庭があった。そしてその向こうには、庭に面して開け放たれた平屋の古い道場が建っており、中では羽織袴(はおりはかま)姿で杖をついた白髪の老人と、カバンを肩に掛け右手に木刀を持った青いブレザー姿の、ちょっと間の抜けた感じもする短髪少年が向かい合っていた。
 その二人を見て、
「お、お姉ちゃま、あ、あの二人は……!」
愛羅が、驚きの声を上げた!
「ええ、あれはまさしく……。雷羅、ではあのどちらかが?」
「いや、じいさんは違うよ、姉貴! この装置は、同じ歳の少年を捜すようセットしてあるから……ほら、見てみな! ロッドはあっちの若い方をしっかりと指し示してるぜ!!」
 彼女の持つ装置のロッドは、確かにその少年の方を向いていた。
「へーっ、じゃあ、これは偶然でちゅか……。不思議な偶然も、あるもんでちゅねえ〜……。まあそれはいいとして、それよりあの二人、向かい合って、何してるんでちゅか?」
「うーん、ありゃあどうやら……、仲良く向かい合ってるってわけじゃ、なさそうだな……」
「ええ……。何やらあぶない雰囲気ですわね。」
 そう、雷羅や舞羅の推察した通り、この二人はただ向かい合っているわけではなく、その目は燃え、お互いきつくにらみ合っているのだった!
 「覚悟はよいな…、大地。」
眼光鋭く、老人が短い言葉を放つた。
 と、
「それはこっちのセリフだぜ、じいちゃん! 今日という今日は引導を渡してやるぜ!」
少年も、木刀を正面に構えながら、驚くべき言葉を返した!
 そう、今まさにこの二人は、対決の直前にあったのだ!

 体こそ小柄だが、眼光鋭きこの老人、名を綴目大全(とじめ たいぜん)といい、齢(よわい)八十歳!
彼こそは誰あろう、現代の剣聖とうたわれし天昇龍剣道場当主、天昇龍剣第二百九十八代目継承者その人であった!
彼は、朝食後の爪楊枝(つまようじ)を口にくわえ、右手で持った杖を前についたまま、ゆったりとした自然体で立っていた。
 そして相対する、この少し間の抜けた雰囲気の少年は、その孫、綴目大地(とじめ だいち)、天昇龍剣第三百代目継承者〜となる予定の〜十六歳高校生だった!
大地は、額(ひたい)に一筋の汗を浮かべ、祖父大全をキッとにらみつけながら、手にした木刀をゆっくりと持ち上げると、上段に構えた!
秋の青空にも似た、凛とした静寂があたりを包む。
 そして次の瞬間!
 「いやあああああーーーーーーーーっ!」
道場に、渾身の気合いが轟いた!
 バーン!
激しく床板を蹴る音と共に、大地の体は宙を舞い、その手にした木刀を祖父の脳天目がけ振り下ろした!
 が、その時!
「甘いわっ!!!」
大全は、ほんの少しだけ顔を上げると、
 “ちょこん”
口にくわえた爪楊子の先っちょで、それを受け止めた!
 すると!!
 バッシーーーーーーーーン!
なんと、爪楊枝の先から目もくらむような赤い火花が発生したかと思うと、木刀は瞬時に粉々に飛び散ってしまったではないか!
 さらにその光は、道場を焦がすような稲妻を発しながら大地の体を包み込み、
 ズッドーーン!
そのまま、まるで瞬間移動でもさせるかのように、その体を吹っ飛ばした!!
 「あんぎゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜………………!」
煙の尾を引きながら、でかいロケット花火のように道場の外へと飛んでゆく大地!
「見いたか! これぞ天昇龍剣奥義、“天昇閃光気”(てんしょうせんこうき)! お主のようなひよっこの相手なぞ、この口にくわえた爪楊枝で十分じゃあ! かっかっかあ!!」
大全は、勝ち誇ったように高笑いした。
 この“天昇閃光気”なる術(わざ)! 実はこれは、瞬間的に体内エネルギーを一点に集中し、一気に爆発的な“気”を発する、天昇龍剣の“秘奥義”なのだ!
大全は、爪楊枝の先に“爆裂気”(ばくれつき)とも言うべき巨大エネルギーを集中させ、瞬間、その恐るべきエネルギーにより、木刀をブラシのごとく張り裂かせ、そのまま一気に大地を飲み込吹っ飛ばしたのだ!

 「わあ、遅刻する〜、行って来まーす!」
この時、隣の球鎮(たましずめ)神社では、本殿横にある住居の玄関から、口にトーストをくわえた <なんてベタな登場の仕方なんだ> 一人の少女が、慌ただしく飛び出した所だった。
 少し日焼けした顔に茶髪のポニーテール、ベージュのブレザージャケットにグリーンのチェックのスカート、濃紺のカバンを肩に掛けたこの少女、名前を明日野未来(あすのみらい)と言い、隣の大地とは同い年の幼なじみなのだ。
 未来は、一旦停止の足踏み状態で立ち止まると、
「おばあちゃん、行って来まーす♪」
と、本殿前の小さな境内を竹ぼうきで掃いている、小柄な巫女姿の祖母に挨拶をした。
「なんだい未来ちゃん、口にトーストをくわえるなんて、またそんなベタな登場の仕方して〜!」
祖母もツッコミを入れた。
「う、うるさ〜い、ほっといて!」
顔を赤らめつつも開き直る未来。
「あっと…それより、そうそう、未来ちゃん、昨日言うの忘れてたけど、今日はお前に立ち会ってもらわないといけない大事な儀式がね……」
「あー、何? ゴメンおばあちゃん、帰ったら話聞くからねー、あたし、ちょっち遅刻しそうでヤバイんだよー!」
未来は、祖母の言葉も耳に入れる暇もなく、すぐまた走り出した。
 「……あるから、早く帰っておいでっていう話なんだけど……。あらあら、元気がいいこと。もう見えなくなってしまったわ。ま、いいでしょ、どうせ“アレ”を始めるのは、日が暮れてだから…。」
祖母は、あっと言う間に鳥居をくぐって階段を駆け下りて行く孫を、微笑みながらやさしく見送った。
 
 「んー、いい天気、気持ちいい〜〜〜〜♪」
未来は階段からポン、と道に着地すると、高く澄んだ青空を見上げ背伸びをした。
 この時期、夏も終わって秋となり、その秋もこれから徐々に深まろうかというこの季節は、早朝の空気、そして空が、一年中で一番すがすがしく感じられる気がするのだった。
 「ようし♪ 今日もソッコー帰って、昨日の研究の続きを…………」
言いかけて、その視界の中に突如、何か黒い固まりが出現した?!
 そして!
「……続き・を…………????????」
それは、急激に未来へ迫ってきた!!
 よく見るとそれは、なんと、目を血走らせよだれの軌跡を残しながら空中をすっ飛んでくる、隣のアホ幼なじみではないか!!
「ぎょえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜??????」
未来は、悲鳴とも叫びともつかない声を張り上げつつも身をひるがえし、必死で“それ”を避けようとした!
 が!
 ドッシーン!
「きゃああああ!」
あっという間に、直撃されてしまった!!
 ドテ!
そのまま倒れ込む未来!
彼女は地面に頭をぶつけ、しかもなおかつ大地の下敷きになってしまった!


あたりに土埃が舞い上がり、数秒の沈黙が訪れた。
 そして、
「……………いたたたた…………………」
未来は頭を押さえながら大地の下からはいずり出すと、石垣に手を掛けながらヨロヨロと立ち上がった。
「いった〜〜〜〜〜〜い!……… な、なによ大地? なんでいきなり朝っぱらから、アンタが空から降ってくるわけえ? ふざけんじゃないわよお!」
彼女は、まだ倒れている大地に向かって悪態をつくと、
「えーーーーー? コラ、なんとか言ってみろ!! このアホ、バカ、マヌケ!! コノコノ、コノ〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
と、怒りを込めて大地の背中を、ビシバシ蹴とばし始めた。
 「いてて、蹴るな未来! こら、蹴るなー!」
あわてて上半身を起こし、手で蹴りを防ぐ大地。
「やかましい、今あたし、思いっきり地面に頭ぶつけたんだからね! それに見てよコレ、制服汚れちゃったじゃないの! 一体どうしてくれるのよ〜〜〜っ!!!」
未来は、制服の肘やお尻の汚れた所を指さしながら、なおも大地を蹴り続けた。
 が、
「んん?……」
その右目の回りに、青く内出血しているアザがあるのに気付いた。
「ど、どうしたのよ大地? そのアザ……」
未来は、やっと蹴るのをやめると、大地に顔を近づけそのアザをのぞき込んだ。

 「ふん……、これかあ? これはな〜、くそじじじいのヤローが“閃光気”でオレを吹っ飛ばした瞬間、オマケのパンチを顔面に喰らわせやがったんだよ!」
大地は、地べたにあぐらをかき腕組みすると、今自分が飛んできた塀の上をにらんだ。
「パンチって??………、あーっ、大地ってば、まーたおじいちゃんと、ケンカしてたなあ!」
 未来は腰に手を当て、あきれたような表情で大地を見下ろした。
彼女のこの言葉から推測すると、この祖父と孫のケンカは、どうやら日常茶飯事の出来事らしい。
 「ケッ、したくてしてたんじゃねーよ。 イチチチ……!」
大地は、右目を押さえながらフラフラと立ち上がると、ズボンの汚れをはたき、
 「実は、じいちゃ……いや、あのくそじじいと“ガッコ行く行かない”でモメちまってな。」
と、またまた、今跳んできた方向をいまいましげににらんだ。
「ガッコ行く、行かない? ………………って、あ、あのね〜〜! なっさけないよ大地!」
未来は腕組みすると、少し怒ったような表情で顔を左右に振った。
「な、なにが?」
「なにがじゃないでしょ、なにがじゃ! 大地。キミねえ、キミキミ〜、キミはもう高校一年なんだよ、高校一年!」
未来は、きょとんとする大地の顔を、右手の人差し指で指さした。
「だ、だから?」
「あーもうじれったい人ね! だ・か・ら、学校行くとか行かないとかで、おじいちゃんとモメてんじゃ、な・い・っつ〜の!」
そのまま、大地の鼻をつん、つん、とつつく未来!
 「なにおー!」
「なにおーじゃない、ズル休みなんて超セコいマネするんじゃないっつ・う・の!」
「えーい、顔をつっつくな、オレの顔を!」
 大地は、さらに鼻をつっつく未来の手を払いのけると、
「あのなー、勘違いすんなよな未来! ガッコ“行く”つってんのはオレだぞオレ!」
と、今度は自分の手で、自分の顔を指さして見せた。
 「え?」
「だーからあ、ガッコ行くなってオレを邪魔してんのは、くそじじいの方なんだよ!」
「ええーーーーっ?????」
未来は、目が点になった。

 この時、
「ゴクリ…、み、見たか、舞羅姉貴?」
「見ましたとも雷羅、この目でしっかり!」
「お姉ちゃまたち、あのおじいちゃまが出ちた技は、間違いなく、あの“伝説”の……!」
と、道場をのぞき込んでいた例の謎の三姉妹は、大全の出した不思議な技に驚き顔を見合わせていた。
 すると、
「し、しまったあ! おんのれぇ、そのまま逃げる気じゃな、大地ー!」
と、大全がこれまた八十歳とは思えぬスピードで、道場を飛び出て来た!
 「やべ、あのじいさんこっち向かって来るぞ、隠れろ!」
「か、隠れるったって、雷羅お姉ちゃま!? 隠れる所なんてどこにもー!!」
言ってる間に、大全はあっという間に庭を駆け抜け、こっちに迫っている!
 三姉妹は、あわてふためき回りを見回すした。
 と、
「塀にくっつくのです、早く!!」
三人は、とっさに背中を、ビターーーーーッと塀にくっつけた。そして、
「大地ーーーー!!」
と、門を飛び出し、目の前を駆け抜ける大全を、なんとかやり過ごしたのだった。
 「あー、あぶなかったでちゅう。」
「でも、あたくしたちなんか、まるで目に入らなかったみたいですわね、あのご老人。」
「ああ、しっかし、すっげー元気なじいさんだなー!!」
三姉妹は、超高速で走っていく大全の後ろ姿を、唖然としながら見送った。

 「こりゃ大地! 自分から道場で決着をつけようと言っておきながら、いきなり塀を飛び越え逃げるとは、ひっきょう千万なやつよの、お主はあ〜〜〜〜〜っ!」
大全はソッコーで塀の角を曲がると、未来と一緒にいた大地に向かって思いっきり怒鳴った!
 「あ、あのなーくそじじい! 言っとくけど、オレは一歩も逃げてねえぞ! 道場からここまで吹っ飛ばしたのは、おめーだろーが!」
「ふん、言い訳がましいやつぢゃ。」
「あーのーなーーーっ!!!!!!」
 このやりとりを聞いていた未来は、
「えーっ!!! 大地ってばもしかして、道場からここまで飛んできたの?!!」
と、あきれたように声を上げた!
 なぜなら、隣の家から飛んで来たとはいえ、天昇龍剣道場からこの場所までは、塀を挟んでゆうに三十メートルはあるのだから!
 「おお、未来ちゃんではないか、これは丁度良い所におった! 未来ちゃん、ワシの話を聞いてくれるか? 大地のやつ、ワシがの〜…」
大全はやっと未来に気付くと、未来を味方にすべく話を始めた。
 が、未来は、
「ハイハイ、それなら聞きました! 大地が登校しようとするのを、おじいちゃんが引き止めたって話でしょ! おじいちゃん、マジ〜?」
と、また腰に手を当て、これまた説教口調で大全の顔をのぞき込んだ。
 そして、
 「ん〜……? マジって、な、なにがじゃあ?」
と小首をかしげる大全に、
「あのねー、祖父が孫に学校ズル休みさせようなんて話、あたし聞いたことないよ! なーに考えてんだか一体?!」
と、ほんとにしっかりと、説教を始めた。
 「ば、ばかもん。なにがズル休みじゃ、ズル休みではないわい! 本日は、大地のめでたい十六歳の誕生日なのじゃ、誕生日! こんな喜ばしい日は、無〜いんじゃ! じゃからこそワシは、大地に学校を休めと言っとるわけで…」
あわてて弁解しようとする、大全。
「誕生日ぃ〜? 同じ事でしょ! 勉強させこそすれ、誕生日だから休ませる祖父なんて、どこの世界にー――」
未来は、ますますきつい口調で責め立てはじめた。
 そして、これには大全もたじたじになるしかなかった。

 「ま、まてまて未来ちゃん、おんし、何か誤解しとるぞえ? ワシは、ただ単に今日が大地の誕生日じゃから、休ませようと言うのではないぞぉ! 我が天昇龍剣では、男子十六歳となれば“正式な伝承者”としての大事な儀式があるのじゃ。じゃ〜からその準備のために、学校をじゃな〜……」
 「儀式い?」
額に汗をにじませながら説明する大全に、未来はますます理解不能といった風に眉をひそめた。
 「うむ。それも、も〜〜〜〜〜〜のすごく大事な儀式がな! その名も“封印の儀”(ふういんのぎ)と言うての………、はて? 未来ちゃんは、お竹ばあさんから今夜のこと何も聞いとらんのか?」
 今度は逆に、大全が未来の顔をのぞき込んだ。
「うちの、おばあちゃんから?」
未来は首をかしげ、祖母がいるはずの神社の階段を見上げた。
 「うむ。この儀式はな、代々、明日野家の神子(みこ)殿の祈祷を受ける習わしなのじゃよ♪」
「ああ、なんだ、おばあちゃんの祈祷術ね。そんなの知らな〜い。あたし、そんな非科学的なの、信じてな〜いもん!」
なんとか分かってもらおうとする大全に、未来は、いかにも興味ないといった風に目をつぶり両手を開いて見せた。
 これに大全、
 「まあまあ、まあそう言わんと、聞きたいか? 聞きたいじゃろ? よ〜し、とっくと聞かせてやろう、我が綴目家の由来を!!」
と、目を輝かせ話を強引に持っていった。
そして、右手の拳を顔の前に持ってきて、ぐっと握りしめると、
 「そぉ〜もそも、我が天昇龍剣の由来はじゃな、おそれおおくも、か〜しこくも、神代の昔の、そ〜のまた昔からじゃなあ〜…………」
と、胸を張り、朗々と綴目家の歴史を語り始めたのだった。

 これを見た大地、
「しめた! ああやって空を見上げながら昔話が始まると、まず三十分は終わらねえ! 未来、チャ〜ンス! 今のうちにそっとガッコ行こうぜっ!」
と、大全からゆっくり離れながら、未来の袖をそっと引っ張った。
 「う、うん? そ、そうなの? そう、それじゃ……」
大地は、未来と共に、話し続ける大全からそっと“安全圏”まで離れると、カバンの中にあらかじめ入れておいた靴を取りだし、素早く履いた。
 そして、
「ダーーーッシュ!」
未来と一緒に、一目散に駆けだした。
 しかし大全は、それにも気付かず、
「天昇龍剣とはその名のごとく、神の御心が宿る玉を奪い、この世を滅ぼさんとする黒き龍を、高天原(たかまがはら)から降りし我〜が祖先が、神剣虎鉄(しんけんこてつ)を持ちて退治し、玉を大地に封印し〜……」
と、家系の説明を、夢中になっていつまでも続けた!


 「雷羅、あの少年に間違いないのですね?」
塀の陰から、その一部始終を見ていた舞羅が、目を輝かせながら雷羅を振り返った。
「ああ…、このロッドを見てみなよ姉貴。ホラ、さっきにも増して、ビーンビンに反応してるぜ♪」
雷羅は、“ダウジングロッド・雷羅スペシャル”とやらいう、例の怪しげな機械を目の前に差し出した。
 すると、自由に動く二本のロッドは、呼応し合うかのように揺れが揃い、まるで強力磁石に吸い寄せられるかのように、遠ざかる大地の後ろ姿をまっすぐ指し示していた。
「な?」
「確かに………」
「ほんとでちゅね……」
 雷羅は、二人にそれを確かめさせると、
 「ど〜れどれ、では次に、どれくらいシンクロしているかな〜?と……」
と、今度は、装置の中央にある緑色のボタンを押してみた。
「えーと、シンクロ率は?……、うっひゃー!」
驚きの声を上げる雷羅!
 「ほら、ほらほら見なよ姉貴! 愛羅! これまで調べたどの旧バージョン体より、遙かに高いシンクロ率だぜ!! ほら、レベルがどんどん上がって行く………。九十、九十五、おいおいウソだろ、すげーー、九十八、九九…………、あ、あ〜〜〜〜っ?!!」
 またもや雷羅が声を上げた。だが今度は、驚きと言うより悲鳴に近い!
 「ど、どうしました雷羅?」
「どうちたでちゅ? う? あ、あーっ、火事でちゅ、機械が火を噴いてまちゅ〜〜!」
 見ると“ダウジングロッド雷羅スペシャル”は、
 シュシュシュシュシュ〜!
突如煙を吐き出したかと思うと、
 ボンッ!
音を立てて発火した!
「きゃあっ!」
あわてて離れる舞羅と愛羅!
 「ら、雷羅お姉ちゃま! その機械、やっぱり欠陥品…」
「や、やかましわ! どわあ〜あーーちちちち!! や、やべえーーー!!!」
雷羅は、ヤケドしそうになり、あわてて装置を前に放り出した!
そして、道を挟んで道場の反対側にある家の、生け垣の下から手で土を何度もすくうと、炎と煙を上げる装置にかぶせまくった。

 「だ、大丈夫ですか雷羅?」
「う、うん、あぶねえあぶねえ! なんとか、軽いヤケドで澄んだよ姉貴。ほら!」
愛羅は、舞羅に両手を広げてみせた。
 これに愛羅が、
「バカでちゅか! 誰も雷羅お姉ちゃまなんか心配してまちぇん! 大丈夫かと聞いてるのは装置の中身の事でちゅよ!」
と、横から腕組みをして突っ込みを入れた!
「な、なにおーーー! てめえ愛羅、またケンカ売ってんのか! 舞羅姉貴が、そんな薄情なわけねーだろが!」
「はいはい、もう〜、いちいち姉妹ケンカしませんのよ、ケンカ!……で、雷羅、装置の中身は大丈夫なのですか?」
 グサリ!
雷羅の胸に、舞羅のとどめの言葉が突き刺さった!
「………………!! ……は、はは、姉貴〜〜」
顔をひきつらせるしかない、雷羅だった。

 しばらくして雷羅は、無事鎮火した装置を拾い上げた。
そして、上のカバーをはずし、
「あー、よかったあ。 焼けたのは“四次元回路”だけで、中の“瓶”は無事だよ。しかし、こりゃだいぶ修理が必要だなあ。………ひょっとして、時空間移動のショックで、四次元回路に無理が来てしまってたのかもな……」
と、中を点検しながら説明した。
「もう一度、ちゃんと確認しなければなりません。間違いは許されませんからね…。雷羅、それで修理にどれくらいかかりますの?」
「どうかな〜……。あんまり工具が無いからなあ………、多分、三・四時間ってトコかな。」
「頼みますよ。日没までに帰らないと、“あの方”のお体が持ちません!」
舞羅は、祈るような目で言った。


 三人は、大地たちの歩いていった後を途中までつけると、
「あの二人、どうやら学校に登校するみたいですわ。とりあえずここで、修理をしながら帰りを待つことにしましょう。」
と、住宅や団地が立ち並ぶ街の一角にある、小さな公園へと入った。
 そして、道路に面した植え込みの前にあるベンチを見つけ、そこに陣取ったのだった。その反対側には小さな砂場があり、そこでは数人の主婦達が、小さな子供たちを遊ばせながらのんびりと世間話をしているのだった。
 雷羅は、ベンチ前の地面に直接あぐらをかいて座り、腰に着けた小さな箱から、ドライバーやペンチ、見たこともない工具類を取り出すと、ベンチを作業台に見立てて“燃えてしまった”自慢の装置を修理し始めた。
 「舞羅お姉ちゃま、雷羅お姉ちゃまの“欠陥品”はともかく、あの少年、舞羅お姉ちゃまの“神霊印象”ではどうなんでちゅか?」
雷羅の作業の横で、愛羅は舞羅と並んでベンチに腰掛け、足をぶらぶらさせながら姉に尋ねた。
「ええ、私も霊的に透視してみましたが、確かにあの少年は“旧バージョン体”に間違いないと感じます……。それだけではありません。なによりあのお二人の顔、あの術(わざ)……!」
そう言うと、舞羅は祈るように手を組み、目を輝かせた。
 すると、横で雷羅も作業をしながら、
「ああ、あれにはあたしも驚いたぜ。本人だけならともかく、そのジイさんまでだもんな。こりゃ、もしかするともしかするかも……」
と、意味ありげにうなずいて見せた。
「もちかすると?」
愛羅は、その意味が分からず舞羅の顔を見上げた。
 「雷羅の機械を信用するとすれば、恐らくあの少年は、これまで調べた中でも最高の旧バージョン体なのかもしれません。それだけでなく、もしかすると血筋も………」
「“信用すれば”は余計だぜ姉貴! だけど、うん、あたしもどうもそんな気がするな。」
雷羅は、再びうなずいて見せた。
 「ふーん。なるほど、血筋でちゅか……。それはそれで、医学的にも興味深い話しでちゅね。でも、顔つきは、たちかに似てるけど、あの高貴なお方に一番チンクロする旧バージョン体が、あんな下品そうな少年だなんて、あたちにはまだ信じられないでちゅ! その上血筋までって言うのなら、それは我が家の沽券(こけん)にもかかわる話ちでちゅよ!!」
愛羅はそう言うと、不満そうに頬を膨らませた。


 「あ、お母さん、今日図書館寄ってくから、少し遅くなるね。え? おばあちゃんが、日暮れまでには帰って来いって? なんだろ…、ん、分かったよ、だいじょうぶ。どうせそこまでは、遅くなんないから。うん、じゃ〜ね、バイバイ。……え? 隣の大全おじいちゃんが、来てる? 電話、代わるって…え、あ、おじいちゃん? え? 大地はケータイの電源切ってるから、つながらない? はい、“早く帰って来い、このバカ孫が”って伝えればいいのね? 了解ーー……。」
未来は、ピッとスイッチを切ると、
「ったく、あたしゃアイツの留守電かいっつ〜の! ブツブツブツ……」
と、文句を言いながら、携帯を胸の内ポケットにしまい込んだ。
  ここは大地と未来の通う“県立西東高校”で、つまり二人は同じ高校に通っているのだった。
「あ、ほらほら未来、文字通りあんたの“未来”の王子様が、お迎えに来てるぞ〜。うぷぷぷ〜♪」
後ろから、クラスメートの一人が、ニヤニヤしながら未来に話しかけた。
「未来の王子様あ?」
その言葉に、未来は帰り支度の手を止め教室の入り口を見た。
 するとそこには、
「未来〜、一緒に帰ろうぜーーー。」
と、笑顔で手を振る、大地の姿が!
「あ、あ〜、大地ね………。」
思わずガクッとなる未来。
 未来は、横でニヤつくクラスメートに、キッと向き直ると、
「ジョーダン、だれが王子様よ! 言っときますけど、あいつは、ただの幼なじみなんだからね、幼なじみ! それ未満はあっても、以上はあり得ないの! も〜〜〜〜〜〜…!」
と、目の前で必死にブンブンと手を振り、思いっきり否定してみせた。
「えーっ、だってあんたたち“いいなずけ”同士なんでしょ? この前、カレ自身がそう言ってたけど?」
「え、ええっ? そそそ、そりゃ……、ま〜……(だ、大地のヤツ、バラしやがったなあ〜〜〜〜っ!)」
あわてて、しどろもどろになる未来に、
「ほらねー、やっぱりぃ〜♪♪♪」
ますますクラスメートの顔が、ニヤついてきた。
 これに未来は、
「で、でも誤解しないでね、それはあたしのおばあちゃんが、勝手に決めた話で〜〜……」
と、顔を真っ赤にしながら必死で弁解しようとしたのだが、しかし、クラスメートは未来の両肩をぐっとつかんで、頭を左右に振りながら言葉を続けた。
 「いーのいーの、隠さなくても。この、別名東大組といわれるA組の、しかもクラス始まって以来の“天才!”と誉れ高い、美人クラス委員長の未来が、H組、つまりオチコボレ組始まって以来の“アホ!”のアイツと、実は婚約してたなんていう話、『もう、この世の終わりかも〜っ』て、学校中で超ウワサなんだョ。ウ・ワ・サ。うぷぷ〜〜〜〜〜〜〜♪♪♪」
「う〜〜〜………(言えない、あたしが生まれる前、大地のおじいちゃんとうちのおばあちゃんとで、我が家に代々伝わる祈祷術のお告げをもとに、勝手に決めた縁組みだなんて、ばかばかしくて、とっても言えないよ〜〜!)」
未来は、もはや何も言えず、顔を赤くし固まったままの状態で、心の中で葛藤していた。
 そう、実は、何を隠そうこの大地と未来は、正真正銘“いいなずけ”だったのだ!
というのも、二人は未来の祖母の占いで、
 “今度生まれる二人の魂は、必ずや結ばれる宿命にある!”
というお告げが出て、生まれる前から勝手に婚約させられていたのだった!
「と、とにかくあたしはね、アイツといいなずけなんて、絶対絶対認めて無いの! 今時ばかばかしい!!!」

 ……とは言ったものの、未来は今日も、とりあえず大地と一緒に下校していた。(といっても、単に大地が、毎日の登下校時に、未来の後ろにくっついているだけなのだが)
 未来は、もう大地のことはほっといて、カバンから小さなPDA(携帯通信端末)を取り出した。
「メールメール……と。あ、トーマスから返事が来てる! なになに……paper was presented by……………ふむふむ…………ええっ? じゃあ、あの理論に似たものは、もうすでに発表されてたのかあ…。となると、新しい数式が必要ね。うーん、やっぱりこの辺はもう一度、図書館の特別データベースでサーチしてみるしかないわね…………。サンキュー、トム。」
未来は、一人何やらブツブツつぶやいた。
 そして、一通りの確認作業を済ませると、端末をカバンにしまいこんで大地に言った。
「ねえ大地、あたし図書館寄ってくよ?」
「図書館? おー、OK、OK! 図書館ねー、つき合うよ。ノープロブレム! だからそのあと、ファミレスにでもよってこーぜ♪」
あくまでノー天気な大地。
「あ、あーのねえ………、あたし、おじいちゃんからの伝言、伝えたよね? ありゃー、相当怒ってたからね、絶対! あたし、アンタのために言うけど、マジ早く帰った方がいいと思うよ!?」
「や〜だね!!!」
即座にキッパリ拒否する、大地。
 未来は頭を抱え、首を右に振って言った。
「かーっ、ガキ! それにあたし、調べもの済んだらソッコー家帰って、昨日の実験の続きするんだからね。」
「実験〜? なんじゃ、そりゃ?」
 「うん。今あたしね、ネットでアメリカの素粒子宇宙論のサイトに参加してんのよ。ま、実験といっても、コンピューターシュミレーションなんだけどね。向こうの研究者のコンピューターと直接つないで、宇宙誕生時の素粒子論におけるインフレーション理論に、私が考える超ひも理論の十次元不確定性モデルを数値化して入力するの。最近の宇宙観測結果では、宇宙には反重力的な作用が認められるので、それを加味した素粒子の生成消失の残存率とエネルギー量を…………と、大地に言っても、目が点か。」
 そう、目が点、鼻水垂らし状態の大地だった。
(ほんとにコイツ、オレと同じ高校生か〜〜〜?)
「い〜や、分かった! 分かったから、とにかくどっか寄っていこう〜♪♪」
言うと、大地は未来の背中に右手を回し、左手でテキトーに前方を指さした!
 「あ・の・ね〜〜! 今日は、大地の大事な大事な誕生日なんでしょ? 早く帰っておじいさんと、ナントカって儀式の準備しないと…」
「だーからさ!」
「え?……」
大地は、今度は未来の前に回ると、その両肩に手をかけ、ゆっくりと顔を近づけた。
「だーからあ、年に一度の大事な誕生日だから、未来と一緒にいたいんじゃんか!」
「い?」
ドキッとする未来!
大地は、なおも顔を近づけ、マジな表情でその目をじっと見つめ………言った!
「何が楽しゅうて、誕生日に年寄りと過ごさにゃならんの?!」
(あ、そういう意味ね。あーびっくりした)
ちょびっとアセった、未来だった。

 というわけで、図書館のあと、結局未来は大地につき合ってしまった。
二人は、ファミレスに入ると窓際の席で向かい合って座り、とりあえずアイスコーヒーを注文した。
「ま、とにかく、誕生日おめでとさんね。」
そう言うと未来は、ちょこん、とグラスを上げた。
「サンキュ〜♪」
嬉しそうに、同じ動作をして見せる大地。
「ねえねえ、未来、言葉だけ? プレゼントはないの?」
「なんでそ〜なる! 甘えんじゃねえ!」
「やっぱし? なはは〜。」
大地はそう言うと、笑いながらストローを口にくわえた。
 「ねえ大地……、ほんっとに帰んなくていいの? おじいさん待ってるよ〜?」
「いーのいーの。あんなくそじじい待たしとけば。ふんふんふん〜〜〜♪」
一向に気にする様子もなく、コーヒーを飲みながら下手な鼻歌を歌い出す大地。
 未来は、そんな大地にあらためて聞いた。
 「そのー、なんてったっけ? 今日やる“ナントカの儀”? それって、そんなに大切な儀式なの?」
「えー? ああ、“封印の儀”かあ?」
「うん、それそれ。」
「う〜ん……、よくは知らないんだけどさー、天昇龍剣の跡継ぎが十六歳になると受ける儀式で、ま、早い話、“お主も一人前になったのう〜”って認める儀式らしいんだ。」
「ふーん。……いわゆる“元服”ってわけか…。で、どんなことするの?」
 この質問に、大地はきょとんとした顔で未来を見つめた。
「あれーっ? 未来は、何も聞いてないのかあ? 儀式は、大昔からずーっと、未来ん家でやる事になってるらしいぜ?」
「えーっ、じゃあ、うちのおばあちゃんが?」
「ああ……、なんでも、未来ん家とウチとは、古い、古〜〜〜いつき合いらしいからな……」
 その言葉に、未来は、何かを思いだしたかのように視線を天井に向けた。
「う〜ん、そう、言われてみれば……、小さい頃、そんなコト聞いたような…聞かないような………。あたし、おばあちゃんのやってる祈祷術みたいなの、あんまし興味ないからなあ……」
 「ま、そんな事どーでもいいけど、封印の儀ってのはさ、うちに代々伝わる神剣“虎鉄”(こてつ)ってのがあるんだけど、そいつをチョエー、トヤーッって、型どおり振り回すだけなんだ。よーするに剣の舞い、“剣舞”だな。」
掛け声に合わせ、大地は腕を振り回してみせた。
「な〜んだあ……、たったそれだけなの?」
「ああ。ただの儀式だからな。ほら、正統伝承者、つまりオレのオヤジってさあ、オレが小さいとき病気で死んでしまっただろう? だから、正式な伝承者が空位のままなんだよ。それでじいちゃん…」
「楽しみにしてたんだ。」
「そゆこと。」
「だったら、よけい早く帰ってやらなきゃ〜」
「ば〜か。も少しほとぼり冷まして帰らなきゃ、ま〜た、お仕置きされるだろーが。」
「ぷっ、……なるほどね♪」
未来は、思わず吹き出した。

 大地は、未来の質問にとりあえず説明し終わると、テーブルに頬づえをつき、ウインドウ越しにのんびりと外の雑踏を眺めていた。
 そして、
「そういやじいちゃん、変なこと言ってたなあ……。“神剣虎鉄は、継承者を自ら選ぶ。一度剣に選ばれれば、それ以外の者は、たとえ前の持ち主でも使いこなすことはできない!”……とか……」
と、ストローでカラカラとグラスの氷をかき混ぜながら、独り言ともつかずボソボソつぶやいた。
 そんな大地を見て、
「だ、大地……、あんた何やってんの?」
未来が、息を呑んだ!
「え? ああ、これか、つい……」
未来が驚くのも無理はなかった。
 大地が何げなくかき混ぜるコーヒーの中で、ストローの先が赤く発光していたのだ?!
「最近よくあるんだよな〜。何か手に持つと、つい無意識に“気”を出してるんだ………。いいか、見てなよ……」
 大地はストローを取り出すと、未来の目の前に差し出した。
 そして、
「ムン!」
と気合いを入れた! すると!
 ポン!
ストローの先が、瞬間的に発光しはじけた!!
「きゃっ!」
悲鳴を上げ、思わず背もたれにのけぞる未来!

 「な、なに今の? 手品? マジ、マジ?」
未来は目を丸くしたまま、先がバラバラになったストローに、恐る恐る顔を近づけた。
 「天昇龍剣は、ただの剣術じゃなくて、体の中から“気”を出して剣に乗せ、敵を倒す技なんだ。だからこんな事もできるんだよ。………あれ、幼なじみのくせに、お前、それも知らないのかあ?」
「し、知ってるわけないじゃない。だいいちあたし、あんたんちの剣術のことなんかも、興味なかったし!でも………、んんん?………」
何かを思いだしたかのように、未来は天井をにらんだ。
 「そう言えば………小さい時あんたんちに遊びに行ってた頃、そんなこと聞いたような、聞かないような………。」
 そして、
「ふーん、ふむふむ、よく考えたら、すごい面白いじゃん! ねえ、それって、科学的にどういうエネルギーなのかしら? ね、ね、その“気”っての、どうやって出すの?」
未来は急に目を輝かせ、身を乗り出した。
 目の前で大地が起こした、この不思議な現象は、科学大好き少女の探求心にどうやら火を付けたらしい。
「どうって、その〜つまり………、あらためて聞かれると、オレもよく分からないんだけど……、小さいときからの修行で、自然と、こう〜………」
説明できないで、手をあいまいに動かす大地に、
「へーえ、修行って???」
と、さらに未来が質問した。
 「うーん、いろいろあるよ。………そうだなー、まず最初にやるのは、ヘソの下にある“丹田(たんでん)”に気を溜め一気に放出する訓練かな。この訓練を、気を起こすと言う意味で“勃気(ぼっき)”と いうんだ。」
「ぼ、ボッキ?」
「ああ、これは弾魂(だんこん)が物を言うんだけど、亜底(あそこ)に総柔(そうにゅう)してから清浄意(せいじょうい)、気譲位(きじょうい)、頭魂(ずっこん)、羽魂(ばっこん)、晶天(しょうてん)……と、段階を経て、至充破手(しじゅうはって)に至る、過酷な過酷な修行が続いてさー…………」
 「だ、ダンコン、アソコ、ソウニュウ〜?」
言いながら、顔が見る見る赤くなる未来に、
「うん。」
大地は、キッパリとうなずいた!!
 このやりとりに、
 ザワザワザワ、クスクスクス……
と、店内がざわめき、客の視線が、一斉にこの変な言葉を連発する二人に集まった!
 と?!
 バーン!
 未来は顔を真っ赤にしながら、テーブルが割れるほど強く両手をついて立ち上がった!
 そして、
「あ、アホかーーーーーーーーー!」
 バッチ〜ン!
思いっきり大地にビンタをかませると、一目散に外へと飛び出したのだった!
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