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「わあ、遅刻する〜、行って来まーす!」
この時、隣の球鎮(たましずめ)神社では、本殿横にある住居の玄関から、口にトーストをくわえた <なんてベタな登場の仕方なんだ> 一人の少女が、慌ただしく飛び出した所だった。
少し日焼けした顔に茶髪のポニーテール、ベージュのブレザージャケットにグリーンのチェックのスカート、濃紺のカバンを肩に掛けたこの少女、名前を明日野未来(あすのみらい)と言い、隣の大地とは同い年の幼なじみなのだ。 |
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未来は、一旦停止の足踏み状態で立ち止まると、
「おばあちゃん、行って来まーす♪」
と、本殿前の小さな境内を竹ぼうきで掃いている、小柄な巫女姿の祖母に挨拶をした。
「なんだい未来ちゃん、口にトーストをくわえるなんて、またそんなベタな登場の仕方して〜!」
祖母もツッコミを入れた。
「う、うるさ〜い、ほっといて!」
顔を赤らめつつも開き直る未来。
「あっと…それより、そうそう、未来ちゃん、昨日言うの忘れてたけど、今日はお前に立ち会ってもらわないといけない大事な儀式がね……」
「あー、何? ゴメンおばあちゃん、帰ったら話聞くからねー、あたし、ちょっち遅刻しそうでヤバイんだよー!」
未来は、祖母の言葉も耳に入れる暇もなく、すぐまた走り出した。
「……あるから、早く帰っておいでっていう話なんだけど……。あらあら、元気がいいこと。もう見えなくなってしまったわ。ま、いいでしょ、どうせ“アレ”を始めるのは、日が暮れてだから…。」
祖母は、あっと言う間に鳥居をくぐって階段を駆け下りて行く孫を、微笑みながらやさしく見送った。
「んー、いい天気、気持ちいい〜〜〜〜♪」
未来は階段からポン、と道に着地すると、高く澄んだ青空を見上げ背伸びをした。
この時期、夏も終わって秋となり、その秋もこれから徐々に深まろうかというこの季節は、早朝の空気、そして空が、一年中で一番すがすがしく感じられる気がするのだった。
「ようし♪ 今日もソッコー帰って、昨日の研究の続きを…………」
言いかけて、その視界の中に突如、何か黒い固まりが出現した?!
そして!
「……続き・を…………????????」
それは、急激に未来へ迫ってきた!!
よく見るとそれは、なんと、目を血走らせよだれの軌跡を残しながら空中をすっ飛んでくる、隣のアホ幼なじみではないか!!
未来は、悲鳴とも叫びともつかない声を張り上げつつも身をひるがえし、必死で“それ”を避けようとした!
が!
ドッシーン!
「きゃああああ!」
あっという間に、直撃されてしまった!!
ドテ!
そのまま倒れ込む未来!
彼女は地面に頭をぶつけ、しかもなおかつ大地の下敷きになってしまった!
あたりに土埃が舞い上がり、数秒の沈黙が訪れた。
そして、
「……………いたたたた…………………」
未来は頭を押さえながら大地の下からはいずり出すと、石垣に手を掛けながらヨロヨロと立ち上がった。
「いった〜〜〜〜〜〜い!……… な、なによ大地? なんでいきなり朝っぱらから、アンタが空から降ってくるわけえ? ふざけんじゃないわよお!」
彼女は、まだ倒れている大地に向かって悪態をつくと、
「えーーーーー? コラ、なんとか言ってみろ!! このアホ、バカ、マヌケ!! コノコノ、コノ〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
と、怒りを込めて大地の背中を、ビシバシ蹴とばし始めた。
「いてて、蹴るな未来! こら、蹴るなー!」
あわてて上半身を起こし、手で蹴りを防ぐ大地。
「やかましい、今あたし、思いっきり地面に頭ぶつけたんだからね! それに見てよコレ、制服汚れちゃったじゃないの! 一体どうしてくれるのよ〜〜〜っ!!!」
未来は、制服の肘やお尻の汚れた所を指さしながら、なおも大地を蹴り続けた。
が、
「んん?……」
その右目の回りに、青く内出血しているアザがあるのに気付いた。
「ど、どうしたのよ大地? そのアザ……」
未来は、やっと蹴るのをやめると、大地に顔を近づけそのアザをのぞき込んだ。
「ふん……、これかあ? これはな〜、くそじじじいのヤローが“閃光気”でオレを吹っ飛ばした瞬間、オマケのパンチを顔面に喰らわせやがったんだよ!」
大地は、地べたにあぐらをかき腕組みすると、今自分が飛んできた塀の上をにらんだ。
「パンチって??………、あーっ、大地ってば、まーたおじいちゃんと、ケンカしてたなあ!」
未来は腰に手を当て、あきれたような表情で大地を見下ろした。
彼女のこの言葉から推測すると、この祖父と孫のケンカは、どうやら日常茶飯事の出来事らしい。
「ケッ、したくてしてたんじゃねーよ。 イチチチ……!」
大地は、右目を押さえながらフラフラと立ち上がると、ズボンの汚れをはたき、
「実は、じいちゃ……いや、あのくそじじいと“ガッコ行く行かない”でモメちまってな。」
と、またまた、今跳んできた方向をいまいましげににらんだ。 |
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明日野 未来(あすの みらい) |
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「ガッコ行く、行かない? ………………って、あ、あのね〜〜! なっさけないよ大地!」
未来は腕組みすると、少し怒ったような表情で顔を左右に振った。
「な、なにが?」
「なにがじゃないでしょ、なにがじゃ! 大地。キミねえ、キミキミ〜、キミはもう高校一年なんだよ、高校一年!」
未来は、きょとんとする大地の顔を、右手の人差し指で指さした。
「だ、だから?」
「あーもうじれったい人ね! だ・か・ら、学校行くとか行かないとかで、おじいちゃんとモメてんじゃ、な・い・っつ〜の!」
そのまま、大地の鼻をつん、つん、とつつく未来!
「なにおー!」
「なにおーじゃない、ズル休みなんて超セコいマネするんじゃないっつ・う・の!」
「えーい、顔をつっつくな、オレの顔を!」
大地は、さらに鼻をつっつく未来の手を払いのけると、
「あのなー、勘違いすんなよな未来! ガッコ“行く”つってんのはオレだぞオレ!」
と、今度は自分の手で、自分の顔を指さして見せた。
「え?」
「だーからあ、ガッコ行くなってオレを邪魔してんのは、くそじじいの方なんだよ!」
「ええーーーーっ?????」
未来は、目が点になった。
この時、
「ゴクリ…、み、見たか、舞羅姉貴?」
「見ましたとも雷羅、この目でしっかり!」
「お姉ちゃまたち、あのおじいちゃまが出ちた技は、間違いなく、あの“伝説”の……!」
と、道場をのぞき込んでいた例の謎の三姉妹は、大全の出した不思議な技に驚き顔を見合わせていた。
すると、
「し、しまったあ! おんのれぇ、そのまま逃げる気じゃな、大地ー!」
と、大全がこれまた八十歳とは思えぬスピードで、道場を飛び出て来た!
「やべ、あのじいさんこっち向かって来るぞ、隠れろ!」
「か、隠れるったって、雷羅お姉ちゃま!? 隠れる所なんてどこにもー!!」
言ってる間に、大全はあっという間に庭を駆け抜け、こっちに迫っている!
三姉妹は、あわてふためき回りを見回すした。
「塀にくっつくのです、早く!!」
三人は、とっさに背中を、ビターーーーーッと塀にくっつけた。そして、
「大地ーーーー!!」
と、門を飛び出し、目の前を駆け抜ける大全を、なんとかやり過ごしたのだった。
「あー、あぶなかったでちゅう。」
「でも、あたくしたちなんか、まるで目に入らなかったみたいですわね、あのご老人。」
「ああ、しっかし、すっげー元気なじいさんだなー!!」
三姉妹は、超高速で走っていく大全の後ろ姿を、唖然としながら見送った。
「こりゃ大地! 自分から道場で決着をつけようと言っておきながら、いきなり塀を飛び越え逃げるとは、ひっきょう千万なやつよの、お主はあ〜〜〜〜〜っ!」
大全はソッコーで塀の角を曲がると、未来と一緒にいた大地に向かって思いっきり怒鳴った!
「あ、あのなーくそじじい! 言っとくけど、オレは一歩も逃げてねえぞ! 道場からここまで吹っ飛ばしたのは、おめーだろーが!」
「ふん、言い訳がましいやつぢゃ。」
「あーのーなーーーっ!!!!!!」
このやりとりを聞いていた未来は、
「えーっ!!! 大地ってばもしかして、道場からここまで飛んできたの?!!」
と、あきれたように声を上げた!
なぜなら、隣の家から飛んで来たとはいえ、天昇龍剣道場からこの場所までは、塀を挟んでゆうに三十メートルはあるのだから!
「おお、未来ちゃんではないか、これは丁度良い所におった! 未来ちゃん、ワシの話を聞いてくれるか? 大地のやつ、ワシがの〜…」
大全はやっと未来に気付くと、未来を味方にすべく話を始めた。
が、未来は、
「ハイハイ、それなら聞きました! 大地が登校しようとするのを、おじいちゃんが引き止めたって話でしょ! おじいちゃん、マジ〜?」
と、また腰に手を当て、これまた説教口調で大全の顔をのぞき込んだ。
そして、
「ん〜……? マジって、な、なにがじゃあ?」
と小首をかしげる大全に、
「あのねー、祖父が孫に学校ズル休みさせようなんて話、あたし聞いたことないよ! なーに考えてんだか一体?!」
と、ほんとにしっかりと、説教を始めた。
「ば、ばかもん。なにがズル休みじゃ、ズル休みではないわい! 本日は、大地のめでたい十六歳の誕生日なのじゃ、誕生日! こんな喜ばしい日は、無〜いんじゃ! じゃからこそワシは、大地に学校を休めと言っとるわけで…」
あわてて弁解しようとする、大全。 |
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「誕生日ぃ〜? 同じ事でしょ! 勉強させこそすれ、誕生日だから休ませる祖父なんて、どこの世界にー――」
未来は、ますますきつい口調で責め立てはじめた。
そして、これには大全もたじたじになるしかなかった。
「ま、まてまて未来ちゃん、おんし、何か誤解しとるぞえ? ワシは、ただ単に今日が大地の誕生日じゃから、休ませようと言うのではないぞぉ! 我が天昇龍剣では、男子十六歳となれば“正式な伝承者”としての大事な儀式があるのじゃ。じゃ〜からその準備のために、学校をじゃな〜……」
「儀式い?」
額に汗をにじませながら説明する大全に、未来はますます理解不能といった風に眉をひそめた。
「うむ。それも、も〜〜〜〜〜〜のすごく大事な儀式がな! その名も“封印の儀”(ふういんのぎ)と言うての………、はて? 未来ちゃんは、お竹ばあさんから今夜のこと何も聞いとらんのか?」
今度は逆に、大全が未来の顔をのぞき込んだ。
「うちの、おばあちゃんから?」
未来は首をかしげ、祖母がいるはずの神社の階段を見上げた。
「うむ。この儀式はな、代々、明日野家の神子(みこ)殿の祈祷を受ける習わしなのじゃよ♪」
「ああ、なんだ、おばあちゃんの祈祷術ね。そんなの知らな〜い。あたし、そんな非科学的なの、信じてな〜いもん!」
なんとか分かってもらおうとする大全に、未来は、いかにも興味ないといった風に目をつぶり両手を開いて見せた。
これに大全、
「まあまあ、まあそう言わんと、聞きたいか? 聞きたいじゃろ? よ〜し、とっくと聞かせてやろう、我が綴目家の由来を!!」
と、目を輝かせ話を強引に持っていった。
そして、右手の拳を顔の前に持ってきて、ぐっと握りしめると、
「そぉ〜もそも、我が天昇龍剣の由来はじゃな、おそれおおくも、か〜しこくも、神代の昔の、そ〜のまた昔からじゃなあ〜…………」
と、胸を張り、朗々と綴目家の歴史を語り始めたのだった。
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これを見た大地、
「しめた! ああやって空を見上げながら昔話が始まると、まず三十分は終わらねえ! 未来、チャ〜ンス! 今のうちにそっとガッコ行こうぜっ!」
と、大全からゆっくり離れながら、未来の袖をそっと引っ張った。
「う、うん? そ、そうなの? そう、それじゃ……」
大地は、未来と共に、話し続ける大全からそっと“安全圏”まで離れると、カバンの中にあらかじめ入れておいた靴を取りだし、素早く履いた。
そして、
「ダーーーッシュ!」
未来と一緒に、一目散に駆けだした。
しかし大全は、それにも気付かず、
「天昇龍剣とはその名のごとく、神の御心が宿る玉を奪い、この世を滅ぼさんとする黒き龍を、高天原(たかまがはら)から降りし我〜が祖先が、神剣虎鉄(しんけんこてつ)を持ちて退治し、玉を大地に封印し〜……」
と、家系の説明を、夢中になっていつまでも続けた! |
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