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第一章 謎の三姉妹 2/4色
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 「わあ、遅刻する〜、行って来まーす!」
この時、隣の球鎮(たましずめ)神社では、本殿横にある住居の玄関から、口にトーストをくわえた <なんてベタな登場の仕方なんだ> 一人の少女が、慌ただしく飛び出した所だった。
 少し日焼けした顔に茶髪のポニーテール、ベージュのブレザージャケットにグリーンのチェックのスカート、濃紺のカバンを肩に掛けたこの少女、名前を明日野未来(あすのみらい)と言い、隣の大地とは同い年の幼なじみなのだ。
 未来は、一旦停止の足踏み状態で立ち止まると、
「おばあちゃん、行って来まーす♪」
と、本殿前の小さな境内を竹ぼうきで掃いている、小柄な巫女姿の祖母に挨拶をした。
「なんだい未来ちゃん、口にトーストをくわえるなんて、またそんなベタな登場の仕方して〜!」
祖母もツッコミを入れた。
「う、うるさ〜い、ほっといて!」
顔を赤らめつつも開き直る未来。
「あっと…それより、そうそう、未来ちゃん、昨日言うの忘れてたけど、今日はお前に立ち会ってもらわないといけない大事な儀式がね……」
「あー、何? ゴメンおばあちゃん、帰ったら話聞くからねー、あたし、ちょっち遅刻しそうでヤバイんだよー!」
未来は、祖母の言葉も耳に入れる暇もなく、すぐまた走り出した。
 「……あるから、早く帰っておいでっていう話なんだけど……。あらあら、元気がいいこと。もう見えなくなってしまったわ。ま、いいでしょ、どうせ“アレ”を始めるのは、日が暮れてだから…。」
祖母は、あっと言う間に鳥居をくぐって階段を駆け下りて行く孫を、微笑みながらやさしく見送った。

 「んー、いい天気、気持ちいい〜〜〜〜♪」
未来は階段からポン、と道に着地すると、高く澄んだ青空を見上げ背伸びをした。
 この時期、夏も終わって秋となり、その秋もこれから徐々に深まろうかというこの季節は、早朝の空気、そして空が、一年中で一番すがすがしく感じられる気がするのだった。
 「ようし♪ 今日もソッコー帰って、昨日の研究の続きを…………」
言いかけて、その視界の中に突如、何か黒い固まりが出現した?!
 そして!
「……続き・を…………????????」
それは、急激に未来へ迫ってきた!!
 よく見るとそれは、なんと、目を血走らせよだれの軌跡を残しながら空中をすっ飛んでくる、隣のアホ幼なじみではないか!!
未来は、悲鳴とも叫びともつかない声を張り上げつつも身をひるがえし、必死で“それ”を避けようとした!
 が!
 ドッシーン!
「きゃああああ!」
あっという間に、直撃されてしまった!!
 ドテ!
そのまま倒れ込む未来!
彼女は地面に頭をぶつけ、しかもなおかつ大地の下敷きになってしまった!


あたりに土埃が舞い上がり、数秒の沈黙が訪れた。
 そして、
「……………いたたたた…………………」
未来は頭を押さえながら大地の下からはいずり出すと、石垣に手を掛けながらヨロヨロと立ち上がった。
「いった〜〜〜〜〜〜い!……… な、なによ大地? なんでいきなり朝っぱらから、アンタが空から降ってくるわけえ? ふざけんじゃないわよお!」
彼女は、まだ倒れている大地に向かって悪態をつくと、
「えーーーーー? コラ、なんとか言ってみろ!! このアホ、バカ、マヌケ!! コノコノ、コノ〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
と、怒りを込めて大地の背中を、ビシバシ蹴とばし始めた。
「いてて、蹴るな未来! こら、蹴るなー!」
あわてて上半身を起こし、手で蹴りを防ぐ大地。
「やかましい、今あたし、思いっきり地面に頭ぶつけたんだからね! それに見てよコレ、制服汚れちゃったじゃないの! 一体どうしてくれるのよ〜〜〜っ!!!」
未来は、制服の肘やお尻の汚れた所を指さしながら、なおも大地を蹴り続けた。
 が、
「んん?……」
その右目の回りに、青く内出血しているアザがあるのに気付いた。
「ど、どうしたのよ大地? そのアザ……」
未来は、やっと蹴るのをやめると、大地に顔を近づけそのアザをのぞき込んだ。

 「ふん……、これかあ? これはな〜、くそじじじいのヤローが“閃光気”でオレを吹っ飛ばした瞬間、オマケのパンチを顔面に喰らわせやがったんだよ!」
大地は、地べたにあぐらをかき腕組みすると、今自分が飛んできた塀の上をにらんだ。
「パンチって??………、あーっ、大地ってば、まーたおじいちゃんと、ケンカしてたなあ!」
 未来は腰に手を当て、あきれたような表情で大地を見下ろした。
彼女のこの言葉から推測すると、この祖父と孫のケンカは、どうやら日常茶飯事の出来事らしい。
 「ケッ、したくてしてたんじゃねーよ。 イチチチ……!」
大地は、右目を押さえながらフラフラと立ち上がると、ズボンの汚れをはたき、
 「実は、じいちゃ……いや、あのくそじじいと“ガッコ行く行かない”でモメちまってな。」
と、またまた、今跳んできた方向をいまいましげににらんだ。
明日野 未来(あすの みらい)
「ガッコ行く、行かない? ………………って、あ、あのね〜〜! なっさけないよ大地!」
未来は腕組みすると、少し怒ったような表情で顔を左右に振った。
「な、なにが?」
「なにがじゃないでしょ、なにがじゃ! 大地。キミねえ、キミキミ〜、キミはもう高校一年なんだよ、高校一年!」
未来は、きょとんとする大地の顔を、右手の人差し指で指さした。
「だ、だから?」
「あーもうじれったい人ね! だ・か・ら、学校行くとか行かないとかで、おじいちゃんとモメてんじゃ、な・い・っつ〜の!」
そのまま、大地の鼻をつん、つん、とつつく未来!
 「なにおー!」
「なにおーじゃない、ズル休みなんて超セコいマネするんじゃないっつ・う・の!」
「えーい、顔をつっつくな、オレの顔を!」
 大地は、さらに鼻をつっつく未来の手を払いのけると、
「あのなー、勘違いすんなよな未来! ガッコ“行く”つってんのはオレだぞオレ!」
と、今度は自分の手で、自分の顔を指さして見せた。
 「え?」
「だーからあ、ガッコ行くなってオレを邪魔してんのは、くそじじいの方なんだよ!」
「ええーーーーっ?????」
未来は、目が点になった。

 この時、
「ゴクリ…、み、見たか、舞羅姉貴?」
「見ましたとも雷羅、この目でしっかり!」
「お姉ちゃまたち、あのおじいちゃまが出ちた技は、間違いなく、あの“伝説”の……!」
と、道場をのぞき込んでいた例の謎の三姉妹は、大全の出した不思議な技に驚き顔を見合わせていた。
 すると、
「し、しまったあ! おんのれぇ、そのまま逃げる気じゃな、大地ー!」
と、大全がこれまた八十歳とは思えぬスピードで、道場を飛び出て来た!
 「やべ、あのじいさんこっち向かって来るぞ、隠れろ!」
「か、隠れるったって、雷羅お姉ちゃま!? 隠れる所なんてどこにもー!!」
言ってる間に、大全はあっという間に庭を駆け抜け、こっちに迫っている!
 三姉妹は、あわてふためき回りを見回すした。
「塀にくっつくのです、早く!!」
三人は、とっさに背中を、ビターーーーーッと塀にくっつけた。そして、
「大地ーーーー!!」
と、門を飛び出し、目の前を駆け抜ける大全を、なんとかやり過ごしたのだった。
 「あー、あぶなかったでちゅう。」
「でも、あたくしたちなんか、まるで目に入らなかったみたいですわね、あのご老人。」
「ああ、しっかし、すっげー元気なじいさんだなー!!」
三姉妹は、超高速で走っていく大全の後ろ姿を、唖然としながら見送った。

 「こりゃ大地! 自分から道場で決着をつけようと言っておきながら、いきなり塀を飛び越え逃げるとは、ひっきょう千万なやつよの、お主はあ〜〜〜〜〜っ!」
大全はソッコーで塀の角を曲がると、未来と一緒にいた大地に向かって思いっきり怒鳴った!
 「あ、あのなーくそじじい! 言っとくけど、オレは一歩も逃げてねえぞ! 道場からここまで吹っ飛ばしたのは、おめーだろーが!」
「ふん、言い訳がましいやつぢゃ。」
「あーのーなーーーっ!!!!!!」
 このやりとりを聞いていた未来は、
「えーっ!!! 大地ってばもしかして、道場からここまで飛んできたの?!!」
と、あきれたように声を上げた!
 なぜなら、隣の家から飛んで来たとはいえ、天昇龍剣道場からこの場所までは、塀を挟んでゆうに三十メートルはあるのだから!
「おお、未来ちゃんではないか、これは丁度良い所におった! 未来ちゃん、ワシの話を聞いてくれるか? 大地のやつ、ワシがの〜…」
大全はやっと未来に気付くと、未来を味方にすべく話を始めた。
 が、未来は、
「ハイハイ、それなら聞きました! 大地が登校しようとするのを、おじいちゃんが引き止めたって話でしょ! おじいちゃん、マジ〜?」
と、また腰に手を当て、これまた説教口調で大全の顔をのぞき込んだ。
 そして、
 「ん〜……? マジって、な、なにがじゃあ?」
と小首をかしげる大全に、
「あのねー、祖父が孫に学校ズル休みさせようなんて話、あたし聞いたことないよ! なーに考えてんだか一体?!」
と、ほんとにしっかりと、説教を始めた。
 「ば、ばかもん。なにがズル休みじゃ、ズル休みではないわい! 本日は、大地のめでたい十六歳の誕生日なのじゃ、誕生日! こんな喜ばしい日は、無〜いんじゃ! じゃからこそワシは、大地に学校を休めと言っとるわけで…」
あわてて弁解しようとする、大全。
「誕生日ぃ〜? 同じ事でしょ! 勉強させこそすれ、誕生日だから休ませる祖父なんて、どこの世界にー――」
未来は、ますますきつい口調で責め立てはじめた。
そして、これには大全もたじたじになるしかなかった。

「ま、まてまて未来ちゃん、おんし、何か誤解しとるぞえ? ワシは、ただ単に今日が大地の誕生日じゃから、休ませようと言うのではないぞぉ! 我が天昇龍剣では、男子十六歳となれば“正式な伝承者”としての大事な儀式があるのじゃ。じゃ〜からその準備のために、学校をじゃな〜……」
 「儀式い?」
額に汗をにじませながら説明する大全に、未来はますます理解不能といった風に眉をひそめた。
「うむ。それも、も〜〜〜〜〜〜のすごく大事な儀式がな! その名も“封印の儀”(ふういんのぎ)と言うての………、はて? 未来ちゃんは、お竹ばあさんから今夜のこと何も聞いとらんのか?」
 今度は逆に、大全が未来の顔をのぞき込んだ。
「うちの、おばあちゃんから?」
未来は首をかしげ、祖母がいるはずの神社の階段を見上げた。
「うむ。この儀式はな、代々、明日野家の神子(みこ)殿の祈祷を受ける習わしなのじゃよ♪」
「ああ、なんだ、おばあちゃんの祈祷術ね。そんなの知らな〜い。あたし、そんな非科学的なの、信じてな〜いもん!」
なんとか分かってもらおうとする大全に、未来は、いかにも興味ないといった風に目をつぶり両手を開いて見せた。
 これに大全、
「まあまあ、まあそう言わんと、聞きたいか? 聞きたいじゃろ? よ〜し、とっくと聞かせてやろう、我が綴目家の由来を!!」
と、目を輝かせ話を強引に持っていった。
そして、右手の拳を顔の前に持ってきて、ぐっと握りしめると、
「そぉ〜もそも、我が天昇龍剣の由来はじゃな、おそれおおくも、か〜しこくも、神代の昔の、そ〜のまた昔からじゃなあ〜…………」
と、胸を張り、朗々と綴目家の歴史を語り始めたのだった。
 これを見た大地、
「しめた! ああやって空を見上げながら昔話が始まると、まず三十分は終わらねえ! 未来、チャ〜ンス! 今のうちにそっとガッコ行こうぜっ!」
と、大全からゆっくり離れながら、未来の袖をそっと引っ張った。
 「う、うん? そ、そうなの? そう、それじゃ……」
大地は、未来と共に、話し続ける大全からそっと“安全圏”まで離れると、カバンの中にあらかじめ入れておいた靴を取りだし、素早く履いた。
 そして、
「ダーーーッシュ!」
未来と一緒に、一目散に駆けだした。
 しかし大全は、それにも気付かず、
「天昇龍剣とはその名のごとく、神の御心が宿る玉を奪い、この世を滅ぼさんとする黒き龍を、高天原(たかまがはら)から降りし我〜が祖先が、神剣虎鉄(しんけんこてつ)を持ちて退治し、玉を大地に封印し〜……」
と、家系の説明を、夢中になっていつまでも続けた!